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第1話 謎の美少女

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「みつけた……」


「へ?」

僕の前に突如、瞳を潤ませた美少女が現れた。



今日は、サークル合同の新入生歓迎コンパが開催されていた。
中小のサークルや大学非公認のサークルが効率よく新入生を勧誘するために開催しているもので、毎年、入学式から程ない四月の初めに執り行われているらしい。

僕の故郷は、東京から一番遠いと言われる過疎の町だ。
そんな田舎から上京してきたばかりで知り合いもいない僕にとって、このコンパは東京の学生の雰囲気に慣れるための絶好の場だと思って参加していた。

コンパは学食を会場としており、集まった学生の数は新入生だけでも1,000 人を超えていた。先輩学生を含めると軽く3,000 人は超えているのではないだろうか。

会場には各サークルのブースが設けてあり、新入生は興味のありそうなサークルのブースを訪問し、説明を受けられるようになっている。

参加している新入生の殆どは 2 人以上のグループで参加しており、積極的に動いていた。僕もブースを回って先輩の話を聞きたいのだが、いかんせん近寄り難い。

サークルの先輩達は皆が洗練された大人に見えた。

田舎者の僕には、とても気軽に話しかけられそうな雰囲気ではない。学生時代、ガリ勉だった僕は他人とのコミュニケーションが苦手だった。



やはり自分には場違いだと、すっかり意気消沈していたところに、その美少女が声をかけてきたのだ。

「あの、1 年生……、おひとりですか?」

話しかけてきた女子学生は、アイドルかと見紛うばかりの美少女だった。肩までかかった黒髪は絹糸のように艶めき、大きな黒い瞳は何故か潤みを含んでいる。


「あの……、なにか?」

「ごめんなさい、突然。その……、ここに一緒に居させてもらっても良いですか?」

「はあ?」


「あの、わたし、経済学部 1 年の雪村小梢ゆきむらこずえと言います」

「あ、僕は森岡圭もりおかけい、おなじく経済学部の 1 年です」

「ああ、良かった、同じ経済学部なのですね」

「ええ……、まあ……」何なのだろう? 彼女の意図が分からない。


「あの……実はわたし、男の人と話すのが苦手なのですが、さっきから先輩男子に声をかけられて困っていて……」

そりゃ、これだけの美少女を洗練された都会の先輩男子が放っておくわけがない。

「それで、森岡さんに話しかけたんです」

「え……と……、なぜ僕なんです?」

「その……。わたし、田舎から上京してきたばかりで、こっちに友達もいないし」

小梢は心細そうな表情をしていた。それにしても、ふっくらとした形の良い唇だ。全ての造形が美そのものと言っても過言ではない。

「それに人見知りで、他の人と上手く話せないんです」

「え……と、僕と話してますが?」


「あの……、言いにくいのですが、森岡さんの雰囲気が田舎の友達と似ていて、つい……」
申し訳なさそうに上目遣いをする小梢。おそらく、男だったら誰でもこの表情だけで胸を撃ち抜かれるだろう。


  そのくらいカワイイ。


ここで僕は、ある事に気づく。女の子とまともに話したことのない僕が、小梢のような美少女となんとなく会話ができている。


「でも、僕と一緒に居ても先輩たちは話しかけてくると思いますよ」

「そうですよね……。やっぱり、わたし今日は帰ります」

「えぇ、帰っちゃうんですか。サークルは?」

「え……と、今日は見学のつもりだったし、目的も果たせたから大丈夫です。すみません、お邪魔しちゃって」

「あ、だったら、僕が出口まで送りますよ。もし先輩に話しかけられたら、僕が対応します」
せっかく美少女と話せたのに勿体ない。僕はもう少し小梢と一緒に居たい気分だった。

「良いんですか? じゃあ、お言葉に甘えて」

僕たちは、会場を後にすることにした。

会場を出るまで、三人の先輩男子に声をかけられたが、僕が「帰りますんで」と断って彼女を無事に出口まで連れ出せた。

「ありがとうございました、森岡さん」

「あ、正門まで送りますよ。途中で話しかけられるかもしれないし」

「ええ~、良いんですか。森岡さんもサークル探しているのでは?」

「ええ、まだ時間もあるし、雪村さんの事が心配だから」

僕は自分でも驚いている。女の子相手に、こんなにスラスラと言葉が出てくる自分に。
小梢は僕にとって今まで接したことのない特殊な女の子に感じた。

「わたし、自分が生まれ育った田舎が嫌で、それで東京に出てきたんです。
人見知りで奥手な自分を少しでも変えたいと思ったけど、想像以上に華やかな場所で舞い上がっちゃって……」


うつむき加減に、ポツリポツリと話す小梢の横顔、長いまつ毛が綺麗だ。

「僕もなんです。ド田舎からでてきたものの、不安でいっぱいです」

「なんだか、わたしたち似てますね。
あ、ここで良いです。森岡さん、ありがとうございました。……その……」

「はい?」

「また……、学校でお会い出来たら……話しかけても良いですか?」

「ええ、もちろん」



彼女が手を振るので、僕も手を振る。
 
こうやって女の子と別れ際に手を振るなんて、僕にとって初めての経験だ。

少し自信がみなぎってくる気がした。




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