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第二話
嫌いになれたらいいのに
優真が通う高校は、県内唯一の男子校だった。幼少の頃から身体が小さく、内気で引っ込み思案だったため父親が無理矢理入学させたのだ。保健委員を選んだのは、誰もなりたがる人がいなかったから。それに、保健室にいれば他の生徒と顔を合わせる事が無いためだ。
(はぁ。ヤンキーがこんなに多いなんて聞いてないよぉ)
優真は誰もいない保健室で、ぐったりと机に突っ伏した。生徒の半分近くはヤンキーのため、しょっちゅうケンカで怪我をした生徒がやってくる。
「保健委員。いるか?」
ガラッと音を立てて入ってきた生徒に、優真はビクッとしながらもホッとした。
「柳田くん」
柳田一樹は、見た目も鮮やかな金髪と日焼けした肌をしていてかなり目立っていた。ややつり目がちな目元と、真一文字に結んだ唇が彼を強面に見せていた。だが、優真は知っている。一樹は笑うと、とても優しいのだ。
この日も、擦り傷だらけの腕に丁寧に包帯を巻いた。ふと視線に気がつき顔を上げると、自分をジッと見つめる一樹と目が合った。
「な、何?」
「いや。何でもない」
初めて間近で見た一樹の瞳は、淡い茶色をしていて、とても優しかった。その瞳にずっと見つめられたい。優真は、そんな事を無意識に考えていた。だが、そんな淡い恋心は見事に砕け散った。一樹は、優真の事をうざいと思っていたのだ。顔も見たくないと…。
(身体が、ギシギシする)
ぼんやりと目を開けた優真は、自身の身体が鉛のように重たい事に眉を寄せた。眼鏡もコンタクトレンズもしていないため、視界がぼやけるのだ。
(なんか、あったかい…)
クーラーがきいた部屋の中、優真は自分の身体がポカポカと暖かい事に笑みを浮かべた。
(気持ちいい…)
優真は、頬に当たる柔らかな感触に視線をゆっくり上げた。と、そこには信じられない人物が微笑んでいた。
「よぉ」
「や、柳田くん…?」
優真の記憶が、まるで波のように押し寄せてくる。結婚式の後、リムジンの中でシャンパンを渡され、酔って抵抗できない身体を…。
「や…っ」
慌てて両手を突っぱねて一樹を押し退けようとするも、鋼のような身体はビクともしない。
「離して…っ、やだ…っ」
またあんな思いをするのかと、優真はしゃにむに暴れた。あんな、恥ずかしくて、痛くて、辛くて、気持ちよくて…なんて。
「落ち着けっ。暴れるな、優真」
一樹は、まるで駄々っ子を叱るように言う。その冷静さに、優真はキッと睨みをきかせる。
「どういうつもりだよっ。僕の事が嫌いなんだろっ。なのに、こんな…」
「嫌いなんて誰が言ったっ。好きだからに決まってんだろっ」
大声で怒鳴った一樹は、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「悪かったよ。いくらお前の事が好きだからって…」
「えっ。ま、待って。誰が誰を好きだって?」
聞けば、一樹は優真と自分を交互に指差した。
「車ん中で言ったろ?お前の事がずっと好きだったって。お前も頷いたじゃねーか」
そんなはずないと言おうとして、優真はハッとなった。そういえば、リムジンで何かを囁かれた。よく聞こえなかったから取り敢えず頷いたが、そういう事だったのかと優真は唖然とした。そんな優真の動揺を知ってか知らずか、一樹が照れたように笑う。
「わかってもらえた事が、なんかすっげー嬉しくてさ。我慢ができなかったんだ」
一樹の視線が優真の顔から下の方へとゆっくり移動する。優真は、自分の状態にハッとした。シルクのパジャマという出で立ちの一樹と違い、優真は全裸なのだ。当然だが、乳首も性器もモロ見えである。
「や、やだっ。離して…っ」
「落ち着けって。安心しろ。襲ったりしないから」
