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第7話 バイト先の女社長

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その日も僕たちは同じ科目を履修していたこともあり、ずっと行動を共にした。
もちろんその間、僕が他の男子学生からの冷たい視線によって針のむしろに座っている気分だったことは付け加えておく。


小梢と駅まで一緒に帰り、僕たちはそこで別れた。僕が岸本と待ち合わせていたからだ。
待ち合わせの原宿駅に着くと、既に岸本が待っていた。

「すみません岸本さん、待たせちゃいましたか?」

「いや、大丈夫だよ、じゃあ行こうか、こっちだ」
僕は岸本の後に続く。


「今日、登録しに行くのは『カテマッチ』という家庭教師マッチングサイトの運営会社なんだ」

「はあ……」

「その会社は、宮下綾乃みやしたあやのという女性社長が一人で運営していてね」
「女性の方が社長なんですね」

今時、女性社長なんて珍しくもないが一人で運営しているというのは、引っかかった。

「宮下さんは、大学生の時に現在の会社を一人で立ち上げて、アプリの開発から決済までシステムも全て自分で構築したんだよ」

「凄いですね、スーパーマン、いやスーパーウーマンですね」

「さすが、東大出身なだけはあるよ」

東大――東帝大学――といえば、関西の京府大学とならぶ国立大学の最高峰だ。
本当に天才っているんだ、と僕は感心してしまった。


表参道から路地に入った雑居ビルに岸本は「ここだよ」と入って行った。
三階建ての建物の階段を上り、二階の事務所らしき部屋に入ると、そこに一人の女性がデスクに向かって何やら作業をしているのが見えた。

「お疲れ様です、宮下さん。相変わらず物騒ですね。鍵をかけないと、一人なんだから」

「あら、岸本君こそ、黙って入ってきちゃダメじゃない」
椅子をクルリと反転させ、僕たちの方へ顔を向けた女性を見て、僕は驚いた。

小梢と菜美恵の良い所ばかりを合わせたような女性だ。小梢の可愛さと菜美恵の色気を併せ持っている。

「へ~、その子が新しく登録してくれる子?」
「はい! 森岡圭と言います。長谷田の経済学部一年生です」
「ウフフ、そんなにかしこまらなくて良いのよ。ここは、そんな堅苦しい会社じゃないんだから」

そう言って立ち上がった綾乃を見て、僕はさらに驚く。
身長は僕と変わらないだろうか? とにかくスタイルが良い。タイトな服装もあって、女性のふくらみが強調されていた。

「そっちに座って」
事務所の一角に応接用のソファーのセットがあり、彼女は僕たちに座るように促した。
目の前で足を組む綾乃だが、足も細くて長い。短いスカートの奥の下着が見えそうだった。


「岸本君、森岡君にシステムは説明しているの?」

「いえ、この会社が家庭教師のマッチングサイトを運営している会社で、宮下さんが一人で切りもりしていることくらいしか話していません。
あ、一つ重要なことを話していませんでした。宮下さんが凄い美人だという事を」
と言って岸本は笑った。

「ウフフ、言うようになったわね。岸本君」

笑っていた綾乃だが、急に真面目な顔に変わる。

「森岡君。私の会社は岸本君が話した通り、家庭教師と生徒をマッチングさせるサイトを運営しています」

「ただ、うちは私が独自に開発したパラメータを設定することで、よりクライアントに適した家庭教師を斡旋できることを強みにしているの」

「そのため、会社は設立以来成長を続けているし、家庭教師の単価もランクが上がれば高額になるような仕組みを取っています。
それで、森岡君にもパラメータへの記入をお願いするけど、大丈夫かしら?」

「はい、大丈夫です」

「じゃあ早速、入力してもらうわ」
そう言うと、綾乃はノートパソコンを一台持ってきて、テーブルの上に置いた。
それから自分で操作し、「はい、入力して」と僕にパソコンを渡した。


(う……わ……)
そこにはビッシリと入力項目が並んでいた。

「岸本君、どうする?」
「そうですね、やっぱり、全部を入力するのに一時間はかかりそうですよね」
「森岡君も子供じゃないんだし、岸本君は帰って良いわよ」
「お言葉に甘えて、帰らせてもらおうかな。森岡君、悪いが後は一人でやってくれ」
「はい、岸本さん。ありがとうございました。僕も一人で大丈夫です」

「それでは、宮下さん。僕はこれで失礼します」
そう挨拶して、岸本は事務所を出ていった。

僕は、もくもくと入力項目を埋める。しかし、一体どれだけあるんだ? という量の項目だ。


「入力しながら聞いて、森岡君」

綾乃がシステムを説明する。僕はパソコンに入力しながら聞いた。



「宮下さん、入力が終わりました」

「ちょっと待ってね、チェックするから」
そう言うと綾乃は自分のデスクにもどり、パソコンを操作し始めた。

デスクはコの字型に配置されており、モニターが二台、ノートパソコンが一台置いてある。

僕は、キョロキョロと事務所の中を見渡したが、事務所はいたってシンプルで無駄なものが一切ないように感じられた。
綾乃の性格なのだろう。彼女の立ち振る舞いにも無駄が感じられなかった。

「うん、良いわね。このまま登録するわ。森岡君はアプリをインストールして。
そのノートパソコンにQRコードがあるでしょ、そこからインストール先のURLにたどり着けるわ」

僕は言われるとおり、QRコードを読み込み、アプリをインストールした。

「インストールした? したら、こっちにきて」

僕はデスクの方へと向かい、綾乃の背後に立つ。

「これがあなたのアカウントと初期パスワード、初回ログインしたらパスワードを変えて」

綾乃は身体をひねりながら僕にメモを渡した。上から見ると、彼女のブラウスが胸のあたりで隆起しているのが分かる。

やはり、胸の大きさは菜美恵よりありそうだった。
ちなみに、小梢は胸はそんなに大きくない事を付け加えておく。


「どう? アプリにログインできた?」

「はい、できました」

「もうあなたのデータは登録されているから、生徒からは見えるようになっているわ。
あなたの事を気に入った生徒がいれば、ブックマークがつくから、何人が注目しているか分かるようになっているわ」

見ると、既に三人からブックマークがついている。

「早いわね。長谷田の学生は人気なのよ。
森岡君、私ももう上がるから一緒に夕食でもどう?」

僕は頭の中で財布の中身をチェックした。たしか8000円は入っているはずだ。夕食くらい食べられるか……、と思った。

「はい、是非ご一緒させてください」
スラスラと女性の誘いに応じられる自分に、僕自身が驚く。


「ウフフ、森岡君は素直ね」

「え?」

「私に全然臆してないもの。他の学生さんは私の事を会社の社長としか見てくれないのよね。だから遠慮がちなの」
「あ、すみません……僕、なにか失礼な態度をとりましたかね?」


「ううん、嬉しいのよ。 私って、いつも独りだから、若い男の子と食事に行けて」
「宮下さんみたいな綺麗な方に、僕なんかで喜んでもらえるなんて、素直にうれしいです」僕は照れてしまう。


「さ、準備できたから行きましょう」




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