異世界オークションハウス ~ハズレスキル【魔力探知】で魔道具集め!美少女たちと楽しく競売のお店をはじめます~

秋間辺

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38話

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 夕暮れの赤い光が細い窓から差し込み、石造りの食堂をほのかに染めていた。
 長テーブルに並んだのは焼き立ての黒パン、野菜たっぷりのスープ、香草で風味をつけた干し肉。
 ここが最前線の砦だと思えないほど温かい匂いが満ちている。

「うんうん、悪くないや~ん♪」
 リントがカップを上下に揺らしながらご機嫌で飲み干す。
 その横でバルナードが大ジョッキを豪快に傾けた。
「ほぉ、嬢ちゃん、なかなかイケる口だな」
「おっちゃんこそやるやん♪ ようし、次は二杯同時にいこか」
 どちらも引く気配はない。
 周囲の兵士が「バルナードさんでもあの子には敵わないかもな」とささやき、笑いが起こった。

 ジェキルはパンをひとかじりしたあと、真正面に座る父親をじっと見つめていた。
「パパ。そろそろ教えてよ。なんでここで戦ってるの?」
 ドランはカップを置き、少しだけ視線を落とした。
「話せば長くなるが……聞きたいのか?」
「もちろん」
「よし、なら簡単に話そう」


「俺は昔、大魔法使いフィセルのもとで修行していた」
 その名前にメルテの指がピクリと動く。

「魔王軍が北へ進軍する途中で邪竜ネルザリオスがこの一帯を焼き払おうとした。俺はちょうど魔王討伐のために北に向かっていた途中でな。砦を守れたのはフィセルの助言と、ここの兵の奮闘のおかげだ」
「ちょっと待って、ネルザリオスって……あの魔獣を倒したの?」
 アマリアが椅子をきしませて身を乗り出す。

「そんなに手強い魔獣なのか?」
「手強いどころじゃないわ。魔王の配下の中でも最も恐れられた凶悪なドラゴンよ。滅ぼされた国はひとつやふたつじゃすまないわ」
 俺の問いに、アマリアは淡々と答えた。
 そんなとんでもない魔獣を倒したのか。
 ジェキルの父だけあって、凄まじい強さだな。

「簡単に勝てたわけじゃない。フィセルが作ってくれた結界と、兵たちが時間を稼いでくれたおかげだ」
「はえ~、砦ごと守れる結界なんて作れるんや。フィセルちゃん、やっぱスゴイんやな」
 リントは目を細めて感嘆する。
 
 ドランはそれに頷き、続けた。
「だがネルザリオスを討ったことで、魔王は俺を危険視したらしい。“灰滅剣帝”グレイム――魔王の右腕とも呼ばれる男を差し向けてきた。奴が背後にいる限り、この砦は狙われ続ける」

 スープの表面が静かに揺れた。メルテがカップを置き、ぽつりと言葉を落とす。
「この砦を守り抜くのは無理だと思う」
 場の空気が冷えた。
 酔いが回っていた兵士たちでさえ、言葉を失う。

 バルナードが顎ひげを撫でながらうなずいた。
「嬢ちゃんの言うとおりだ。防壁も兵糧も、持ってあと数日。正面から来られりゃ圧し潰される」

「だったらよ。グレイムってのを仕留めちまえばいいんじゃねーか? 本隊の大将を落とせば軍は瓦解する」
 ジェキルが手元の皿を指で叩きながら言う。

「せやな! 飛竜でバーッと飛んでって首取ったらウチらの勝ちやろ!」
 リントが盃を掲げて賛同する。
「おいおい、そんな簡単に――」
 俺は思わず声を落とした。

 だがドランが静かに手を上げる。
「いや、ジリ貧なのは事実だ。打って出るのもひとつの手だろう」

やるなら夜明け前だな。月が雲に隠れる時間帯なら飛竜も見つかりにくい」
 バルナードが目を細める。

「決まりだな。明日、奇襲をかけるぞ」
 ドランがはっきり告げた。
 戦場の喧噪をくぐり抜けてきた男の声は、酔いを瞬時に吹き飛ばす重みを持っていた。
 その視線が俺に向く。

「アオイ、お前たちの力が要る。手伝ってくれるか」
 問いかけというより、覚悟を測るような真っ直ぐな眼だった。
 自分の胸が高鳴るのを感じる。
 誇張でも何でもない。
 ここでうなずかなければ剣を握る資格はない――そう思えた。

「もちろん。全力を尽くします」
 言い切った自分の声が思ったより落ち着いていて、少しだけ驚く。 

 ジェキルが深呼吸して剣の柄を握りしめる。
「見ていてね。パパの背中を守るから」
「ふっふふ。俺を守る必要はない。お前は自分の戦いをしろ」
 ドランが笑う。
 親子のやり取りを見ていると、不思議と心が静まった――嵐の前の静けさに似た感覚だった。
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