58 / 66
第58話 最後の夜だから
しおりを挟む
「愛莉、どうして僕が頑張ることが、愛莉の不幸せになるの?」
「圭の、負担になるから」
「負担だなんて、大切な人のために頑張るなんて当たり前の事だよ」
「いや、冷静になって聞いて。圭もわたしも、まだ学生なの」
いつになく愛莉の目が鋭かった。
「分かってるよ、そんな事」
「どうやって? わたし一人じゃない、子供もいて、どうやって生活するの?」
「僕は今、家庭教師のバイトに、カテマッチの運営も手伝っていて、新卒サラリーマンくらいは稼いでる。二人家族が増えても大丈夫だよ」
愛莉は下を向き、何かを考えているようだった。
「家族って……。ゴメン、やっぱり怖い。
今は、圭は気持ちが昂っているだけなんだと思う。母さんも、これまで何度か男の人から交際を申し込まれたこともあったけど、結局、誰とも付き合わなかった」
愛莉が顔をあげ、僕を見つめる。
「何故だか分かる?」
僕には、愛美母娘がこれまでどんな人生を歩んできたのかは分からない。黙って首を横に振る。
「わたしが、いつか邪魔者になる事を恐れたからなの」
男は、子供を好きになる訳ではない。女性を好きになって、たまたま好きになった女性に子供がいた、要するに子供はオマケというわけだ。
愛美に交際を申し込んできた男も、結局は愛美が必要なだけで、愛莉は、悪い言い方をすれば邪魔者という事になる。
愛美は、そんな男たちの本心を見透かしていたのだろう、そして、愛莉もその考え方を受け継いでいるのだと、愛莉は話してくれた。
「僕は、生まれてくる子を邪魔者だとは思ってないよ」
「うん、圭ならそう言うと思ってたし、きっと、そうなんだと思う」
「だったら……」
「だから、なおさら怖い。
圭は、きっと頑張りすぎるから、いつか頑張りすぎて、わたしや子供のことが負担になったら……」
愛莉は言葉を詰まらせ、不安な表情を見せた。
「もし……後悔でもされたら……、わたしは、きっと死ぬほど辛いと思う」
未来のことは、誰にも分からない。今、僕は愛莉のためにできることは何でもすると思っていても将来、自分の選択を後悔する時が来るかもしれない。
でも……、
僕は、ただ、愛莉と離れたくないだけなのに、どうして上手く彼女を説得できないのだろう?
結局、僕も愛美に言い寄ってきた男たちと同じで、ただ愛莉を手放したくないから聞えの良い事を言っているだけに過ぎない。
そして、そういう僕の心の底を、愛莉は見透かしているのだろうと思った。だったら、本当に僕ができることを考えるべきだ。
「分かったよ、愛莉のことは諦める」
「圭……?」
「でも、友達として愛莉の事を見守るくらいは、認めて欲しい」
「見守る? て、どういう事?」
「僕たちは、もう恋人同士じゃないし、もちろん結婚も考えない。でも、大切な友達として間接的に愛莉の力になりたい。それくらい良いだろ?」
愛莉がテーブルの向こうから手を伸ばし、僕の手に絡める。愛莉の温もりが、愛おしかった。
「ゴメンね、こんなことになって。わたし、これからも圭の事が好きだと思う」
「あ~、喉が渇いた。もう一本飲んじゃお」突然襖が開き、愛美が台所へ入ってきて、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、テーブルに着いた。
プシュ~という音が鳴る。
「で、話しはまとまったの?」
そう言うと、愛美は喉をグビグビ鳴らした。
「うん、わたしたち別れることにした。と言っても、友達関係は続けるけどね」
「まあ、そんれが賢明だよ。圭ちゃん、アンタの気持ちは嬉しいけど、二人とも若いんだし、今すぐ結婚とか家族になろうとか、性急すぎるわ」
「はい、すみません。一人でいきり立ってしまって」
僕は、一人熱くなったことを恥じた。愛美母娘は、僕よりもずっと現実を知っているのだと思い知らされる。
「もう遅いから、アンタらも寝なよ」
愛美は、缶ビールを飲み干すと、また部屋へ戻っていった。
「愛莉、具合はどう?」
「うん、今は落ち着いてる。早いうちに婦人科に行かなきゃ」
「僕もついて行く!」
「ヤメテ、恥ずかしいから 笑」
「ご、ゴメン。とりあえず、寝れる準備だけしようか?」
僕がシャワーを浴びている間に、愛莉が床の準備をし、愛莉もシャワーを浴びてきて、僕たちは床についた。
愛美の部屋は静かだ。彼女も寝てしまったのだろう。
「ね、圭。凄く勝手な事を言って良い?」
「ん?」
「最後に、抱いて欲しい」
「え~、だって、隣で愛美さんが寝てるのに、それに、お腹の方は大丈夫なの?」
「大丈夫だと思う。一昨日もしたじゃない 笑」
「そうだけど……」
と躊躇いながらも、僕の手は愛莉へ伸びる。
「今日は避妊しなくて良いから」
「うん」
愛莉と過ごす最後の夜は、更けていった。
「圭の、負担になるから」
「負担だなんて、大切な人のために頑張るなんて当たり前の事だよ」
「いや、冷静になって聞いて。圭もわたしも、まだ学生なの」
いつになく愛莉の目が鋭かった。
「分かってるよ、そんな事」
「どうやって? わたし一人じゃない、子供もいて、どうやって生活するの?」
「僕は今、家庭教師のバイトに、カテマッチの運営も手伝っていて、新卒サラリーマンくらいは稼いでる。二人家族が増えても大丈夫だよ」
愛莉は下を向き、何かを考えているようだった。
「家族って……。ゴメン、やっぱり怖い。
今は、圭は気持ちが昂っているだけなんだと思う。母さんも、これまで何度か男の人から交際を申し込まれたこともあったけど、結局、誰とも付き合わなかった」
愛莉が顔をあげ、僕を見つめる。
「何故だか分かる?」
僕には、愛美母娘がこれまでどんな人生を歩んできたのかは分からない。黙って首を横に振る。
