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第5話 聖騎士長リオネル
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婚約者を失ってからというもの、私は何もやる気が出ずに学園と家を往復するのみ。
心にぽかりと空いた穴はそんなに簡単に埋まるものではなく、私はただひたすら生きるだけを考えていた。
ディオン様が断罪されたあの後、国王とマリエット侯爵と私は一室で話をした。
メイドがそれぞれの前に紅茶を置くと、お辞儀をして部屋を後にする。
三人だけになったことを確認すると、国王は口を開いた。
「ディオンのことは残念だった」
「国王、愚息がご期待に添えずに申し訳ございませんでした」
「マルセルのせいではない。きちんと教育できなかった私に落ち度がある」
「いいえ、私が婚約者として他の女性に目移りさせたり、勉学を怠るのを止められなかったりしたせいです。申し訳ございません」
部屋には重苦しい空気が流れていて、国王もマリエット侯爵も自分の責任だとおっしゃっている。
申し訳ございません、私が女なばかりに……いえ、その考えはしないと約束しました。
そう。今は亡きマリエット侯爵夫人──私の育ての母親と。
『いい? クラリス、あなたが女なのを負い目に感じなくていいのです。むしろ誇りなさい。賢く、そして強く生きる』
『お母様……』
『私は本当のお母様ではないけれど、それでもあなたのことを自分の子供だと思ってるわ。私がマルセル様に出会って幸せなように、あなたにもきっと幸せが訪れる』
そんな風にいつも私の幸せを祈ってくれたお母様。
数年前に病で亡くなってしまったけれど、私に女性の強さと矜持を教えてくれた人。
「私は国のためにどのような結婚も、また女王となる道でも受け入れます。その覚悟が出来ております。精いっぱいそのための努力と勉学をこれからも続けてまいります」
「クラリス……」
国王とマリエット侯爵がしばらく考えた後、私のほうを深い眼差しで見つめてこられた。
「お前のその覚悟、確かに受け取った。お前はまだ17だ。相応しい者をきちんと見極めた上で結婚相手を探そう」
「ありがとうございます、国王」
「私も全力で尽力させていただきます」
「ああ、頼んだ」
「早速ですが、今後の方針として────」
◇◆◇
さあ、王太子であったディオン様がどのような処遇、そしてそれがまわりへどのように発表をされたか。
国王とマリエット侯爵の話し合いで、王太子の廃嫡というのも後継ぎがいないということで国民の不安を呼ぶ。
そこでディオン様は他国へ留学に出たということで処理された。
また、クロード伯爵からある申し出があった。
「ご令嬢を王宮での修行メイドに?」
「はい」
クロード伯爵は今回の一件で娘のエーヴ様の再教育をしたいという届け出があり、貴族の令嬢──主に爵位の低い令嬢の花嫁修業や礼儀作法の見習いの場として設けられている職種の『修行メイド』にエーヴ様をおいてほしいとのことだった。
国王はその申し出を受け入れ、エーヴ様に修行メイドとして尽くすようにと命じた。
ただ、まだかなり彼女は不満に思っているようで、修行メイド長に毎日毎日しごかれていると聞く。
だから私が学園に行っても……。
「クラリス様、ディオン様が留学なさって寂しいですわよね?」
「確か何年も留学なさるのよね?」
哀れみの様子をよそおってはいるが、皆私が恋人であるディオン様と離れることになったと思って内心は嘲笑っているのだろう。
マリエット侯爵家といえば王族から非常に厚い信頼を得ていることを誰もが知っているため、おおっぴらには私に何か言ったり、したりということはない。
だが、裏で「私の方が優れた美貌なのに」とか悔しそうにしている声は何度か聞いたことがある。
まあ、学園ももう少しで卒業だから卒業したらもっと勉学に励むことにしましょう。
私は勉強のために訪れていた王宮書庫室を出て、今までと変わらない私の家──マリエット侯爵家へ帰ろうとした。
「クラリス様」
「?」
その時、私を呼ぶ声がして振り返るとそこにはしばらくぶりの顔があった。
「あら、リオネル様」
「ご無沙汰しております、クラリス様」
リオネル様はこの国の騎士であり、長らく辺境の守護兵長をお勤めになっていた方。
先日、その功績や強さが認められ、若干26歳にして聖騎士長となられた。
聖騎士長といえばこの国で最も偉い王族直轄軍の指揮官であり、国の軍部をまとめる人材。
リオネル様は私が王女だということを知る数少ない方で、彼が騎士見習いの時は王宮でよくお会いしていた。
まあ、彼の家系は皆、歴代聖騎士長だからエリート中のエリートなんだけど。
そんな彼はまぶしいほど綺麗な金髪を揺らして、そして青い瞳で私を見つめる。
私のブロンドヘアーよりももっと輝いている、そんな髪がいつも羨ましい。
彼はどうやら何か話があったようで、世間話のあとで、そうそうといった感じで話し始めた。
「クラリス様、ディオン様の件は伺いました」
「さすが聖騎士長、耳が早いですわね」
「それで、実は国王からある命が下りまして」
「あら、今度はどんな無茶を言われたのですか?」
彼はよく国王に無茶難題を言われているから、今回もそんな感じかなと思っていったのだけど、彼からは意外な内容が返ってきた。
「本日よりクラリス様専属の護衛騎士となりました」
