7 / 9
第7話 彼女は最高の花嫁です
しおりを挟む
「とっても素敵ですよ、奥様」
侍女ヴィレッタはうっとりしながら、アネットそう伝えた。
そう言われた彼女は照れ臭そうにしながら姿見に映る自分を見た後、ヴィレッタに問いかける。
「変、じゃない?」
「変ではございませんよ! 奥様が選んだその淡い青のドレスは、この家に来られた時のドレスとはまた違っていいですね」
アネットの母親が彼女に贈ったシンプルな花嫁衣裳も合っていたが、今回のドレスはレースや花の模様が彩りを添えている。
公爵夫人として、そして今日の主役としてより輝くものになっていた。
「それに、そのネックレス素敵ですね」
「これは母の形見なんです。母と最後に会った時にくれた、大切なものです」
「素敵ですね」
二人が和やかに話をしていると、ノックの音が響く。
「私だ、準備はできたか」
「はいっ!」
返事をしたアネットに代わり、ヴィレッタが扉を開けると夫であるジルベールが姿を見せる。
「アネット、そろそと皆が……」
そこでジルベールの言葉が止まった。
「ジルベール様?」
(やっぱり、このドレスが合ってなかったんじゃ……)
そう不安な気持ちが心の中に広がったアネットだったが、それは杞憂だった。
「あまりにも綺麗で見惚れてしまった。いや、君の容姿は元々可愛らしいと思っていたが、それにも増してなんというか美しい」
(か、可愛いと思ってらした!? それに今、今!! 美しいって!!)
褒め攻撃に耐えられなくなったアネットは思わず両手で顔を覆った。
「きょ、恐縮です……」
「こんな美しい君の隣に立てるのが光栄だよ。いや、一層私だけに見せていてほしいのだが……」
「ジルベール様っ!」
恥ずかしさの頂点に達したアネットの後ろで、ヴィレッタは内心「旦那様って甘い言葉をこんなにも言えたのね。奥様だからかしら」と思っていたのだった。
「さあ、行こうか」
「は、はいっ!」
その言葉で背筋が伸びたアネットはジルベールの手を取って、ダンスホールへと向かった。
人々が談笑している中、ジルベールが口火を切る。
「本日は我が屋敷においでくださり、誠にありがとうございます。皆様ご存じの通り、先日私はここにいるアネット嬢と結婚いたしました。皆様にもご紹介をと思い、今回のパーティーを開かせていただきました。どうか夫婦共々よろしくお願いいたします」
ジルベールの挨拶と共に夫婦は息を合わせてお辞儀をした。
その瞬間、大きな拍手が巻き起こる。
「オランジュ公爵、おめでとうございます!」
「お幸せに!」
「奥様、素敵ですよ!」
そんな言葉が飛び交う中、明らかに渋い顔をしている人たちが一部いるのがアネットの目には映った。
(ジルベール様が事前に教えてくださった通り、やっぱり私との結婚をよく思っていない人たちがいらっしゃる……)
アネットは平民あり、そのことはすでに貴族の間で広まっていた。
『オランジュ公爵は由緒正しき血筋を平民の娘を迎えて汚した』
そんな言葉も飛び交っているのが現状だった。
「平民の小娘をどうしてオランジュ公爵は……」
そんな言葉がアネットの耳に届いた。
(やっぱり私は迷惑をかけてる……)
アネットがそう思った時、今回の結婚に反対である一人の侯爵がアネットに話しかけた。
「気高きオランジュ公爵家のご当主がまさか平民のお嬢様を妻になさるとは。貴族のマナーもできず、教養もなくオランジュ公爵もさぞ大変でしょう」
その言葉に一部の人々が嘲笑した。
そして、彼らは言ってはならない一言を告げる。
「まさに『ギークスの花嫁』ですな!」
彼の言葉を聞いたアネットが目を見開いた。
(『ギークスの花嫁』は昔、ある傲慢な貴族が娶った妻が魔女の作った幻だったという話。原本は古語で書かれていて翻訳されていない。この人、平民の私がこの話を知らないと思って馬鹿にしてる……)
そのことに気づいたアネットは拳を握り締めて一歩前に出た。
「忠告痛み入ります、ビデー侯爵閣下。『ギークスの花嫁』には実は続きがあるのをご存じですか?」
「うえ……!?」
「傲慢な貴族が懲らしめられる勧善懲悪ものと思われておりますが、実はこの後貴族は自分の過ちを顧みて魔女のもとに謝罪にいき、五年間彼女のもとで働いた後に二人は結婚するという、失敗は誰にでもあるもの。そこからどう反省するかで幸せが決まる。という物語なのです! ビデー侯爵様とぜひそのお話をしたいですわ!」
アネットの見事な返答に公爵二人が手を叩いた。
