3 / 5
第三話
モラハラ夫が知った妻の正体
しおりを挟む
「なんだ。この味噌汁は?お前、味見とかしないの?それとも味覚音痴なの?」
増田岳久は、わざと大きな音を立ててお椀をテーブルに置いた。向かい側に座っていた妻の綾奈がビクッと表情を凍らせる。視界の端で綾奈の怯えた顔を確認した岳久は、ニヤッと笑みを浮かべた。
「ご、ごめんなさい。しょっぱかったですか?何度も味見したんだけれど…」
賢明に言い訳をする綾奈を、岳久は視線だけで黙らせる。
「君は主婦になってから、もう1年もたつんだよ?なのに、いまだにちゃんとダシもとれないのかい?インスタントの味噌汁の方がよっぽどマシだね。こんな味噌汁しか作れなくて、よく僕の妻と名乗れるね」
反論しない綾奈に、岳久はなんとも言えない優越感を感じていた。このスカッとした感覚がたまらない。
(あ~、スッキリしたぁ)
会社では朝から晩まで上司に怒鳴られ、後輩からは無能と罵られている。せめて、家の中ぐらいは威張っていたいものだ。綾奈を責める事で、岳久はちっぽけな自尊心を復活させていた。
「早く作り直してくれ。僕に遅刻させる気か?」
「は、はい」
慌てふためく綾奈を見ながら、岳久はお気に入りのコーヒーをゆっくり飲んだ。やがて、綾奈が朝食を作り終えた頃を見計らって席を立つ。
「遅い。コンビニに寄るからいい」
冷たく告げて岳久は家を出た。今にも泣き出しそうな綾奈の顔が、岳久のストレスを軽くしてくれる。岳久は、学生時代から気が弱い男だった。人の意見にただ従うだけで、悪口を言われても反論さえできなかった。
(そういえば、昔レディースの総長に睨まれたっけ。怖かったなぁ)
覚えているのは、長い黒髪と真っ赤な口紅だけ。その頃の岳久は、超がつくほどのビビリで何もできなかった。
(なんて言ったけっな?あのヤンキー女)
その経験から、岳久はおとなしい女性とばかり付き合ってきた。そして、精神的に追い詰めてきたのだ。
25歳の時にマッチングアプリで知り合った綾奈は、とにかく気遣いの塊のような女性だった。ツヤツヤとした黒髪と白い肌が印象的で一目惚れをした。ノーメイクで、耳にはピアスの跡すらない。岳久の言葉に従順で、どんな無茶な要望にも耐え続けた。岳久が求めてきた女性そのものだった。
(そういやぁ、真冬にパジャマでベランダに立たせた事もあったっけ。そうそう。何時間もかけて作ったシチューを目の前で捨ててやったな。楽しかったぁ。あいつは、俺のストレスの捌け口としては有能だな)
綾奈というスポンジに、日頃の不満を全て吐き出した。そんな岳久に、またとないチャンスが訪れた。
「友達?」
「ええ。近くのファミレスに来てるんですって。ちょっと行ってきてもいいですか?」
ビクビクしながら尋ねる綾奈に、岳久は楽しげに笑みを浮かべた。
「僕も行ってもいいかな?君の友達に挨拶がしたいんだ」
言えば、綾奈がかなり動揺した。その様子に、ますます岳久は同行を希望した。
(友人達の前で、惨めな姿にしてやる)
岳久は、綾奈を友人達の前で辱めるつもりだったのだ。きっと、いつも以上に泣きそうな顔をするだろう。その顔が見たかった。
(おそらく、友達もこういうタイプなんだろう)
だが、ファミレスに一歩足を踏み入れた瞬間。岳久は、すぐにでも帰りたかった。なぜなら、広い店内を埋め尽くしているのは、茶髪に特攻服といういで立ちの少女達だったのだ。奥から、一人の女性が歩いてくる。岳久は、反射的に首を竦めた。
「綾奈さんっ。お久しぶりですっ」
まるで応援団のようにドスの効いた声を出し、女性が綺麗に敬礼する。すると、他の少女達もそれに倣った。
綾奈がスッと腕を組む。
「この子らかい?新しいメンバーは」
それは、岳久が聞いた事のない綾奈の声だった。
「てめぇら。あたしらのチームを引き継ぐ気なら、もっとシャキッとしなっ」
綾奈の怒鳴り声に、全員の背筋が伸びる。岳久の中で、思い出が鮮やかに蘇った。
(黒髪をなびかせ、たった一人でヤンキーを数十人倒したっていう伝説のレディースがいたよな?確か、名前はあや…)
そこまで考えた岳久は、思わず後ずさった。と、綾奈がニッコリ笑って振り向く。
「あなた。後輩を紹介するわね」
岳久は、震える自身の足を止められなかった。
「あなた。お味噌汁の味はどう?」
綾奈が心配そうに聞いてくる。
「美味いっ、美味いよっ。綾奈は料理の天才だね!」
岳久が褒めると、綾奈が恥ずかしそうに微笑んだ。
「君の料理は、何もかも美味しいよ」
岳久が褒めれば、綾奈が嬉しそうに微笑む。
(モラハラは、もうやめよう)
岳久は背筋を伸ばすと、引きつった笑みを見せた。
増田岳久は、わざと大きな音を立ててお椀をテーブルに置いた。向かい側に座っていた妻の綾奈がビクッと表情を凍らせる。視界の端で綾奈の怯えた顔を確認した岳久は、ニヤッと笑みを浮かべた。
「ご、ごめんなさい。しょっぱかったですか?何度も味見したんだけれど…」
賢明に言い訳をする綾奈を、岳久は視線だけで黙らせる。
「君は主婦になってから、もう1年もたつんだよ?なのに、いまだにちゃんとダシもとれないのかい?インスタントの味噌汁の方がよっぽどマシだね。こんな味噌汁しか作れなくて、よく僕の妻と名乗れるね」
反論しない綾奈に、岳久はなんとも言えない優越感を感じていた。このスカッとした感覚がたまらない。
(あ~、スッキリしたぁ)
会社では朝から晩まで上司に怒鳴られ、後輩からは無能と罵られている。せめて、家の中ぐらいは威張っていたいものだ。綾奈を責める事で、岳久はちっぽけな自尊心を復活させていた。
「早く作り直してくれ。僕に遅刻させる気か?」
「は、はい」
慌てふためく綾奈を見ながら、岳久はお気に入りのコーヒーをゆっくり飲んだ。やがて、綾奈が朝食を作り終えた頃を見計らって席を立つ。
「遅い。コンビニに寄るからいい」
冷たく告げて岳久は家を出た。今にも泣き出しそうな綾奈の顔が、岳久のストレスを軽くしてくれる。岳久は、学生時代から気が弱い男だった。人の意見にただ従うだけで、悪口を言われても反論さえできなかった。
(そういえば、昔レディースの総長に睨まれたっけ。怖かったなぁ)
覚えているのは、長い黒髪と真っ赤な口紅だけ。その頃の岳久は、超がつくほどのビビリで何もできなかった。
(なんて言ったけっな?あのヤンキー女)
その経験から、岳久はおとなしい女性とばかり付き合ってきた。そして、精神的に追い詰めてきたのだ。
25歳の時にマッチングアプリで知り合った綾奈は、とにかく気遣いの塊のような女性だった。ツヤツヤとした黒髪と白い肌が印象的で一目惚れをした。ノーメイクで、耳にはピアスの跡すらない。岳久の言葉に従順で、どんな無茶な要望にも耐え続けた。岳久が求めてきた女性そのものだった。
(そういやぁ、真冬にパジャマでベランダに立たせた事もあったっけ。そうそう。何時間もかけて作ったシチューを目の前で捨ててやったな。楽しかったぁ。あいつは、俺のストレスの捌け口としては有能だな)
綾奈というスポンジに、日頃の不満を全て吐き出した。そんな岳久に、またとないチャンスが訪れた。
「友達?」
「ええ。近くのファミレスに来てるんですって。ちょっと行ってきてもいいですか?」
ビクビクしながら尋ねる綾奈に、岳久は楽しげに笑みを浮かべた。
「僕も行ってもいいかな?君の友達に挨拶がしたいんだ」
言えば、綾奈がかなり動揺した。その様子に、ますます岳久は同行を希望した。
(友人達の前で、惨めな姿にしてやる)
岳久は、綾奈を友人達の前で辱めるつもりだったのだ。きっと、いつも以上に泣きそうな顔をするだろう。その顔が見たかった。
(おそらく、友達もこういうタイプなんだろう)
だが、ファミレスに一歩足を踏み入れた瞬間。岳久は、すぐにでも帰りたかった。なぜなら、広い店内を埋め尽くしているのは、茶髪に特攻服といういで立ちの少女達だったのだ。奥から、一人の女性が歩いてくる。岳久は、反射的に首を竦めた。
「綾奈さんっ。お久しぶりですっ」
まるで応援団のようにドスの効いた声を出し、女性が綺麗に敬礼する。すると、他の少女達もそれに倣った。
綾奈がスッと腕を組む。
「この子らかい?新しいメンバーは」
それは、岳久が聞いた事のない綾奈の声だった。
「てめぇら。あたしらのチームを引き継ぐ気なら、もっとシャキッとしなっ」
綾奈の怒鳴り声に、全員の背筋が伸びる。岳久の中で、思い出が鮮やかに蘇った。
(黒髪をなびかせ、たった一人でヤンキーを数十人倒したっていう伝説のレディースがいたよな?確か、名前はあや…)
そこまで考えた岳久は、思わず後ずさった。と、綾奈がニッコリ笑って振り向く。
「あなた。後輩を紹介するわね」
岳久は、震える自身の足を止められなかった。
「あなた。お味噌汁の味はどう?」
綾奈が心配そうに聞いてくる。
「美味いっ、美味いよっ。綾奈は料理の天才だね!」
岳久が褒めると、綾奈が恥ずかしそうに微笑んだ。
「君の料理は、何もかも美味しいよ」
岳久が褒めれば、綾奈が嬉しそうに微笑む。
(モラハラは、もうやめよう)
岳久は背筋を伸ばすと、引きつった笑みを見せた。
10
あなたにおすすめの小説
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる