神龍族怪綺譚

ヨルシロ

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新城警備会社の望様

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「…こういう案件は、うちでは請け負ってないんですけどね」

東の果て、日ノ本国は古来から人々とあやかし…そして神々が共存している。
人とあやかしは互いを尊重し、貴き神々は人とあやかしに敬われ、時には交じりあい長い営みを紡いでいた。
さて、そんな日ノ本には神龍族(じんりゅうぞく)と呼ばれる神々の一族がいる。
あらゆる龍族とそれに連なる存在の頂点に立ち、さらには神々を裁く役割を持つ特殊な神達を神龍族と呼ぶ。
彼らは第一席法帝紅龍閻羅(ほうていこうりゅうえんら)を筆頭に11柱存在しそれぞれの権能と役割を果たしているのだが、今回は風と豊穣を司る風伯蒼龍(ふうはくそうりゅう)のお話。


女は困り果てていた。
理由はとても簡潔だ、目の前にいる相手がとんでもなく有名人であったからだ。
『有名人』と言うのはある意味語弊がある。正確には『有名神』だ。
足首まで伸びた青い髪、特徴的な緑色を含んだアホ毛、満月のような瞳、そして端正な顔つき。
まさに絵に描いたような美男が手に持っている書類とにらめっこしている。

「うーん…うちの会社、個人の警備は行っていないんですよ」


ぽりぽりと頬をかく姿も様になっているというのもおかしいが、すぐに爽やかな笑顔を向けられて女は顔が赤くなった。こんないい男に見つめられて顔を赤くしない人はいないだろうと女は思った。
だが男は…いや正確には男神なんだが、首を傾げて女を見つめてくる。

「どうしてうちに依頼を?」
「知人から聞いたのです、ここだと大抵の依頼を聞いてくれるって…」
「…どこでそんな噂流れたんだろ」

ぼそり、と呟いた言葉は疑問を抱いていた。
しかし男神の反応に気付いていないのか、女は肩を震わせ助けを乞うように男神に話し返す。

「最近すごく追いかけられている気がするんです…いえ、気がするんじゃないです。実際追いかけられているんです!」
「はあ…」
「本当なんですってば!夜中歩いていると背後から足音がするんです!なにかじっと見つめられているの!!」
「お、落ち着いて」

急に攻撃的な性格になった、と思わんばかりの絶叫に近い声を上げる女に男神は落ち着くように宥めてた。
しかし男神の宥めは聞こえていないのか、机を越えるような勢いで迫ってくる。
それは部屋の外まで響いていたのだろうか?

「社長!!どうしましたか!?」

ぞろぞろとスーツを来た屈強な男達が数人やってきた。如何にも警備担当の男で、突然流れ込んできた男達に女はびくっとした。
女を取り囲むように数人の男たちが立ちはだかる。
男神もとい新城警備会社社長・新城望の側に男が一人立ち寄った。

「ボス、大丈夫ですか?」
「うん、まあ…来てくれて助かったよ」
「受付から面倒そうな女が来て社長に突撃してきたと聞いてきたので…」
「たしかにちょっとね…立花君が来てくれなかったら、さらに大騒ぎされてたかもしれない」

苦笑いを浮かべた望は右手を上げ、それを見た女を囲っていた男たちは静かに下がった。
残ったのは望とその隣に立っていた屈強な男もとい立花、そして女だけ。
一瞬で静けさを取り戻した社長室。
女は固まっているし、立花はサングラス越しに女を睨んでいるのがわかるし、望はどうするかなと考え込んだ。
普段彼が経営する会社は主に法人関係限定の警備を扱う所であり、こういう個人の警備は請け負っていない。
たまに請け負っていないのに受付に突撃してきて個人の警備をやれと言ってくる客はいるので、社長の望が応対する。
それが一番すっきりことが終わるからだ。

「自分は秘書兼護衛ですから。しかし今回はすんなり行きませんね」
「する前に大声出されちゃったから…俺のミスだね」
「そうですか、しかし彼女どうするんですか?」
「うーん」

片手に持っていた書類に目を向けつつ、望は考え込む。
書かれた内容はごくありきたりなストーカー案件であったが、望は少しばかり気になるようであった。
望は気になる事があると唇を触る癖があるのを付き合いが長い立花は知っている。
どうもこの女に付き合わされるような気がしてならなかった。


「本当にありがとうございます!これで安心して家に居れます」
「今回特別ですよ」

時間は夜22時、闇が深くなってきた頃合い。望と立花は先を歩く女を守るように後ろを歩いていた。
結局望達は女の件を請け負う事にしたのだ。

「それでも嬉しいですっ」
「本当によかったんですか?ボス」

嬉しそうに先に歩く女の後ろ姿を見ながら立花は身をかがめながら望に話しかけた。
200cm近くある身長である立花はどうして身を屈めないとこそこそ話が出来ないのだ。

「どうしてこの件を請け負ったのですか?」
「うーん…本能的に?」
「え?」
「私の家はここです!」

遮られるように女が嬉しそうに話しかけてきた。会話を遮られた一柱と一人であったが、彼女の方へ向く。
目線にはごく普通のアパートが一軒。

「一般的なアパートですね」
「…そうかな」
「え?」

かなり低くなった望の声に、立花は思わず凝視した。
月のような瞳がじっとアパートを見つめている。その視線を追いかけようとしたら、女が望の腕を掴んで引っ張り始めた。

「さあっどうぞ!」
「ちょっと!ボスの腕を引っ張るのをやめなさい!!」

立花が静止するも女はその細腕で出せるとは思えない力でぐんぐん望を引っ張って行ってしまう。
慌てて追いかけてカンカンと音が響く階段を登っていく。
アパートの二階に登り切ると真ん中にある部屋の扉の前で望が立ちすくんでいた。その顔は不愉快なものを見る表情で、月のような瞳が睨むように前を見据えていた。
立花は何があったのかと望の側に行くと、部屋の中を見た。見た瞬間、座り込んでしまった。

「な…な…っ!?」
「立花君、見てはいけないよ。あれは人間の精神汚染をきたすものだから」
「はいぃぃ…っ!!」

巨漢は蹲るようにその場で小さくなった。
見ないように言われたが、耳にはある音が響いてくる事に立花は恐怖した。
ぐちゃり、ぐちゃ…ぐちゃっ。

「はあ…どうして外の神はこういうのが好きなのかなぁ…」

望は目の前の光景にため息し辟易する。
目の前に映るのは肉塊が部屋中にびっしりと張り巡らされ、まるで腸内の中のような空間が広がっていたのだ。腐敗臭とも言える匂いと相まって、ぐちゃり、ぐちゃり…と蠢いている音が不快感を増していた。

「どうですか!?このお部屋素敵でしょう!?」
「豊穣神である俺からしたら不愉快そのものだよ」
「どうして!?こんな素晴らしいお部屋、神が授けてくださったのに」

自分と出会った時は怯えていたが、今は蕩けるような恍惚の表情を浮かべて肉癖の部屋の中でくるくる回っている。
回るたびにぐちゃっぐちゃっと音が響いた。
望はそれを本当に不愉快と顔に出し、そっと右足を後ろへと下げ拳を握り構える。

「豊穣は美しさを求めるんだ、そんな肉壁なんて気持ち悪くてしょうがない」
「なんで??どうして誰も理解してくれないのかしら…」
「それは発狂した信者以外理解できないんだよ!!!」

身を縮こませていた立花は、望がとても怒っているのが聞こえてくる声でわかった。
そこからは激しい音が続いた。ぐちゃっとかバキンとか様々な音が飛び交う。
立花はいろんな修羅場に立ち会ってきたのでそれなりに腹は据わっている方だと自覚していたのだが、さすがに今回は怪異だと理解できた。
それも人間には太刀打ちできない代物だ。
あの部屋を見た瞬間ものすごく死にたくなったのが事実である。
アレは人間が見てはいけない『モノ』だ。

それから暫くして音が鳴り止んだ。

「立花くん、もう大丈夫だよ」
「…ボス…?」
「大丈夫」

とても柔らかい声が頭上から聞こえ、立花は恐る恐る顔を上げた。

「ぼ、ボス!?大丈夫ですか!?」
「怪我はしてないよ、彼女も気を失っているし」

にっこり笑った望の全身は血だらけで、あのキレイな蒼髪が赤に染まっていて恐怖を抱かざる得なかった。
しかしそれより上司の顔も血塗れで、とっさに立花は胸元ポケットからハンカチを取り出して慌てて上司の顔を拭き出した。
ゴシゴシ拭かれる望は黙っていたが、ちらりと見えた部屋の中はごく普通…一般的なアパートの部屋でした。
その真ん中では倒れている女の姿もあり、上司がすべて解決したのだなとすんなり納得した。

「ほんと異界の神は内臓系みたいな壁好きで、嫌すぎる」
「そう、ですね…」
「立花くんは念の為ひいお爺さまにお会いしたほうがいいかもね、見たものを忘れさせてくださるから」

立花はひやりと冷や汗が流れてくるのを感じながら頷いた。
そうして立花は望と一緒に色々な事に走り回ることになったのであった。
実はあの女、いろんな所にストーカーがいる助けてほしいと行っては様々な人間をあの部屋へと連れ込んでいったらしい。
どうしてソレがわかったのか?後日警察が女の部屋を調べたら10人以上の白骨死体が発見されたらしい。
立花はもしかしてあの肉壁の部屋は人間を食べていたんじゃ…と考えてしまって首を振ってその考えを消し去ったらしい。



「立花くんも災難だねぇ、いわゆるSAN値チェックみたいなものじゃない」

社長室の中央にあるソファーに座っていた斎は、出されたお茶を飲みながらケタケタ笑った。
異父兄である斎の反応に望は苦笑いを返すしかなかった。
実際部下である彼を置いてくればよかったかなと思ったのも事実。
しかし自分は護衛だからと言って着いてきたから…ともあったので、仕方ないかとも思っていた。
そんな彼は今斎と望の曽祖父である法帝紅龍のもとへと行かせたのであった。

「ま、最近こういう類の怪異が増えてはきてますね」
「望はそういうのによく巻き込まれるねぇ、俺の刀でも持っておく?」
「次巻き込まれたらお願いします」
「そういうのはフラグっていうんだよ!」

異父兄の発言に、多分また巻き込まれているんだろうなと望むはこっそり思うのであった…。


『本日○○区〇〇町で怪異殺人事件が発生しました。最近よく発生しているようで人間に実害がある為、皆様お気をつけ下さい…』



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