6 / 6
第六話
明かされた真相
「…いつから、僕の正体に気がついていたんですか?」
康太郎が帰った後、慎一郎は疲れた様子の智広をベッドに座らせた。横に座り肩を抱けば、甘えるように智広が頬を寄せてくる。そこには、慎一郎を慕っている気持ちが表れている。
「最初は、わかりませんでした。ただ、会う度にあなたは優しかった。私の身体を労り、楽しい話題でこの家を明るくしてくれた」
智広が枕元の小瓶を手に取る。慎一郎がいつか買ってきてくれた香水。嬉しくて、嬉しくて、毎日のように使っていた。空になっても捨てられないほどに…。
「高村様は、こんな事をしてくれなかった」
康太郎は、常に勝手だった。智広の予定も聞かずに家に来ては、ただ身体を求めた。たとえ、智広の気分が乗らなくても関係なかった。ろくな会話もなく、乱暴に身体を弄られ貫かれた。
「なんで、それでも兄貴を慕っていたんですか?」
慎一郎の疑問は到って当然だった。なぜ、そんな身勝手な男のために尽くし続けるのか。智広が遠くを見るように目を細める。
「高村様と初めて会ったのは、19歳の頃でした」
母親の薦めで日本舞踊を習っていた智広は、その腕前を茶屋で披露する事もあった。その日は、父親の仕事仲間の還暦祝いだった。そこに康太郎もいた。躍りながら、何度も智広は康太郎と目を合わせた。熱く見つめられ、戸惑いを隠せなかった。そして、翌日。康太郎が家に来た。話題は前島家の経営不振についてだった。
「高村様は、多額の融資と引き換えに私の身体を要求しました。父は激怒し、交渉は白紙になったのです」
だが、康太郎は諦めなかった。
「後日。高村様がいる料亭に呼ばれ、肉体関係を迫られました」
これみよがしに布団が敷かれた部屋の中、智広は否応なく組敷かれた。嫌がれば、康太郎が甘い囁きを注ぎ込む。
『お父さんの会社、俺が助けてあげるよ。ただし、君が俺のものになればだがね』
智広は迷った末、康太郎に抱かれる道を選んだ。少しでも両親を助けたかったからだ。痛みと快楽のなか、智広は屈辱の涙を流した。だが、康太郎に愛していると言われ続け心が蕩けていった。
「高村様のおかげで、我が家は救われました」
だが、智広の軽はずみな行為は父親のプライドを傷つけてしまった。康太郎と智広の関係は、あっという間に広まったのだ。
周囲の手前、父親は智広を勘当するしかなかった。打ちひしがれる智広に、康太郎は甘い言葉を囁いた。愛していると口説き、その身体を蹂躙し続けた。
「心のどこかではわかっていたんです。愛しているというのが本心ではないと…。だけど、縋るしかなかった」
康太郎を愛していると錯覚する事で、智広は自身の心を守っていたのだ。そうでなければ、心はとっくに壊れていただろう。
「高村様からのお手当てを断ったのは、精一杯の意地でした」
康太郎からの金を受け取らない事だけが、智広の心を支えていた。自分は愛されているのだと、そう思い込むようにしたのだ。だが、康太郎の態度が冷たくなり心が折れてしまった。智広は、どんどん衰弱していった。
「そんな時に、あなたが来た」
智広の手が、恐る恐るというように慎一郎の頬を撫でる。
「あまりにも優しくされて、夢を見ているのかと思いました」
だが、次第に疑いを持ち始めた。康太郎がこんな優しいわけがない。不意に康太郎に弟がいる事を思い出した。双子のように似ていると…。
「もしかして、という考えが何度も浮かびました。でも、その度にそんなわけないと思っていたんです。でも、あの雨の夜…」
智広が自身の指を見つめる。激しい風と雨音のなか、智広は夢か現か区別がつかない世界をさ迷っていた。そこに慎一郎が駆けつけてきた。
「私の指を心配してくれましたよね」
「あ、ああ」
「高村様が、私の指など心配するわけない。それに、ピアノの音を嫌がらなかった。そこでわかりました」
智広が泣き出しそうな顔で慎一郎を見つめる。濡れた黒い瞳が、あの夜を思い出させた。初めて結ばれたあの夜を…。
「騙していたのは、私も同じです。あなたが私を好きだという気持ちを利用してしまいました」
智広の瞳から、とうとう涙が溢れた。
「あなたの優しさにつけこみ、あなたに抱かれ続けた。好きになってしまったから…」
慎一郎の唇が智広のそれを塞ぐ。もう言葉なんていらなかった。激しく舌を絡め合い、ベッドの上にどちらからともなく倒れ込んだ。
「ん…っ、あっ」
慎一郎が首筋を吸いながら乳首を弄れば、可愛らしい声が聞こえてくる。小さくてプクッとした乳首を、親指と人差し指でクリクリと擦れば智広の下半身がビクビクと反応した。太ももに当たるその熱さに、慎一郎は安堵した。
兄のフリなどしなくてもいいのだ。智広は慎一郎自身を好きでいてくれている。それだけで、十分だった。
「はぁ…っ、あっ、離れないで…っ、旦那様…っ」
少しでも身体を離そうとすると、智広がしがみついてくる。その細い腰を引き寄せ、密着したまま貫いた。慎一郎の男根が、いつもより熱い中へと強引に潜り込む。智広は全身に汗をかきながら、慎一郎を受け入れた。
「慎一郎と呼んでください。僕だけのものに、なってください」
緩やかに腰を動かしながら、慎一郎が懇願する。智広が唇をゆっくりと開けた。
「慎一郎、様…っ。あぁっ」
智広に名前を呼ばれた瞬間。慎一郎は一気に奥へと突き入れた。智広の中が、慎一郎を強く絡めとる。離れたくないと、愛しているという事が脈を通じて伝わってくる。慎一郎は、身体だけの欲望がいかに稚拙だったのかを思い知った。心も繋がった瞬間は、堪らなく幸福だった。智広を手放さないと、慎一郎は固く誓った。
数年という時がたった。
康太郎は度重なる浮気で醜聞を流し、とうとう離縁されたらしい。そんな風の噂など、慎一郎は露も気にしなかった。いつものように授業を終え、今年建てたばかりの我が家へと急ぐ。
小さい平屋だが、2人で暮らすには十分だった。
「ただいま。智」
『蜜月堂』の塩大福を土産に慎一郎が帰宅すると、智広がにこやかに出迎える。匂いからして、今夜はビーフシチューらしい。
「お帰りなさい。慎一郎さん」
「今日は久々に連弾でもしよう。何がいい?」
「『花のワルツ』はどうでしょう?」
「いいね。夕食を食べたら、一緒に弾こう」
他愛ない平凡な日々。だが、その平凡こそが慎一郎と智広が求めたものだった。
康太郎が帰った後、慎一郎は疲れた様子の智広をベッドに座らせた。横に座り肩を抱けば、甘えるように智広が頬を寄せてくる。そこには、慎一郎を慕っている気持ちが表れている。
「最初は、わかりませんでした。ただ、会う度にあなたは優しかった。私の身体を労り、楽しい話題でこの家を明るくしてくれた」
智広が枕元の小瓶を手に取る。慎一郎がいつか買ってきてくれた香水。嬉しくて、嬉しくて、毎日のように使っていた。空になっても捨てられないほどに…。
「高村様は、こんな事をしてくれなかった」
康太郎は、常に勝手だった。智広の予定も聞かずに家に来ては、ただ身体を求めた。たとえ、智広の気分が乗らなくても関係なかった。ろくな会話もなく、乱暴に身体を弄られ貫かれた。
「なんで、それでも兄貴を慕っていたんですか?」
慎一郎の疑問は到って当然だった。なぜ、そんな身勝手な男のために尽くし続けるのか。智広が遠くを見るように目を細める。
「高村様と初めて会ったのは、19歳の頃でした」
母親の薦めで日本舞踊を習っていた智広は、その腕前を茶屋で披露する事もあった。その日は、父親の仕事仲間の還暦祝いだった。そこに康太郎もいた。躍りながら、何度も智広は康太郎と目を合わせた。熱く見つめられ、戸惑いを隠せなかった。そして、翌日。康太郎が家に来た。話題は前島家の経営不振についてだった。
「高村様は、多額の融資と引き換えに私の身体を要求しました。父は激怒し、交渉は白紙になったのです」
だが、康太郎は諦めなかった。
「後日。高村様がいる料亭に呼ばれ、肉体関係を迫られました」
これみよがしに布団が敷かれた部屋の中、智広は否応なく組敷かれた。嫌がれば、康太郎が甘い囁きを注ぎ込む。
『お父さんの会社、俺が助けてあげるよ。ただし、君が俺のものになればだがね』
智広は迷った末、康太郎に抱かれる道を選んだ。少しでも両親を助けたかったからだ。痛みと快楽のなか、智広は屈辱の涙を流した。だが、康太郎に愛していると言われ続け心が蕩けていった。
「高村様のおかげで、我が家は救われました」
だが、智広の軽はずみな行為は父親のプライドを傷つけてしまった。康太郎と智広の関係は、あっという間に広まったのだ。
周囲の手前、父親は智広を勘当するしかなかった。打ちひしがれる智広に、康太郎は甘い言葉を囁いた。愛していると口説き、その身体を蹂躙し続けた。
「心のどこかではわかっていたんです。愛しているというのが本心ではないと…。だけど、縋るしかなかった」
康太郎を愛していると錯覚する事で、智広は自身の心を守っていたのだ。そうでなければ、心はとっくに壊れていただろう。
「高村様からのお手当てを断ったのは、精一杯の意地でした」
康太郎からの金を受け取らない事だけが、智広の心を支えていた。自分は愛されているのだと、そう思い込むようにしたのだ。だが、康太郎の態度が冷たくなり心が折れてしまった。智広は、どんどん衰弱していった。
「そんな時に、あなたが来た」
智広の手が、恐る恐るというように慎一郎の頬を撫でる。
「あまりにも優しくされて、夢を見ているのかと思いました」
だが、次第に疑いを持ち始めた。康太郎がこんな優しいわけがない。不意に康太郎に弟がいる事を思い出した。双子のように似ていると…。
「もしかして、という考えが何度も浮かびました。でも、その度にそんなわけないと思っていたんです。でも、あの雨の夜…」
智広が自身の指を見つめる。激しい風と雨音のなか、智広は夢か現か区別がつかない世界をさ迷っていた。そこに慎一郎が駆けつけてきた。
「私の指を心配してくれましたよね」
「あ、ああ」
「高村様が、私の指など心配するわけない。それに、ピアノの音を嫌がらなかった。そこでわかりました」
智広が泣き出しそうな顔で慎一郎を見つめる。濡れた黒い瞳が、あの夜を思い出させた。初めて結ばれたあの夜を…。
「騙していたのは、私も同じです。あなたが私を好きだという気持ちを利用してしまいました」
智広の瞳から、とうとう涙が溢れた。
「あなたの優しさにつけこみ、あなたに抱かれ続けた。好きになってしまったから…」
慎一郎の唇が智広のそれを塞ぐ。もう言葉なんていらなかった。激しく舌を絡め合い、ベッドの上にどちらからともなく倒れ込んだ。
「ん…っ、あっ」
慎一郎が首筋を吸いながら乳首を弄れば、可愛らしい声が聞こえてくる。小さくてプクッとした乳首を、親指と人差し指でクリクリと擦れば智広の下半身がビクビクと反応した。太ももに当たるその熱さに、慎一郎は安堵した。
兄のフリなどしなくてもいいのだ。智広は慎一郎自身を好きでいてくれている。それだけで、十分だった。
「はぁ…っ、あっ、離れないで…っ、旦那様…っ」
少しでも身体を離そうとすると、智広がしがみついてくる。その細い腰を引き寄せ、密着したまま貫いた。慎一郎の男根が、いつもより熱い中へと強引に潜り込む。智広は全身に汗をかきながら、慎一郎を受け入れた。
「慎一郎と呼んでください。僕だけのものに、なってください」
緩やかに腰を動かしながら、慎一郎が懇願する。智広が唇をゆっくりと開けた。
「慎一郎、様…っ。あぁっ」
智広に名前を呼ばれた瞬間。慎一郎は一気に奥へと突き入れた。智広の中が、慎一郎を強く絡めとる。離れたくないと、愛しているという事が脈を通じて伝わってくる。慎一郎は、身体だけの欲望がいかに稚拙だったのかを思い知った。心も繋がった瞬間は、堪らなく幸福だった。智広を手放さないと、慎一郎は固く誓った。
数年という時がたった。
康太郎は度重なる浮気で醜聞を流し、とうとう離縁されたらしい。そんな風の噂など、慎一郎は露も気にしなかった。いつものように授業を終え、今年建てたばかりの我が家へと急ぐ。
小さい平屋だが、2人で暮らすには十分だった。
「ただいま。智」
『蜜月堂』の塩大福を土産に慎一郎が帰宅すると、智広がにこやかに出迎える。匂いからして、今夜はビーフシチューらしい。
「お帰りなさい。慎一郎さん」
「今日は久々に連弾でもしよう。何がいい?」
「『花のワルツ』はどうでしょう?」
「いいね。夕食を食べたら、一緒に弾こう」
他愛ない平凡な日々。だが、その平凡こそが慎一郎と智広が求めたものだった。
この作品は感想を受け付けておりません。
あなたにおすすめの小説
姫を拐ったはずが勇者を拐ってしまった魔王
ミクリ21
BL
姫が拐われた!
……と思って慌てた皆は、姫が無事なのをみて安心する。
しかし、魔王は確かに誰かを拐っていった。
誰が拐われたのかを調べる皆。
一方魔王は?
「姫じゃなくて勇者なんだが」
「え?」
姫を拐ったはずが、勇者を拐ったのだった!?
そのモブは、私の愛しい唯一無二
ミクリ21
BL
アズエル・ミスティアはある日、前世の記憶を思い出した。
所謂、BLゲームのモブに転生していたのだ。
しかし、アズエルにはおかしなことに思い出した記憶が一つだけではなかった。
最初はモブだと信じきっていたのに、副会長セス・フェリクスに迫られ続けるアズエルの話。
人気アイドルの俺、なぜかメンバー全員に好かれてます
七瀬
BL
デビュー4年目の人気アイドルグループ「ECLIPSE(エクリプス)」に所属する芹沢 美澄(せりざわみすみ)は、昔からどこか抜けていてマイペースな性格。
歌もダンスも決して一番ではないはずなのに、なぜかファンからもメンバーからも目を離されない存在だった。
世話焼きな幼なじみ、明るく距離の近い同い年、しっかり者で面倒見のいい年上、掴みどころのない自由人、そして無言で隣にいるリーダー——。
気づけば、美澄の周りにはいつも誰かがいて、当たり前のように甘やかされていく。
陛下の前で婚約破棄!………でも実は……(笑)
ミクリ21
BL
陛下を祝う誕生パーティーにて。
僕の婚約者のセレンが、僕に婚約破棄だと言い出した。
隣には、婚約者の僕ではなく元平民少女のアイルがいる。
僕を断罪するセレンに、僕は涙を流す。
でも、実はこれには訳がある。
知らないのは、アイルだけ………。
さぁ、楽しい楽しい劇の始まりさ〜♪
魔性の男
久野字
BL
俺はとにかくモテる。学生の頃から、社会人になった今でも、異性問わずにモテてしまう。
最近、さえない同性の先輩に好意を持たれている。いつものことだろう。いい人だから、傷つけたくはないな。
そう、思っていた。
また恋人に振られたので酒に飲まれていたらゴツい騎士に求婚していた件
月衣
BL
また恋人に振られた魔導省のエリート官吏アルヴィス。失恋のショックで酒に溺れた彼は勢いのまま酒場に現れた屈強な王宮騎士ガラティスに求婚してしまう。
翌朝すべての記憶を保持したまま絶望するアルヴィスだったが当のガラティスはなぜか本気だった。
「安心しろ。俺は誠実な男だ。一度決めたことは覆さない」
逃げようとするエリート魔導師と絶対に逃がさない最強騎士
貢ぎ体質な男が捕まる強制恋愛コメディのつもりです!!