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最終話 あなたとなら運命を壊したい
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体を貫かれた私は、倒れる寸前に零様に支えられて意識を失った。
──私は真っ暗な世界にいた。
体が重くてまるで奈落の底にいるみたい。
何かが私の中に入り込んできて、それがとても嫌な感情を湧きたてる。
嫉妬と孤独が入り混じったようなそんな負の感情が押し寄せて来た。
『お前を苦しめているのは誰?』
そんな声が何度も聞こえてきて、私の心を押しつぶす。
この声の主はもう一人の自分なのかもしれない。
彼女は私の辛く苦しい感情を背負ってきたからこそ、私に言えと訴えかけてくる。
『天城零が、私を苦しめているのだ』
そう言ってしまえばきっと楽になる。
だが、私はそれを言いたくないし、思いたくもない。
『あの男を殺せ、そうすればお前は自由になる』
私が零様を殺す?
そうすれば、私はこの苦しみから抜けられる?
『ああ。さあ、あの男を殺そう』
私は覚悟を決めて、持っていた守護刀をぎゅっと握り締める。
目を閉じて想いを込めたその刀を、私は自分自身の胸に突き立てた。
「んぐ……さあ、これで満足かしら。『偽の私』」
「なぜ……!」
「決まっている。私に零様を殺す選択肢などありはしない。決して、何があっても、あの人を傷つけることは私が許さない。ましてや!! 私自身が零様を傷つけるなんて、絶対にしないっ!!」
叫んだその瞬間、一気に世界が明るくなる。
目を開けると、空と月が見えた。
次第に誰かと誰かが話す声と刀がぶつかるような音が聞こえてくる。
「零っ! 凛ちゃんを傷つけられて怒ったの!?」
「……」
「じゃあ、これはどうかなっ!」
意識が朦朧としている私のほうに何か飛んでくる。
自分の体に届く頃に、ようやくそれが灯魔の攻撃であると気づくが、私の体はまだ動かない。
その瞬間、私を庇う様に零様が刀で攻撃を防ぐ。
だが、その攻撃は何手にも分かれて刀で防ぎきれなかった斬撃が零様の体を傷つけた。
「ぐっ……」
「零……さ、ま……!」
膝をついて一瞬顔を歪めた零様を見て、私の中の何かが沸き立った。
どんどん体が熱くなっていき、鋭く研ぎ澄まされた五感で敵を捕らえる。
「──っ! まさか、僕の呪縛を解いたの? それに、君はまさか……」
「凛……」
驚くほど心は穏やかだった。
何か熱いものを感じて右手を見ると、私の手の甲に何やら紋章が現れている。
その紋章を気にすることなく私は守護刀を構えると、少しだけ息を吸って、全てを静かに吐き出した。
──次の瞬間には相手の腕を一つ切り落としていた。
「ぐああっ!」
灯魔が先程までの余裕とは裏腹に苦しみだす。
私がすかさず相手の心臓を目がけて一気に守護刀を突き刺した。
しかし、その瞬間に私は違和感に気づく。
「心臓が、二つ……?」
「凛っ! そのまま抑えていろっ!!」
「──っ! はいっ!」
零様の声に従って、一つ目の心臓に刃を突きたてたまま、灯魔を逃がさないように力を込める。
そうして零様は灯魔のもう一つの心臓──頭を狙って、刀を突き刺した。
