1 / 27
第1話 怪しいオジサン
しおりを挟む
「ちょっと、お話をさせていただいても良いですか?」
昼下がりの渋谷、平日だというのにハチ公前の広場は人で溢れかえっていた。
工藤紗栄子は学校帰りに友達と待ち合わせていたのだが、そこで突然、見知らぬ男に声をかけられたのだ。
今日は、初夏の陽気で気温もかなり高くなっている。それなのに律儀にスーツを着て礼儀正しく振舞う男は、その慇懃さが却って胡散臭い印象を醸し出していた。
こんなオッサンがまさかのナンパ?
しかも、こんなに人がいっぱいいるところで大胆な。と紗栄子は思ったが話を聞くとも聞かないともあやふやな態度を取っていた。
「あの、どこかの事務所に登録していますか?」
(事務所? また、どこかの自称芸能事務所ね 笑)
こうやって事務所関係のものだと声をかけられるのは、月に一度や二度では済まない。紗栄子は素っ気ない態度のまま、男の出方を伺った。
「あ、申し遅れましたが、私、こういうものです」
男は、そう言って名刺を渡してくれた。
いかにも興味なさそうに、紗栄子は男には目もくれずに名刺を片手で受け取る。
名刺には、”芸能プロダクション 立花企画 代表取締役 立花謙佑”と書かれていた。
(代表取締役、すなわち社長自らスカウトかよ? 怪しすぎるwww)
紗栄子が訝しがっているのにも構わず、立花は話を続けた。
「今、弊社では新企画に参画してくれる新人を発掘していましてね。
お綺麗な方だったので、どこか別の事務所に所属されているかな? と思ったのですが」
『綺麗』と言われて悪い気はしない。実は、紗栄子は自分がかなり美人である事を意識している。街を歩けばナンパもされるし、立花のように芸能事務所を名乗る者から声をかけられる。
もっとも、話しを聞いてみるとどれも風俗の勧誘だったりするのだが……。
だから今回も、その類だろうと思っていた。
「もし、どこにも所属されていないのであれば、弊社に登録していただき、お仕事をしていただければと思った次第です」
チラリと立花に目をやる紗栄子。立花は怪しげではあるが、身なりはきちんとしているし清潔感もある。それに人のよさそうな顔をしている。
100%の悪人ではない。
紗栄子の直感は、そう告げていた。
「あ、もちろん今すぐにというわけではございません。
もし、芸能活動にご興味がおありでしたら、お電話いただければと存じます。
専属でなくてもバイトでも構いません。バイト代ははずみますから。
おっと、女性の方に付きまとっていますと、お巡りさんに怒られますので、この辺で失礼させていただきます。
ご連絡、お待ちしてますよ」
言いたいことを言い終えると、立花は紗栄子の元を離れ、キョロキョロと辺りを見渡しながら、マークシティーの方へと歩いて行った。
(なんか、変なオジサン 笑)
立花の後姿を見送りながら、紗栄子は貰った名刺を無造作にサマージャケットのポケットに突っ込んだ。
「おまたせ~」
立花と入れ替わるかのように友人の四谷梨花が現れる。
「どうしたの? ニヤニヤして 笑」
「ううん、なんでもない。
ちょっと変なオジサンに会って」
「変なオジサン? なにそれ 笑
またスカウトでもされたの?」
「まあ、そんなとこ。それが胡散臭くて 笑
なんとか企画とかいう名前で、たぶん個人経営の小さな事務所だと思う」
「あはは、そんな所で仕事なんかしないっての! ダメだよ紗栄子、変な気を起こしちゃ。そんな所で仕事するくらいなら、パパ活やった方が楽に稼げるから」
梨花はミスコン常連の超絶美人だ。
紗栄子も自分ではかなりの美人だと自覚しているが、それでも梨花の前では霞んでしまうと思えるほどだ。
グラビアアイドル並みの容姿を武器に、マッチングアプリで中年のおじさん相手にパパ活で荒稼ぎしているらしい。
カフェのバイトで地道に収入を得ている紗栄子とは、生活のレベルが違う。
「さ、行こうか~」
(また……、お金が無くなっちゃうな……)
梨花と付き合うにはお金がいる。
もちろん、稼いでいるとはいえ学生なので高級レストランに行くわけでもないし、高級ブティックでブランド品を買い漁るわけでもないが、だからこそ地味にお金が消えていくのだ。