「……へ?」
また波乱の予感がして、私は目を大きく見開いて素っ頓狂に驚いてしまった──
心にぽかりと空いた穴はそんなに簡単に埋まるものではなく、私はただひたすら生きるだけを考えていた。
ディオン様が断罪されたあの後、国王とマリエット侯爵と私は一室で話をした。
メイドがそれぞれの前に紅茶を置くと、お辞儀をして部屋を後にする。
三人だけになったことを確認すると、国王は口を開いた。
「ディオンのことは残念だった」
「国王、愚息がご期待に添えずに申し訳ございませんでした」
「マルセルのせいではない。きちんと教育できなかった私に落ち度がある」
「いいえ、私が婚約者として他の女性に目移りさせたり、勉学を怠るのを止められなかったりしたせいです。申し訳ございません」
部屋には重苦しい空気が流れていて、国王もマリエット侯爵も自分の責任だとおっしゃっている。
申し訳ございません、私が女なばかりに……いえ、その考えはしないと約束しました。
そう。今は亡きマリエット侯爵夫人──私の育ての母親と。
『いい? クラリス、あなたが女なのを負い目に感じなくていいのです。むしろ誇りなさい。賢く、そして強く生きる』
『お母様……』
『私は本当のお母様ではないけれど、それでもあなたのことを自分の子供だと思ってるわ。私がマルセル様に出会って幸せなように、あなたにもきっと幸せが訪れる』
そんな風にいつも私の幸せを祈ってくれたお母様。
数年前に病で亡くなってしまったけれど、私に女性の強さと矜持を教えてくれた人。
「私は国のためにどのような結婚も、また女王となる道でも受け入れます。その覚悟が出来ております。精いっぱいそのための努力と勉学をこれからも続けてまいります」
「クラリス……」
国王とマリエット侯爵がしばらく考えた後、私のほうを深い眼差しで見つめてこられた。
「お前のその覚悟、確かに受け取った。お前はまだ17だ。相応しい者をきちんと見極めた上で結婚相手を探そう」
「ありがとうございます、国王」
「私も全力で尽力させていただきます」
「ああ、頼んだ」
「早速ですが、今後の方針として────」
◇◆◇
さあ、王太子であったディオン様がどのような処遇、そしてそれがまわりへどのように発表をされたか。
国王とマリエット侯爵の話し合いで、王太子の廃嫡というのも後継ぎがいないということで国民の不安を呼ぶ。
そこでディオン様は他国へ留学に出たということで処理された。
また、クロード伯爵からある申し出があった。
「ご令嬢を王宮での修行メイドに?」
「はい」
クロード伯爵は今回の一件で娘のエーヴ様の再教育をしたいという届け出があり、貴族の令嬢──主に爵位の低い令嬢の花嫁修業や礼儀作法の見習いの場として設けられている職種の『修行メイド』にエーヴ様をおいてほしいとのことだった。
国王はその申し出を受け入れ、エーヴ様に修行メイドとして尽くすようにと命じた。
ただ、まだかなり彼女は不満に思っているようで、修行メイド長に毎日毎日しごかれていると聞く。
だから私が学園に行っても……。
「クラリス様、ディオン様が留学なさって寂しいですわよね?」
「確か何年も留学なさるのよね?」
哀れみの様子をよそおってはいるが、皆私が恋人であるディオン様と離れることになったと思って内心は嘲笑っているのだろう。
マリエット侯爵家といえば王族から非常に厚い信頼を得ていることを誰もが知っているため、おおっぴらには私に何か言ったり、したりということはない。
だが、裏で「私の方が優れた美貌なのに」とか悔しそうにしている声は何度か聞いたことがある。
まあ、学園ももう少しで卒業だから卒業したらもっと勉学に励むことにしましょう。
私は勉強のために訪れていた王宮書庫室を出て、今までと変わらない私の家──マリエット侯爵家へ帰ろうとした。
「クラリス様」
「?」
その時、私を呼ぶ声がして振り返るとそこにはしばらくぶりの顔があった。
「あら、リオネル様」
「ご無沙汰しております、クラリス様」
リオネル様はこの国の騎士であり、長らく辺境の守護兵長をお勤めになっていた方。
先日、その功績や強さが認められ、若干26歳にして聖騎士長となられた。
聖騎士長といえばこの国で最も偉い王族直轄軍の指揮官であり、国の軍部をまとめる人材。
リオネル様は私が王女だということを知る数少ない方で、彼が騎士見習いの時は王宮でよくお会いしていた。
まあ、彼の家系は皆、歴代聖騎士長だからエリート中のエリートなんだけど。
そんな彼はまぶしいほど綺麗な金髪を揺らして、そして青い瞳で私を見つめる。
私のブロンドヘアーよりももっと輝いている、そんな髪がいつも羨ましい。
彼はどうやら何か話があったようで、世間話のあとで、そうそうといった感じで話し始めた。
「クラリス様、ディオン様の件は伺いました」
「さすが聖騎士長、耳が早いですわね」
「それで、実は国王からある命が下りまして」
「あら、今度はどんな無茶を言われたのですか?」
彼はよく国王に無茶難題を言われているから、今回もそんな感じかなと思っていったのだけど、彼からは意外な内容が返ってきた。
「本日よりクラリス様専属の護衛騎士となりました」
「……へ?」
また波乱の予感がして、私は目を大きく見開いて素っ頓狂に驚いてしまった──
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