【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました

八重

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閑話01

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『これからは私は君の兄になる。血は繋がっていないけど、君が心を許してくれたら、家族のように思ってほしい。ゆっくりでいいから』

 そんな風にラルス様が言ってくださった翌日のことです。
 私は幸いにも身体をあまり怪我していなかったようで、すぐに立ち上がったり歩いたりすることができるようになりました。
 まだ朝日が昇ってすぐでしょう。
 修道院にいた頃の癖のようなもので、普通のひとよりも早く起きてしまいました。

 そういえば私が一番早起きで、掃除や洗濯、朝ごはんなどもよくおこなっていました。
 みんなもいつも手伝ってくれたのですが……みんなは無事に逃げられたのでしょうか。
 私みたいに良い場所で無事にいるでしょうか。
 少し心配です。

 さて、じっとしていられませんね。
 このお屋敷でお世話になるのですから、早く朝のお掃除から始めないと。

 そう思ってお部屋を見渡しますが、どこを探してもお掃除道具は見当たりません。
 う~ん。こちらにも……こちらにもありませんね。

 廊下にほうきなどがしまってあるのでしょうか。
 そう思って私はドアを開けて外を覗いてみました。

「──っ!」
「きゃっ!」

 私は何かにぶつかってしまったようで頭をなでなでします。

「まあ、申し訳ございません! 私の不注意でっ! お怪我はございませんか?」
「(こくこく)」

 私は目の前のメイドさんに慌てて頷いて答えます。
 そうするとメイドさんは安心したように胸に手をあてて、はあ~と息を吐きました。

「もう起きていらっしゃったのですね。どうかなさいましたか?」

 言葉で思わず答えようとしますが、もちろん声は出ません。
 ごめんなさいの意味もこめて何度かお辞儀をしたあと、ほうきを探しているということを伝えたくて、ほうきを掃く様子をやってみます。

「ん?」

 何度かほうきの形を手で作って、そのあと掃く動作をしてみるのですがやはり伝わりません。
 では、これはどうでしょうか。

「お嬢様っ! 何をなさっているのですか?!」

 私は雑巾がけを示したくて部屋の床を手でずしゃーっと拭く動きをしてみます。
 部屋中を走り回る私をメイドさんは慌てて止めて、私の手についた埃を払ってくださいます。

「お嬢様、そんな汚いことダメです! 綺麗な手が汚れてしまいます!」

 私の手は黒くなっていて、でもいつも修道院で掃除するよりも綺麗な手でした。
 たぶんこのお部屋はどなたかが毎日ピカピカにお掃除なさっているのだと思います。
 私は掃除がしたいということを伝えたくて、メイドさんをじっとみながら何度も雑巾で拭く動きを見せました。

「もしかして、お掃除するものが欲しいのですか?」
「(はいっ!!)」

 やっと伝わったことで嬉しくてうんうんと激しく頷いてしまいます。

「もしかしてどこか汚れていましたでしょうか?! 私の掃除が行き届かず申し訳ございません。すぐに掃除をいたします!」

 そういってお部屋を出て行かれようとするので、私は慌ててメイドさんの腕を掴んで引き留めます。
 あっ! やってしまいましたっ! 汚い手でメイドさんの腕を掴んでしまいました……!

 私は慌てて手を離して、何度もごめんなさいとします。
 きっと怒られてしまいます……。
 痛いお仕置きが来ることを覚悟した私ですが、その痛みはいつまでたってもきませんでした。

「なにか違うことをお伝えになりたいのでしょうか?」
「(ふんふん)」

 もう一度目をみて伝えようとします。
 するとメイドさんは、はっとした様子で私に尋ねてこられました。

「もしかして、ご自分でお掃除がしたいのですか?」
「(そうですっ!!)」

 私はようやく伝わって嬉しくて笑顔を見せました。
 でもメイドさんは少し考えたあとで、メイドさんより背丈の少し小さい私に目線を合わせて言います。

「お嬢様。もうあなたはここのお屋敷のご令嬢です。あなたの境遇は旦那様より伺っております。もうあなたは掃除も洗濯もしなくていいのですよ?」

 私の頭はその言葉で止まってしまいました。
 もしかして、用済みということでしょうか……。
 それとも私ごときではやはりお役に立てなくて、お邪魔にしかならなくて……。

 そう考えていると、メイドさんが「違いますよ」とお話の続きをされました。

「あなたがいらない人なのではなくて、あなたが必要だから。あなたにはもっと今からたくさんの幸せを感じてほしいのです。その幸せのために働けるのが、私たち使用人の幸せなのです。だから、このお屋敷にいる間はわたしたちにお任せ願えませんか?」

 そんな風に言われて私は言葉を失いました。
 声が出ないからではありません。絶望したからでもありません。ただ、なんて優しい言葉をくださるんだろうと嬉しかったからです。
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