その日も、梨花の買い物に付き合った後、居酒屋で飲み、カラオケで歌うと言った彼女たちの定番コースで夜更けまで遊びまわり、帰り着いた頃には深夜になっていた。
「あ~、少し飲み過ぎた……
明日は二限目からだから、ギリギリまで寝るか~」
紗栄子は地方の田舎町から上京して一年ちょっとだが、もはや完全に生活が乱れきっていた。
学校が終わると、バイトの日以外は友達と繁華街に繰り出し終電近くまで遊ぶ。
恋人がいるときは恋人の家に泊まったり、自分の家に恋人を泊めたり、そしてセックスをする。
ちなみに、今は恋人はいない。今年の春先に相手の浮気が発覚し、別れたのだ。
(美少女の私がカノジョなのに浮気するなんて、男って下半身だけの生き物なの?)と思ってしまう。
たとえ浮気であっても、紗栄子は絶対に許さない。
もともと、セックスが好きという訳でもなく、ただ男が求めるから応じているだけだ。よほど気に入った男が現れでもしない限り、当分の間、恋人は必要ないと思っている。
今は女友達と遊ぶ方が楽しい。
ともあれ、大学は必要な科目だけ出席をして、期末の試験は先輩学生から受け継がれた回答方法を踏襲するだけで単位は取れる。
そこそこ一流と言われる大学でも、殆どの学生がそうやってロクに勉強もせずに四年間を過ごし、就職していく。
だったら楽しまないと損だ、と紗栄子は思っている。
昼下がりの渋谷、平日だというのにハチ公前の広場は人で溢れかえっていた。
工藤紗栄子は学校帰りに友達と待ち合わせていたのだが、そこで突然、見知らぬ男に声をかけられたのだ。
今日は、初夏の陽気で気温もかなり高くなっている。それなのに律儀にスーツを着て礼儀正しく振舞う男は、その慇懃さが却って胡散臭い印象を醸し出していた。
こんなオッサンがまさかのナンパ?
しかも、こんなに人がいっぱいいるところで大胆な。と紗栄子は思ったが話を聞くとも聞かないともあやふやな態度を取っていた。
「あの、どこかの事務所に登録していますか?」
(事務所? また、どこかの自称芸能事務所ね 笑)
こうやって事務所関係のものだと声をかけられるのは、月に一度や二度では済まない。紗栄子は素っ気ない態度のまま、男の出方を伺った。
「あ、申し遅れましたが、私、こういうものです」
男は、そう言って名刺を渡してくれた。
いかにも興味なさそうに、紗栄子は男には目もくれずに名刺を片手で受け取る。
名刺には、”芸能プロダクション 立花企画 代表取締役 立花謙佑”と書かれていた。
(代表取締役、すなわち社長自らスカウトかよ? 怪しすぎるwww)
紗栄子が訝しがっているのにも構わず、立花は話を続けた。
「今、弊社では新企画に参画してくれる新人を発掘していましてね。
お綺麗な方だったので、どこか別の事務所に所属されているかな? と思ったのですが」
『綺麗』と言われて悪い気はしない。実は、紗栄子は自分がかなり美人である事を意識している。街を歩けばナンパもされるし、立花のように芸能事務所を名乗る者から声をかけられる。
もっとも、話しを聞いてみるとどれも風俗の勧誘だったりするのだが……。
だから今回も、その類だろうと思っていた。
「もし、どこにも所属されていないのであれば、弊社に登録していただき、お仕事をしていただければと思った次第です」
チラリと立花に目をやる紗栄子。立花は怪しげではあるが、身なりはきちんとしているし清潔感もある。それに人のよさそうな顔をしている。
100%の悪人ではない。
紗栄子の直感は、そう告げていた。
「あ、もちろん今すぐにというわけではございません。
もし、芸能活動にご興味がおありでしたら、お電話いただければと存じます。
専属でなくてもバイトでも構いません。バイト代ははずみますから。
おっと、女性の方に付きまとっていますと、お巡りさんに怒られますので、この辺で失礼させていただきます。
ご連絡、お待ちしてますよ」
言いたいことを言い終えると、立花は紗栄子の元を離れ、キョロキョロと辺りを見渡しながら、マークシティーの方へと歩いて行った。
(なんか、変なオジサン 笑)
立花の後姿を見送りながら、紗栄子は貰った名刺を無造作にサマージャケットのポケットに突っ込んだ。
「おまたせ~」
立花と入れ替わるかのように友人の四谷梨花が現れる。
