神龍族怪綺譚

ヨルシロ

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新城司法事務所の桔梗様

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「え?君、誰?」

東の果て、日ノ本国は古来から人々とあやかし…そして神々が共存している。
人とあやかしは互いを尊重し、貴き神々は人とあやかしに敬われ、時には交じりあい長い営みを紡いでいた。
さて、そんな日ノ本には神龍族(じんりゅうぞく)と呼ばれる神々の一族がいる。
あらゆる龍族とそれに連なる存在の頂点に立ち、さらには神々を裁く役割を持つ特殊な神達を神龍族と呼ぶ。
彼らは第一席法帝紅龍閻羅(ほうていこうりゅうえんら)を筆頭に11柱存在しそれぞれの権能と役割を果たしているのだが、今回は大地と祭事を司る地宰橙龍(ちさいとうりゅう)のお話。


新城司法事務所の所長である新城桔梗は、朝から困惑していた。
彼女は神龍族第九席地祭橙龍である。大地を守護し祭事を司る地母神のような存在である。
そんな彼女は神雉を父を持ち、人間の血を継ぐ神龍族第十席夢司碧龍(むじへきりゅう)を母に持つ為色んな血を継ぐ混血神として有名であった。
桔梗は神として神域を作る代わりに司法事務所を立ち上げ、創設十年を越えようとしていた時の話である。
いつものように出社し仕事を始めようと思いながら事務所の扉を開いた瞬間、とある視線とかち合う感覚に陥った。
じっとりとねちっこい視線。
薄ら寒さを感覚が背筋に感じた時、彼女は固まった。
事務所にまったく知らない男がいるのだ。最初は客か?と思ったが、いやまだ始業時間にもなっていない。

「君、誰よ」
「所長っ彼は今日から来てくれたアルバイトの子ですよっ」
「はい?」

緊迫した空気の中、慌てて駆け寄ってきたのは桔梗の部下である青年であった。

「高橋くん、そんな話聞いてないわよ」
「え?先週話したじゃないですか、繁忙期だけアルバイト導入してみようって…それで僕に一任してくれたじゃないですか」
「そう、だっけ…?…なんか忘れてたみたい、ごめんね」

基本忘れないんだけどな…とこっそり思ってはいたが、忘れていたらしい事実はあるのだから桔梗は部下に謝った。
しかし先程から向けられている視線があまりに不快感増しましに感じてしまい、桔梗は大きく深呼吸してから男に振り返った。

「初めまして、所長の新城桔梗よ。よろしくね」
「……」

いや、名乗れよと思ったのは桔梗だけではなかった。その場にいた全社員もそう思ったのだろう。
しかし男はゆっくり首を傾げ、じっとりと桔梗を見つめる。
なんだろう…本能が危険信号出している気がしてならない桔梗は一歩後ずさった。
光がない目、生気を感じない出で立ち…どこか『人間味』を感じさせないのだ。
そんな男の口角がありえないほど上がる。
にちゃぁ…と不気味な笑みを浮かべた瞬間桔梗は叫んだ。

「全員退避!!!こいつやばい!!」

桔梗の叫びと共に社員全員は訓練された兵のように一斉に駆け出した。
ベチャアッ!!と水が地面に落ちた時のような音が響いた瞬間、男は人の原型を失っていた。
水のような粘着性のある何かかはわからないが、光を吸い込まない真っ暗な液体。
黒い液体は水溜りとなり、そうしてまた何かの原型を作ろうとゆらゆらし始め…無数の銃弾のようなものになって彼女に攻撃をしかけてきた。

「ふっ!!」

桔梗は身を屈め、そして足に力を込めて飛び出した。もちろん、謎の黒いアレにだ。
右手に力を込めれば淡い光が灯り、そして躊躇わずに顔面があったらしい場所に打ち込んだ。
ベチャッと音と共に液体は弾け飛び一瞬だけ攻撃が止まった。
だが我に返ったような反応を示すと縦横無尽に攻撃を再開した。
それを余裕そうに回避し始めた桔梗はあちこちと飛び回り、事務所は悲惨な状態になっていくのを横目に反撃するタイミングを見計らっていた。
一回転し、足を着いた瞬間。狙ったかのように足首に黒い液体が絡みつき、桔梗は動きを封じられたかのように見えた。