一樹は、優真を胸に抱き締めて何度も謝った。そして、何度も好きだと囁いた。初めて会った時から、ずっと好きだったと…。
「ゲイの噂がたって困っていたのは本当だ。だけど、優真以外にならこんな事は頼まなかった」
トクンッ、トクンッと優真の鼓動が高まる。本当なら怒らなくてはいけないのに、心のどこかで嬉しいと感じている。一樹を、嫌いになれない。
優真は、抱き締められたまま目を閉じた。
「どうでしたか?藤田の様子は」
リビングへ向かうと、心配そうな表情をして秘書兼運転手の藤堂颯真が立っていた。サラサラとした黒髪に銀縁の眼鏡。絵に描いたような真面目そうな男だった。一樹や優真とは高校時代からのクラスメイトで、かつては生徒会長を務めていた。
「まだわからない。かなり混乱しているようだったからな」
「…でしょうね」
一樹だってわかっている。自分がした事は理不尽この上ない。だが、一樹はどうしても優真が欲しかった。
「なんだか、誤解があったようなんだ」
優真は、なぜか一樹に嫌われていると思っていたらしい。まずはその誤解を解かなくては…。
「わかっていると思いますが、今後は藤田の気持ちを無視した行為はしないでください」
藤堂が静かな口調で諭す。元々、一樹の作戦には反対だったのだ。一樹がうるさそうにシッシッと手で藤堂を追い払う。
「わかってるよ。もし優真がどうしても嫌だって言うなら、この話は白紙にする」
藤堂がヤレヤレという表情で出ていったのとほぼ同時に、優真が階段を降りてくる。腰を庇いながらの様子に、一樹は慌てて支えに走った。だが、少しだけ腕に触れただけで弾かれた。
「…優真」
「ご、ごめん。あの、結婚の事なんだけど…」
優真は手すりにしがみつくと、しどろもどろに自分の気持ちを伝えた。
「柳田くんの事は、嫌いじゃない。困っているなら、役に立ちたい。だから、しばらくなら奥さんのフリをするよ」
「優真っ」
「そ、その代わり。給料はちゃんと貰うからね。それに、次の仕事が見つかったら離婚する」
口早に告げる優真に、一樹はニコニコと笑みを浮かべた。
「わかった。それまでは俺の嫁って事だな」
「わっ。何する…っ、んっ」
嬉しさのあまり、一樹が優真の唇を塞ぐ。その直後、優真の平手が一樹の頬を打ったのは言うまでもない。
(はぁ。ヤンキーがこんなに多いなんて聞いてないよぉ)
優真は誰もいない保健室で、ぐったりと机に突っ伏した。生徒の半分近くはヤンキーのため、しょっちゅうケンカで怪我をした生徒がやってくる。
「保健委員。いるか?」
ガラッと音を立てて入ってきた生徒に、優真はビクッとしながらもホッとした。
「柳田くん」
柳田一樹は、見た目も鮮やかな金髪と日焼けした肌をしていてかなり目立っていた。ややつり目がちな目元と、真一文字に結んだ唇が彼を強面に見せていた。だが、優真は知っている。一樹は笑うと、とても優しいのだ。
この日も、擦り傷だらけの腕に丁寧に包帯を巻いた。ふと視線に気がつき顔を上げると、自分をジッと見つめる一樹と目が合った。
「な、何?」
「いや。何でもない」
初めて間近で見た一樹の瞳は、淡い茶色をしていて、とても優しかった。その瞳にずっと見つめられたい。優真は、そんな事を無意識に考えていた。だが、そんな淡い恋心は見事に砕け散った。一樹は、優真の事をうざいと思っていたのだ。顔も見たくないと…。
(身体が、ギシギシする)
ぼんやりと目を開けた優真は、自身の身体が鉛のように重たい事に眉を寄せた。眼鏡もコンタクトレンズもしていないため、視界がぼやけるのだ。
(なんか、あったかい…)
クーラーがきいた部屋の中、優真は自分の身体がポカポカと暖かい事に笑みを浮かべた。
(気持ちいい…)
優真は、頬に当たる柔らかな感触に視線をゆっくり上げた。と、そこには信じられない人物が微笑んでいた。
「よぉ」
「や、柳田くん…?」
優真の記憶が、まるで波のように押し寄せてくる。結婚式の後、リムジンの中でシャンパンを渡され、酔って抵抗できない身体を…。