「その物語を知っているとは、歴史好きのオランジュ公爵になんて相応しいお方なんだ」
「ああ、素晴らしい。こんなに相応しい女性はいないだろう。なあ、みんな!」
その声かけと共に大きな歓声が沸き起こった。
「素晴らしいですわ! オランジュ公爵夫人、わたくしともぜひお話してくださいませ!」
「いや、僕と話すのが先だ!」
取り合うように自分を歓迎している皆の様子を見て、アネットは驚く。
「え……!? ジ……旦那様……」
「皆、君を歓迎している。さあ、たくさんお話しておいで」
ジルベールの声を皮切りにアネットの周りには人がどんどん集まっていく。
そんな中、ジルベールに一人の男性が近づいた。
「ジルベール」
「叔父上」
「素敵な女性と結婚したな」
叔父の言葉に笑みを浮かべながら告げる。
「ええ、彼女は最高の花嫁です」
ジルベールの嬉しそうな顔に叔父もまた笑った。
その時、ホールに大きな声が響き渡った。
「おいっ! その首飾りはをどうして持っている! 貴様、やはり死んだはずの『忌子』か!」
その言葉にアネットの血の気が引いた。
知らずとも本能がそう言っている。
彼が、彼こそが自分の父親であると……。
その瞬間、ジルベールがアネットを守るように背に隠して呟く。
「バルテル伯爵……」
波乱の幕開けだった。
侍女ヴィレッタはうっとりしながら、アネットそう伝えた。
そう言われた彼女は照れ臭そうにしながら姿見に映る自分を見た後、ヴィレッタに問いかける。
「変、じゃない?」
「変ではございませんよ! 奥様が選んだその淡い青のドレスは、この家に来られた時のドレスとはまた違っていいですね」
アネットの母親が彼女に贈ったシンプルな花嫁衣裳も合っていたが、今回のドレスはレースや花の模様が彩りを添えている。
公爵夫人として、そして今日の主役としてより輝くものになっていた。
「それに、そのネックレス素敵ですね」
「これは母の形見なんです。母と最後に会った時にくれた、大切なものです」
「素敵ですね」
二人が和やかに話をしていると、ノックの音が響く。
「私だ、準備はできたか」
「はいっ!」
返事をしたアネットに代わり、ヴィレッタが扉を開けると夫であるジルベールが姿を見せる。
「アネット、そろそと皆が……」
そこでジルベールの言葉が止まった。
「ジルベール様?」
(やっぱり、このドレスが合ってなかったんじゃ……)
そう不安な気持ちが心の中に広がったアネットだったが、それは杞憂だった。
「あまりにも綺麗で見惚れてしまった。いや、君の容姿は元々可愛らしいと思っていたが、それにも増してなんというか美しい」
(か、可愛いと思ってらした!? それに今、今!! 美しいって!!)
褒め攻撃に耐えられなくなったアネットは思わず両手で顔を覆った。
「きょ、恐縮です……」
「こんな美しい君の隣に立てるのが光栄だよ。いや、一層私だけに見せていてほしいのだが……」
「ジルベール様っ!」
恥ずかしさの頂点に達したアネットの後ろで、ヴィレッタは内心「旦那様って甘い言葉をこんなにも言えたのね。奥様だからかしら」と思っていたのだった。
「さあ、行こうか」
「は、はいっ!」
その言葉で背筋が伸びたアネットはジルベールの手を取って、ダンスホールへと向かった。
人々が談笑している中、ジルベールが口火を切る。
「本日は我が屋敷においでくださり、誠にありがとうございます。皆様ご存じの通り、先日私はここにいるアネット嬢と結婚いたしました。皆様にもご紹介をと思い、今回のパーティーを開かせていただきました。どうか夫婦共々よろしくお願いいたします」
ジルベールの挨拶と共に夫婦は息を合わせてお辞儀をした。
その瞬間、大きな拍手が巻き起こる。
「オランジュ公爵、おめでとうございます!」
「お幸せに!」
「奥様、素敵ですよ!」
そんな言葉が飛び交う中、明らかに渋い顔をしている人たちが一部いるのがアネットの目には映った。
(ジルベール様が事前に教えてくださった通り、やっぱり私との結婚をよく思っていない人たちがいらっしゃる……)
アネットは平民あり、そのことはすでに貴族の間で広まっていた。
『オランジュ公爵は由緒正しき血筋を平民の娘を迎えて汚した』
そんな言葉も飛び交っているのが現状だった。
「平民の小娘をどうしてオランジュ公爵は……」
そんな言葉がアネットの耳に届いた。
(やっぱり私は迷惑をかけてる……)
