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ほこほこ日和
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しおりを挟むそんな豆腐のように思考がふにゃふにゃのカワジと違って、その日の座敷童子の姐さまはそれはそれはご満悦で、その後二階に戻るとふふっと笑った。袖で口元を隠し上品に笑ってはいるが、ふふっ、ふふっ、といつまでも楽しそう。
なんだか、自分だけがショックを受けていることにまたショックを受けてつつつっと畳の溝をなぞる行為をしていると、ぽすっと頭に手が置かれた。体温もなにもないが、優しい手つき。
見上げると、アシュラが困ったように眉を下げてこっちを見ていた。意気消沈したカワジをアシュラなりに励まそうと思ってくれているようだ。
『大丈夫か?』
『か?』
『か?』
小さく頷くと、ほっと息を吐き出したアシュラはそれでもずっと頭を撫でてくれた。ゆっくりと先ほどの衝撃が退いていき、人間と話して触られたことを実感していく。
その間、マンが一度階下へと降り再び戻ってくると、カワジの前に切った柿を置く。
『ほれ、これでも食べろ』
食べ物を見ると少し気分が上昇し、こくんと頷き手を伸ばした。
太陽の光をたくさん浴びた綺麗なオレンジの色。爪楊枝を刺すと表面を突き破りずずずっとゆっくりと実に入り込む。固すぎず柔らかすぎず、いい熟れ具合。たまに早かったと思うこともあるので、どんぴしゃりで食べることができると口元が緩む。
『おいしぃぃ~』
甘い果実に適度な歯ごたえ。うん。おいしい!
もぐもぐと食べて全てを口に入れると、流れるようにもう一つを刺してキープする。とられる訳ではないが、ついつい、だ。
『それは良かった。ちょっとは元気出たようだな?』
『うん。でも、触られた……』
『ああ、それはこちらも驚いだ。話に聞いたばかりの壁ドンつきだったな』
『ぐわぁってきて怖かった……』
マンの言葉に眉根を寄せた情けない顔でカワジが答えると、姐さまがふふっとまた笑う。
カワジは複雑な表情のまま、また柿にかじりついた。もぐもぐもぐと口を動かすと柿の甘さがじんわり広がり、喉を通り越して胸まで甘くしみるようだ。ちょっぴり、気分上昇。
『それでも食欲は別のようだな』
『だって、美味しいには逆らえないんだもの~』
マンがにやにやと笑うので、むむぅっとカワジはそれとこれとは別だと口を尖らせた。
『カワジはやっぱり食い気だな』
『違うもん』
『どうだかな。まあ、美味しいもの食べれて元気が出たなら良かったよ』
『……ありがとう』
カワジはふてくされながらも好意は嬉しいのでぽそりと礼を言うと、マンはたぷんと頬を揺らし笑う。
『いや。どういたしまして。なかなか見れない面白いもの見れたしな? 座敷童子も満足そうで良かったじゃないか』
マンが話を振ると、『楽しい時間だったのぉ』とほほほほっと座敷童子は優雅に笑う。
『カワジ、今日のこれも乙女としての一歩よ。ほれ、いつまでもしょげかえるでない。最近妾が仕入れた面白い話をしてやるからの』
ひらりと小さな手を上げこっちにおいでと姐さまに手招きされ、カワジはつつつっと寄っていった。いい子とばかりに頬を白い手で撫でられ、白檀の香りがカワジを包む。
その匂いは懐かしさとともに、カワジの気持ちを落ち着かせる。するりするりと撫でられる細い指の感触に目を細めた。
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