「あたしを止めようなんていい度胸ね!!」

ブヂッと音がするような勢いで引きちぎり、また右手に力を込める。先程より強い力を込めて、足にも力を込めて、全体重を乗せて。

「怪異には物理なのよ!!!!」

ドゴンッ!!!
凄まじい音が響いたと思って退避していた社員達が覗いた時、戦々恐々した。
桔梗の拳が謎の液体を巻き込んで床へとのめり込ませていたのだ。床はひび割れ、液体はあちこちと飛び散っていた。
凄まじい光景に慄く社員たちであったが、ハッと我に返り桔梗の元へと駆け寄る。

「あとは我々におまかせ下さい!!」
「うん~よろしくね。うへぇ、べちゃべちゃ…」

社員たちがわたわたと事務所の中へと入っていくのとすれ違いに、桔梗は外に出ていく。
飛び散った黒い液体は桔梗の体のあちこちにもついていて、本人は気持ち悪そうに拭っていた。
朝からめんどくさいなぁとしか考えられず、疲れた桔梗は事務所前に座り込むのであった。

「おはようございます~!!…ってなにこれ!?」
「え、誰?」
「きょ、今日からアルバイトに来た道下なんですけど…」
「…ああ…君がホントのアルバイトなのね…」
「え?え??」
「なんでもないわ、ちょっとごたごたあったから…」

結局この件は警察と神社総合庁が介入してきた為大事になるのであった。
事件として扱われたこの件は逆恨みによる霊障事件だったらしい。
最近力をつけてきた桔梗の司法事務所を憎んだ同業者が呪術師を使って呪ったというのだ。
神である桔梗を呪う事自体許されざる事なのに、事務所全体を呪ったとのこと。
それを話したのは呪術師を雇った同業者で、どうやら呪術師は桔梗の物理的呪い返しを食らって死んだらしい。
その同業者は逮捕され、この件は静かに終わった。


「じゃあ、ここのお祓いは済んだのですか?」
「ええ、神職系と陰陽師系の従業員いるから助かったわー」
「いやいや、自分でやってくださいよ。姉さんは祭事を司ってるんですから…というか、前から思っていましたけど桔梗姉さんの従業員って異色ですよね…」
「そうかしら」

事件から数日経ってやってきた桔梗の実弟・縁は経緯を聞いてため息をついた。
ちらっと視線を横に向ければ、事務所は工事中。
うるさい音が響く中それでも仕事を再開して従業員達は忙しそうにしているのを見てると、強いなぁという感想しかもてなかった。
元々恨みを買いやすい神龍族はこういう事に巻き込まれやすいが、こうして物理的に解決していくのは姉らしいとも思ったのだ。いや、もう二柱位いるのだが言わないでおこう。

「そういえば例のアルバイト君はどうしたんですか?」
「その子も変わった子でねぇ。この職場めっちゃ面白そう!!って発言して、そのまま働いてる。面白い事に霊感あるみたいでキャッキャッしながらこの周辺の霊と話してるわよ」
「どうして桔梗姉さんの所には変わった人材ばっかり来るんですか」

変わった、というより変人とも言える人材ばかり集まってくる姉の事務所。
元神職や元陰陽師の司法書士とか事務職の人とか…経歴を聞いただけではどうしてそうなった?と言わんばかりの人物が多い。
縁が経営する会社も特殊ではあるが、自分の所はここまで個性豊かではない。…外人部隊とかにいた人間多いから多分だけど。

「さあねぇ…紫苑おばさん程じゃないけど、なんだかんだ私人間大好きだから寄ってきちゃうのかもね」

工事音が響く中楽しそうに話す桔梗、縁は自分の兄弟の中ではメンタル的にこの神が一番強いんだろうなってこっそり思うのであった。

「あ、そういえば新しい愛人の子が結講いい子なのよ。あんたいらない?」
「人が好きという割にはモノ扱いしないでくださいよ!あと俺は男に興味ありません!!」
「残念、良い主夫になるのに」

本当に変なのは目の前にいる姉なのかもしれない。


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