アネットがそう思った時、今回の結婚に反対である一人の侯爵がアネットに話しかけた。
「気高きオランジュ公爵家のご当主がまさか平民のお嬢様を妻になさるとは。貴族のマナーもできず、教養もなくオランジュ公爵もさぞ大変でしょう」
その言葉に一部の人々が嘲笑した。
そして、彼らは言ってはならない一言を告げる。
「まさに『ギークスの花嫁』ですな!」
彼の言葉を聞いたアネットが目を見開いた。
(『ギークスの花嫁』は昔、ある傲慢な貴族が娶った妻が魔女の作った幻だったという話。原本は古語で書かれていて翻訳されていない。この人、平民の私がこの話を知らないと思って馬鹿にしてる……)
そのことに気づいたアネットは拳を握り締めて一歩前に出た。
「忠告痛み入ります、ビデー侯爵閣下。『ギークスの花嫁』には実は続きがあるのをご存じですか?」
「うえ……!?」
「傲慢な貴族が懲らしめられる勧善懲悪ものと思われておりますが、実はこの後貴族は自分の過ちを顧みて魔女のもとに謝罪にいき、五年間彼女のもとで働いた後に二人は結婚するという、失敗は誰にでもあるもの。そこからどう反省するかで幸せが決まる。という物語なのです! ビデー侯爵様とぜひそのお話をしたいですわ!」
アネットの見事な返答に公爵二人が手を叩いた。
「その物語を知っているとは、歴史好きのオランジュ公爵になんて相応しいお方なんだ」
「ああ、素晴らしい。こんなに相応しい女性はいないだろう。なあ、みんな!」
その声かけと共に大きな歓声が沸き起こった。
「素晴らしいですわ! オランジュ公爵夫人、わたくしともぜひお話してくださいませ!」
「いや、僕と話すのが先だ!」
取り合うように自分を歓迎している皆の様子を見て、アネットは驚く。
「え……!? ジ……旦那様……」
「皆、君を歓迎している。さあ、たくさんお話しておいで」
ジルベールの声を皮切りにアネットの周りには人がどんどん集まっていく。
そんな中、ジルベールに一人の男性が近づいた。
「ジルベール」
「叔父上」
「素敵な女性と結婚したな」
叔父の言葉に笑みを浮かべながら告げる。
「ええ、彼女は最高の花嫁です」
ジルベールの嬉しそうな顔に叔父もまた笑った。
その時、ホールに大きな声が響き渡った。
「おいっ! その首飾りはをどうして持っている! 貴様、やはり死んだはずの『忌子』か!」
その言葉にアネットの血の気が引いた。
知らずとも本能がそう言っている。
彼が、彼こそが自分の父親であると……。
その瞬間、ジルベールがアネットを守るように背に隠して呟く。
「バルテル伯爵……」
波乱の幕開けだった。
37
あなたにおすすめの小説
わたくし、悪女呼ばわりされているのですが……全力で反省しておりますの。
月白ヤトヒコ
恋愛
本日、なんの集まりかはわかりませんが、王城へ召集されておりますの。
まあ、わたくしこれでも現王太子の婚約者なので、その関連だと思うのですが……
「父上! 僕は、こんな傲慢で鼻持ちならない冷酷非道な悪女と結婚なんかしたくありません! この女は、こともあろうに権力を使って彼女を脅し、相思相愛な僕と彼女を引き離そうとしたんですよっ!? 王妃になるなら、側妃や愛妾くらいで煩く言うのは間違っているでしょうっ!?」
と、王太子が宣いました。
「どうやら、わたくし悪女にされているようですわね。でも、わたくしも反省しておりますわ」
「ハッ! やっぱりな! お前は僕のことを愛してるからな!」
「ああ、人語を解するからと人並の知性と理性を豚に求めたわたくしが悪かったのです。ごめんなさいね? もっと早く、わたくしが決断を下していれば……豚は豚同士で娶うことができたというのに」
設定はふわっと。
婚約破棄寸前だった令嬢が殺されかけて眠り姫となり意識を取り戻したら世界が変わっていた話
ひよこ麺
恋愛
シルビア・ベアトリス侯爵令嬢は何もかも完璧なご令嬢だった。婚約者であるリベリオンとの関係を除いては。
リベリオンは公爵家の嫡男で完璧だけれどとても冷たい人だった。それでも彼の幼馴染みで病弱な男爵令嬢のリリアにはとても優しくしていた。
婚約者のシルビアには笑顔ひとつ向けてくれないのに。
どんなに尽くしても努力しても完璧な立ち振る舞いをしても振り返らないリベリオンに疲れてしまったシルビア。その日も舞踏会でエスコートだけしてリリアと居なくなってしまったリベリオンを見ているのが悲しくなりテラスでひとり夜風に当たっていたところ、いきなり何者かに後ろから押されて転落してしまう。
