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第5話 公爵邸での温かい迎え入れ
アネットは子どものように泣きじゃくった。
馬車の中に響き渡った彼女の声は、自分が生かされている重みと今までの温かい生活への想いが混じり合っている。
そんなアネットの背中を優しくさすっていたジルベールは、アネットにハンカチを差し出す。
「ほら、もう少しでうちに着くから」
「すみません……公爵様」
「ジルベールでいいと言っただろう」
アネットが和むように彼は笑みを浮かべた。
彼からもらったハンカチで涙を拭い終えた頃、馬車はゆっくりと止まった。
「さあ、到着した」
馬車から降りたジルベールはアネットへと手を差し出す。
そうして二人とも馬車から降りた時、アネットの目の前に執事と侍女がいた。
執事と侍女は丁寧にお辞儀をした後、執事が告げる。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ああ、ただいま。彼女が私の妻のアネットだ」
「あ、アネットです! よろしくお願いいたします……!」
ジルベールの紹介に続いて急いで頭を下げたアネットに、今度は侍女が声をかける。
「ようこそ、オランジュ邸へ。これから奥様のお世話をさせていただきます、ヴィレッタでございます」
「よ、よろしくお願いいたします……!」
すると、隣にいた執事も挨拶をする。
「旦那様のお世話をさせていただいております、ルークと申します」
彼は眼鏡をくいっと上げて、お辞儀をした。
「ルーク……様、よろしくお願いいたします!」
「私どものことは名前で呼んでいただいて問題ございません。では、後はヴィレッタのほうより案内をいたしますので」
「はい!」
アネットは声を張って返事をすると、ジルベールが彼女に声をかける。
「私は私室で仕事をしているから、何かあれば呼んでほしい」
そう言ってルークと仕事の話をしながら、屋敷へと入っていった。
彼らが去っていった時にようやくアネットの意識にオランジュ邸の姿が入る。
(大きなお屋敷……当たり前か。公爵様だもんね)
屋敷の大きさに圧倒されていると、侍女ヴィレッタが屋敷へ入るように誘う。
「では、奥様まいりましょうか」
「あ、はい!」
そうしてアネットは彼女について自室へと向かっていく。
公爵夫人となるアネットの部屋は屋敷の奥にある一室だった。
部屋に足を踏み入れた瞬間、あまりに豪華な部屋にアネットは言葉が出ない。
(こ、これ……私の部屋……?)
アネットの様子を見たヴィレッタは優しい声で言う。
「奥様のご事情は僭越ながら、旦那様より伺っております」
(あ……知っていらっしゃるんだ……じゃあ……)
「私の平民であることも、それに……出自のことも……?」
「ええ」
そこまで言うとヴィレッタは少し間を置いた後、アネットの両手を取って包み込んだ。
「あなた様のこの手を見てわかります。苦労をなさって、でも内に秘めた辛さを押し込めてしまう。そんなお方なのだと」
「ヴィレッタさん……」
「旦那様より聞いております。支度金をおじい様とおばあ様のためにお使いになったとか」
「おじいちゃんとおばあちゃんには幸せになってほしいんです。今までもらった優しさのほんの少ししか返せないけれど、少しでも温かいご飯を食べて温かいお布団で寝てほしい。そう思うんです」
ヴィレッタは一つ頷くと微笑んだ。
「旦那様がお二人への支援は十分にと考えていらっしゃいましたよ。大丈夫です、今頃新しいお布団がお家に届いている頃です」
「本当ですか!?」
「はい、だから奥様もご安心してこちらでお過ごしください」
「ありがとうございます……!」
アネットは安堵して涙ぐむ。
「さあ、まずは温かい食事にしましょう。その後は屋敷をご案内しますね」
「はいっ!」
オランジュ邸に温かく迎え入れられたアネットは、幸せの階段を上っていく。
馬車の中に響き渡った彼女の声は、自分が生かされている重みと今までの温かい生活への想いが混じり合っている。
そんなアネットの背中を優しくさすっていたジルベールは、アネットにハンカチを差し出す。
「ほら、もう少しでうちに着くから」
「すみません……公爵様」
「ジルベールでいいと言っただろう」
アネットが和むように彼は笑みを浮かべた。
彼からもらったハンカチで涙を拭い終えた頃、馬車はゆっくりと止まった。
「さあ、到着した」
馬車から降りたジルベールはアネットへと手を差し出す。
そうして二人とも馬車から降りた時、アネットの目の前に執事と侍女がいた。
執事と侍女は丁寧にお辞儀をした後、執事が告げる。
「おかえりなさいませ、旦那様」
「ああ、ただいま。彼女が私の妻のアネットだ」
「あ、アネットです! よろしくお願いいたします……!」
ジルベールの紹介に続いて急いで頭を下げたアネットに、今度は侍女が声をかける。
「ようこそ、オランジュ邸へ。これから奥様のお世話をさせていただきます、ヴィレッタでございます」
「よ、よろしくお願いいたします……!」
すると、隣にいた執事も挨拶をする。
「旦那様のお世話をさせていただいております、ルークと申します」
彼は眼鏡をくいっと上げて、お辞儀をした。
「ルーク……様、よろしくお願いいたします!」
「私どものことは名前で呼んでいただいて問題ございません。では、後はヴィレッタのほうより案内をいたしますので」
「はい!」
アネットは声を張って返事をすると、ジルベールが彼女に声をかける。
「私は私室で仕事をしているから、何かあれば呼んでほしい」
そう言ってルークと仕事の話をしながら、屋敷へと入っていった。
彼らが去っていった時にようやくアネットの意識にオランジュ邸の姿が入る。
(大きなお屋敷……当たり前か。公爵様だもんね)
屋敷の大きさに圧倒されていると、侍女ヴィレッタが屋敷へ入るように誘う。
「では、奥様まいりましょうか」
「あ、はい!」
そうしてアネットは彼女について自室へと向かっていく。
公爵夫人となるアネットの部屋は屋敷の奥にある一室だった。
部屋に足を踏み入れた瞬間、あまりに豪華な部屋にアネットは言葉が出ない。
(こ、これ……私の部屋……?)
アネットの様子を見たヴィレッタは優しい声で言う。
「奥様のご事情は僭越ながら、旦那様より伺っております」
(あ……知っていらっしゃるんだ……じゃあ……)
「私の平民であることも、それに……出自のことも……?」
「ええ」
そこまで言うとヴィレッタは少し間を置いた後、アネットの両手を取って包み込んだ。
「あなた様のこの手を見てわかります。苦労をなさって、でも内に秘めた辛さを押し込めてしまう。そんなお方なのだと」
「ヴィレッタさん……」
「旦那様より聞いております。支度金をおじい様とおばあ様のためにお使いになったとか」
「おじいちゃんとおばあちゃんには幸せになってほしいんです。今までもらった優しさのほんの少ししか返せないけれど、少しでも温かいご飯を食べて温かいお布団で寝てほしい。そう思うんです」
ヴィレッタは一つ頷くと微笑んだ。
「旦那様がお二人への支援は十分にと考えていらっしゃいましたよ。大丈夫です、今頃新しいお布団がお家に届いている頃です」
「本当ですか!?」
「はい、だから奥様もご安心してこちらでお過ごしください」
「ありがとうございます……!」
アネットは安堵して涙ぐむ。
「さあ、まずは温かい食事にしましょう。その後は屋敷をご案内しますね」
「はいっ!」
オランジュ邸に温かく迎え入れられたアネットは、幸せの階段を上っていく。
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