「ああ……そうか、君の想いは強いんだ、ね……。愛、確かに、見せてもらった……よ……」
「私が零様を傷つけることは、ない。彼の幸せこそが、私の幸せだから」
「……ふふ、『禁忌』を犯した君は、この先どう生きるのだろうね。ね、零……」
「俺はこいつを一人にはしない」
灯魔は零様の言葉を聞くと、寂しそうな顔をして消えていった。
力が抜けた私は地面に倒れてしまいそうになる。
そんな私を彼は抱き留めてくれた。
「よくやった」
そうして零様に頭を撫でられて、私は少し俯いた。
「零様は香月様を見殺しにしたかったわけじゃないんですね」
「……」
「守護刀を通じて伝わってきました。香月様は妖気に乗っ取られてしまった自分が伊織様を傷つけそうになった。だから願った。自殺を命じてほしいと」
「……自分の大切な者を傷つけるくらいならば、あいつは死を選びたいと言った。それがあいつの最期の願いだった」
「私はどんなに苦しくても、あなたの傍にいたいです。あなたを想い続けたいです」
「ああ」
私は零様の手に自分の手を重ねた。
「私は、『運命』を壊してもいいのですか?」
「お前だけにはさせない。俺も共にその罪を背負おう」
誓い合った私達の後ろには、すでに大勢の護衛兵とその真ん中には綾芽様がいた。
交錯する視線の中で、綾芽様は口を開く。
「霜月凛。お前は妖気を自ら取り込んで力とする『禁忌』を犯した。何か弁明はあるか?」
護衛兵たちは私に向かって、みんな槍を向けている。
私は首を横に振った。
「綾芽」
「零様……」
「俺はお前と結ばれる『運命』を壊す。俺はお前ではなく、凛を愛した」
「それが、あなたの答えですか?」
「ああ、俺の答えだ」
綾芽様はひらりと着物の袖を広げて宣言する。
「この者二人を国外追放とする。二度とこの屋敷の敷居をまたぐことは許さぬ」
そう言って綾芽様は私達に背を向ける。
長年の付き合いからわかってしまう。
これは、綾芽様からの餞別であるということを……。
「行くぞ」
零様は私の手を引くと、屋敷の外へと向かった。
彼の後について歩き始めた瞬間、空から雪が降って来た。
「この春の国に雪とは……不吉な前兆じゃ……」
誰かがそう言った。
「いいえ、これは彼らの門出を祝う、祝福の淡雪です」
私を大切に思ってくれた『姉』が、最後にそう呟いたのが聞こえた──
「運命」を壊した私達には、これから困難が待ち受けるだろう。
だが、愛しいこの人となら、大丈夫。
私はただ、この手を離さず、隣で想い続けながら役に立ち続けるだけ。
私は、あなたとなら「運命」を壊したい──。
──私は真っ暗な世界にいた。
体が重くてまるで奈落の底にいるみたい。
何かが私の中に入り込んできて、それがとても嫌な感情を湧きたてる。
嫉妬と孤独が入り混じったようなそんな負の感情が押し寄せて来た。
『お前を苦しめているのは誰?』
そんな声が何度も聞こえてきて、私の心を押しつぶす。
この声の主はもう一人の自分なのかもしれない。
彼女は私の辛く苦しい感情を背負ってきたからこそ、私に言えと訴えかけてくる。
『天城零が、私を苦しめているのだ』
そう言ってしまえばきっと楽になる。
だが、私はそれを言いたくないし、思いたくもない。
『あの男を殺せ、そうすればお前は自由になる』
私が零様を殺す?
そうすれば、私はこの苦しみから抜けられる?
