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第6話 初めてのカノジョは美少女

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翌日、僕は寝不足だった。

昨夜、菜美恵に女性の身体の事を教えてもらった。
だが、あまりに刺激が強すぎて帰宅してからもなかなか寝付けないでいた。

結局、童貞卒業は叶わなかったが昨日、小梢や菜美恵と接したことで対女性に少し自信を持てた気がした。


「森岡君、おはよう」岸本が爽やかな笑顔で挨拶をしてきた。

「あ、岸本さん、おはようございます」

「昨日はどうだった? 真っすぐに帰ったの?」

「ええ、何事もなく帰りました」
菜美恵のプライバシーにも関わるから、ここは余計なことは言えない。


「森岡君は、ああいう場は嫌いだったかい?」

「え……と、どちらかと言うと苦手です」苦笑いする。

「まあ、そうなるね。だけどね森岡君、多くの人妻と関わることで、女性の扱いや、心理に触れることができる」

「はい……」

「それは、決して無駄にはならないと、僕は思うよ」

「……」

「ほら、最近の僕らの世代って恋愛をしないじゃない。
僕は恋愛をしない・・・・・・じゃなくて、恋愛ができない・・・・・・・んじゃないのかなって思うんだ」

はっ、として僕は、思わず岸本を見た。

「森岡君、君にも心当たりがあるんじゃないか?」

確かに、僕は恋愛の仕方を知らない。

「僕はね、どうして日本人は恋愛が下手になったんだろう? て思うんだよ」

「そう言えば、結婚しない人や、子供を作らない人が増えて社会問題になってますね」

「でも、その一方で、不倫して複数の相手とセックスを繰り返している人もいる。
この差は何なんだろう? て思っている。
そして、そのカギは昨日会った人妻たちが持っているのかな、と思っている」


「僕も、いつか恋愛が自然にできるようになりますかね?」

「ああ、そのためのレッスンだよ。人との出会いは粗末にしちゃいけない」

「はい……」そうは言われても実感はわかなかった。


「そうだ、森岡君。君ってバイトは決まったの?」
「いえ、まだ、これから探すところです」
「だったら、僕にあてがあるんだ、行ってみないか?」
「はあ……どんなバイトですか?」
「家庭教師さ。長谷田の学生は人気があるんだよ。
放課後、一緒に登録に行こう」

何はともあれ、バイト先が確保できるのはありがたい。
僕は岸本と約束して、自分の講義がある教室へと向かった。


と、その時、いきなり誰かが僕の腕に抱きついてきた。

「え? え?」

「ごめんなさい、森岡さん。わたしです、雪村です」

「雪村さん、どうしたの?」
僕には何が起こったのか、皆目見当がつかない。

「ちょっと、君~、逃げなくても良いじゃん。うちのサークルの説明するだけだからさ~」
見ると、男子学生が二人、ニコニコしながら小梢に近づいてくる。どうやら上級生のようだ。

「ご、ごめんなさい。カレがいたので……つい……」

(ええーー? カレ? 僕の事?)
僕はますますパニックになる。

「これから、わたしたち講義があるので……失礼します」

「あ、ちょっと、パンフだけでも~」
そうやって引き留めようとする上級生を振り切るように、小梢は僕と腕を絡めながら、歩を速めた。

「ちぇ! なんだよ! あんなのがカレシかよ~ 何か間違ってないか?」
上級生の捨て台詞が耳に痛かった。小梢と僕とでは全然、釣り合っていない。

「ごめんなさい、森岡さん。勝手にカレシだなんて言ってしまって……」

「いや、僕は平気だけど、今日もあんな感じなの?」
男の子と話すのが苦手な小梢は、昨日の合同歓迎コンパでも途中で逃げ出している。超絶美少女の小梢に次から次へと男子学生が声をかけてくるからだ。

「今日も、ここまで来るのに四回ほど声をかけられて……」

困った顔をする小梢の横顔は、やっぱり超絶可愛い……。


講義が終了し、次の教室へ人の移動が始まると別の男子学生が一人、僕たちへ近づいてきた。
この教室に居たのだから同学年だろうか。しかし見るからに洗練された都会の男子風だ。

「ねえ、君って可愛いね。もうカレシとかいるの?」

(ナンパだ! 初めてヤラセでなく他人がナンパしている場面に遭遇した!)
僕は自分がナンパしている訳でもないのに、思わずドキドキする、が……。

「あ、あの、この人がカレシです」

(ええーー? またしても!)
僕は、恐る恐るナンパ野郎の顔を見る。


ナンパ野郎は、頬をヒクヒクさせていた。

「うそ……だろ……」

「ごめんなさい、わたしたち次の講義があるので。行こう! 圭君」
そう言うなり、小梢は僕の手を握ると教室の出口へ急いだ。

ナンパ野郎は、信じられないと言った表情で呆然と立ちすくんでいた。
(嘘とはいえ……僕のような男が、雪村さんのカレシで良いのだろうか?)


小梢の手は小さくて柔らかかった。

(女の子の手って、柔らかい……)


教室を出て、しばらくすると小梢は手を放し立ち止まった。
僕はこのまま手を握っていたかったので少し残念な気がした。

「大丈夫? 雪村さん……」
「ごめんなさい、また勝手にカレシにしちゃって。それに名前で呼んだりして、迷惑ですよね……」

「そんな事ないよ、初めて女の子と手を握ったし 笑」

「あの……わたしも……初めて」

「え?」

「わたしも初めて、男の子と手を握ったんです……。だから、ドキドキしてます」


(な、なんて可愛いんだーー!!)

僕は、彼女のこの仕草だけで好きになってしまいそうだ。
しかし、小梢は僕に盾としての役割を期待しているのだから、その期待にこたえなくてはいけない。
僕まで彼女を好きになってしまう訳にはいかない。


「僕で良かったら何時でも使ってよ。雪村さんの力になりたいんだ」

「ほ……んとうですか?」

「ええ、こうやって知り合えたのも、何かの縁だし」



「じゃあ、わたしのカレシになってください」




「へ?
え……と、ゆ、雪村さん? 今……なんと?」僕は完全に声が裏返ってしまった。

「その、わたしのカレシになって欲しいんです。わたしを圭君のカノジョにしてください」


「??」

ますます分からない。僕は思考が追いつかず目をパチクリさせてしまう。

「あ、もちろん、ご迷惑なのは分かっています。
だから……嘘の関係で良いんです。
嘘のカノジョで良いので……当分の間、わたしと付き合ってください」

嘘の関係……。
冷静に考えれば当たり前の事だ。目の前にいるのは誰もが振り向く超絶美少女だ。
そんな女の子が僕に告白するなんてことは1ミリも考えられない。
しかも、昨日会ったばかりだ。

でも、それでも良いと僕は思った。

「あはは、ビックリした~
要するに、今みたいに僕がカレシとして雪村さんの盾になれってことだね」

「あの……わたしは……」

「大丈夫です! 僕がちゃんと役割を果たしますから」

「あ、ありがとうございます……それから、わたしのこと『小梢』と呼んでください」

(そ、そうだよな……嘘とは言え恋人なんだし、名前で呼ぶよな……)

「こ、小梢ちゃん」
と言ってしまって、何だか凄く恥ずかしくなる。


「あ、いえ、呼び捨てにしてください、友達は、あ、女友達ですけど、みんな『小梢』って呼びますから、その方が馴染みあります」


(あひ、あひ、あひゃひゃ……)

「こ」

「こ」

「こ、こずえ」


「はい、圭くん」

こうして僕に、人生初のカノジョができた……。



嘘の関係だけど。




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