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友情のカード
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ここにもない。
図書館のカウンターに置かれた『落とし物』と書かれた小さな箱。ハンカチや定期券、老眼鏡などが置かれていた。だが、健一の宝物はそこにもなかった。
(誰かに聞いた方がいいのかな。でも…)
もしこれが、財布や時計だったなら健一も迷わず聞いただろう。だが、健一が探しているのはいわゆるバトルカードなのだ。
(きっと笑われる)
健一は必死に記憶を辿った。昨日の午後。宿題をするために図書館へ来た。目当ての参考書がなかなか見つからなくて、いつもは行かない2階へと向かった。
(そうだ。2階の奥で誰かにぶつかったんだ。僕のカバンが落ちて、中身が…)
健一は階段を駆け上がった。奥には地理に関する本が並んでいて、そこで体格の良いサラリーマンとぶつかったのだ。
(もしかして、棚の隙間とかに入っちゃったかも…)
床を這いつくばって探してみても、やはり見つからなかった。もしかして、もう見つからないかもしれない。そう思うと、ジンワリと涙が溢れてきた。
別にレアカードとかではない。買おうと思えば、いつだって買えるのだ。だが、健一にとってそのカードは友情の証なのだ。もし失くしてしまったら…。
「大丈夫?」
「え?」
顔を上げると、1人の女性が心配そうに健一を見ていた。健一は慌てて起き上がり、ペコッと頭を下げた。
「な、なんでもないですっ」
そのまま去ろうとしたら、女性がガッシリと腕を掴んでくる。
「なんでもないって顔じゃないわね。なにか探し物?」
健一は、泣きそうな顔でコクンッと頷いた。そして、事の経緯を説明した。
「あー、『ドラゴンウエストカーニバル』ね。甥っ子が好きだったわ」
女性がケラケラと笑う。20代後半ぐらいで、なかなかの美人だ。母親や教師以外の女性と話す機会がない健一としてはそれだけでドキドキしてしまう。
「また買えば良いんじゃないの?人気作だし、リサイクルショップでも売ってるわよ」
「ダメなんですっ。あれは、友情のカードだからっ」
「友情のカード?」
健一には、航太という幼馴染みがいる。小学5年の頃、2人は『ドラゴンレイヤーカーニバル』にすっかりはまってしまった。駄菓子屋でバトルカードを買っては、家や公園で遊んだ。だが、翌年。航太は父親の都合でアメリカへ引っ越す事になってしまった。
『これ。今度会う時まで、健一が持っててよ。友情の証として』
空港で泣きながらくれたカード。2人が大好きだった『ウエスタンマン』が描かれていた。
「航太、来週に日本に帰ってくるんです。だから、あのカードは失くすわけにいかないんです」
ポツリポツリと健一が話すと、女性はなにかを考え込んでいた。そして、スマホで健一が探しているカードを検索する。
「このカードよね」
「は、はいっ」
「一緒に探しましょ」
こうして、2人は図書館の机や椅子の下。棚の隙間などを探しまくった。が、2時間ほどしても見つかる気配さえなかった。
「さすがに難しいわね」
女性がグッタリと椅子に凭れる。汗でメイクは落ちてきて、髪型も崩れてしまった。健一はしょんぼりと頭を下げる。
「もういいです。きっと、誰かに拾われたか、捨てられたんです」
世界にたった1枚しかない特別なカード。失くしたと言っても、きっと航太は笑って許してくれる。でも、健一は自分で自分が許せない。大切なカードを失くした自分を…。
「ねぇ。諦めるの、早くない?」
「え?」
「大切な友情カードなんでしょ?」
女性が健一をジッと見つめる。大人の女性とこんなに接近した事がない健一は、不謹慎だがドキドキした。
「司書さんに聞いてみましょ。それから、掃除の担当者さんにも」
健一は不思議だった。なぜ、見ず知らずの自分のためなんかに一生懸命になってくれるのか。健一の視線に気がついたのか、女性がクスッと笑う。
「私にも、大切な親友がいるの。昨日はその子の結婚式だったんだ。なのに、私ったらいじけちゃって…」
女性が遠い目をして窓の外を見る。健一は、少しだけ女性の気持ちがわかった気がした。
「私の親友は、彼女だけなのに…。彼女との友情が壊れなくて、本当に良かったわ。だから、君にも友情を壊してほしくない」
女性は司書に事情を話した。
「カードですか?昨日は違う者が担当していて…」
「…そうですか」
健一と女性がガッカリしていれば、奥から恰幅がいい男性が出てきた。
「そのカードって、もしかしてこれかい?」
差し出されたのは、間違いなくあのカードだ。健一の瞳がパッと輝く。
男性はニコニコ笑い、昨日の事を教えてくれた。
「小さな男の子が拾ってくれたんだよ。落とし物の箱に入れておくと、傷がついてしまいそうだったからね。事務所で預かっておいたんだ」
「ありがとうございますっ」
健一は何度も礼を言って図書館を出た。
