【本編完結】自由気ままな伯爵令嬢は、腹黒王子にやたらと攻められています

橋本彩里(Ayari)

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幸福②

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「こんにちは。どうしたの?」

 シュクリュがぐいぐいと顔を近づけてくるのを撫でながら、神木を見上げる。
 その枝には白く輝く花が咲いている。

 神木がブルブルとボディを揺らしたかと思うと、そのうちのひとつが見ている前であっという間に実になり、私の手元に落ちてきた。
 慌てて受け取ると満足したように神木が横にゆらゆらと揺れ、お野菜たちが上手にキャッチしたねーとばかりに、片腕をぐっと前に出してくる。

「ティア」
「ええぇーと、なんででしょうね?」

 またやらかしたなと呆れたような楽しんでるようなアンドリューの視線を受け、私は眉尻を下げた。
 勝手にやってきた騒動を自分のせいにされても困る。
 実はどうしたらいいのかと神木と交互に見ていると、シュクリュに鼻でつんつん促すように身体を押される。

『わふぅ』
「ついて行ったらいいのね?」

 ぴたんぴたんとまた動き出した神木とともに、ぞろぞろと皆を引き連れて神木の住処へと向かう。
 神木がずずずっと根っこをしまい込むように定位置に戻ると、シュクリュの鼻ツンツンの指示に従って実を神木の近くにそっと置いた。
 実は時間をかけて淡い光を放ちながら、ゆっくりと大地に吸収されていく。

「すごく二度手間なような気がするのだけど」

 しばらくその光景に見惚れていたが、私は目をぱちくりさせてアンドリューに視線をやる。
 住処の土地に吸収させるのなら、わざわざ私を介する意味がわからない。
 同じように見守っていた王子は、考えるように顎に手を当てた。

「もしかすると、二度と盗まれないよう神木なりの自衛かもな。ティアなら信頼できるから実を預けて大地に戻させたのだろう」
「うーん。驚きましたが神木が納得しているのなら、いいのかな?」

 二度手間感は拭えないけれど、それで神木が安心するというのなら役に立てて良かった。

「いいんじゃないか? 周囲も神木の奇跡をまた目にして盛り上がっているしな」
「ああ~、……もしかしてこれから花を咲かせるたびにずっと?」

 貴重な体験をさせてもらえたし、循環の一部を見させてもらえたので貴重な情報にもなる。だけど、盛り上がりを見ていると不安になってきた。
 頻度にもよるけれど、毎回になると結構なイベントなのではないだろうか? しかも、そのたびにあの根っこタコ踊りを見せられるのだ。なんか、さらに変なイベントが発生しそうである。

「その可能性はあるな。それに神木を歩かせるとか、さすがティアだな!」
「文献にはそのようなことが書いてあったりは?」
「ないな。これはティアの能力によるものなのだろう。このことでまたティアの伝説が増えるな」
「勘弁してください……」

 野菜や神木まで歩かせる王太子妃とか、言葉にすると微妙すぎる。
 書き方によっては、こき使ってるようにも受け止められそうで怖い。

 その後、私の懸念通り、神木は花が咲くと歩き出して私のところに現れるようになった。
 神木の護衛のように歩くシュクリュと、神木の周りをお野菜たちが踊るようになって、王都の名物となる。

 数年に一回と聞いていたが、毎年、下手をすれば年に二回ほど落としにくるので、その頃には私も次第に楽しそうだしいいんじゃないかと思うようになった。
 そのたびに私を探し回るのはどうかと思うけれど、シュクリュもいるし神木がそれで安心するならそのほうがいいし、戯れるお野菜たちの姿はいつも癒されるし、なによりきらきら光を帯びた葉をつけた神木は美しかった。

 このように次々と豊穣としての力を発揮する私のもとに、各地で救いが求められることも多かった。
 そのたびに真摯に向き合いできることはしようと動く私と、雑多なことはお任せをと付き従う高官たちとお野菜たちの姿は、女神の行進と呼ばれることになるのはそう遠くない話。

 王太子妃のために動く部隊も出来上がり、彼らは胸元に黄色いリボンをつけることが必須であったので、リボン隊と呼ばれ大いに活躍していくこととなった。
 私が各地に出向くときには、カブ隊長も付き添い仲良く相談している姿はよく見かけられ、一人と一体はセットとして語られる。

  ◇

 今日もリボン隊の話やリヤーフとの話、そして公務など多忙な時間を終え、私はアンドリューの腕の中にいた。
 そっと顔を持ち上げたアンドリューに、こめかみにかすめるだけのキスをされる。

「お疲れ」
「アンディもご苦労様です」

 鼻先をかすめ互いに見つめ合い、それからふっと笑い合うと唇を合わせた。
 柔らかな感触にほっとする。

 互いに手を繋ぎ、見つめ合いながら徐々に口づけを深めていく。
 どんなに多忙でも、二人でベッドに入るときは最初は必ずここから始まる。自分を必要とし愛してくれる、愛しいと思える存在。

 そしてなにより、可能な範囲で野菜たちのことなど自由にやらせてくれるアンドリューとともに歩んでいくことをかみ締められるこの時間は、いつも幸福を感じ胸が温かくなる。
 ちゅっとリップ音をさせ一度顔を離すと、碧色の瞳を柔らかく和ませ、アンドリューはじゃれるように軽いキスをまた仕掛けてくる。
 それに私もときおり返しながら、互いに愛しさを込め見つめ合った。

「ティア、愛してる」
「私も、愛してます」

 私は唇を綻ばせ、アンドリューの首に手を回す。先ほどとは違って熱を帯びた瞳を前に、そっと瞼を閉じた。


-FIN


※次ページはイラスト神木+シュクリュ+お野菜たちです。
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