「や…っ」
慌てて両手を突っぱねて一樹を押し退けようとするも、鋼のような身体はビクともしない。
「離して…っ、やだ…っ」
またあんな思いをするのかと、優真はしゃにむに暴れた。あんな、恥ずかしくて、痛くて、辛くて、気持ちよくて…なんて。
「落ち着けっ。暴れるな、優真」
一樹は、まるで駄々っ子を叱るように言う。その冷静さに、優真はキッと睨みをきかせる。
「どういうつもりだよっ。僕の事が嫌いなんだろっ。なのに、こんな…」
「嫌いなんて誰が言ったっ。好きだからに決まってんだろっ」
大声で怒鳴った一樹は、少しだけ気まずそうに視線を逸らした。
「悪かったよ。いくらお前の事が好きだからって…」
「えっ。ま、待って。誰が誰を好きだって?」
聞けば、一樹は優真と自分を交互に指差した。
「車ん中で言ったろ?お前の事がずっと好きだったって。お前も頷いたじゃねーか」
そんなはずないと言おうとして、優真はハッとなった。そういえば、リムジンで何かを囁かれた。よく聞こえなかったから取り敢えず頷いたが、そういう事だったのかと優真は唖然とした。そんな優真の動揺を知ってか知らずか、一樹が照れたように笑う。
「わかってもらえた事が、なんかすっげー嬉しくてさ。我慢ができなかったんだ」
一樹の視線が優真の顔から下の方へとゆっくり移動する。優真は、自分の状態にハッとした。シルクのパジャマという出で立ちの一樹と違い、優真は全裸なのだ。当然だが、乳首も性器もモロ見えである。
「や、やだっ。離して…っ」
「落ち着けって。安心しろ。襲ったりしないから」
一樹は、優真を胸に抱き締めて何度も謝った。そして、何度も好きだと囁いた。初めて会った時から、ずっと好きだったと…。
「ゲイの噂がたって困っていたのは本当だ。だけど、優真以外にならこんな事は頼まなかった」
トクンッ、トクンッと優真の鼓動が高まる。本当なら怒らなくてはいけないのに、心のどこかで嬉しいと感じている。一樹を、嫌いになれない。
優真は、抱き締められたまま目を閉じた。
「どうでしたか?藤田の様子は」
リビングへ向かうと、心配そうな表情をして秘書兼運転手の藤堂颯真が立っていた。サラサラとした黒髪に銀縁の眼鏡。絵に描いたような真面目そうな男だった。一樹や優真とは高校時代からのクラスメイトで、かつては生徒会長を務めていた。
「まだわからない。かなり混乱しているようだったからな」
「…でしょうね」
一樹だってわかっている。自分がした事は理不尽この上ない。だが、一樹はどうしても優真が欲しかった。
「なんだか、誤解があったようなんだ」
優真は、なぜか一樹に嫌われていると思っていたらしい。まずはその誤解を解かなくては…。
「わかっていると思いますが、今後は藤田の気持ちを無視した行為はしないでください」
藤堂が静かな口調で諭す。元々、一樹の作戦には反対だったのだ。一樹がうるさそうにシッシッと手で藤堂を追い払う。
「わかってるよ。もし優真がどうしても嫌だって言うなら、この話は白紙にする」
藤堂がヤレヤレという表情で出ていったのとほぼ同時に、優真が階段を降りてくる。腰を庇いながらの様子に、一樹は慌てて支えに走った。だが、少しだけ腕に触れただけで弾かれた。
「…優真」
「ご、ごめん。あの、結婚の事なんだけど…」
優真は手すりにしがみつくと、しどろもどろに自分の気持ちを伝えた。
「柳田くんの事は、嫌いじゃない。困っているなら、役に立ちたい。だから、しばらくなら奥さんのフリをするよ」
「優真っ」
「そ、その代わり。給料はちゃんと貰うからね。それに、次の仕事が見つかったら離婚する」
口早に告げる優真に、一樹はニコニコと笑みを浮かべた。
「わかった。それまでは俺の嫁って事だな」
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