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ホテルの灯り 悲しい事実
しおりを挟む18、ホテルの灯り 悲しい事実
武志はモニターを見ていた。酒を飲んでも酔わなくなってしまって困る。寝れない。苦しい。
ここは地方都市のビジネスホテル。明日の朝も大事な会議があると言うのに寝れない。
どうしても嫌なことを思い出してしまう。
嫌なことの理由はたけしが見ているモニターの画面の中にあるのだが、閉じては見て閉じては見てを繰り返している。
今朝、出張のためのキャリアケースを引っ張りながら家を出たら、隣の佐田と出会した。エレベーターホールの前でこちらを見ている。少し頭を下げて挨拶した。
彼も仕事の様できっちりとスーツを着ている。意外にも爽やかな笑顔で武志に向けて挨拶して来た。
「いつも奥さんが、ありがとうございます。もうそろそろあの菜園はやめてもらって、家には来ないようにしてもらえますか?」
少し困った顔を作っている。
エレベーターが降りてきて2人は箱の中に入った。ドアが閉まる。
また、すらすらと佐田が喋り出した。
「ご近所さんの目もあります。苦情の時私も感情的になってました。もうそろそろいいかなとは思います。でもベランダが汚れてしまうのを自分が掃除するっていうのも違うなと思います。だから奥さんに再度納得して欲しいのですが?」
「お言付け願いますか?」
エレベーターのドアが開き、佐田が先に降りる様に勧めて来た。
先に降りると佐田は駐車スペースの方に消えて行った。大きなため息が出る、あいつの方が何枚も上手だ、最初最初の一手は十分考えて行わないといけない。
武志は空を仰ぐ様にバス停に向かった。
文子が佐田の家に掃除に行くようになってもう一ヶ月になる。
ある日、出張から帰るとその家はもう自分の家じゃないような雰囲気になっている事に気がついた。
文子は家の中でもぼーっとしてるし、いつも携帯を握り締めている。武志が喋りかけると、はっとしたように武の顔を見ている。
心がここにないのだ。
俺は出張が多い家を開けることが多い。だから家にいてる嫁は好きなことができる。
それは信頼の証で、愛にかわりないと思っている。しかしあまりの文子の変わりように戸惑っていた。化粧は濃くなるし妙に色っぽく感じる。求めると応じてくれたが、どことなしか演技をしてるようで、心が冷えてくる。
どうしてもその時佐田の顔が浮かぶ、あの笑顔で感情を隠す鉄仮面のような佐田の顔。
傷が深くなる前に手を打とうと。
俺が出張が多いって言う事は、都合によっては時間を調整できるってことだが、でも現場が近すぎる。
知り合いの伝で興信所に頼んだ。文子は毎日のように佐田の家に行くそれは武志も知っている。
何があってもおかしくはない。家のすぐ隣なので俺が張り付くのも顔がばれて難しい。
興信所に頼んだ答えは1週間もたたないうちに真っ黒。その上、佐田は大阪の組の世話になっているらしい。
ヤクザに嫁をとられた大抵の人は笑うのかもしれないが、実際に当事者となったらかなりきつい。
考えて信頼のおける友人や弁護士に相談した。佐田は家庭菜園を辞めろと武志に伝えている。来るのは文子の勝手でそこからは文子の恋愛感情だ。
佐田はうまく逃げるだろう。騒ぐとここには住みづらくなるだろう。
俺は考えた。
まずはちゃんと作戦を練ろう。まずは文子の状態だ。ヤクザなら薬を打たれてないか?
寝てる間に腕を確かめた注射を打った後は無い。吸引タイプの薬かもとは考えたが素人にはわからない。細かく薬の痕跡を探したがこの部屋には無い様だ。
武志に興信所に渡すものがあると連絡が来た。するとUSBが送られてきた。
「1人で見てください」と書いてある。
地方のビジネスホテルの一室薄暗い部屋の武志のパソコンに文子が映っている。
これが安っぽいただのエロビデオならそう思えればどんなにいいからわからない。
文子が平日に休みの日の昼下り突然佐田が
文子の家にやってきた。
「今日は用事があると言ってたから、朝のうちに掃除やって来ましたよ。あと洗濯物も畳んで起きました。クリーニングあるなら出しといて下さいね」
まるで嫁さんの様にポンポンと話が出る。いつもの様に佐田は部屋を見回し、
「話しがあるんだ」と言った。
佐田の話しが良い話な筈もない返事なんて出来ない。
「おまえ何食ってるんだ?」
「これですか、チキンラーメンですよ」
「おまえ西宮のいい所のお嬢さん育ちじゃないのか?」
「父方の祖母が下町育ちで、母親に隠れてこっそり食べさせてくれたのが美味しくて」
「こんな炭水化物と化学調味料の固まりな物ダメだって夫にも言われるけど」
「ウチは大阪の女やねん」
文子は笑いながら言った。
「俺に食わせろ」
「おまえちゃんと卵を出汁で煮て半熟卵にできてるじゃないか?これは玉ねぎか?オレはキャベツの方が好きだ。
煮て食べるのは俺とおんなじだな、ウチのばあちゃんもこうして半熟卵で出してくれたんだよ」
「見ると食いたくなるんだよ、匂いが呼ぶんだ、母親がいないと知り合いの食堂に小鍋と袋麺を持って行くと作ってくれるんだ。それが晩飯だった事もある。
1人で暮らし始めた時はカップ麺ばかりでさ、袋麺の方が少し安いから俺もこればっかだったよ」
「あー美味かった。俺の1番の好物かなぁ」
佐田は口を拭いて
「おまえは俺が好きだって言ったな、おまえが俺の好みになる様に、文子おまえを調教に出すぞ」
文子は意味が分からなかったが、まともな事じゃ無いってことはわかった。
「いい返事をしたら抱いてやる」
文子は答えずに裸になりテーブルの下に潜った。
佐田の足の間に顔を出して、ふとももの間に頬を預けてネコみたいに頬ずりをした。
佐田の目を見た。
答えなんか意味が無い今のひとときが全てだと文子は思った。
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