多くの人が協力してくれたおかげで、健一の友情カードは守られたのだ。
図書館のカウンターに置かれた『落とし物』と書かれた小さな箱。ハンカチや定期券、老眼鏡などが置かれていた。だが、健一の宝物はそこにもなかった。
(誰かに聞いた方がいいのかな。でも…)
もしこれが、財布や時計だったなら健一も迷わず聞いただろう。だが、健一が探しているのはいわゆるバトルカードなのだ。
(きっと笑われる)
健一は必死に記憶を辿った。昨日の午後。宿題をするために図書館へ来た。目当ての参考書がなかなか見つからなくて、いつもは行かない2階へと向かった。
(そうだ。2階の奥で誰かにぶつかったんだ。僕のカバンが落ちて、中身が…)
健一は階段を駆け上がった。奥には地理に関する本が並んでいて、そこで体格の良いサラリーマンとぶつかったのだ。
(もしかして、棚の隙間とかに入っちゃったかも…)
床を這いつくばって探してみても、やはり見つからなかった。もしかして、もう見つからないかもしれない。そう思うと、ジンワリと涙が溢れてきた。
別にレアカードとかではない。買おうと思えば、いつだって買えるのだ。だが、健一にとってそのカードは友情の証なのだ。もし失くしてしまったら…。
「大丈夫?」
「え?」
顔を上げると、1人の女性が心配そうに健一を見ていた。健一は慌てて起き上がり、ペコッと頭を下げた。
「な、なんでもないですっ」
そのまま去ろうとしたら、女性がガッシリと腕を掴んでくる。
「なんでもないって顔じゃないわね。なにか探し物?」
健一は、泣きそうな顔でコクンッと頷いた。そして、事の経緯を説明した。
「あー、『ドラゴンウエストカーニバル』ね。甥っ子が好きだったわ」
女性がケラケラと笑う。20代後半ぐらいで、なかなかの美人だ。母親や教師以外の女性と話す機会がない健一としてはそれだけでドキドキしてしまう。
「また買えば良いんじゃないの?人気作だし、リサイクルショップでも売ってるわよ」
「ダメなんですっ。あれは、友情のカードだからっ」
「友情のカード?」
健一には、航太という幼馴染みがいる。小学5年の頃、2人は『ドラゴンレイヤーカーニバル』にすっかりはまってしまった。駄菓子屋でバトルカードを買っては、家や公園で遊んだ。だが、翌年。航太は父親の都合でアメリカへ引っ越す事になってしまった。
『これ。今度会う時まで、健一が持っててよ。友情の証として』
空港で泣きながらくれたカード。2人が大好きだった『ウエスタンマン』が描かれていた。
「航太、来週に日本に帰ってくるんです。だから、あのカードは失くすわけにいかないんです」
ポツリポツリと健一が話すと、女性はなにかを考え込んでいた。そして、スマホで健一が探しているカードを検索する。
「このカードよね」
「は、はいっ」
「一緒に探しましょ」
こうして、2人は図書館の机や椅子の下。棚の隙間などを探しまくった。が、2時間ほどしても見つかる気配さえなかった。
「さすがに難しいわね」
女性がグッタリと椅子に凭れる。汗でメイクは落ちてきて、髪型も崩れてしまった。健一はしょんぼりと頭を下げる。
「もういいです。きっと、誰かに拾われたか、捨てられたんです」
世界にたった1枚しかない特別なカード。失くしたと言っても、きっと航太は笑って許してくれる。でも、健一は自分で自分が許せない。大切なカードを失くした自分を…。
「ねぇ。諦めるの、早くない?」
「え?」
「大切な友情カードなんでしょ?」
女性が健一をジッと見つめる。大人の女性とこんなに接近した事がない健一は、不謹慎だがドキドキした。
「司書さんに聞いてみましょ。それから、掃除の担当者さんにも」
健一は不思議だった。なぜ、見ず知らずの自分のためなんかに一生懸命になってくれるのか。健一の視線に気がついたのか、女性がクスッと笑う。
「私にも、大切な親友がいるの。昨日はその子の結婚式だったんだ。なのに、私ったらいじけちゃって…」
女性が遠い目をして窓の外を見る。健一は、少しだけ女性の気持ちがわかった気がした。
「私の親友は、彼女だけなのに…。彼女との友情が壊れなくて、本当に良かったわ。だから、君にも友情を壊してほしくない」
女性は司書に事情を話した。
「カードですか?昨日は違う者が担当していて…」
「…そうですか」
健一と女性がガッカリしていれば、奥から恰幅がいい男性が出てきた。
「そのカードって、もしかしてこれかい?」
差し出されたのは、間違いなくあのカードだ。健一の瞳がパッと輝く。
男性はニコニコ笑い、昨日の事を教えてくれた。
「小さな男の子が拾ってくれたんだよ。落とし物の箱に入れておくと、傷がついてしまいそうだったからね。事務所で預かっておいたんだ」
「ありがとうございますっ」
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多くの人が協力してくれたおかげで、健一の友情カードは守られたのだ。
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