『ああ。さあ、あの男を殺そう』
私は覚悟を決めて、持っていた守護刀をぎゅっと握り締める。
目を閉じて想いを込めたその刀を、私は自分自身の胸に突き立てた。
「んぐ……さあ、これで満足かしら。『偽の私』」
「なぜ……!」
「決まっている。私に零様を殺す選択肢などありはしない。決して、何があっても、あの人を傷つけることは私が許さない。ましてや!! 私自身が零様を傷つけるなんて、絶対にしないっ!!」
叫んだその瞬間、一気に世界が明るくなる。
目を開けると、空と月が見えた。
次第に誰かと誰かが話す声と刀がぶつかるような音が聞こえてくる。
「零っ! 凛ちゃんを傷つけられて怒ったの!?」
「……」
「じゃあ、これはどうかなっ!」
意識が朦朧としている私のほうに何か飛んでくる。
自分の体に届く頃に、ようやくそれが灯魔の攻撃であると気づくが、私の体はまだ動かない。
その瞬間、私を庇う様に零様が刀で攻撃を防ぐ。
だが、その攻撃は何手にも分かれて刀で防ぎきれなかった斬撃が零様の体を傷つけた。
「ぐっ……」
「零……さ、ま……!」
膝をついて一瞬顔を歪めた零様を見て、私の中の何かが沸き立った。
どんどん体が熱くなっていき、鋭く研ぎ澄まされた五感で敵を捕らえる。
「──っ! まさか、僕の呪縛を解いたの? それに、君はまさか……」
「凛……」
驚くほど心は穏やかだった。
何か熱いものを感じて右手を見ると、私の手の甲に何やら紋章が現れている。
その紋章を気にすることなく私は守護刀を構えると、少しだけ息を吸って、全てを静かに吐き出した。
──次の瞬間には相手の腕を一つ切り落としていた。
「ぐああっ!」
灯魔が先程までの余裕とは裏腹に苦しみだす。
私がすかさず相手の心臓を目がけて一気に守護刀を突き刺した。
しかし、その瞬間に私は違和感に気づく。
「心臓が、二つ……?」
「凛っ! そのまま抑えていろっ!!」
「──っ! はいっ!」
零様の声に従って、一つ目の心臓に刃を突きたてたまま、灯魔を逃がさないように力を込める。
そうして零様は灯魔のもう一つの心臓──頭を狙って、刀を突き刺した。
「ああ……そうか、君の想いは強いんだ、ね……。愛、確かに、見せてもらった……よ……」
「私が零様を傷つけることは、ない。彼の幸せこそが、私の幸せだから」
「……ふふ、『禁忌』を犯した君は、この先どう生きるのだろうね。ね、零……」
「俺はこいつを一人にはしない」
灯魔は零様の言葉を聞くと、寂しそうな顔をして消えていった。
力が抜けた私は地面に倒れてしまいそうになる。
そんな私を彼は抱き留めてくれた。
「よくやった」
そうして零様に頭を撫でられて、私は少し俯いた。
「零様は香月様を見殺しにしたかったわけじゃないんですね」
「……」
「守護刀を通じて伝わってきました。香月様は妖気に乗っ取られてしまった自分が伊織様を傷つけそうになった。だから願った。自殺を命じてほしいと」
「……自分の大切な者を傷つけるくらいならば、あいつは死を選びたいと言った。それがあいつの最期の願いだった」
「私はどんなに苦しくても、あなたの傍にいたいです。あなたを想い続けたいです」
「ああ」
私は零様の手に自分の手を重ねた。
「私は、『運命』を壊してもいいのですか?」
「お前だけにはさせない。俺も共にその罪を背負おう」
誓い合った私達の後ろには、すでに大勢の護衛兵とその真ん中には綾芽様がいた。
交錯する視線の中で、綾芽様は口を開く。
「霜月凛。お前は妖気を自ら取り込んで力とする『禁忌』を犯した。何か弁明はあるか?」
護衛兵たちは私に向かって、みんな槍を向けている。
私は首を横に振った。
「綾芽」
「零様……」
「俺はお前と結ばれる『運命』を壊す。俺はお前ではなく、凛を愛した」
「それが、あなたの答えですか?」
「ああ、俺の答えだ」
綾芽様はひらりと着物の袖を広げて宣言する。
「この者二人を国外追放とする。二度とこの屋敷の敷居をまたぐことは許さぬ」
そう言って綾芽様は私達に背を向ける。
長年の付き合いからわかってしまう。
これは、綾芽様からの餞別であるということを……。
「行くぞ」
零様は私の手を引くと、屋敷の外へと向かった。
彼の後について歩き始めた瞬間、空から雪が降って来た。
「この春の国に雪とは……不吉な前兆じゃ……」
誰かがそう言った。
「いいえ、これは彼らの門出を祝う、祝福の淡雪です」
私を大切に思ってくれた『姉』が、最後にそう呟いたのが聞こえた──
「運命」を壊した私達には、これから困難が待ち受けるだろう。
だが、愛しいこの人となら、大丈夫。
私はただ、この手を離さず、隣で想い続けながら役に立ち続けるだけ。
私は、あなたとなら「運命」を壊したい──。
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