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第29話 裁きと覚悟
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秋になった頃、フローラのもとに王宮からの使者がやって来た。
「フローラ・ハインツェ。代理母の業務ご苦労であった。この度、養子縁組み解除が認められたため、ルイト・キルステンを実家へ戻すこととなった」
「なっ!」
あまりに突然の訪問と、養子縁組み解除の通告である。
フローラは険しい顔をして考え込む。
(考えていないわけではなかった。でも、そうする可能性は低いと思っていた……)
養子縁組みは一定期間、解除の申し立てができる。
しかし、ルイトの場合は異母兄の虐待や両親の育児放棄など深刻な内容があったため、解除とはならないだろうとヴィルからも聞いていた。
(それなのにどうして……)
「さあ、ルイト・キルステンを渡してもらう」
「待ってくださいっ!」
フローラの制止も虚しく使者は屋敷に踏み入った。
彼らの後ろにはなんと、キルステン公爵と公爵夫人が立っている。
「あなた方は……」
「ご苦労だったわね。ディーターに全て家を任せるつもりだったけど、あの子はルイトへの虐待の噂が社交界に広まってしまって、使い物にならないわ。それに、ルイトは昔から頭がよかった。あの頭脳でうちを救ってくれるはずよ」
「そんな……勝手なっ!」
フローラがルイトの両親と話していた時、ルイトが部屋から出てきてしまう。
「フローラ?」
「ルイト様っ!」
彼の姿を見たキルステン公爵夫人はわざとらしく高い猫撫で声をあげる。
「ルイト~! 元気だったかしら」
「おかあさま?」
そうして彼女がルイトに近づこうとした瞬間、その間に入った者がいた。
「なっ! 殿下!」
「おや、いけませんね。養子縁組みが決まっている子どもに手を出そうとは……」
ヴィルはルイトとフローラを守るように立ちふさがった。
その隙にフローラは急いでルイトのもとへ駆け寄り、彼をぎゅっと抱きしめる。
「キルステン公爵、そして公爵夫人。あなた方、どこまでも外道ですね」
「なんのことですかな?」
キルステン公爵がとぼけた顔で言い放つ。
その態度にヴィルの怒りが限界を迎えることとなる。
「あなた方は息子であるディーターの評判が落ちるや否や、ルイトを時期当主として立てるためにここにいるフローラ嬢……代理母からルイトを無理矢理奪おうとした」
「聞き捨てなりませんな、殿下。こうして来たのには、解除申し立ての審査が通ったからで……」
「いいえ、それは不正による審査。あらかじめ審査員を買収していて解除の書類を出させた。該当の審査員がすでに取り調べで罪を認めています」
「ぐっ……くそが……」
キルステン公爵は爪を噛んで、目をひくひくとさせて苛立った様子を見せる。
しかし、ヴィルの断罪は止まらない。
「それと、今回の育児放棄や虐待放置、それに加えて税不正などキルステン公爵にはいくつかの罪状が今回発布されました」
「なっ! わしは『永久公爵』持ちだぞ」
侯爵以上の者で特に国に貢献した者に対して、『永久爵位』が与えられることがある。
キルステン公爵はその特権が適応されていると思っていた。
しかし、それには彼が把握していない部分があったのだ。
「キルステン公爵閣下。何かお間違えないでしょうか」
「なにがだ」
「キルステン公爵に与えられた特権『永久公爵』は、あなたにではありません。あなたの父親であった先代に渡されたものです」
「なんだと!?」
彼の父親である先代のキルステン公爵は領地改革によって、領民の飢えを解消して国からも褒章を賜った人物。
つまり、『永久公爵』は彼のみに贈られたものであり、今のキルステン公爵には適応されない。
「それに、たとえ特権持ちでも犯罪が見逃されるわけではない。そんなの考えれば当たり前でしょう!」
ヴィルは厳しい声色で彼に言い放った。
その言葉に打つ手がないと思ったのか、キルステン公爵は黙って目をつぶってしまう。
「ちょっとあなた! なんとかいいなさいよ! ルイトを取り戻せないじゃないの!」
しかし、その公爵夫人に言い返したのはフローラだった。
「キルステン公爵夫人、あなたはルイト様が好きな食べ物を知っていますか?」
「……は?」
「言えないでしょう。あなたは自分の子どもをまるで『物』のように軽く扱った。虐待を見て見ぬふり、それを今更返してくれだの……いい加減にしてください!」
あまりのフローラの剣幕に公爵夫人も圧されている。
「ルイト様をこれ以上苦しめるのは私が許しません。ルイト様を育てたいとまだ言うのであれば、さあ、これで私を刺し殺してみてください」
「なっ!」
フローラは懐刀を夫人に持たせる。
一歩一歩とフローラは夫人に近づくが、夫人は後ずさって手は震えてなにもできない。
そして、その場に短剣を落としてしまう。
「その覚悟もないのに、よくルイト様の前に顔を出せましたね。ルイト様を幸せにする。そう決めたのです。その想いを、夢を邪魔する者は誰であれ許しません」
「ひいっ!!」
公爵夫人はフローラの覚悟に負け、その場にへたり込んだ。
「フローラ……」
「殿下、彼らにお裁きを。ルイト様の幸せは、私が守ります」
「ああ」
そう言い残してフローラはルイトと共に彼らの前から去った。
こうして、養子縁組み解除騒動は幕を下ろした。
キルステン公爵、公爵夫人両名は牢へと入ることになり、息子のディーターからも爵位継承権を剥奪、国外追放となった。
キルステン公爵の爵位継承権はルイトへと移ることとなった。
やがて、冬が過ぎ、フローラの契約母の終了時期の日がやってきた。
「フローラ・ハインツェ。代理母の業務ご苦労であった。この度、養子縁組み解除が認められたため、ルイト・キルステンを実家へ戻すこととなった」
「なっ!」
あまりに突然の訪問と、養子縁組み解除の通告である。
フローラは険しい顔をして考え込む。
(考えていないわけではなかった。でも、そうする可能性は低いと思っていた……)
養子縁組みは一定期間、解除の申し立てができる。
しかし、ルイトの場合は異母兄の虐待や両親の育児放棄など深刻な内容があったため、解除とはならないだろうとヴィルからも聞いていた。
(それなのにどうして……)
「さあ、ルイト・キルステンを渡してもらう」
「待ってくださいっ!」
フローラの制止も虚しく使者は屋敷に踏み入った。
彼らの後ろにはなんと、キルステン公爵と公爵夫人が立っている。
「あなた方は……」
「ご苦労だったわね。ディーターに全て家を任せるつもりだったけど、あの子はルイトへの虐待の噂が社交界に広まってしまって、使い物にならないわ。それに、ルイトは昔から頭がよかった。あの頭脳でうちを救ってくれるはずよ」
「そんな……勝手なっ!」
フローラがルイトの両親と話していた時、ルイトが部屋から出てきてしまう。
「フローラ?」
「ルイト様っ!」
彼の姿を見たキルステン公爵夫人はわざとらしく高い猫撫で声をあげる。
「ルイト~! 元気だったかしら」
「おかあさま?」
そうして彼女がルイトに近づこうとした瞬間、その間に入った者がいた。
「なっ! 殿下!」
「おや、いけませんね。養子縁組みが決まっている子どもに手を出そうとは……」
ヴィルはルイトとフローラを守るように立ちふさがった。
その隙にフローラは急いでルイトのもとへ駆け寄り、彼をぎゅっと抱きしめる。
「キルステン公爵、そして公爵夫人。あなた方、どこまでも外道ですね」
「なんのことですかな?」
キルステン公爵がとぼけた顔で言い放つ。
その態度にヴィルの怒りが限界を迎えることとなる。
「あなた方は息子であるディーターの評判が落ちるや否や、ルイトを時期当主として立てるためにここにいるフローラ嬢……代理母からルイトを無理矢理奪おうとした」
「聞き捨てなりませんな、殿下。こうして来たのには、解除申し立ての審査が通ったからで……」
「いいえ、それは不正による審査。あらかじめ審査員を買収していて解除の書類を出させた。該当の審査員がすでに取り調べで罪を認めています」
「ぐっ……くそが……」
キルステン公爵は爪を噛んで、目をひくひくとさせて苛立った様子を見せる。
しかし、ヴィルの断罪は止まらない。
「それと、今回の育児放棄や虐待放置、それに加えて税不正などキルステン公爵にはいくつかの罪状が今回発布されました」
「なっ! わしは『永久公爵』持ちだぞ」
侯爵以上の者で特に国に貢献した者に対して、『永久爵位』が与えられることがある。
キルステン公爵はその特権が適応されていると思っていた。
しかし、それには彼が把握していない部分があったのだ。
「キルステン公爵閣下。何かお間違えないでしょうか」
「なにがだ」
「キルステン公爵に与えられた特権『永久公爵』は、あなたにではありません。あなたの父親であった先代に渡されたものです」
「なんだと!?」
彼の父親である先代のキルステン公爵は領地改革によって、領民の飢えを解消して国からも褒章を賜った人物。
つまり、『永久公爵』は彼のみに贈られたものであり、今のキルステン公爵には適応されない。
「それに、たとえ特権持ちでも犯罪が見逃されるわけではない。そんなの考えれば当たり前でしょう!」
ヴィルは厳しい声色で彼に言い放った。
その言葉に打つ手がないと思ったのか、キルステン公爵は黙って目をつぶってしまう。
「ちょっとあなた! なんとかいいなさいよ! ルイトを取り戻せないじゃないの!」
しかし、その公爵夫人に言い返したのはフローラだった。
「キルステン公爵夫人、あなたはルイト様が好きな食べ物を知っていますか?」
「……は?」
「言えないでしょう。あなたは自分の子どもをまるで『物』のように軽く扱った。虐待を見て見ぬふり、それを今更返してくれだの……いい加減にしてください!」
あまりのフローラの剣幕に公爵夫人も圧されている。
「ルイト様をこれ以上苦しめるのは私が許しません。ルイト様を育てたいとまだ言うのであれば、さあ、これで私を刺し殺してみてください」
「なっ!」
フローラは懐刀を夫人に持たせる。
一歩一歩とフローラは夫人に近づくが、夫人は後ずさって手は震えてなにもできない。
そして、その場に短剣を落としてしまう。
「その覚悟もないのに、よくルイト様の前に顔を出せましたね。ルイト様を幸せにする。そう決めたのです。その想いを、夢を邪魔する者は誰であれ許しません」
「ひいっ!!」
公爵夫人はフローラの覚悟に負け、その場にへたり込んだ。
「フローラ……」
「殿下、彼らにお裁きを。ルイト様の幸せは、私が守ります」
「ああ」
そう言い残してフローラはルイトと共に彼らの前から去った。
こうして、養子縁組み解除騒動は幕を下ろした。
キルステン公爵、公爵夫人両名は牢へと入ることになり、息子のディーターからも爵位継承権を剥奪、国外追放となった。
キルステン公爵の爵位継承権はルイトへと移ることとなった。
やがて、冬が過ぎ、フローラの契約母の終了時期の日がやってきた。
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◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆
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