29 / 66
第29話 悲しい別れ
しおりを挟む
「わたしが土門さんを殺したのよ!」
感情を抑えきれなくなったのか、小梢が声を荒げて泣き叫んだ。
僕は何もできなかった。
◇◇◇
「……、
土門さんを襲った連中は、その様子を動画にしてネットにUPしていたの。
だから、直ぐに犯人は補導されて、彼らの証言からわたしも事情聴取されたわ。
その結果、わたしは直接的な関与がなかったという事で軽い処罰で済んだけど、男子は保護観察等の厳しい処分を受けたの。
それから夏休みになり、わたしはその間、謹慎してた。
夏休み明け、二学期が始まったのだけど、クラスにわたしの居場所はなかったわ。
当然よね。
あんな酷い事に加担したんだから。
でも、それからの毎日は地獄だったわ。
クラス全員から無視され、皆がわたしを見る目は、汚いものを見るような目で……。
その時に分かったの。
ああ……、土門さんが見ていた光景は、きっとこんな風だったのだろうなって。
わたしは土門さんみたいに強くない。
そのうち学校へ行けなくなり……、いつしか死にたいと思うようになっていたの。
そして、自殺サイトで知り合った男の人と一緒に死のうという事になって……、お互いに名前も知らない同士、その人のアパートで自殺を図ったの。
その時、彼がセックスをしたことないっていうから、わたしも初めてだったけど、死ぬ前にしよう……、て。
それで経験したの。
でも、結局、わたしだけが死ねなくて、気が付いた時には病院のベッドの上だったわ。
その人も、わたしが殺したようなものだわ。
病院で、先生から遺書と土門さんの日記を受け取ったの。
わたしに渡してよいものか迷っていたみたいで、でも、わたしが自殺を図ったことで渡すことにしたって。
これが、その日記」
◇◇◇
小梢はバッグからノートを一冊取り出して僕に渡した。
「その日記に、水族館の遠足の日から死ぬ前日までの事が書かれているわ」
僕は、ノートを開いてみた。
中には一枚の写真……、中学生の僕が写った写真が入っていた。
最初のページを見ると、日付は六年前の遠足の日のものだった。
********************
xxxx年xx月xx日
今日、とても嬉しい事があった。
何時ものように、男子が私に意地悪をしている時、
同級生の森岡圭君が私の事を庇ってくれた。
あまり目立たない人で、これまで話したこともなかったけど、
今まで生きてきた中で一番、嬉しかったかも。
私は単純だ。
森岡君の事がいっぺんで好きになってしまった。
********************
「その日記、圭君の事ばっかり書いてあるの。
遺書に、その日記……、土門さんの代わりにわたしが圭君を見つけよう、て誓ったわ」
僕は、胸が熱くなる思いで聞いていた。もう、口をはさむ余地なんてなかった。
「それから、わたしは学校に復帰して、わき目もふらずに猛勉強したわ。
高校に入ってからも、毎日、毎日、寝る間も惜しんで勉強して、少しでも良い大学にって、圭君を見つけようって、頑張ったの」
そこで、小梢は呼吸を整えた。少し落ち着いたようにも見えた。
「東京に出てきた時、片っ端から東京中の大学を探すつもりだった。
それが、まさか同じ大学の同じ学部にいたなんて……、
わたしが、あの時、どんなに興奮したと思う?
きっと、土門さんがめぐり合わせてくれたんだと思ったわ」
「でも、どうして嘘なんてついたの?
最初から土門さんの事を話せば、小梢も無駄に苦しまなくて良かったのに」
「最初はそのつもりだったわ、でも……」
ここでまた、小梢は大きく息を吸って、呼吸を整える。
「圭君を見たとき、困ったことに気づいたのよ」
「困ったこと?」
「何度も、何度も、土門さんの日記を読んでいるうちに、自分でも気づかないうちに……
圭君の事が好きになっていたの」
「そんな……」
僕が何か言おうとするのを制して小梢は続けた。
「わたしは、土門さんのためと思いながら、実は自分のために圭君を探そうと考えていたのよ。
酷い話よ。わたしは土門さんの命を奪っただけで足りずに、彼女の恋まで奪おうとしたの。
圭君にデートに誘われたとき、自分がどんなに恐ろしい事をしているのか気づいたの。
それでも、なんとか自分を正当化できないか考えたわ。
でも、やっぱり無理……」
なんという事なのだろう?
