ガラスの王冠

すいかちゃん

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王様になった農夫

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それは、ある夏のあっつい日の事です。農夫は朝から働きっぱなしで、クタクタでした。それでも、なんとか畑仕事に勤しんでいたのです。
「おい、お前」
呼ばれて振り向いた農夫は、腰が抜けるかと思いました。なぜなら、そこには王様がいたのです。長くて立派なヒゲに、キラキラ輝く王冠。真紅のマントと黄金の剣を持った王様は、農夫の顔をじっと見つめました。
「似てる」
「は?」
「噂で聞いたが、本当によく似てる」
王様は農夫の顔に黒いインクでひげを書くと、満足そうに頷きました。農夫が慌てて井戸の水で確認すると、確かに王様に似てるのです。
「一度、お前に会ってみたかった」
それから、王様と農夫は大いに語らいました。王様がくれたワインを飲み、農夫の弁当を一緒に食べたのです。
「わしは、お前が羨ましい」
王様がポツリと言いました。その言葉に、農夫は、ゲラゲラと笑います。
「俺は王様が羨ましい。何不自由なく生活できて、皆から尊敬されて。王様になりてぇよ」
「では、1週間だけ交替しないか?」
王様が提案します。
「わしはお前に、お前はわしになるんだ」
農夫は王様の提案に驚きましたが、楽しそうだと思い頷きました。王様は立派に生やしたヒゲを綺麗に剃ると、農夫の格好になります。農夫は王様の豪華な衣装を着て、馬車に乗ってお城へ向かいました。こうして、1週間の交換生活が始まったのです。
「な、なんて豪華なご馳走なんだっ」
農夫は、目の前に並ぶ豪華絢爛な食事に目を大きく見開きました。レンガほど大きなステーキに、黄金に輝くコンソメスープ。果物がたくさん乗ったタルトに、カラフルなアイスクリーム。
「これ、全部食べてもいいのか?」
驚く農夫に、王妃様が笑います。
「王様ったら冗談がお上手ね。昨日も召し上がったではないですか」
農夫は、慌てて咳払いをしました。
「そ、そうだな。さぁ、食べようか」
驚く事に、王妃も使用人も王様が偽物だとは気づきません。
泳げるぐらい広いお風呂に、フッカフカのベッド。農夫は、一生王様でも良いと思いました。
ほんのチラッと妻や子供の事が浮かびましたが、それよりも豪華な生活に夢中になっていったのです。
ですが、6日目。農夫は、ある事に気が付きました。
「孤独だな」
王様というのは、とても孤独だと農夫は知りました。城の人達はみんないい人です。でも、当たり障りのない会話ばかりでつまりません。
豪華な食事も、3日もたてば飽きてきます。
「…みんな、元気かな」
思い出すのは、いつも小言ばかり言う妻の顔。走り回って言うことを聞かない子ども達の笑顔でした。農夫は、広いベッドで小さくなって眠りました。
あんなに嬉しかった王冠が、今ではとっても重たく感じます。

一週間後。王様が城に戻ってきました。とっても活き活きしていて、肌もツヤツヤです。王様は、農夫に向かってこう言いました。
「お前は幸せ者だな」
農夫には、王様が言っている意味がわかりません。王様が教えてくれました。
「お前の妻も子ども達も、友人も、一目でわしがお前でない事を見抜いたぞ」
農夫はハッとしました。お城で、入れ替わった事さえ気づかれなかった王様。それは、愛されていなかったからでした。でも、王様はとても楽しそうです。
「とても良い時間を過ごした。ありがとう」
農夫の家族は、最初は王様に戸惑ったそうですが、快くもてなしてくれたそうです。
「お前の妻は料理上手だな。あんなに美味い料理は初めて食べた」
王様が初めて食べた料理。それは、真心がこもった料理の事でした。
「いつでも城に来い。お前とお前の家族をわしは歓迎する」
「王様も、いつでもいらしてください。大歓迎です」
農夫は、王様と友達になったのです。
その後。王様は、度々農夫の家を訪ねてきました。そして、農夫は自慢の野菜を持って王様の元へ通ったそうです。
2人の友情は、末永く続きました。


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