死は免れたが、テラスから転落した際に頭を強く打ったシルビアはそのまま意識を失い、昏睡状態となってしまう。それから3年の月日が流れ、目覚めたシルビアを取り巻く世界は変っていて……
※正常な人があまりいない話です。
大事な婚約者が傷付けられたので全力で報復する事にした。
オーガスト
恋愛
イーデルハイト王国王太子・ルカリオは王家の唯一の王位継承者。1,000年の歴史を誇る大陸最古の王家の存亡は彼とその婚約者の肩に掛かっている。そんなルカリオの婚約者の名はルーシェ。王国3大貴族に名を連ねる侯爵家の長女であり、才色兼備で知られていた。
ルカリオはそんな彼女と共に王家の未来を明るい物とするべく奮闘していたのだがある日ルーシェは婚約の解消を願い出て辺境の別荘に引きこもってしまう。
突然の申し出に困惑する彼だが侯爵から原因となった雑誌を見せられ激怒
全力で報復する事にした。
ノーリアリティ&ノークオリティご注意
妹に全てを奪われた令嬢は第二の人生を満喫することにしました。
バナナマヨネーズ
恋愛
四大公爵家の一つ。アックァーノ公爵家に生まれたイシュミールは双子の妹であるイシュタルに慕われていたが、何故か両親と使用人たちに冷遇されていた。
瓜二つである妹のイシュタルは、それに比べて大切にされていた。
そんなある日、イシュミールは第三王子との婚約が決まった。
その時から、イシュミールの人生は最高の瞬間を経て、最悪な結末へと緩やかに向かうことになった。
そして……。
本編全79話
番外編全34話
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しています。
私は《悪役令嬢》の役を降りさせて頂きます
・めぐめぐ・
恋愛
公爵令嬢であるアンティローゼは、婚約者エリオットの想い人であるルシア伯爵令嬢に嫌がらせをしていたことが原因で婚約破棄され、彼に突き飛ばされた拍子に頭をぶつけて死んでしまった。
気が付くと闇の世界にいた。
そこで彼女は、不思議な男の声によってこの世界の真実を知る。
この世界が恋愛小説であり《読者》という存在の影響下にあることを。
そしてアンティローゼが《悪役令嬢》であり、彼女が《悪役令嬢》である限り、断罪され死ぬ運命から逃れることができないことを――
全てを知った彼女は決意した。
「……もう、あなたたちの思惑には乗らない。私は、《悪役令嬢》の役を降りさせて頂くわ」
※全12話 約15,000字。完結してるのでエタりません♪
※よくある悪役令嬢設定です。
※頭空っぽにして読んでね!
※ご都合主義です。
※息抜きと勢いで書いた作品なので、生暖かく見守って頂けると嬉しいです(笑)
もてあそんでくれたお礼に、貴方に最高の餞別を。婚約者さまと、どうかお幸せに。まぁ、幸せになれるものなら......ね?
当麻月菜
恋愛
次期当主になるべく、領地にて父親から仕事を学んでいた伯爵令息フレデリックは、ちょっとした出来心で領民の娘イルアに手を出した。
ただそれは、結婚するまでの繋ぎという、身体目的の軽い気持ちで。
対して領民の娘イルアは、本気だった。
もちろんイルアは、フレデリックとの間に身分差という越えられない壁があるのはわかっていた。そして、その時が来たら綺麗に幕を下ろそうと決めていた。
けれど、二人の関係の幕引きはあまりに酷いものだった。
誠意の欠片もないフレデリックの態度に、立ち直れないほど心に傷を受けたイルアは、彼に復讐することを誓った。
弄ばれた女が、捨てた男にとって最後で最高の女性でいられるための、本気の復讐劇。
【完結】遅いのですなにもかも
砂礫レキ
恋愛
昔森の奥でやさしい魔女は一人の王子さまを助けました。
王子さまは魔女に恋をして自分の城につれかえりました。
数年後、王子さまは隣国のお姫さまを好きになってしまいました。
【完】隣国に売られるように渡った王女
まるねこ
恋愛
幼いころから王妃の命令で勉強ばかりしていたリヴィア。乳母に支えられながら成長し、ある日、父である国王陛下から呼び出しがあった。
「リヴィア、お前は長年王女として過ごしているが未だ婚約者がいなかったな。良い嫁ぎ先を選んでおいた」と。
リヴィアの不遇はいつまで続くのか。
Copyright©︎2024-まるねこ
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる