祝福の淡雪~結ばれない「運命」をあなたとなら壊したい~

八重

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第11話 通じ合う想い、そして

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「零様……どうしてここに」
「お前に会いに来た」

 私は彼に背を向けて少し俯く。

「帰ってください」

 涙声で私は肩を震えさせて唇を噛みしめる。

 零様に合わせる顔はもう、私にはないんです……。
 あなたへの想いに心を乱し、たった一つのやるべきことさえ見失ってしまう。
 そのような人間は、あなたの傍で仕えるのに相応しくない。

 うす暗くなった部屋に明かりを灯そうと歩いたその時、私の体は大きな体に包み込まれた。

「悪かった」
「──っ!! 零、さま……」
「お前を傷つけた。お前が去っていく後ろ姿を見て、後悔した。戻ってきてほしい」

 どうしてそんなことを言うの?
 私はあなたから離れたいのに、あなたは私の事を何とも思っていないのに。
 どうしてそんなに好きにさせるの?

「私は隊長として、補佐役として失格です。これをもう、持つ資格はありません」

 懐から守護刀を出すと、それを両手で零様に差し出す。
 この刀を返せば、零様と繋がるものは何もなくなる。

「それはもうお前のものだ」
「いいえ、私にこれを扱いきれません」
「分かりやすい嘘を……」
「嘘じゃありませんっ!!」

 私は振り向いて零様の胸元に守護刀を押し当てて、叫ぶ。

「どうして優しくするんですか!? どうして私を離してくれないんですか!? もう苦しいんです……怖いんです……」

 真っ暗な部屋に私の叫びが響き渡る。

 もう苦しい、苦しい、苦しい!!!
 いつまで経っても零様を好きなまま、加速する自分の想いがいつか暴走するのではないかと恐ろしくてたまらない。
 零様を見つめるだけでよかったのに……。
 いつのまにか傍にいたいと、大それたことを考えてしまう自分が怖い。

「あなたが好きだったんです。好きで、好きで、だから離れたいんです!!」
「凛……」

 私の腕を掴んで引き寄せた彼と、吐息がかかるほどの距離に近づく。
 何度も憧れたその人が、今私の目の前にいる。

「俺にぶつけろ」
「──っ!」
「全て。お前の全てを俺にぶつけろ」

 いつもの冷たい声とは少し違って、柔らかい声。
 私はそんな零様の胸を叩きながら、感情をぶつける。

「私の心をかき乱さないでください! もう、もう苦しいんです。辛いんです」
「ああ」
「好きになってはいけないのに、どんどん好きになる。怖くてたまらなくて、でもあなたが私に声をかけてくれるたび、嬉しかった」
「ああ」
「零様の行動の一つ一つにドキリとして、幸せになれました。だからこそ、絶対にないあなたとの未来を夢見てしまうから、苦しいんです。辛いんです。でも、あなたには「運命」の相手である綾芽様がいる」

 少しの沈黙があって、私はそっと手を降ろす。

 助けてほしい、と言いたくなったその唇を噛んで心を抑え込む。

「凛」
「……え?」

 名前を呼ばれた瞬間、私の唇は零様によって塞がれていた。
 甘くて柔らかい彼の唇に塞がれていると気づいたのは、少し後──。

 唇はゆっくりと離れて、彼の腕の中に私の体が収まった。

「俺はとんでもないやつを拾ったらしい」
「……え?」
「生まれた時から守護王として生き、誰もが守護王の天城零にひれ伏した。ただ、お前だけが違った。お前は俺を一人の人間として見て、役に立ちたいと言った。共に闘いたい事を願った」

 そうだ、私は叶わぬ恋を抑え込むように、零様の役に立つことを願った。

「お前は真っすぐすぎる。見ていて危なっかしい」
「すみません……」
「だからこそ、目が離せない」

 零様の少し冷たい手が、私の頬に添えられた。

「お前を俺のものにしたい」
「──っ!」
「この先どんな事かあろうと、お前を離す気はない」
「でも、私の想いは邪魔になるだけで……」
「俺は女としてお前を見ている。お前をどの男に譲る気もない」

 その言葉と共に、私は両手を捕まえられてしまう。
 背中が壁についていて、足で逃げられないようにされた。

「でも、その、えっと零様には綾芽様がいて……」
「お前が好きだ」
「──っ!」

 零様が私を好き……?
 そんな事が許されるのだろうか。
 私の想いが届く事が、本当にあってよいのだろうか。

「俺の隣でずっといてくれるか?」

 いつものような命令でもない、冷たい声でもない。
 冷静で頭が良くて、迷いのない彼が、今日は私に対してすがるような目をしている。
 こんな顔、初めて見た……。

 私はどうしたい?

 どうすればよいのか、自問自答する。

『オマエハ……シアワセニナレナイ』

 妖魔の声がよみがえる。
 それでも、私は、私は……。

「凛、来い。俺と共に」
「私は……」

 その言葉に返事をしようとした時、とてもつもなく嫌な予感がして顔をあげた。
 零様も「それ」に気づいたらしく、私達は屋敷へと走り出した。

 屋敷の方面から、妖魔の気配がしたからだった。
 そうして屋敷へと戻る時に、彼はこう言った。

 「香月を殺した妖魔の気配だ」と──。
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