「どうしたの? ニヤニヤして 笑」
「ううん、なんでもない。
ちょっと変なオジサンに会って」
「変なオジサン? なにそれ 笑
またスカウトでもされたの?」
「まあ、そんなとこ。それが胡散臭くて 笑
なんとか企画とかいう名前で、たぶん個人経営の小さな事務所だと思う」
「あはは、そんな所で仕事なんかしないっての! ダメだよ紗栄子、変な気を起こしちゃ。そんな所で仕事するくらいなら、パパ活やった方が楽に稼げるから」
梨花はミスコン常連の超絶美人だ。
紗栄子も自分ではかなりの美人だと自覚しているが、それでも梨花の前では霞んでしまうと思えるほどだ。
グラビアアイドル並みの容姿を武器に、マッチングアプリで中年のおじさん相手にパパ活で荒稼ぎしているらしい。
カフェのバイトで地道に収入を得ている紗栄子とは、生活のレベルが違う。
「さ、行こうか~」
(また……、お金が無くなっちゃうな……)
梨花と付き合うにはお金がいる。
もちろん、稼いでいるとはいえ学生なので高級レストランに行くわけでもないし、高級ブティックでブランド品を買い漁るわけでもないが、だからこそ地味にお金が消えていくのだ。
その日も、梨花の買い物に付き合った後、居酒屋で飲み、カラオケで歌うと言った彼女たちの定番コースで夜更けまで遊びまわり、帰り着いた頃には深夜になっていた。
「あ~、少し飲み過ぎた……
明日は二限目からだから、ギリギリまで寝るか~」
紗栄子は地方の田舎町から上京して一年ちょっとだが、もはや完全に生活が乱れきっていた。
学校が終わると、バイトの日以外は友達と繁華街に繰り出し終電近くまで遊ぶ。
恋人がいるときは恋人の家に泊まったり、自分の家に恋人を泊めたり、そしてセックスをする。
ちなみに、今は恋人はいない。今年の春先に相手の浮気が発覚し、別れたのだ。
(美少女の私がカノジョなのに浮気するなんて、男って下半身だけの生き物なの?)と思ってしまう。
たとえ浮気であっても、紗栄子は絶対に許さない。
もともと、セックスが好きという訳でもなく、ただ男が求めるから応じているだけだ。よほど気に入った男が現れでもしない限り、当分の間、恋人は必要ないと思っている。
今は女友達と遊ぶ方が楽しい。
ともあれ、大学は必要な科目だけ出席をして、期末の試験は先輩学生から受け継がれた回答方法を踏襲するだけで単位は取れる。
そこそこ一流と言われる大学でも、殆どの学生がそうやってロクに勉強もせずに四年間を過ごし、就職していく。
だったら楽しまないと損だ、と紗栄子は思っている。
0
あなたにおすすめの小説
ちょっと大人な物語はこちらです
神崎 未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な短編物語集です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
友達の妹が、入浴してる。
つきのはい
恋愛
「交換してみない?」
冴えない高校生の藤堂夏弥は、親友のオシャレでモテまくり同級生、鈴川洋平にバカげた話を持ちかけられる。
それは、お互い現在同居中の妹達、藤堂秋乃と鈴川美咲を交換して生活しようというものだった。
鈴川美咲は、美男子の洋平に勝るとも劣らない美少女なのだけれど、男子に嫌悪感を示し、夏弥とも形式的な会話しかしなかった。
冴えない男子と冷めがちな女子の距離感が、二人暮らしのなかで徐々に変わっていく。
そんなラブコメディです。
俺にだけツンツンする学園一の美少女が、最近ちょっとデレてきた件。
甘酢ニノ
恋愛
彼女いない歴=年齢の高校生・相沢蓮。
平凡な日々を送る彼の前に立ちはだかるのは──
学園一の美少女・黒瀬葵。
なぜか彼女は、俺にだけやたらとツンツンしてくる。
冷たくて、意地っ張りで、でも時々見せるその“素”が、どうしようもなく気になる。
最初はただの勘違いだったはずの関係。
けれど、小さな出来事の積み重ねが、少しずつ2人の距離を変えていく。
ツンデレな彼女と、不器用な俺がすれ違いながら少しずつ近づく、
焦れったくて甘酸っぱい、青春ラブコメディ。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる