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6月の花嫁
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もう、結婚式は始まってるのかな。
公園のベンチに座り、彩葵は晴れ渡った空を眺めていた。今日は、親友・夏菜の結婚式。6月の花嫁は幸せになれると、何かの雑誌に書いてあった。本当だったら、彩葵は友人代表として挨拶する事になっている。だが、彩葵は会場とは逆方向の公園にいる。
「…裏切り者」
彩葵がポツリと呟く。
彩葵と夏菜は保育園からの仲だった。学校もクラスも同じ、部活も一緒だった。キャリアウーマンを目指していた2人は、互いに独身を貫こうと誓い合ったのだ。
『将来は一緒に暮らそうよ。私と彩葵は、一心同体なんだから』
明るくハキハキとした性格をしている夏菜。ショートカットの髪型に、メイクもほぼしていない。メンズものをよく着ていたから、男と間違えられる事もしばしばあった。そんな飾り気のない夏菜が好きだった。恋より友情。それが2人の合言葉だったのに…。
「なのに、なのに、結婚だなんてっ。嘘つき女っ」
大声で叫んだものの、空しいだけだった。彩葵だってわかっている。夏菜は出会ってしまったのだ。自分の考えを180度変えてしまうぐらいの素敵な人に…。ただ悔しかったのだ。女の友情に簡単にヒビを入れる夏菜の事が、腹正しかった。だが、時間がたてばたつほど後悔の2文字が浮かぶ。
(…なんで、言えなかったんだろう)
本当は、おめでとうと言うはずだった。だが、夏菜があまりにも嬉しそうな姿に苛立ちを覚えてしまった。
『彩葵も早く素敵な人見つけなよ』
夏菜の笑顔が、なんだか許せなかった。ずっと隣に並んでいたのに、上から見下ろされているような、そんな気がしたのだ。結婚式の招待状がきた時も、友人代表の挨拶を頼まれた時も、苛立ちは消えてくれなかった。
このまま結婚式に行ったら、きっと自分はとんでもない事を言ってしまう。夏菜の素敵な日を台無しにしてしまう。
そう思って、彩葵は式場には行かなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけられ振り向けば、2歳ぐらいの男の子を抱いた女性が心配そうに自分を見ていた。女性はポケットティッシュを彩葵に差し出す。
「せっかくのメイクが、涙でぐしゃぐしゃですよ」
優しい声だった。その優しい声は、彩葵の涙を更に誘った。女性は横に座ると、彩葵の背中を優しくさすってくれた。まるで母親みたいに。
「よかったら、話してみませんか?誰かに話したら、きっとスッキリしますよ」
言われるがまま、彩葵は自分の気持ちを素直に吐露した。それはきっと、彼女が知らない人だったからだろう。名前も素性も知らないから、自分の弱さも嫌なところも言えた。SNSにも書けないような、そんなドロドロとした気持ちも…。
「私って、嫌な女ですよね?親友の結婚も祝ってあげられない」
彩葵が自嘲気味に笑えば、女性はそんな事ないと言ってくれた。
「実はね、私も結婚しないって思ってたの」
「そうなんですか?」
「仕事も楽しかったし、結婚なんて煩わしいだけでしょ?こう見えても、昔はマスコミ関係で働いてたの」
教えてもらったテレビ局は、ヒット作ばかり出す事で有名だった。女性はそこで、生涯のパートナーと出会ったらしい。
「イケメンでもないし、すごく才能があるわけじゃないの。でも、私にない物を全て持ってた。仕事に対する情熱や、包み込むような優しさ。キラキラした綺麗な感情を、私に教えてくれたの」
そう語る女性の瞳は、とても綺麗だった。夏菜と同じように…。彩葵は、夏菜の気持ちがやっとわかった気がした。そして、なぜこんなにもイライラしているのか。
「あ、ごめんなさいっ。1人でベラベラと…」
「いえ。ありがとうございます」
彩葵はペコッと頭を下げた。
「私、悔しかったんです。ずっと一緒に走ってきたのに、彼女ばかり先を走って…。追い付けない自分が嫌で…。彼女は何も悪くないのに。勝手にいじけて…。自分の手で、大切なものを壊してしまった…」
言いながら、彩葵の瞳からまたポロポロ涙が零れる。かけがえのない友情を、自分の手で壊してしまった。後悔しても、もう元には戻らない。
「だいじょーぶ」
ふと小さな手が頬に触れる。
「ごめんなさい、したら、だいじょーぶ」
「だ、大樹っ。ごめんなさいっ」
女性の腕の中で、純粋なまっすぐな瞳が見つめてくる。
「ぼくも、ケンちゃんにごめんなさいした」
「え?」
言っている意味がわからなくてキョトンとしていれば、女性が補足をしてくれた。
「この間、大樹ったら友達のオモチャを壊してしまって。口をきいてもらえなかったんです。でも、謝りにいったらまた元通りで…」
子供って単純ですよね。
女性が笑う。
彩葵も、笑えた。
ああ、答えは至ってシンプルなのだ。悪い事をしたと思ったら、謝らなければ…。
「私、式場に行きます。行って、ちゃんと謝ってきます」
晴れ晴れとした笑顔を見せた彩葵は、タクシーで式場へと向かった。メイクも落ちて、汗だくだったけど、夏菜は笑顔で抱き締めてくれた。
「ごめんね、夏菜。おめでとう」
「ありがとう。彩葵」
