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カワジ、卒倒する
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しおりを挟む女性のでもいいのだが、何となく男の前に置かれているやつが美味しそうに見える。
なら、次はマンが言っていた切り干し大根へと思ったら、それもぱくぱくっと食べられてしまった。
「ええぇぇっ?!?!」
カワジは度重なる欲求不満に声を上げ、ふるふると震えた。……食べられないなんて許し難し。
こんなのは初めてだ。よっぽど男が食べるのが早いのか、タミングが悪いのか。
カワジはむっぷぅと頬を膨らませた。
美味しいものを食べる幸せが目の前で奪われていくなんて、信じられない。目と鼻の先、正確にいえば箸の先で消えていく。
美味しいものを食べて、そして人間観察するのが人間観察同好会だ、とカワジは思っている。……こんなの嫌すぎる!!
次に男が食べるのはこんにゃくの含め煮か栗ご飯、南蛮漬け。最後にいくかもしれない寒天はもうちょっと先で良いだろう。
──いざ、勝負!!
箸を構えよくわからない勝負にカワジは勝手に意気込み、そして見事に完敗した。
──食べられなかった……。
何も掴んでいない箸を持ったまま意気消沈しているカワジに、アシュラが怪訝な顔をした。
「カワジ、何している?」
「してる?」
「してる?」
「勝負に完敗したの……」
「勝負?」
「?」
「?」
側から見て箸をちょこちょこ動かすだけのカワジであったが、どうやら勝負していたらしいと知り、よくわからないとアシュラは首を傾げる。
前の顔が首を傾げると左右の顔も傾げる。その傾げる方向と角度が違い、ばらばら感が美少年の愛らしさを誘うものだ。
「だって、眼鏡野獣がカワジが食べたいやつを先に食べちゃうんだもの」
「ほお」
そこで話を聞いていた座敷童子が男を見る。だが、ふむっと頷きカワジの方へと視線を戻した。
「栗ご飯は食べられたし、取り敢えずこやつは観察でいいのではないか? まだ食べる機会はいくらでもあるでの。それに、さっきから会話を聞いておったら付き合いたてのカップルのようだ。ほやほやというやつだ」
「ほやほや。ということは、いろいろこれから?」
ほやほや、と言われ、ぽっ、とカワジは頬を染める。
「そうだ。ほれ!! 会話もぎこちなく、意識しあっておろう」
座敷童子に言われよくよく見ると、女性の頬が男が頷くたびに朱に染まる。
何をしても恥じらいも含め嬉しい時というやつのようだ。それも姐さま情報だが、会話を聞いて見るだけでわかる姐さまはさすがである。
「姐さま。すごい!!!!」
カワジは感心しきり、尊敬の眼差しで座敷童子を見つめた。座敷童子は得意げに、カップルを解説する。
「どうやらこやつらは、同じ飲食店のバイト先で知り合い付き合うことになったようだ。シフトがどうとか話していたしの。
大学も違い、バイトで忙しい中ようやくおしゃれカフェにやってきたということらしい。久しぶりの逢瀬じゃな」
「へぇぇ」
「ほお」
マンも面白そうに声を上げ、男を見上げた。
座敷童子の解説に熱が入る。ちなみに最近の座敷童子の愛用書は攻めっけのあるちょっとエッチなものだ。
「愛に飢えた男は昔から何をするかわからんのが相場だからの。そろそろ進展したい。手を出したい。そう考える。女もそろそろと意識するから雰囲気ができあがる。そこで、その雰囲気を読み取り男が勝負をかける。カワジ、これはもしかするともしかして、壁ドンどころではなくなるかもしれぬぞ」
「壁ドンどころではないって?」
それ以上のモノが見れるのか?!?!
カワジは思わず紅潮する頬を押さえた。……めっちゃ興奮する。
興奮しすぎて、ぱっちりなカワジの瞳がウルウルと潤っていく。
──眼鏡野獣よ。さっきは腹を立ててごめんなさい。ご飯を先に食べたことは許してあげるから是非『壁ドンどころじゃない』のを見せて欲しい!!
座敷童子の解説とともに、彼への期待はどんどこどんどこ上がっていく。どころじゃないってどんなものなのか、わくわくが止まらない。
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