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第15話 君よ知るや南の国
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早川君がネックレスをかけ、私が彼に身体を寄せる。まるで抱き合っているかのような姿勢になった。
二人とも固まったままでいると、出店のお姉さんが声をかけてきた。
「お二人さん~、お熱いのは結構なんだけど、それじゃあ、せっかくのネックレスの着け具合が分からないよ 笑」と笑う。
「すみません」
「すみません」
二人でハモってしまう。
「へ~、彼女、似合ってるじゃない」
「それね、ネットの投稿小説なんだけど、私が好きな小説に出てくるネックレスなんだよ」
「え、それって、もしかして『潮騒の記憶』ですか?」
「あれ、お兄さん、知ってるの? サイトの小説で全然有名じゃないんだけど」
「僕も読んだんです。か」
『彼女が書いたんですよ』と言いたげな早川君を制す。
「これ、ください!」
値段を見ると……。
(6,000円!!!)
「ちょっと、早川君。それ、どうするの?」
「彼女にプレゼントなの?」
「はい、まだ早いけど、誕生日が七月なんです」
「へ~、小説の女の子と同じ誕生月なんだね」
「よし! 5,000円にまけとくよ」
「え、いいんですか?」
「うん、あの小説を読んだ人なんだ、同じ気持ちを共有できた仲間みたいなものさ」
「彼女、幸せだね~、見込あるよ。彼」
「このまま着けて帰ります」
「まいどあり~」
あれよあれよという間に事は進み、私は5000円もするネックレスを着けている。
ホムラ(男の子の名前)が身命を賭してマーハ(女の子の名前)のために作ったネックレス。
私の小説のネックレスを見事に再現している。
「早川君、こんなに高いもの、わたし受け取れないよ……。
それに、どうしてわたしの誕生日――月――を知っていたの?」
「えーと、それは推測だったんだけど、アタリだったんだね」
「たぶん、マーハは花音ちゃんがベースなのかなって思って、だったら、自分の誕生日をマーハの誕生日にするんじゃないかなって思ったんだ。
それは、僕からの感謝の気持ち、心に残る物語をくれたことと、今日のお弁当」
受け取って良いのだろうか、恋人でもないのに、でも、私の小説を読んでくれていたこと、あの場で偶然にもこのネックレスを見つけてくれたこと……。
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくもらうね」
「うん、そう言ってくれると嬉しい。
じゃあ、戻ろうか?」
人ごみのなか、また彼の腕に手を添えて歩く。
いつの間にか、私たちは腕を組んでいた。
歩くとネックレスから貝殻が擦れる音がする。
その音が、心なしか『お誕生日おめでとう』と囁いているよな気がした。
「あ、ごめんなさい、いつまでも腕を組んで」
公園を出て、住宅街に入っても腕を組んだままになっていることに気づき、私は慌てて早川君から離れた。
「だけど、びっくりしたな~、私の小説からネックレスを作っている人がいたなんて」
そう言って、私はネックレスのトップになっている二枚貝を手の平に乗せて見つめたが、実際は照れ隠しでもある。
それ以上に、彼も出店のお姉さんも、私の作品を好きだと言ってくれた。凄く勇気を貰った気がした。これは今後のモチベーションに繋がる。
思わず頬が緩む思いがした。
マンションに戻ったころには、15時を過ぎていた。
「ちょっとのんびりし過ぎたかな、遅くなっちゃったね」
「うん、でも楽しかったよ」
今日の目的は、小説の清書を済ませて早川君のアドバイスをもらう事だったが、すっかり私は忘れていた。
部屋に入ると、私たちは早速作業に取り掛かる。
私は早川君のパソコンを借りて、クラウドに保存した下書きの清書、彼はノートに下書きして、その後、タブレットに清書する予定になっていた。
パソコンを打ちながら、私は以前から聞きたかった事を早川君に尋ねた。
「ねえ、早川君は、どうしてノートに手書きするの?」
「うーん、どうしてというか、昔からノートに書く癖がついていたから、手書きの方が捗る気がして」
「そうなんだ、昔って、いつから小説を書いているの?」
「初めて書いたのは、小学5年生の時かな」
「ええーー、そんな昔から書いてるの?」
「子供の頃から本が好きで、色んな文学書を読んでたんだけど、『君よ知るや南の国』って本が好きで、あ、これってゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の一部を抜き取ったものなんだけど……」
早川君は、私の知らない物語の事を話してくれた。
---------- 君よ知るや南の国 ----------
サーカス一座の歌姫のミニヨンは、いつも自分が憧れているまだ見ぬ南の国(イタリアの事)の事を歌いヴィルヘルムを和ませてくれる。
ミニヨンは幼い時にジプシーに誘拐されて、サーカスの歌姫となったのだが、ミニヨンがサーカスでムチで打たれていたのを見たヴィルヘルムは、お金を払ってミニヨンを救出する。
まだ13歳のミニヨンは、父のように慕っていたヴィルヘルムに恋をしてしまう。
しかし或る日、美しい女性が突然現れて、ミニヨンの目の前でヴィルヘルムに抱き着いて婚約を申し出る。
それを見たミニヨンは、ショックのあまり突然死してしまう。
---------- 君よ知るや南の国 ----------
少女の淡い恋心を描いた儚いストーリーだった……。
二人とも固まったままでいると、出店のお姉さんが声をかけてきた。
「お二人さん~、お熱いのは結構なんだけど、それじゃあ、せっかくのネックレスの着け具合が分からないよ 笑」と笑う。
「すみません」
「すみません」
二人でハモってしまう。
「へ~、彼女、似合ってるじゃない」
「それね、ネットの投稿小説なんだけど、私が好きな小説に出てくるネックレスなんだよ」
「え、それって、もしかして『潮騒の記憶』ですか?」
「あれ、お兄さん、知ってるの? サイトの小説で全然有名じゃないんだけど」
「僕も読んだんです。か」
『彼女が書いたんですよ』と言いたげな早川君を制す。
「これ、ください!」
値段を見ると……。
(6,000円!!!)
