「遺言」で結ばれた結婚~忌子である『赤い瞳』の少女は、旦那様に愛されて幸せになる~

八重

文字の大きさ
8 / 9

第8話 バルテル伯爵家の最後

「あいつが持っていた首飾り。お前は間違いなく『忌子』だな!」

 その場にいた皆が騒めきだす。
 バルテル伯爵家の『忌子の伝承』は貴族の間でよく知られている。

「バルテル伯爵家の忌子だと……オランジュ公爵夫人が……。では、平民というのは……」

 男性のその言葉にバルテル伯爵は返答する。

「ああ、平民ではなく私の娘。伯爵令嬢だよ! それをこの公爵様の父親が死産と偽装した。グルなんだよ、こいつらは! 国家に対してオランジュ公爵のご当主ともあろうお人が偽装した、これは立派な犯罪じゃないのか!?」
「待ってっ! それは私のお母さんが……」

 アネットが反論しようとしたところをジルベールが止める。

「アネット、私に任せなさい」
「ジルベール様……」

 二人が言葉を交わしている間もバルテル伯爵は叫ぶのをやめない。

「さあ、そいつは不正で見逃されたとはいえ私の娘だ! オランジュ公爵、支度金をもらおうか」

(なっ! 娘が生きていると知って「支度金」をせびるなんて……)

 アネットの中に絶望の色が広がっていった。
 その時、ジルベールの低い声が静かに響く。

「黙れ」
「は……?」
「黙れといった」
「なっ! お前、義理とはいえ父親に向かってその口の利き方は……」
「私の妻を『貴様』呼ばわりする人間に、敬意も何も必要ない。それに、あなたに渡す金など一つもない」

 ジルベールの冷たい言葉にバルテル伯爵は余計に腹を立てる。

「ふざけるな! 金を渡さないんだったら、お前たち親子の不正を国に報告してやる! さあ、どうだ? 跪いて許しを……」
「やってみろ」
「え……?」

 そう言ってジルベールは執事が持ってきたある書類を手にし、それをバルテル伯爵に見せた。

「残念だが、アネットの出生については国王陛下も了承している」
「なっ! なんだと!?」
「お前たちバルテル伯爵家の『忌子の伝承』について調べた。『忌子』が家に災いをもたらしたというのは真っ赤な嘘。赤い瞳は諸国で神の子とされ、裏で高値で子どもが売買されていた。つまり、人身売買を隠すための嘘であり、バルテル伯爵家当主は代々赤い瞳の子どもが生まれたら、妻に災いをもたらすからと言い、子どもを取り上げ諸国に売った。違うか?」

 その言葉にバルテル伯爵は目を大きく見開いた。

「あ……あ……」

 何も言えなくなっている彼にジルベールは追い打ちをかける。

「人身売買は重罪だ。どうなるかわかっているな?」

 ジルベールの後ろから衛兵たちに加えて、国家の警備隊も突入してバルテル伯爵を取り囲む。

「違うんだ! 違う! あいつは私の娘で……」

 その言葉にアネットは口を開いた。

「私はあなたの娘ではありません! オランジュ公爵家の人間で……平民ミジェット家で育った、シェリル・ミジェットの娘です!!」

 はっきりとした拒絶の言葉にバルテル伯爵もついには崩れ落ちた──。



 数日後、アネットはジルベールの私室にいた。

「バルテル伯爵は投獄され、お家はなくなるそうだ」
「そうですか……」

 アネットは安堵したと同時に悔しい気持ちも心の内に沸き上がってきた。

(お母さん……)

 母はきっと純粋にバルテル伯爵のことを好いていたのだろう。
 首飾りを大切に持っていたことからそのようにうかがえた。
 それゆえ、アネットは切なくなる。

(お母さんは不幸だったの?)

 そんな疑問がよぎる中、ジルベールはアネットに声をかける。

「君のお母様は幸せだったかどうかはわからない。けれど、君に対する愛情は本物じゃないかと思う」

 ジルベールはそう言ってアネットに微笑みかけた。

「そういえば、今日はここへ何をしに来たんだい?」
「あ……そうでした。実は一年前に不思議な奥様と出会って……その方はすでに亡くなってしまったようなのですが、本をもらったんです。でも、題名が書かれてなくて、『あなたが結婚した一か月後に、あなたの夫と一緒に見てほしい』と言われていて……)
「不思議なお話だね。見てみようか」
「はい」

 そう言ってアネットは本のページをいくつかめくっていく。

「何も書かれていませんね」

 中身は真っ白な紙のページのみ。
 最後までその調子だろうと思った二人だったが、最後のページに封筒が挟まっていた。


「これ……」

 表面を見て二人は目を見開いた。


『愛する息子、ジルベールへ』


 そこにはそう書かれていたからだ。
感想 0

あなたにおすすめの小説

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

あなたを忘れる魔法があれば

美緒
恋愛
乙女ゲームの攻略対象の婚約者として転生した私、ディアナ・クリストハルト。 ただ、ゲームの舞台は他国の為、ゲームには婚約者がいるという事でしか登場しない名前のないモブ。 私は、ゲームの強制力により、好きになった方を奪われるしかないのでしょうか――? これは、「あなたを忘れる魔法があれば」をテーマに書いてみたものです――が、何か違うような?? R15、残酷描写ありは保険。乙女ゲーム要素も空気に近いです。 ※小説家になろう、カクヨムにも掲載してます

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

「氷の公爵子息は、平凡令嬢を手放さない」

白瀬しおん
恋愛
ただぶつかっただけのはずだった。 なのに気づけば、氷の公爵子息は隣に座り、手を取り、名前を呼ぶ。 そして—— 「逃げてもいい。でも、逃げ切れない」 平凡令嬢を静かに囲い込む、逃げ場なしの溺愛。 最後に待つのは、拒否権のない婚約だった。 ※初投稿のため、至らない点があるかもしれませんが、温かく見守っていただけると嬉しいです。

【完結】無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない

ベル
恋愛
旦那様とは政略結婚。 公爵家の次期当主であった旦那様と、領地の経営が悪化し、没落寸前の伯爵令嬢だった私。 旦那様と結婚したおかげで私の家は安定し、今では昔よりも裕福な暮らしができるようになりました。 そんな私は旦那様に感謝しています。 無口で何を考えているか分かりにくい方ですが、とてもお優しい方なのです。 そんな二人の日常を書いてみました。 お読みいただき本当にありがとうございますm(_ _)m 無事完結しました!

子育てが落ち着いた20年目の結婚記念日……「離縁よ!離縁!」私は屋敷を飛び出しました。

さくしゃ
恋愛
アーリントン王国の片隅にあるバーンズ男爵領では、6人の子育てが落ち着いた領主夫人のエミリアと領主のヴァーンズは20回目の結婚記念日を迎えていた。 忙しい子育てと政務にすれ違いの生活を送っていた二人は、久しぶりに二人だけで食事をすることに。 「はぁ……盛り上がりすぎて7人目なんて言われたらどうしよう……いいえ!いっそのことあと5人くらい!」 気合いを入れるエミリアは侍女の案内でヴァーンズが待つ食堂へ。しかし、 「信じられない!離縁よ!離縁!」 深夜2時、エミリアは怒りを露わに屋敷を飛び出していった。自室に「実家へ帰らせていただきます!」という書き置きを残して。 結婚20年目にして離婚の危機……果たしてその結末は!?

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。