大和妖〜ひとひら〜《短編連作》

橋本彩里(Ayari)

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カワジ、卒倒する

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「家鳴だぁ。家鳴も一緒に行かない?」

「行かない。それよりも、座敷童子を困らせるではないぞ」

 カワジよりうんと小さい家鳴が、ぎろりと睨みつけてくる。大きさはちょうど子供の手くらいで、それらが五体ほど出てきた。頭にちょんとツノが生えていて、モンペをそれぞれ青、赤、黄、橙、黒と履いている。

 そして、大抵カワジに最初に文句を言ってくるのは青のモンペを履き、一体だけネクタイをしている家鳴だ。
裸にネクタイ、それがいいのかどうかカワジにはわからないが、ここのリーダーとしての自覚と流行りなのだそうだ。

 それを聞いたとき、流行りとは難しいと思ったのはつい最近の話。
 マンが言うには、姐さまに可愛がられているカワジが面白くないのだろうとのことだ。

 別にカワジは姐さまを一人占めしているつもりもないし、できるのなら家鳴とも仲良くなりたいのだが、目下もっかのところそれは難航している。
 青のもんぺの家鳴がいうと、他の家鳴も口々に文句をいう。

「そうだそうだ。カワジは食い意地張ってるから、そのうち人間に食ってるのばれるぞ」

「そうだ。そうだ。人間にばれるぞ」

「ばれたら、出禁か?」

「出禁か?」

 やいやいと家鳴が口々にカワジを責めるが、カワジも負けてられないといい返す。

「今まで見つかったことないから大丈夫。姐さまみたいに霊力? というのも高くないし。それに相性というのもあるって知ってる」

 この間、姐さまに教えてもらったことを、“えっへん”と自慢げに披露する。だが、家鳴も当然知っているわけで、“へん”とばかりに小馬鹿にカワジを見た。

「当たり前だ。座敷童子は特別だ。だが、人間側にそういうのいたら知らないぞ。食い意地張って」

「食い意地カワジ。そのうちまん丸になるぞ」

「カワジはころころころがるぞ」

「ころころころ」

 橙の家鳴やなりがそこでころんと体を丸くして転がってみせる。

「そんなことにならないもん。食い意地、食い意地、家鳴は煩い」

「食って喋って、食ってではないか」

「うぐっ」

 図星を指され、カワジは言葉も出ない。

「笑ってるぞ」

「笑う」
「笑う」

 そこで、アシュラがカワジを思って援護した、のだろうが、援護にならなかった。

「そうだな。笑って、食って、喋って、食って、笑食わらたべカワジだ」


 ──なんだ、笑食べカワジって。


 カワジはむぷぅっと膨れて何に文句を言っていいのかわからず、とりあえず怒ってますよというポーズを取ってみる。

「とにかく、ここは座敷童子の家だ。粗相するのは許さん」

 五対一でカワジもそれなりに健闘していたが、最後に青の家鳴に一喝される。
 カワジとて、姐さまの住まうところを荒らすつもりはなく、そうなる、そう思われるのは嫌で素直に頷いた。

「わかった。気をつける」

 だって、食べたいし、聞きたいし、見たいし。気をつける、だよね。と心の中で思う。

「絶対にだ」

 せっかく素直になったのに念をおされる。家鳴とお友だちになるのは、やっぱりまだまだ遠そうだ。
 わりとすぐに妖と打ち解けることのできるカワジは、ここまで目の敵みたいな態度の家鳴が出てくるとちょっと気になってしまう。

 少し意地になっているのかもしれないが、やっぱり座敷童子を慕う者同士仲良くしたいというのを諦めたくない。
 そんなもんで、どれだけ邪険にしてもフレンドリーに接してくるカワジに家鳴が余計に楯つく図、が出来上がっている。

 負の連鎖なのだろうと、カワジもどこかで感じている。このままではエンドレスだ。ちょっとしょぼんだ。
 少し気落ちしたカワジに、姐さまが助け舟をだしてくれる。

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