裏庭が裏ダンジョンでした@完結

まっど↑きみはる

文字の大きさ
22 / 574
はじめての武器屋

はじめての武器屋 4

しおりを挟む
「ムツヤ殿、挨拶は悪いことでは無いのですが…… すれ違う相手だったら『こんにちは』ぐらいで大丈夫ですよ」

 木の根元で三角座りをして分かりやすく落ち込んでいるムツヤにモモは屈んで優しくそう言った。

「でもぉ……」

「大丈夫、慣れです慣れ! 慣れれば加減もわかるでしょう」

 そう言ってモモが手を差し出すとムツヤはそれを握り立ち上がる。

 清潔な石鹸の香りがふわりと漂う。

 その後は街に着くまでの間『こんにじは!』とムツヤが言うと人々は好意的に挨拶を返してくれた。

 幸いな事にゴロツキのような輩ともすれ違わなかったので、ムツヤはどんどん自信を取り戻していく。

「うわー、モモさんあれスゲー!!」

 ムツヤが指差す先、石で積まれた砦に囲まれたあの街こそが『スーナ』というこの国では3番目に栄えている街だ。

 そこでモモはハッとしてムツヤに言う。

「ムツヤ殿、街に着いたらすれ違う人全員に挨拶は不要ですので」

「えぇ、どうしてでずか!? この道ではしていたのに?」

 やっぱりやる気だったのかと、モモはムツヤの行動が大体読めるようになってきた。

 しかし、ムツヤの質問の答えに行き詰まる。知り合いとならともかく、街で他人に挨拶をしてはいけない理由を改めて問われると返答に困る。

「えーっと、そうですね、街には人が多いので全員に挨拶をすると疲れてしまいますし、日が暮れてしまいます。なので省略…… という感じです。もちろん知り合いであれば別ですが」

「そうなんですかー」

 言葉ではそう言ったが、どうにもムツヤはいまいち腑に落ちていなかった。

 だが、モモが困っているみたいなのでそれ以上疑問をぶつけることは辞める。

 それに早く街の中へ行きたい気持ちもあった。

 眼前まで街が迫る、立派な石で積まれた砦と、大きな木の門。

 両隣には兵士が立っていて、その間を通ると色とりどりの町並みが広がり、ムツヤは心が踊った。

 人間にも色々な見た目がいる。子供に老人に、背の低い高い、太ってる痩せてる、女の子も髪の短い子長い子。

「まずはその剣を売りに行きましょうか、良い武器屋は知っています。少し店主の性格に難はありますが……」

 街道の人目が無い時にカバンから取り出して持ち歩いていた1本の剣、これを売ってムツヤは冒険のための金策をする。

 大通りにはきらびやかな武器がずらりと並んでいた。しっかりと磨き上げられた剣や鎧から、フトコロ事情の良くない者の為の質素な物までだ。

 そんな大通りを素通りして裏路地へモモは行ってしまう。ムツヤは不思議に思うが黙って付いていくことにした。

「モモさんあっちの店じゃダメなんですか?」

「えぇ、ムツヤ殿はこの街が初めてで、私はオークですから。値段の付いている商品を買うなら良いですが、売るとなると足元を見られると思います」

 足元を見られる? ムツヤは首を傾げた後に自分の靴を、次にモモのブーツを眺めてみる。それでモモは察する。

「申し訳無いムツヤ殿、足元を見られるというのは慣用句でして」

「え、かんよう? 何ですか?」

 そうか、足元を見られるという意味を知らないのに慣用句という言葉を知っているわけがないとモモは反省した。

 ムツヤは馬鹿ではないが、人との関わりが無かったため常識がところどころ欠けている。

 それは仕方のない事なので少しずつ自分が教えていこうと思った。

「そういった事は後でご説明しますので…… とにかく通りの店ですと本来の価値よりも安く買い取られてしまう可能性があります。なので私の知っている武器屋に行きましょう」

 なぜ安く買われるのか、『かんよう』と『足元』とは何か、ムツヤは疑問に思うことだらけだったが、ひとまずそれは後でモモに教わることにした。

 大通りの賑やかな声が遠くになった頃に目的の店に着いたようだ、モモは足を止めて看板を見上げる。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。

タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。 しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。 ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。 激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる

静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】 【複数サイトでランキング入り】 追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語 主人公フライ。 仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。 フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。 外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。 しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。 そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。 「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」 最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。 仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。 そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。 そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。 一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。 イラスト 卯月凪沙様より

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

チート魅了スキルで始まる、美少女たちとの異世界ハーレム生活

仙道
ファンタジー
 ごく普通の会社員だった佐々木健太は、異世界へ転移してして、あらゆる女性を無条件に魅了するチート能力を手にする。  彼はこの能力で、女騎士セシリア、ギルド受付嬢リリア、幼女ルナ、踊り子エリスといった魅力的な女性たちと出会い、絆を深めていく。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

処理中です...