「幸せになってね」
彩葵は、心の底から彩葵を祝福できた。
6月の晴れの日。
彩葵の自慢の親友は、純白のウェディングドレスに身を包み幸せな花嫁となった。
公園のベンチに座り、彩葵は晴れ渡った空を眺めていた。今日は、親友・夏菜の結婚式。6月の花嫁は幸せになれると、何かの雑誌に書いてあった。本当だったら、彩葵は友人代表として挨拶する事になっている。だが、彩葵は会場とは逆方向の公園にいる。
「…裏切り者」
彩葵がポツリと呟く。
彩葵と夏菜は保育園からの仲だった。学校もクラスも同じ、部活も一緒だった。キャリアウーマンを目指していた2人は、互いに独身を貫こうと誓い合ったのだ。
『将来は一緒に暮らそうよ。私と彩葵は、一心同体なんだから』
明るくハキハキとした性格をしている夏菜。ショートカットの髪型に、メイクもほぼしていない。メンズものをよく着ていたから、男と間違えられる事もしばしばあった。そんな飾り気のない夏菜が好きだった。恋より友情。それが2人の合言葉だったのに…。
「なのに、なのに、結婚だなんてっ。嘘つき女っ」
大声で叫んだものの、空しいだけだった。彩葵だってわかっている。夏菜は出会ってしまったのだ。自分の考えを180度変えてしまうぐらいの素敵な人に…。ただ悔しかったのだ。女の友情に簡単にヒビを入れる夏菜の事が、腹正しかった。だが、時間がたてばたつほど後悔の2文字が浮かぶ。
(…なんで、言えなかったんだろう)
本当は、おめでとうと言うはずだった。だが、夏菜があまりにも嬉しそうな姿に苛立ちを覚えてしまった。
『彩葵も早く素敵な人見つけなよ』
夏菜の笑顔が、なんだか許せなかった。ずっと隣に並んでいたのに、上から見下ろされているような、そんな気がしたのだ。結婚式の招待状がきた時も、友人代表の挨拶を頼まれた時も、苛立ちは消えてくれなかった。
このまま結婚式に行ったら、きっと自分はとんでもない事を言ってしまう。夏菜の素敵な日を台無しにしてしまう。
そう思って、彩葵は式場には行かなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけられ振り向けば、2歳ぐらいの男の子を抱いた女性が心配そうに自分を見ていた。女性はポケットティッシュを彩葵に差し出す。
「せっかくのメイクが、涙でぐしゃぐしゃですよ」
優しい声だった。その優しい声は、彩葵の涙を更に誘った。女性は横に座ると、彩葵の背中を優しくさすってくれた。まるで母親みたいに。
「よかったら、話してみませんか?誰かに話したら、きっとスッキリしますよ」
言われるがまま、彩葵は自分の気持ちを素直に吐露した。それはきっと、彼女が知らない人だったからだろう。名前も素性も知らないから、自分の弱さも嫌なところも言えた。SNSにも書けないような、そんなドロドロとした気持ちも…。
「私って、嫌な女ですよね?親友の結婚も祝ってあげられない」
彩葵が自嘲気味に笑えば、女性はそんな事ないと言ってくれた。
「実はね、私も結婚しないって思ってたの」
「そうなんですか?」
「仕事も楽しかったし、結婚なんて煩わしいだけでしょ?こう見えても、昔はマスコミ関係で働いてたの」
教えてもらったテレビ局は、ヒット作ばかり出す事で有名だった。女性はそこで、生涯のパートナーと出会ったらしい。
「イケメンでもないし、すごく才能があるわけじゃないの。でも、私にない物を全て持ってた。仕事に対する情熱や、包み込むような優しさ。キラキラした綺麗な感情を、私に教えてくれたの」
そう語る女性の瞳は、とても綺麗だった。夏菜と同じように…。彩葵は、夏菜の気持ちがやっとわかった気がした。そして、なぜこんなにもイライラしているのか。
「あ、ごめんなさいっ。1人でベラベラと…」
「いえ。ありがとうございます」
彩葵はペコッと頭を下げた。
「私、悔しかったんです。ずっと一緒に走ってきたのに、彼女ばかり先を走って…。追い付けない自分が嫌で…。彼女は何も悪くないのに。勝手にいじけて…。自分の手で、大切なものを壊してしまった…」
言いながら、彩葵の瞳からまたポロポロ涙が零れる。かけがえのない友情を、自分の手で壊してしまった。後悔しても、もう元には戻らない。
「だいじょーぶ」
ふと小さな手が頬に触れる。
「ごめんなさい、したら、だいじょーぶ」
「だ、大樹っ。ごめんなさいっ」
女性の腕の中で、純粋なまっすぐな瞳が見つめてくる。
「ぼくも、ケンちゃんにごめんなさいした」
「え?」
言っている意味がわからなくてキョトンとしていれば、女性が補足をしてくれた。
「この間、大樹ったら友達のオモチャを壊してしまって。口をきいてもらえなかったんです。でも、謝りにいったらまた元通りで…」
子供って単純ですよね。
女性が笑う。
彩葵も、笑えた。
ああ、答えは至ってシンプルなのだ。悪い事をしたと思ったら、謝らなければ…。
「私、式場に行きます。行って、ちゃんと謝ってきます」
晴れ晴れとした笑顔を見せた彩葵は、タクシーで式場へと向かった。メイクも落ちて、汗だくだったけど、夏菜は笑顔で抱き締めてくれた。
「ごめんね、夏菜。おめでとう」
「ありがとう。彩葵」
「幸せになってね」
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