優しさの輪が広がる

すいかちゃん

文字の大きさ
2 / 6

6月の花嫁

しおりを挟む
もう、結婚式は始まってるのかな。
公園のベンチに座り、彩葵は晴れ渡った空を眺めていた。今日は、親友・夏菜の結婚式。6月の花嫁は幸せになれると、何かの雑誌に書いてあった。本当だったら、彩葵は友人代表として挨拶する事になっている。だが、彩葵は会場とは逆方向の公園にいる。
「…裏切り者」
彩葵がポツリと呟く。
彩葵と夏菜は保育園からの仲だった。学校もクラスも同じ、部活も一緒だった。キャリアウーマンを目指していた2人は、互いに独身を貫こうと誓い合ったのだ。

『将来は一緒に暮らそうよ。私と彩葵は、一心同体なんだから』

明るくハキハキとした性格をしている夏菜。ショートカットの髪型に、メイクもほぼしていない。メンズものをよく着ていたから、男と間違えられる事もしばしばあった。そんな飾り気のない夏菜が好きだった。恋より友情。それが2人の合言葉だったのに…。
「なのに、なのに、結婚だなんてっ。嘘つき女っ」
大声で叫んだものの、空しいだけだった。彩葵だってわかっている。夏菜は出会ってしまったのだ。自分の考えを180度変えてしまうぐらいの素敵な人に…。ただ悔しかったのだ。女の友情に簡単にヒビを入れる夏菜の事が、腹正しかった。だが、時間がたてばたつほど後悔の2文字が浮かぶ。
(…なんで、言えなかったんだろう)
本当は、おめでとうと言うはずだった。だが、夏菜があまりにも嬉しそうな姿に苛立ちを覚えてしまった。

『彩葵も早く素敵な人見つけなよ』

夏菜の笑顔が、なんだか許せなかった。ずっと隣に並んでいたのに、上から見下ろされているような、そんな気がしたのだ。結婚式の招待状がきた時も、友人代表の挨拶を頼まれた時も、苛立ちは消えてくれなかった。
このまま結婚式に行ったら、きっと自分はとんでもない事を言ってしまう。夏菜の素敵な日を台無しにしてしまう。
そう思って、彩葵は式場には行かなかった。
「あの、大丈夫ですか?」
声をかけられ振り向けば、2歳ぐらいの男の子を抱いた女性が心配そうに自分を見ていた。女性はポケットティッシュを彩葵に差し出す。
「せっかくのメイクが、涙でぐしゃぐしゃですよ」
優しい声だった。その優しい声は、彩葵の涙を更に誘った。女性は横に座ると、彩葵の背中を優しくさすってくれた。まるで母親みたいに。
「よかったら、話してみませんか?誰かに話したら、きっとスッキリしますよ」
言われるがまま、彩葵は自分の気持ちを素直に吐露した。それはきっと、彼女が知らない人だったからだろう。名前も素性も知らないから、自分の弱さも嫌なところも言えた。SNSにも書けないような、そんなドロドロとした気持ちも…。
「私って、嫌な女ですよね?親友の結婚も祝ってあげられない」
彩葵が自嘲気味に笑えば、女性はそんな事ないと言ってくれた。
「実はね、私も結婚しないって思ってたの」
「そうなんですか?」
「仕事も楽しかったし、結婚なんて煩わしいだけでしょ?こう見えても、昔はマスコミ関係で働いてたの」
教えてもらったテレビ局は、ヒット作ばかり出す事で有名だった。女性はそこで、生涯のパートナーと出会ったらしい。
「イケメンでもないし、すごく才能があるわけじゃないの。でも、私にない物を全て持ってた。仕事に対する情熱や、包み込むような優しさ。キラキラした綺麗な感情を、私に教えてくれたの」
そう語る女性の瞳は、とても綺麗だった。夏菜と同じように…。彩葵は、夏菜の気持ちがやっとわかった気がした。そして、なぜこんなにもイライラしているのか。
「あ、ごめんなさいっ。1人でベラベラと…」
「いえ。ありがとうございます」
彩葵はペコッと頭を下げた。
「私、悔しかったんです。ずっと一緒に走ってきたのに、彼女ばかり先を走って…。追い付けない自分が嫌で…。彼女は何も悪くないのに。勝手にいじけて…。自分の手で、大切なものを壊してしまった…」
言いながら、彩葵の瞳からまたポロポロ涙が零れる。かけがえのない友情を、自分の手で壊してしまった。後悔しても、もう元には戻らない。
「だいじょーぶ」
ふと小さな手が頬に触れる。
「ごめんなさい、したら、だいじょーぶ」
「だ、大樹っ。ごめんなさいっ」
女性の腕の中で、純粋なまっすぐな瞳が見つめてくる。
「ぼくも、ケンちゃんにごめんなさいした」
「え?」
言っている意味がわからなくてキョトンとしていれば、女性が補足をしてくれた。
「この間、大樹ったら友達のオモチャを壊してしまって。口をきいてもらえなかったんです。でも、謝りにいったらまた元通りで…」
子供って単純ですよね。
女性が笑う。
彩葵も、笑えた。
ああ、答えは至ってシンプルなのだ。悪い事をしたと思ったら、謝らなければ…。
「私、式場に行きます。行って、ちゃんと謝ってきます」
晴れ晴れとした笑顔を見せた彩葵は、タクシーで式場へと向かった。メイクも落ちて、汗だくだったけど、夏菜は笑顔で抱き締めてくれた。
「ごめんね、夏菜。おめでとう」
「ありがとう。彩葵」
「幸せになってね」
彩葵は、心の底から彩葵を祝福できた。
6月の晴れの日。
彩葵の自慢の親友は、純白のウェディングドレスに身を包み幸せな花嫁となった。





しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

残業で疲れたあなたのために

にのみや朱乃
大衆娯楽
(性的描写あり) 残業で会社に残っていた佐藤に、同じように残っていた田中が声をかける。 それは二人の秘密の合図だった。 誰にも話せない夜が始まる。

一途な恋

凛子
恋愛
貴方だけ見つめてる……

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

盗み聞き

凛子
恋愛
あ、そういうこと。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

✿ 私は夫のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

処理中です...