もう一度君に好きと言ってほしい

すいかちゃん

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第一話

好きになるスピード

「俺さ、啓介のことが好きなんだ。その、恋愛感情としてさ…」
高校卒業の日。佐藤啓介は、幼馴染み兼親友から思いもかけない告白をされた。あまりにも衝撃すぎて、啓介は言われてから数秒は固まってしまった。
「好きって…、あの…好き?」
なんて言っていいのかわからず、啓介はなんとも間の抜けた質問をしてしまった。昔流行ったドラマなどでは、こういうシチュエーションをよく見かけた。卒業式というのは、そのワードだけでもセンチメンタルな気分にさせる。ドラマの中では、桜舞い散るなかで主人公が下級生に告白されていた。啓介もあんな風に告白されたいと思ってもいた。恥ずかしいが、シュミレーションなどもしていたものだ。だが、それは男女の話だ。男友達から告白されるなんて、想定の範囲外である。
「啓介は、俺のことどう思ってる?」
聞かれて、啓介はすぐに答えることができなかった。
早川司。男子高校生とは思えないぐらい顔立ちはかわいくて、性格もめちゃくちゃいい。啓介にとっては、なんでも話せる相手だ。だが、司と恋愛できるかと聞かれたらかなり難しい。だって、司は男なのだ。どんなに見た目が良くても、やはり男なのだ。
「啓…」
「ごめんっ」
司がなにかを言おうとした瞬間。啓介は大声で遮った。
「僕も、司は好きだ。でもそれは、友人としてだ。恋愛感情じゃ、ない」
正直に気持ちを伝えた後、啓介は怖くて顔を上げられなかった。司の泣き顔を見たら、きっと堪らなく罪悪感に襲われるとわかっていたから…。だが、返ってきたのは思いがけないぐらいあっけらかんとした言葉だった。
「な~んだ。やっぱダメかぁ」
「…司?」
顔を上げれば、司は背中を向けていた。
「啓介の答えはわかってたんだ。だから気にすんなよ」
振り向いて笑う司は、いつも通りだった。啓介としたら、なんだか拍子抜けした気分だ。
「じゃな」
クルッと踵を返して走り去ろうとする司を、啓介は肩を掴んで引き止めた。勝手に告白してきて、勝手に納得する司にどこか苛立っていた。
「待てよっ。まだ話しは…」
強引に振り向かせた司の顔は、泣いていた。何かに耐えるように…。
「え?」
それは、啓介が初めて見る司の泣き顔だった。いつも太陽みたいに明るくて、優柔不断な啓介の背中を押してくれた司。負けん気が強くて、何に対してもがむしゃらに向かっていた。なのに、今は…。
「司っ」
逃げるように走っていく司を、啓介はそれ以上追いかけられなかった。まるで、置いていかれたような気分だ。置いていかれて、初めての喪失感を知る。
大切ななにかを失ったのだと、啓介は初めて知った。

「なぁ、啓介。今夜暇か?」
「ああ、うん」
聞かれた啓介は、どこか上の空のまま頷いた。メインにとっておいた大きめの海老フライを食べられても気付かないほどに…。
「え?」
数秒遅れて反応すれば、宮田隆弘が呆れたように頬杖をつく。そして、啓介から奪取した海老フライを大きな口で頬張った。
「隆弘っ。人の楽しみを取るなっ」
「最近、なんか変だぞ?」
隆弘は高校時代から親しくなり、司の次になんでも話せる仲だ。高校時代は校則をきっちり守る優等生だったが、大学デビューをしてからというもの日々チャラくなっている。
「別に。てか、海老返せよ」
「そりゃあ無理だ。代わりにこれやるよ」
と、サラダの付け合わせのミニトマトを皿に寄越す。なんかすごく損した気分になってしまう。
「今夜、М大女子と合コンするんだ。お前も来いよ」
「嫌だよ。どうせ僕をダシにする気だろ?」
「あったりぃ」
隆弘はニカッと笑うと、ハンバーグ定食を口一杯に頬張った。長年彼女がいなかった隆弘は、毎週のように合コンを開いている。が、なぜかなかなかモテないというのが本人の悩みだ。
「地味なお前がいれば、オレが引き立つ」
華やかなファッションを好む隆弘と、生真面目で服装に無頓着な啓介。並ぶとその違いがくっきりと浮き彫りになる。
「…断る。僕だって暇じゃない」
啓介だって、自分がいかにダサいことはわかっているのだ。が、改めて言われるとカチンとくる。
「お前も少しはおしゃれしろよ。土台はいいんだからさ」
「うるさいっ」
「そだ。司にも頼もう」
いきなり出てきた司の名前に、啓介の鼓動が小さく跳ねる。啓介が最近上の空の原因。それは、司との関係性だ。2ヶ月前。啓介は司から愛を告白された。その告白は、啓介としては受け入れがたくて断ったのだ。だが、それからというもの心がざわついて仕方ない。なぜか司の泣き顔が離れないのだ。
(…なんで、司のことばかり考えるんだろう)
そんな啓介の動揺に気付かない隆弘が、キョロキョロと辺りを見回す。少し離れた席に小柄な姿を見つけると、大声で司の名前を呼んだ。
「司っ、今夜合コン行かねー?」
隆弘の声に、司がハッとしたように振り向く。高校生の頃よりやや細さが増した司は、髪の長さも相まってボーイッシュな少女のように見えた。
「いーよ。会場は?」
足取りも軽く、司が啓介達に歩み寄る。啓介の心臓がバクバクと鳴った。
「この間オープンしたばっかの居酒屋。名前は『まんぼう』」
「へぇ。何時から?」
「7時から」
司と隆弘が盛り上がるのをよそに、啓介は複雑な面持ちで残ったサラダを片付けていた。チラッと横目で司を見る。司の視線は、少しも向かなかった。
(やっぱ、避けられてるよな)
あの日以来。啓介は司と言葉を交わしていない。いや、視線さえ合っていない。いつも透明な壁が邪魔をするのだ。そしてその透明な壁を作っているのは、司だった。とても自然に、司は啓介を見ないようにする。
(…当たり前だよな)
考えれば当然なのだ。自分をフッた相手とは会いたくもないだろう。だが、司に視線を外される度に胸の奥が疼くのだ。以前のような関係に戻れないことが、哀しくて仕方ないのだ。そして、司が自分以外の誰かと楽しそうにしているのが堪らなく嫌だった。この感情の正体を、やっと啓介は自覚した。
(本当にバカだ…。今頃、自分の気持ちに気付くなんて…)
だが、今更どうしようもない。まさか、本当は自分も好きだったなんて言えない。司を傷つけたのは、他ならない自分なのだから。
「やっぱり、僕も行くよ」
気がついたらそう言っていた。司の表情が一瞬だけ険しくなったような気がしたが、啓介は気付かないふりをした。なんとかして司と話す機会が欲しかったのだ。司のことが好きだと、ちゃんと言いたかった。たとえ司に怒られても、自分の気持ちを伝えかった。
(…と、思ったものの)
合コンがスタートしてしまうと、それどころではなかった。女子達の勢いに押されるような形となり、司とは一言も交わせていないという有り様だ。
「啓介くんって、普段は何してるの?」
啓介の向かいに座るセミロング女子が、上目遣いで聞いてきた。
いきなり「啓介くん」と呼んでくる図々しさに内心ムッとしながらも、啓介は「読書とかジム」と適当に答えた。そもそも合コンなんて参加する気はなかったのだから。
「そうなんだぁ。レナはねぇ、お友達とテニスとかカラオケしてるの」
レナの舌ったらずな言い回しにも、啓介はあまり好感が持てなかった。が、無下にすることもできない。適当に相槌を打っていると、レナがいきなり横に座ってきた。
「啓介くんって、レナのモロタイプなんだ。ねぇ、場所移動しない?」
レナが自慢の大きな胸を啓介に擦り付けてくる。が、啓介はそれどころではなかった。少し離れた席では、司がショートカットの女性にアルコールを勧められていた。
「司くんも飲みなよ」
グラスを勧められた司が、困ったように首を左右に振る。
「俺、未成年だから」
やんわりと断るものの、相手はなかなか引かなかった。
「えー、何その真面目な答え。これアルコール度数低いから大丈夫だよ」
「いや、そういう問題じゃ…」
横に座った女性が、強引に司にグラスを握らせる。女性の指が司に触れた瞬間。啓介の中で何かがプツッと音を立てた。気がつくと大股で司達に近づき、女性を押し退けていた。誰も、司には触れてほしくなかった。
「きゃっ」
「け、啓介?」
驚いた司が啓介を見る。久しぶりに目が合っただけでも、啓介には嬉しかった。
「帰るぞ、司」
「えっ。ちょっ、待てよっ」
啓介は司の腕を掴むと、強引に歩きだした。その勢いに、周囲が止める間もなかった。
「…なんか、ハーレムにいるみたい」
唯一、隆弘だけがこの状況を楽しんでいた。

「どこまで行くんだよっ。離せよっ」
司が喚き散らすが、啓介は構わずに歩いた。通りすがりの人がジロジロと眺めてきたが、誰も止める者はいなかった。啓介の迫力に気圧されたのかもしれないし、友人同士のくだらない口論かぐらいにしか見えなかったのかもしれない。
「いい加減にしろよっ。バカ力っ」
司の声に、啓介はやっと止まった。が、腕は掴んだままだ。人通りが少ない散歩道で、街灯も多くはない。ここなら安心して大声で話せる。
「何考えてんだよっ。合コンが…」
「なんで僕を避ける?」
啓介の声に、司は口を真一文字に結んだ。さっきまであんなに喚いていたのが、まるで嘘のようだ。シーンと静まり返ったなか、ただ互いに睨みあっていた。やがて司が口を開く。
「…わかるだろ」
「司?」
絞り出すような声で呟いた司が、キッと顔を上げた。それは、怒っているようにも見えたし傷ついているようでもあった。
「俺は、お前のことがまだ好きなんだよっ。そんな簡単になかったことになんかなんねー…え?」
司の動きが止まった。いきなり啓介がキスをしてきたからだ。
キスしている時間はほんの一瞬だったが、司と啓介にとってはかなり長く感じた。
「…なんで…」
司が信じられないというように呟く。啓介は司をしっかり抱き締めると、胸に溜まっていた想いを伝えた。
「僕も、司が好きだ。恋愛感情として…」
言葉に出してみると、意外とすんなり納得できた。腕の中で司が暴れるが、啓介の腕は離れることがなかった。
「嘘だっ。だって、あの日…」
「司が離れていって、やっと気がついたんだ。都合がいいのはわかってる。だけど、やっぱり司がいないと嫌なんだ」
啓介は司をしっかりと抱き締めて、自分の感情を全て告白した。男同士ということで抵抗感があったこと。だけど、司が気になって仕方なかったこと。それが恋愛感情だとわかったこと。司と、キスやそれ以上のこともしたいって思っていること。最初は呆然と聞いていた司だが、啓介の告白に瞳を潤ませた。声を出さないように泣く司を、啓介はあやすように背中を撫でた。
「遅くなって、ごめん」
あの時、啓介がわかっていたらこんな風に泣かせなかった。とっくにハッピーエンドだったのだ。
「僕達、好きになるスピードが違ったんだ」
啓介の言葉に、司が鼻をすする。
「好きになるスピード?」
「僕は鈍感だから、この気持ちが何かわからなかった。単に男友達としての好きだと思っていた。気がついていたら、あの日の答えは違ったのに」
「…啓介」
「司。もう一回好きって言って」
啓介の言葉に、司が笑う。啓介が大好きな、あの太陽のような笑顔だ。
「好き。啓介が、一番好き」
啓介は司にキスをすることで、告白に応えた。
「僕達、今日から恋人同士なんだね」
しみじみと啓介が言えば、司が顔を真っ赤にしてそっぽを向く。
「そんな恥ずかしいこと、真顔で言うなっ」
「いいだろ。嬉しいんだから」
啓介が抱き締めれば、司も照れ臭そうに抱き締め返してきた。
冷たい夜風も、今は暖かく感じる。
「帰ろうか」
啓介が手を差し出す。司が嬉しそうに握り返した。
「人に見られたら、どうしょう?」
「どうもしないよ。恋人同士が手を繋ぐのは当然だろ?」
司の言葉に、啓介がクスッと笑う。
男同士で恋人になるというのは、きっと簡単じゃない。このことが親や友人に知られたら、反対されるかもしれない。それでも、この手を離す気は啓介も司もなかった。
「俺、啓介を好きになって良かった」
「僕も同じ気持ちだよ」
2人の歩くスピードは、全くズレることはなかった。まるで、2人の心が重なっていることを表しているようだった。

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