「わたしが、いつか邪魔者になる事を恐れたからなの」
男は、子供を好きになる訳ではない。女性を好きになって、たまたま好きになった女性に子供がいた、要するに子供はオマケというわけだ。
愛美に交際を申し込んできた男も、結局は愛美が必要なだけで、愛莉は、悪い言い方をすれば邪魔者という事になる。
愛美は、そんな男たちの本心を見透かしていたのだろう、そして、愛莉もその考え方を受け継いでいるのだと、愛莉は話してくれた。
「僕は、生まれてくる子を邪魔者だとは思ってないよ」
「うん、圭ならそう言うと思ってたし、きっと、そうなんだと思う」
「だったら……」
「だから、なおさら怖い。
圭は、きっと頑張りすぎるから、いつか頑張りすぎて、わたしや子供のことが負担になったら……」
愛莉は言葉を詰まらせ、不安な表情を見せた。
「もし……後悔でもされたら……、わたしは、きっと死ぬほど辛いと思う」
未来のことは、誰にも分からない。今、僕は愛莉のためにできることは何でもすると思っていても将来、自分の選択を後悔する時が来るかもしれない。
でも……、
僕は、ただ、愛莉と離れたくないだけなのに、どうして上手く彼女を説得できないのだろう?
結局、僕も愛美に言い寄ってきた男たちと同じで、ただ愛莉を手放したくないから聞えの良い事を言っているだけに過ぎない。
そして、そういう僕の心の底を、愛莉は見透かしているのだろうと思った。だったら、本当に僕ができることを考えるべきだ。
「分かったよ、愛莉のことは諦める」
「圭……?」
「でも、友達として愛莉の事を見守るくらいは、認めて欲しい」
「見守る? て、どういう事?」
「僕たちは、もう恋人同士じゃないし、もちろん結婚も考えない。でも、大切な友達として間接的に愛莉の力になりたい。それくらい良いだろ?」
愛莉がテーブルの向こうから手を伸ばし、僕の手に絡める。愛莉の温もりが、愛おしかった。
「ゴメンね、こんなことになって。わたし、これからも圭の事が好きだと思う」
「あ~、喉が渇いた。もう一本飲んじゃお」突然襖が開き、愛美が台所へ入ってきて、冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、テーブルに着いた。
プシュ~という音が鳴る。
「で、話しはまとまったの?」
そう言うと、愛美は喉をグビグビ鳴らした。
「うん、わたしたち別れることにした。と言っても、友達関係は続けるけどね」
「まあ、そんれが賢明だよ。圭ちゃん、アンタの気持ちは嬉しいけど、二人とも若いんだし、今すぐ結婚とか家族になろうとか、性急すぎるわ」
「はい、すみません。一人でいきり立ってしまって」
僕は、一人熱くなったことを恥じた。愛美母娘は、僕よりもずっと現実を知っているのだと思い知らされる。
「もう遅いから、アンタらも寝なよ」
愛美は、缶ビールを飲み干すと、また部屋へ戻っていった。
「愛莉、具合はどう?」
「うん、今は落ち着いてる。早いうちに婦人科に行かなきゃ」
「僕もついて行く!」
「ヤメテ、恥ずかしいから 笑」
「ご、ゴメン。とりあえず、寝れる準備だけしようか?」
僕がシャワーを浴びている間に、愛莉が床の準備をし、愛莉もシャワーを浴びてきて、僕たちは床についた。
愛美の部屋は静かだ。彼女も寝てしまったのだろう。
「ね、圭。凄く勝手な事を言って良い?」
「ん?」
「最後に、抱いて欲しい」
「え~、だって、隣で愛美さんが寝てるのに、それに、お腹の方は大丈夫なの?」
「大丈夫だと思う。一昨日もしたじゃない 笑」
「そうだけど……」
と躊躇いながらも、僕の手は愛莉へ伸びる。
「今日は避妊しなくて良いから」
「うん」
愛莉と過ごす最後の夜は、更けていった。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です
朝陽七彩
恋愛
私は。
「夕鶴、こっちにおいで」
現役の高校生だけど。
「ずっと夕鶴とこうしていたい」
担任の先生と。
「夕鶴を誰にも渡したくない」
付き合っています。
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
神城夕鶴(かみしろ ゆづる)
軽音楽部の絶対的エース
飛鷹隼理(ひだか しゅんり)
アイドル的存在の超イケメン先生
♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡
彼の名前は飛鷹隼理くん。
隼理くんは。
「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」
そう言って……。
「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」
そして隼理くんは……。
……‼
しゅっ……隼理くん……っ。
そんなことをされたら……。
隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。
……だけど……。
え……。
誰……?
誰なの……?
その人はいったい誰なの、隼理くん。
ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。
その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。
でも。
でも訊けない。
隼理くんに直接訊くことなんて。
私にはできない。
私は。
私は、これから先、一体どうすればいいの……?
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる