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夢司神社の撫子様
しおりを挟む「…ナンデ、神サマが怪異に追いかけられなきゃナイノ~!?」
東の果て、日ノ本国は古来から人々とあやかし…そして神々が共存している。
人とあやかしは互いを尊重し、貴き神々は人とあやかしに敬われ、時には交じりあい長い営みを紡いでいた。
さて、そんな日ノ本には神龍族(じんりゅうぞく)と呼ばれる神々の一族がいる。
あらゆる龍族とそれに連なる存在の頂点に立ち、さらには神々を裁く役割を持つ特殊な神達を神龍族と呼ぶ。
彼らは第一席法帝紅龍閻羅(ほうていこうりゅうえんら)を筆頭に11柱存在しそれぞれの権能と役割を果たしているのだが、今回は夢と知識を司る夢司碧龍(むじへきりゅう)のお話。
少女は走っていた。いや、正確には少女の守護者たる大狼が自らの背に少女を乗せ駆けていた。
その後ろを黒い肌を持った男が追いかけている。
光が差し込まない暗闇の中『何か』から逃げるように、彼女らは走っていた。
「…アレナニいいいい!?」
「ナデシコ!口を閉じてないと舌を噛むぞ!!」
「わふん!!」
ナデシコと呼ばれた少女、もとい神龍族第十席夢司碧龍の撫子は混乱気味に絶叫していた。それを嗜めるのは彼女の使令であり夫であるシュヴァルツシルトだ。
撫子を背に乗せているのは筆頭使令である煙々羅(えんえんら)の唐草。
「…絶叫したくなるワタシの気持ち考えて!?」
「それはわかるがっ舌を噛んで泣くのはお主であろう!?」
「…怒られるトカ理不尽ーッ」
ギャーギャー言い合いながら逃げるその姿は賑やかである。とても敵から逃げているとは思えない光景でもあるが、実際彼女らは逃げている最中であるのだ。
黒い無数の手が彼女らを襲っているのだ。
今の状況を理解しているのであろうか…と唐草は自らの主人と同僚にツッコミを入れたくなるが、そんな状況でもないとも理解しているので何も言わずに駆けていく。
「…迷い家にイケって言ったオジーチャン恨んでヤルー!」
「それは同感じゃなっ」
何故彼女らがこのような状況に陥ったのか。
時を遡ること一時間前。彼女らは神龍族の長である法帝紅龍に呼び出されたのだ。
法帝の話によると、ここ最近とある地域で行方不明者が増えているらしい。どうも原因は迷い家と呼ばれる怪異が発生したからだと言うのだ。
それを孫である撫子と使令達に調べてこいというのが法帝からのご命令であった。
なんでやらなきゃいけないのさー!?と反論するも、新しいパソコン買ってやるぞと言われてしまっては撫子は従うしかなかった。
使令達の冷ややかな視線を無視したのは言うまでもない。
さて…その調査に乗り出した撫子及び使令であるシュヴァルツシルトと唐草は、すぐにその迷い家に到着することが出来た。
さて、先程から出てくる迷い家とは一体何か。世間一般的には訪れた者に富貴を授ける不思議な家と知れ渡っている。
しかし知識の神でもある撫子は、迷い家の特性がソレだけではないことを知っていた。
時に迷い家は舞い込んできた者を閉じ込める場合がある。
その条件はイマイチ判明してはいないのだが、時折そのような事案を発生させる迷い家が出てくる。
この場合怪異として扱われ、神社総合庁が管轄となって事件解決へと乗り出すものだが何故か今回撫子が抜擢されたのだ。
そんなこんなで噂の迷い家があるであろう地域に来た一行は、颯爽と招き入れられた。
招き入れられたはいいが…何故だか正体不明の『何か』に襲われ今に至ると言うわけなのだ。
「…ナンデ攻撃されるワケー!?」
「恐らくコレの本能であろうなぁ」
「捕食したいのでございましょう」
「…ワタシオイシクナイヨー!?」
泣き言を発する撫子は必死に唐草にしがみつき、後ろから追いかけてくる『何か』を見ないようにしていた。
いくら神であっても、彼女は夢と知識を司る存在。神龍族の中で最も非力な神龍として有名である。
実姉と実兄と違って戦う術を持たない撫子にとって単なる怪異であろうが対処できるものではないのだ。
考えたら使令に守ってもらわなきゃならない存在である撫子に白羽の矢が立ったのだろうか。考えても考えても撫子はその答えにたどり着くことはできない。
考えている最中も数多の黒い手は撫子を捕まえようと躍起になって襲いかかっているのだ。
人の血も受け継いでいる撫子にとって、純粋な神性である祖父の考えを理解できない時もある。
「…オジーチャン絶対ユルサナイんだからー!!」
「おうおう、その気力があるなら現状をなんとかする考えをしてほしいものだな」
「まずは逃げることを優先いたしましょう」
「…フツウ迷い家って歓迎するモンデショガー!!」
なんだか理不尽な目に合っていると思ったら怒りが込み上げてきたのか、撫子はムキャーッと子供のように怒り始めた。彼女、少女の姿ではあるがこう見えて四人の子持ち母である。精神は見た目に釣られるように幼いままな部分もあるが、一応母親である。
「それを調査するために来たんじゃろ…」
主人であり妻である彼女の悋気に呆れるシュヴァルツシルト。
ま、そこも愛らしいが…と現在の状況を理解しているのかわからん思考がよぎるが己に降り掛かってくる驚異はなんなく避けている。
暗く闇のような触手が彼らを捕まえんと必死に伸ばしてくる。そして彼らは当てもなく逃げ惑っている。
撫子は自身の計算を信じてはいるが、どうも1時間ほどは経っている気がしていた。いくら自分の使令達が強いとはいえ、疲れ知らずというわけでもないのを理解している。
「…というか!!…迷い家なら、キチンとお出迎えシローーーー!!!!」
「皆々様、そこから離れてくださいまし」
瞬間、シュヴァルツシルトと唐草は主を守るようにその場から飛び去った。
「罪を悔いなさい、神氷龍撃槍(しんひょうりゅうげきそう)」
それは一瞬であった。
暗い闇の中を突き抜けて落ちてきたのは無数の氷の槍。撫子の悲鳴を聞き流しながら攻撃から避けるシュヴァルツシルトと唐草。
次々と降り注ぎ地面に突き刺さる氷の槍は、着実に迷い家にダメージを与えていった。
その影響か暗闇は少しずつ晴れていく。
ズドン、という音が響いたと思ったら眼前には巨大な氷の槍が直撃していた。
その攻撃が功を奏したのであろう。暗闇から視界が開けてきた。
「皆様、ご無事でございますか?」
ふわりと空から降りてきたのは足首までゆるく結んだ銀髪を靡かせた女性であった。
「…オネーチャン!!」
「やはりお主であったか、紫苑」
「わふーん!!」
右目を隠した前髪がゆらりと揺れ、女性もとい雪皇白龍の紫苑はふわりと微笑んだ。
「ご無事のようですね、間に合ってよかったですわ」
「…ウエエエエーーーン!!オネーチャン!!」
「あらあら、まあまあ」
紫苑の登場により、シュヴァルツシルトに抱きしめられていた撫子は泣きながら彼女の胸の中へと飛び込んだ。
それをなんなく受け止めた紫苑は、年の離れた大事な妹をよしよしと宥める。
そんな二柱の姿を見て事の終結と主の無事を理解した撫子の使令達は、ほっと一息つくのであった。
空を見上げると満月がこちらを見下ろしている。
「…儂の時間じゃのう」
「そのようですな、シュヴァイ殿」
結局例の『迷い家』は雪皇白龍の手によって消滅させられ、後処理は神社総合庁に任せることになった。
本来『迷い家』は人を招きそしてソレを食らう怪異。
最近は『迷い家』自体珍しく、被害こそなかったのが悪かったのであろう。後々調べたら数多の白骨死体が見つかったと報告された。
現在被害者の把握を進めているそうだが、白骨死体という事もあって事態はなかなか進んでないようである。
「それで、結局未解決事件として扱われたの?」
「…ソウソウ、基本怪異の事件は未解決になりやすいカラネ」
撫子は従姉妹の譲葉が淹れてくれたお茶を啜りながら不貞腐れる。足元には唐草が尻尾をパタパタさせながら伏せていた。
お互い祖父である法帝紅龍に用事があった為鉢合わせし、法帝廟と名高い祖父の屋敷一角でお茶を飲んでいたのだ。
永遠の少女となった従姉妹に対して譲葉は複雑な想いを抱いているが、それは別の話。
自分の分も淹れた後、向い合せに座ると譲葉は小さく溜息を零した。
「最近多いわね、怪異事件」
「…ソッチもあったんダッケ?」
「まあね…」
「…ナニカが揺らいでいるんだろうナ」
譲葉は撫子を見つめる。
数多の知識を管理するこの従姉妹は、何よりも天才である。
自分が予想もしない事も考えており、視えているものも色々違うのだろうとも理解していた。
「何かって?」
「…わかってたら、オジーチャンが対処してるヨ」
「それもそうね、おじい様と紫苑が解決しているわ」
力がない自分らには、どうすることもできないという諦念が2人を包み込む。
唐草の尻尾がぱたり、と動き撫子の足を慰める。
神性といっても非力な存在もいるのだ、ただそれを人間達が理解していないだけ。
「…デモ、ワタシを囮にしたオジーチャンは許せない」
「お得意の駄々っ子でもすれば?」
「…ムキー!!」
『速報。東北地方にて〇〇神社の結界破損を確認。神社総合庁東北庁舎は直ちに急行せよ。速報、東北地方にて〇〇神社の…』
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