「ちょっと、早川君。それ、どうするの?」
「彼女にプレゼントなの?」
「はい、まだ早いけど、誕生日が七月なんです」
「へ~、小説の女の子と同じ誕生月なんだね」
「よし! 5,000円にまけとくよ」
「え、いいんですか?」
「うん、あの小説を読んだ人なんだ、同じ気持ちを共有できた仲間みたいなものさ」
「彼女、幸せだね~、見込あるよ。彼」
「このまま着けて帰ります」
「まいどあり~」
あれよあれよという間に事は進み、私は5000円もするネックレスを着けている。
ホムラ(男の子の名前)が身命を賭してマーハ(女の子の名前)のために作ったネックレス。
私の小説のネックレスを見事に再現している。
「早川君、こんなに高いもの、わたし受け取れないよ……。
それに、どうしてわたしの誕生日――月――を知っていたの?」
「えーと、それは推測だったんだけど、アタリだったんだね」
「たぶん、マーハは花音ちゃんがベースなのかなって思って、だったら、自分の誕生日をマーハの誕生日にするんじゃないかなって思ったんだ。
それは、僕からの感謝の気持ち、心に残る物語をくれたことと、今日のお弁当」
受け取って良いのだろうか、恋人でもないのに、でも、私の小説を読んでくれていたこと、あの場で偶然にもこのネックレスを見つけてくれたこと……。
「ありがとう。じゃあ、遠慮なくもらうね」
「うん、そう言ってくれると嬉しい。
じゃあ、戻ろうか?」
人ごみのなか、また彼の腕に手を添えて歩く。
いつの間にか、私たちは腕を組んでいた。
歩くとネックレスから貝殻が擦れる音がする。
その音が、心なしか『お誕生日おめでとう』と囁いているよな気がした。
「あ、ごめんなさい、いつまでも腕を組んで」
公園を出て、住宅街に入っても腕を組んだままになっていることに気づき、私は慌てて早川君から離れた。
「だけど、びっくりしたな~、私の小説からネックレスを作っている人がいたなんて」
そう言って、私はネックレスのトップになっている二枚貝を手の平に乗せて見つめたが、実際は照れ隠しでもある。
それ以上に、彼も出店のお姉さんも、私の作品を好きだと言ってくれた。凄く勇気を貰った気がした。これは今後のモチベーションに繋がる。
思わず頬が緩む思いがした。
マンションに戻ったころには、15時を過ぎていた。
「ちょっとのんびりし過ぎたかな、遅くなっちゃったね」
「うん、でも楽しかったよ」
今日の目的は、小説の清書を済ませて早川君のアドバイスをもらう事だったが、すっかり私は忘れていた。
部屋に入ると、私たちは早速作業に取り掛かる。
私は早川君のパソコンを借りて、クラウドに保存した下書きの清書、彼はノートに下書きして、その後、タブレットに清書する予定になっていた。
パソコンを打ちながら、私は以前から聞きたかった事を早川君に尋ねた。
「ねえ、早川君は、どうしてノートに手書きするの?」
「うーん、どうしてというか、昔からノートに書く癖がついていたから、手書きの方が捗る気がして」
「そうなんだ、昔って、いつから小説を書いているの?」
「初めて書いたのは、小学5年生の時かな」
「ええーー、そんな昔から書いてるの?」
「子供の頃から本が好きで、色んな文学書を読んでたんだけど、『君よ知るや南の国』って本が好きで、あ、これってゲーテの『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の一部を抜き取ったものなんだけど……」
早川君は、私の知らない物語の事を話してくれた。
---------- 君よ知るや南の国 ----------
サーカス一座の歌姫のミニヨンは、いつも自分が憧れているまだ見ぬ南の国(イタリアの事)の事を歌いヴィルヘルムを和ませてくれる。
ミニヨンは幼い時にジプシーに誘拐されて、サーカスの歌姫となったのだが、ミニヨンがサーカスでムチで打たれていたのを見たヴィルヘルムは、お金を払ってミニヨンを救出する。
まだ13歳のミニヨンは、父のように慕っていたヴィルヘルムに恋をしてしまう。
しかし或る日、美しい女性が突然現れて、ミニヨンの目の前でヴィルヘルムに抱き着いて婚約を申し出る。
それを見たミニヨンは、ショックのあまり突然死してしまう。
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少女の淡い恋心を描いた儚いストーリーだった……。
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