今のままでは、小梢は僕と付き合う事なんてできないだろう。
小梢を正当化できる理由を見つけない限り、僕と本当の恋人同士になるなんて無理だ。そして、今の僕には小梢を説得できるだけの知恵も経験もない。
でも……。
「じゃあ、どうして今日、僕と……、その、したの?」
「区切りをつけようと思って、なんでも良かったのだけど、最後に圭君の温もりを感じたかったのかも、ホント、勝手だよね。わたし」
小梢は立ち上がると『やっぱり今日は帰るね』と言って帰り支度を始めた。
「日記は、圭君が持ってて。わたしは全部暗記するくらい読んだから」
「駅まで送るよ」
「ありがとう、最後まで優しいね、圭君は」
僕が立ち上がると、小梢は唇を合わせてきた。
僕も応える……。
キスが、こんなに悲しいなんて……。
僕が小梢と言葉を交わしたのは、この日が最後となった。
感情を抑えきれなくなったのか、小梢が声を荒げて泣き叫んだ。
僕は何もできなかった。
◇◇◇
「……、
土門さんを襲った連中は、その様子を動画にしてネットにUPしていたの。
だから、直ぐに犯人は補導されて、彼らの証言からわたしも事情聴取されたわ。
その結果、わたしは直接的な関与がなかったという事で軽い処罰で済んだけど、男子は保護観察等の厳しい処分を受けたの。
それから夏休みになり、わたしはその間、謹慎してた。
夏休み明け、二学期が始まったのだけど、クラスにわたしの居場所はなかったわ。
当然よね。
あんな酷い事に加担したんだから。
でも、それからの毎日は地獄だったわ。
クラス全員から無視され、皆がわたしを見る目は、汚いものを見るような目で……。
その時に分かったの。
ああ……、土門さんが見ていた光景は、きっとこんな風だったのだろうなって。
わたしは土門さんみたいに強くない。
そのうち学校へ行けなくなり……、いつしか死にたいと思うようになっていたの。
そして、自殺サイトで知り合った男の人と一緒に死のうという事になって……、お互いに名前も知らない同士、その人のアパートで自殺を図ったの。
その時、彼がセックスをしたことないっていうから、わたしも初めてだったけど、死ぬ前にしよう……、て。
それで経験したの。
でも、結局、わたしだけが死ねなくて、気が付いた時には病院のベッドの上だったわ。
その人も、わたしが殺したようなものだわ。
病院で、先生から遺書と土門さんの日記を受け取ったの。
わたしに渡してよいものか迷っていたみたいで、でも、わたしが自殺を図ったことで渡すことにしたって。
これが、その日記」
◇◇◇
小梢はバッグからノートを一冊取り出して僕に渡した。
「その日記に、水族館の遠足の日から死ぬ前日までの事が書かれているわ」
僕は、ノートを開いてみた。
中には一枚の写真……、中学生の僕が写った写真が入っていた。
最初のページを見ると、日付は六年前の遠足の日のものだった。
********************
xxxx年xx月xx日
今日、とても嬉しい事があった。
何時ものように、男子が私に意地悪をしている時、
同級生の森岡圭君が私の事を庇ってくれた。
あまり目立たない人で、これまで話したこともなかったけど、
今まで生きてきた中で一番、嬉しかったかも。
私は単純だ。
森岡君の事がいっぺんで好きになってしまった。
********************
「その日記、圭君の事ばっかり書いてあるの。
遺書に、その日記……、土門さんの代わりにわたしが圭君を見つけよう、て誓ったわ」
僕は、胸が熱くなる思いで聞いていた。もう、口をはさむ余地なんてなかった。
「それから、わたしは学校に復帰して、わき目もふらずに猛勉強したわ。
高校に入ってからも、毎日、毎日、寝る間も惜しんで勉強して、少しでも良い大学にって、圭君を見つけようって、頑張ったの」
そこで、小梢は呼吸を整えた。少し落ち着いたようにも見えた。
「東京に出てきた時、片っ端から東京中の大学を探すつもりだった。
それが、まさか同じ大学の同じ学部にいたなんて……、
わたしが、あの時、どんなに興奮したと思う?
きっと、土門さんがめぐり合わせてくれたんだと思ったわ」
「でも、どうして嘘なんてついたの?
最初から土門さんの事を話せば、小梢も無駄に苦しまなくて良かったのに」
「最初はそのつもりだったわ、でも……」
ここでまた、小梢は大きく息を吸って、呼吸を整える。
「圭君を見たとき、困ったことに気づいたのよ」
「困ったこと?」
「何度も、何度も、土門さんの日記を読んでいるうちに、自分でも気づかないうちに……
圭君の事が好きになっていたの」
「そんな……」
僕が何か言おうとするのを制して小梢は続けた。
「わたしは、土門さんのためと思いながら、実は自分のために圭君を探そうと考えていたのよ。
酷い話よ。わたしは土門さんの命を奪っただけで足りずに、彼女の恋まで奪おうとしたの。
圭君にデートに誘われたとき、自分がどんなに恐ろしい事をしているのか気づいたの。
それでも、なんとか自分を正当化できないか考えたわ。
でも、やっぱり無理……」
なんという事なのだろう?
今のままでは、小梢は僕と付き合う事なんてできないだろう。
小梢を正当化できる理由を見つけない限り、僕と本当の恋人同士になるなんて無理だ。そして、今の僕には小梢を説得できるだけの知恵も経験もない。
でも……。
「じゃあ、どうして今日、僕と……、その、したの?」
「区切りをつけようと思って、なんでも良かったのだけど、最後に圭君の温もりを感じたかったのかも、ホント、勝手だよね。わたし」
小梢は立ち上がると『やっぱり今日は帰るね』と言って帰り支度を始めた。
「日記は、圭君が持ってて。わたしは全部暗記するくらい読んだから」
「駅まで送るよ」
「ありがとう、最後まで優しいね、圭君は」
僕が立ち上がると、小梢は唇を合わせてきた。
僕も応える……。
キスが、こんなに悲しいなんて……。
僕が小梢と言葉を交わしたのは、この日が最後となった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる