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第二話
親友と恋人になった夜
幼い頃は、ただただ単純に好きだった。
一緒にいると楽しいとか、側にいると嬉しいとか。そこにはなんの下心もなかった。だけど、身体が成長するにつれて、心もどんどん変わってきてしまった。
啓介に対する好きは、友達としての好きじゃない。中学生になったばかりの司は、その気持ちを自覚しひどく狼狽した。キスをしたい、身体に触れたい、1つになりたい。そんな欲を孕んだ好きだったのだ。否定しようとしても、一度気がついてしまった想いは消えてはくれなかった。もしかして、自分はゲイだったのかとも思った。試しに男性モデルのヌード雑誌を見てみたりもした。そしてわかった。男が好きなわけじゃないのだ。啓介だから好きなのだ。だが、わかったところで結果は変わらない。告白しても無駄だとわかっていたからだ。啓介は普通に女子が好きだったし、告白したところで気持ち悪がられるだけだ。だが、押さえ込もうとすればするほど苦しくなり、司は限界を感じていた。
「俺さ、啓介が好きなんだ。恋愛感情として…」
高校卒業の日。司は、ありったけの勇気を振り絞って啓介に告白した。両想いになりたかったからではない。自分の心にケジメをつけたかったからだ。いつまでも望みのない恋をしていたくなかったからだった。啓介にフラれて、司は自分の恋心に区切りをつけようとしていた。だが、啓介にフラれた瞬間。司は後悔した。告白なんかしなきゃよかった。告白しなければ、幼馴染みとして、親友として側に居られたのに…。あんなに泣いたのは、きっと人生で初めてだった。
だけど、司の恋は片思いではなかったようだ。大学に入って、啓介からも好きと言ってもらえた。初めてのキスは、想像していたよりずっと柔らかく甘かった。本当ならこれでめでたしめでたしなのだが…。
(…今日もなんもなかった)
デートした日。司はベッドにダイブして、ぼんやりと窓の外を眺めた。日曜日。啓介から映画に誘われた。司がずっと観たかった韓国映画。ベースはサスペンスだが、ロマンス要素が加わってかなりドキドキした。暗闇を利用して手を握れば、そっと返してくれた。映画のラストはほとんど記憶にない。
(今夜こそはって思ったのに…)
帰り道。わざとラブホテルが見える道を選んだ。啓介が誘いやすいように…。なのに、啓介ときたらそんな素振りも見せなかった。美味しいラーメンを食べてさようなら。別れ際にキスはしたが、健全なデートだった。男女ならこれでいいのかもしれない。だけど、司としては不満だった。
(これじゃあ、単なるダチじゃん)
キスだって、司からねだらないとしてくれない。
(やっぱり、俺が男だからなのかな…)
中学の時、啓介があるグラビアアイドルのファンだったことを思い出す。確か、ロリ系の顔ですごい巨乳。彼女に夢中になっている啓介を見て、司は自分の気持ちに気がついたのだ。なぜなら、そのグラビアアイドルがものすごく嫌いになったから。
(…男を抱きたいなんて、思わねーよな)
仰向けに寝転がり、司は自分の身体を掌でなぞる。ぺったんこの胸に、中央には男性としては当たり前にある性器。
(俺、贅沢なのかな…)
好きと言ってもらって、キスもしてくれて…。それだけじゃ満足できないなんて。だが、司としては不安で仕方ないのだ。もしかしたら、あれは勘違いなんて言われたら立ち直れそうもない。早く恋人としての証が欲しかった。
(自然と裸になれる場所なんて…)
銭湯やプールでは、人目がありすぎる。かといって、自宅の風呂に誘うのは変だ。
(そうだっ)
あることを思い出し、司は押し入れを漁った。目当ての雑誌を取り出し、ニンマリと笑う。普通に裸になれて、2人っきりになれる場所。
(ここならムードもある。啓介を誘うなら、ここだ)
司は、啓介を誘うシュミレーションを何度もしてみた。
(裸で足を開いて…、ここを…)
想像してみて、司は少しだけ虚しくなった。
(…啓介が早くしてくれたらいいのに)
真面目な啓介に、少しだけイラッする司だった。
「温泉?」
司の提案に、学食でカツ丼を食べていた啓介が瞳をキラキラと輝かせる。さりげなく広げた雑誌には、温泉の穴場スポットが載っていた。
「たまにはどうかなって。ほら、啓介って温泉好きだろ?」
ドキドキを隠しながら、司は用意していたセリフで啓介の興味をひいた。昔、啓介が温泉巡りしたいと言っていたのを思い出したのだ。温泉だったら裸になるのは当然だし、裸になればそういうムードにもなるだろう。
「いいね。行こっか」
啓介の言葉に、司は思わずガッツポーズをとった。だが、表面的にはあくまでも平静さを装った。ここで嬉しさが出てしまったら、作戦がバレてしまうかもしれない。
こうして、恋人同士となって初めての旅行へと出発することになった。場所は草津。観光客も多く、男2人で歩いていてもさほど目立ちはしない。
「なんか修学旅行以来だな。旅行なんて」
「そ、そうだな」
のんびりと観光地を楽しむ啓介と違い、司は緊張して落ち着かなかった。なにせ、今夜は啓介と…。これまで妄想で様々なシチュエーションは試してみた。だが、どれもこれも空回りしそうで…。関係を深めるどころか、嫌われてしまいそうな気がして仕方なかった。
(大体、俺に色気なんてあるはずないんだよ。啓介を誘うったって…)
浴衣でセクシーポーズをとったって、笑われるか嫌われるかのどちらかしかない。司のテンションはだだ下がりだった。美しい景色や楽しげなアトラクションも、司の心を明るくしてはくれなかった。だが、司は気付かなかった。啓介が心配そうに自分を見つめていたことに…。
「思ったより広いな」
司が予約したのは、部屋に露天風呂が付いているタイプだった。窓からの景色も悪くなく、和風モダンな内装は文句なしといったところだ。夕食には大きめのカニが出て、味も絶品。なのだが、司はやはり喜べなかった。一緒に温泉に入ろうとさえ誘えず悶々としていれば、啓介から話があると言われた。
「なぁ、司。僕、なにかしたかな?」
敷かれた布団の上。啓介がおもむろに口を開く。
「え?」
「旅行中、ずっと上の空だったよね。楽しくなかった?何か怒ってる?」
沈んだような啓介の声に、司は慌てまくった。だが、この状況をうまく説明できない。まさか「啓介とエッチすることばかり考えていた」なんて言えない。言ったら、それだけで嫌われる気がした。
「ちっ、違うよっ。ただ…」
「ただ?」
啓介の眼差しが鋭くなり、司が怯えたように俯く。これでは、嫌われるばかりだ。
「あ、あの…」
「ん?」
司は、正直に自分の気持ちを話すことにした。変に隠し事をしたら、ボロが出そうである。
「俺、啓介ともっとちゃんと恋人になりたいんだ。ちゃんと、その、セックスもしたい」
「え?」
司の言葉に啓介が驚いたような声を出す。司は、この恋が終わったと思った。
(きっと軽蔑された。身体だけが目的と思われた)
司はギュッと目を瞑り、啓介の言葉を待った。が、答えは力強いハグと息まで奪いそうな激しいキスだった。舌を貪られ、司は啓介にしがみつくようにしてその激しさに耐えた。
「…啓介?」
「良かった。僕だけじゃなかったんだ」
心底安心したような呟きに、司は啓介も同じ気持ちだったと知った。
「そういう経験なかったから、いつすればいいのかわからなくて…。キスとか、セックスしたいとか、言ったら嫌われるって思ってたんだ。不安にさせちゃったね。ごめん」
啓介の背中を抱き返しながら、司は(こういう奴だったよな)と思った。優しくて、いつも相手のことばかり考えている。そんな啓介だから好きになったのだ。司は啓介に軽くキスをした。そして、啓介からも…。キスはどんどん深く激しくなり、自然と啓介が司を布団に押し倒す形となった。
「…抱いていい?」
啓介の言葉に、司は耳まで真っ赤にして頷いた。精悍な顔立ちの啓介が、更に魅力的に見える。電気が消される音が妙に生々しくて、司はギュッと目を閉じた。やがて、全裸の啓介が覆い被さってくる。啓介の指が司の帯を取り、浴衣が左右に開かれた。これから啓介と繋がるのだと思うだけで、司の心と身体は昂っていった。
「ガッカリしたろ?」
「なんで?」
首筋を舐められ、司が首を竦める。
「女の子みたいな身体じゃないから…」
言えば啓介が笑う。
「当たり前だろ。司は男なんだから」
啓介の手が下へ向かい、男としての象徴に触れる。
「あ…っ、いきなり握るな…っ」
「今の顔、色っぽすぎ」
「…バカ」
啓介からのキスを受け入れながら、司はその逞しい背中に腕を回した。
「ん…っ、あ…っ、はぁ…っ」
布団の上で、司は激しいキスと愛撫に息を喘がせた。薄目を開けて、自分の身体を貪る啓介にフッと笑みを浮かべる。
(こんな啓介、初めて見た)
普段はおとなしくて優しい啓介。他人と競うこともしないため、穏やかな顔しか知らない。でも、こんな風に野性的な姿もいいと司は改めて思った。自分しか知らない啓介を見つけた気がして、司は嬉しくなった。司は啓介の背中を強く抱き締め、形のいい耳にそっと歯を立てた。互いの息遣いの荒さが増していき、触れるだけでは満足できなくなってきた頃。啓介の指が躊躇いがちに司の後ろをなぞる。
「…あっ」
思わず声を上げれば、啓介が慌てて指を離す。気まずい空気が流れた。
「ごめん。やっぱり嫌だよね?」
啓介が苦笑を浮かべた。男同士がどこでどのように愛し合うのかは、啓介も司も知っている。だが、精神的にも肉体的にも負担が多いのは司なのだ。啓介が離れようとするのを、司が慌てて止めた。
「違うっ。ただ…」
「ただ?」
「もし、失敗したらって…」
これまで、司はソコに触れたことがない。本や噂では感じるらしいと聞いたが、実際はやってみないとわからないのだ。もし感じなくて、啓介をガッカリさせたら…。だが、啓介と繋がりたいという気持ちも本当なのだ。
「啓介に嫌われたくない…っ」
啓介の背中にしがみついた司は、自分の気持ちを伝えようとした。だが、言葉がうまく出てこない。グスッと鼻を啜れば、慰めるように啓介が背中をさする。
「大丈夫。そんなことで司を嫌いになったりしない。ゆっくり力を抜いて」
「う、うん」
啓介は自身の指を舐めると、ゆっくり慎重に司の蕾を開いていった。
「ん…っ、んんっ」
最初は違和感しかなかったというのに、次第に奥がムズムズしてきて司は思わず啓介の腕を掴んだ。
「はぁ…っ。なんか、変…っ」
「どんな風に?」
啓介の声が微かに掠れてきた。その声は聞いたことがないぐらい色気を孕んでいて、司の蕾が思わず反応した。無意識に中が蠢き、啓介の指を奥へ誘おうとするのだ。
「気持ちいい?感じる?」
「聞くな…っ」
首筋や乳首にキスをしながら、啓介が指を増やしていく。萎えかけた司の前は勢いを取り戻し、次第にビクビクしてきた。司が感じていることは明白だ。
「良かった」
啓介はホッとしたように呟くと、指の動きを早めた。
「いや…っ、出る…っ」
前は触れられてもいないのに、限界を訴えている。こんな風になるのは初めてだ。未知の不安と恐怖に司が震える。
「大丈夫。僕が側にいる。たくさん出していいよ。僕の指で感じている司が見たい」
「あっ、あ…っ、啓介…っ、あぁっ」
司が放った精液が、啓介の身体を汚した。
司は何度も指でイカされ、やがて身体中の力が抜けていった。そして、その瞬間を啓介は待っていた。ハァハァと荒い呼吸を繰り返す司を、啓介は時間をかけて貫いていった。
「んん…っ、はぁっ、あっ、あ…っ」
「司。もっと力抜いて…っ」
指であれだけ慣らしたというのに、司の蕾はまだ狭かった。
「無理…っ。啓介の、デカ過ぎ…って、嬉しそうにするなっ」
「だって、嬉しいんだ。やっと、司と1つになれる」
「あ…っ、入る…ぅっ」
全ておさまった後、啓介はしばらく動かなかった。
「司。いい?」
「ん。動いても、大丈夫」
啓介が腰をリズミカルに揺すれば、司の全身に甘い震えが走った。
「あっ、ん…っ、啓介っ、もっとゆっくり…っ、あ…っ」
「司っ、好きだよ」
啓介の囁きを聞いた瞬間。司は堪らない快感に喘ぎながらイッた。心と身体が一緒になったような、そんな感じだった。
この夜。司は、やっと啓介と恋人になれたことを実感した。
翌朝。気恥ずかしさを隠しながら、二人で露天風呂に入った。さほど広くはないため、肌は常に密着状態だ。恥ずかしかったのはほんの一瞬で、気がつけばじゃれ合うように肌に触れていた。
「啓介。好きだよ」
「僕も、司が好きだ。ずっと…」
湯気が立ち込めるなか、二人は飽きることなく愛を確かめ合った。
「大学卒業したら、一緒に住まないか?」
帰り道。啓介が提案した。
「それって…」
司が期待を込めた瞳で啓介を見つめる。
「ずっと司と居たいんだ」
啓介の言葉に頷くと、司はとびっきりの笑顔を見せた。
一緒にいると楽しいとか、側にいると嬉しいとか。そこにはなんの下心もなかった。だけど、身体が成長するにつれて、心もどんどん変わってきてしまった。
啓介に対する好きは、友達としての好きじゃない。中学生になったばかりの司は、その気持ちを自覚しひどく狼狽した。キスをしたい、身体に触れたい、1つになりたい。そんな欲を孕んだ好きだったのだ。否定しようとしても、一度気がついてしまった想いは消えてはくれなかった。もしかして、自分はゲイだったのかとも思った。試しに男性モデルのヌード雑誌を見てみたりもした。そしてわかった。男が好きなわけじゃないのだ。啓介だから好きなのだ。だが、わかったところで結果は変わらない。告白しても無駄だとわかっていたからだ。啓介は普通に女子が好きだったし、告白したところで気持ち悪がられるだけだ。だが、押さえ込もうとすればするほど苦しくなり、司は限界を感じていた。
「俺さ、啓介が好きなんだ。恋愛感情として…」
高校卒業の日。司は、ありったけの勇気を振り絞って啓介に告白した。両想いになりたかったからではない。自分の心にケジメをつけたかったからだ。いつまでも望みのない恋をしていたくなかったからだった。啓介にフラれて、司は自分の恋心に区切りをつけようとしていた。だが、啓介にフラれた瞬間。司は後悔した。告白なんかしなきゃよかった。告白しなければ、幼馴染みとして、親友として側に居られたのに…。あんなに泣いたのは、きっと人生で初めてだった。
だけど、司の恋は片思いではなかったようだ。大学に入って、啓介からも好きと言ってもらえた。初めてのキスは、想像していたよりずっと柔らかく甘かった。本当ならこれでめでたしめでたしなのだが…。
(…今日もなんもなかった)
デートした日。司はベッドにダイブして、ぼんやりと窓の外を眺めた。日曜日。啓介から映画に誘われた。司がずっと観たかった韓国映画。ベースはサスペンスだが、ロマンス要素が加わってかなりドキドキした。暗闇を利用して手を握れば、そっと返してくれた。映画のラストはほとんど記憶にない。
(今夜こそはって思ったのに…)
帰り道。わざとラブホテルが見える道を選んだ。啓介が誘いやすいように…。なのに、啓介ときたらそんな素振りも見せなかった。美味しいラーメンを食べてさようなら。別れ際にキスはしたが、健全なデートだった。男女ならこれでいいのかもしれない。だけど、司としては不満だった。
(これじゃあ、単なるダチじゃん)
キスだって、司からねだらないとしてくれない。
(やっぱり、俺が男だからなのかな…)
中学の時、啓介があるグラビアアイドルのファンだったことを思い出す。確か、ロリ系の顔ですごい巨乳。彼女に夢中になっている啓介を見て、司は自分の気持ちに気がついたのだ。なぜなら、そのグラビアアイドルがものすごく嫌いになったから。
(…男を抱きたいなんて、思わねーよな)
仰向けに寝転がり、司は自分の身体を掌でなぞる。ぺったんこの胸に、中央には男性としては当たり前にある性器。
(俺、贅沢なのかな…)
好きと言ってもらって、キスもしてくれて…。それだけじゃ満足できないなんて。だが、司としては不安で仕方ないのだ。もしかしたら、あれは勘違いなんて言われたら立ち直れそうもない。早く恋人としての証が欲しかった。
(自然と裸になれる場所なんて…)
銭湯やプールでは、人目がありすぎる。かといって、自宅の風呂に誘うのは変だ。
(そうだっ)
あることを思い出し、司は押し入れを漁った。目当ての雑誌を取り出し、ニンマリと笑う。普通に裸になれて、2人っきりになれる場所。
(ここならムードもある。啓介を誘うなら、ここだ)
司は、啓介を誘うシュミレーションを何度もしてみた。
(裸で足を開いて…、ここを…)
想像してみて、司は少しだけ虚しくなった。
(…啓介が早くしてくれたらいいのに)
真面目な啓介に、少しだけイラッする司だった。
「温泉?」
司の提案に、学食でカツ丼を食べていた啓介が瞳をキラキラと輝かせる。さりげなく広げた雑誌には、温泉の穴場スポットが載っていた。
「たまにはどうかなって。ほら、啓介って温泉好きだろ?」
ドキドキを隠しながら、司は用意していたセリフで啓介の興味をひいた。昔、啓介が温泉巡りしたいと言っていたのを思い出したのだ。温泉だったら裸になるのは当然だし、裸になればそういうムードにもなるだろう。
「いいね。行こっか」
啓介の言葉に、司は思わずガッツポーズをとった。だが、表面的にはあくまでも平静さを装った。ここで嬉しさが出てしまったら、作戦がバレてしまうかもしれない。
こうして、恋人同士となって初めての旅行へと出発することになった。場所は草津。観光客も多く、男2人で歩いていてもさほど目立ちはしない。
「なんか修学旅行以来だな。旅行なんて」
「そ、そうだな」
のんびりと観光地を楽しむ啓介と違い、司は緊張して落ち着かなかった。なにせ、今夜は啓介と…。これまで妄想で様々なシチュエーションは試してみた。だが、どれもこれも空回りしそうで…。関係を深めるどころか、嫌われてしまいそうな気がして仕方なかった。
(大体、俺に色気なんてあるはずないんだよ。啓介を誘うったって…)
浴衣でセクシーポーズをとったって、笑われるか嫌われるかのどちらかしかない。司のテンションはだだ下がりだった。美しい景色や楽しげなアトラクションも、司の心を明るくしてはくれなかった。だが、司は気付かなかった。啓介が心配そうに自分を見つめていたことに…。
「思ったより広いな」
司が予約したのは、部屋に露天風呂が付いているタイプだった。窓からの景色も悪くなく、和風モダンな内装は文句なしといったところだ。夕食には大きめのカニが出て、味も絶品。なのだが、司はやはり喜べなかった。一緒に温泉に入ろうとさえ誘えず悶々としていれば、啓介から話があると言われた。
「なぁ、司。僕、なにかしたかな?」
敷かれた布団の上。啓介がおもむろに口を開く。
「え?」
「旅行中、ずっと上の空だったよね。楽しくなかった?何か怒ってる?」
沈んだような啓介の声に、司は慌てまくった。だが、この状況をうまく説明できない。まさか「啓介とエッチすることばかり考えていた」なんて言えない。言ったら、それだけで嫌われる気がした。
「ちっ、違うよっ。ただ…」
「ただ?」
啓介の眼差しが鋭くなり、司が怯えたように俯く。これでは、嫌われるばかりだ。
「あ、あの…」
「ん?」
司は、正直に自分の気持ちを話すことにした。変に隠し事をしたら、ボロが出そうである。
「俺、啓介ともっとちゃんと恋人になりたいんだ。ちゃんと、その、セックスもしたい」
「え?」
司の言葉に啓介が驚いたような声を出す。司は、この恋が終わったと思った。
(きっと軽蔑された。身体だけが目的と思われた)
司はギュッと目を瞑り、啓介の言葉を待った。が、答えは力強いハグと息まで奪いそうな激しいキスだった。舌を貪られ、司は啓介にしがみつくようにしてその激しさに耐えた。
「…啓介?」
「良かった。僕だけじゃなかったんだ」
心底安心したような呟きに、司は啓介も同じ気持ちだったと知った。
「そういう経験なかったから、いつすればいいのかわからなくて…。キスとか、セックスしたいとか、言ったら嫌われるって思ってたんだ。不安にさせちゃったね。ごめん」
啓介の背中を抱き返しながら、司は(こういう奴だったよな)と思った。優しくて、いつも相手のことばかり考えている。そんな啓介だから好きになったのだ。司は啓介に軽くキスをした。そして、啓介からも…。キスはどんどん深く激しくなり、自然と啓介が司を布団に押し倒す形となった。
「…抱いていい?」
啓介の言葉に、司は耳まで真っ赤にして頷いた。精悍な顔立ちの啓介が、更に魅力的に見える。電気が消される音が妙に生々しくて、司はギュッと目を閉じた。やがて、全裸の啓介が覆い被さってくる。啓介の指が司の帯を取り、浴衣が左右に開かれた。これから啓介と繋がるのだと思うだけで、司の心と身体は昂っていった。
「ガッカリしたろ?」
「なんで?」
首筋を舐められ、司が首を竦める。
「女の子みたいな身体じゃないから…」
言えば啓介が笑う。
「当たり前だろ。司は男なんだから」
啓介の手が下へ向かい、男としての象徴に触れる。
「あ…っ、いきなり握るな…っ」
「今の顔、色っぽすぎ」
「…バカ」
啓介からのキスを受け入れながら、司はその逞しい背中に腕を回した。
「ん…っ、あ…っ、はぁ…っ」
布団の上で、司は激しいキスと愛撫に息を喘がせた。薄目を開けて、自分の身体を貪る啓介にフッと笑みを浮かべる。
(こんな啓介、初めて見た)
普段はおとなしくて優しい啓介。他人と競うこともしないため、穏やかな顔しか知らない。でも、こんな風に野性的な姿もいいと司は改めて思った。自分しか知らない啓介を見つけた気がして、司は嬉しくなった。司は啓介の背中を強く抱き締め、形のいい耳にそっと歯を立てた。互いの息遣いの荒さが増していき、触れるだけでは満足できなくなってきた頃。啓介の指が躊躇いがちに司の後ろをなぞる。
「…あっ」
思わず声を上げれば、啓介が慌てて指を離す。気まずい空気が流れた。
「ごめん。やっぱり嫌だよね?」
啓介が苦笑を浮かべた。男同士がどこでどのように愛し合うのかは、啓介も司も知っている。だが、精神的にも肉体的にも負担が多いのは司なのだ。啓介が離れようとするのを、司が慌てて止めた。
「違うっ。ただ…」
「ただ?」
「もし、失敗したらって…」
これまで、司はソコに触れたことがない。本や噂では感じるらしいと聞いたが、実際はやってみないとわからないのだ。もし感じなくて、啓介をガッカリさせたら…。だが、啓介と繋がりたいという気持ちも本当なのだ。
「啓介に嫌われたくない…っ」
啓介の背中にしがみついた司は、自分の気持ちを伝えようとした。だが、言葉がうまく出てこない。グスッと鼻を啜れば、慰めるように啓介が背中をさする。
「大丈夫。そんなことで司を嫌いになったりしない。ゆっくり力を抜いて」
「う、うん」
啓介は自身の指を舐めると、ゆっくり慎重に司の蕾を開いていった。
「ん…っ、んんっ」
最初は違和感しかなかったというのに、次第に奥がムズムズしてきて司は思わず啓介の腕を掴んだ。
「はぁ…っ。なんか、変…っ」
「どんな風に?」
啓介の声が微かに掠れてきた。その声は聞いたことがないぐらい色気を孕んでいて、司の蕾が思わず反応した。無意識に中が蠢き、啓介の指を奥へ誘おうとするのだ。
「気持ちいい?感じる?」
「聞くな…っ」
首筋や乳首にキスをしながら、啓介が指を増やしていく。萎えかけた司の前は勢いを取り戻し、次第にビクビクしてきた。司が感じていることは明白だ。
「良かった」
啓介はホッとしたように呟くと、指の動きを早めた。
「いや…っ、出る…っ」
前は触れられてもいないのに、限界を訴えている。こんな風になるのは初めてだ。未知の不安と恐怖に司が震える。
「大丈夫。僕が側にいる。たくさん出していいよ。僕の指で感じている司が見たい」
「あっ、あ…っ、啓介…っ、あぁっ」
司が放った精液が、啓介の身体を汚した。
司は何度も指でイカされ、やがて身体中の力が抜けていった。そして、その瞬間を啓介は待っていた。ハァハァと荒い呼吸を繰り返す司を、啓介は時間をかけて貫いていった。
「んん…っ、はぁっ、あっ、あ…っ」
「司。もっと力抜いて…っ」
指であれだけ慣らしたというのに、司の蕾はまだ狭かった。
「無理…っ。啓介の、デカ過ぎ…って、嬉しそうにするなっ」
「だって、嬉しいんだ。やっと、司と1つになれる」
「あ…っ、入る…ぅっ」
全ておさまった後、啓介はしばらく動かなかった。
「司。いい?」
「ん。動いても、大丈夫」
啓介が腰をリズミカルに揺すれば、司の全身に甘い震えが走った。
「あっ、ん…っ、啓介っ、もっとゆっくり…っ、あ…っ」
「司っ、好きだよ」
啓介の囁きを聞いた瞬間。司は堪らない快感に喘ぎながらイッた。心と身体が一緒になったような、そんな感じだった。
この夜。司は、やっと啓介と恋人になれたことを実感した。
翌朝。気恥ずかしさを隠しながら、二人で露天風呂に入った。さほど広くはないため、肌は常に密着状態だ。恥ずかしかったのはほんの一瞬で、気がつけばじゃれ合うように肌に触れていた。
「啓介。好きだよ」
「僕も、司が好きだ。ずっと…」
湯気が立ち込めるなか、二人は飽きることなく愛を確かめ合った。
「大学卒業したら、一緒に住まないか?」
帰り道。啓介が提案した。
「それって…」
司が期待を込めた瞳で啓介を見つめる。
「ずっと司と居たいんだ」
啓介の言葉に頷くと、司はとびっきりの笑顔を見せた。
この作品は感想を受け付けておりません。
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