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第3話

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 卒業式の最中に行なわれた婚約破棄──。
 ざわめく講堂内で、国王の声が響き渡った。

「エヴァン、お前っ! なぜ王族席へと来た。お前の席はあちらだろう!」

 突然、在校生の席から王族席に姿を現したエヴァンに国王は驚きながら叱った。

「いやあ、父上。それに母上、兄上。お話があったので、参りました」
「話だと?」

 エヴァンの言葉に王妃とミカエラも怪訝そうな顔をしている。
 一気に注目はエヴァンへと向いた。

 そうして、彼は『一級公爵書』を胸元から取り出すと、それを国王の方へ向けた。

「なっ!」

 国王だけでなく王妃もミカエラも目を見開いた。

「これが何か、おわかりですね?」
「『一級公爵書』……だと!?」

 エヴァンの後ろには四人の公爵が控えていた。
 そのうちの一人であるグラス公爵が一歩前に出て国王に進言する。

「恐れながら、陛下。私とあなたはもう三十年以上の付き合いでございます。だからこそ、あなたが真っすぐ国の政治に向き合っていたあの時に戻ってほしかった。けれど、もう、こんな『鴉』の言葉を聞き届けてくださらなかった……残念です」
「グラス公爵……」

 グラス公爵は胸元のブローチに手をやった。
 それは若かった頃の二人の絆の証として、国王からグラス公爵に贈られたものだった。

「父上、あなたは国民から十数年不当に税を取り立てていた。そして母上もそれに気づいていらっしゃいましたね」
「なんのことだ……」

 国王も王妃もしらを切る。
 国王は冷静に対処しようとしているが、王妃は動揺を隠しきれずにわずかに手が震えている。

「兄上、あなたは国庫金に手をつけて、ルルア嬢の家に多額の金を渡していた」
「なんだとっ!?」

 ミカエラの行為を聞き、叫んだのは国王だった。

「お前はなんということをしたんだ!」

 ミカエラはバレないと思っていたのか、ガタガタと震えだして青ざめていく。
 ルルアもまずいと感じているのか、さっきまで得意げだった顔も白くなっている。

「四大公爵当主から私に要請がありました。『一級公爵書』をもって、一つ、国王と王妃、第一王子から王族の位を奪うすることとする。そして、もう一つ、不当な身分制度である『神位制度』の撤廃をする」
「なっ……」

 いくら国王と言えども、『一級公爵書』には逆らえない。
 王妃は絶望の色を見せ、その場にへたり込んで泣き始めた。

「父上、母上、兄上。これは私からの最後の願いです。国から出て行けとは言いません。ですが、その身をもって罪を償い、そしてこの国の現状を、民の声を聞いてください。百年前にできた「神位制度」が生み出した闇を、そしてあなたたちがその闇を広げてしまったことの罪を、その目で確かめてください」

 エヴァンが言い終えるのを見届けると、リディはミカエラに向かって言う。
「あなたはわたくしを『獅子』だから、と優遇した。そして、子猫のように弱いと嘲笑った」

 リディは力強く告げる。

「強い者が弱い者をいじめてどうするのですか。強い『獅子』が、弱い者を助けなくてどうするのですか。私はあなたが強さに溺れてしまわないことを願っていました……」

 リディはミカエラに背を向けて講堂を後にした──。


 後日、国王と王妃、ミカエラは辺境の地で過ごすこととなった。
 農作業に従事して一国民として生活を始めるのだそうだ。

 一方、リディはぼうっと学院の屋上で空を見ていた。
 すると、彼女に人影がかかる。

「政務のほうはいいのですか?」
「ああ、ちょっと休憩だ」

 第二王子エヴァンは、次期国王として四大公爵に助けられながら政務をおこなっていた。
 「神位制度」は撤廃されたが、人々の記憶や意識からそれがなくなるにはもう少し時間がかかるだろう。

「ああ、疲れる。あの気難しいキルビス公爵と軍事話を話すと長い!」
「キルビス公爵は国防のトップ。あなたもよく小さい頃はしごかれてましたね」
「ああ、おかげで剣技は誰にも負けたことがない」
「よかったではありませんか」
「納得いかない……」

 エヴァンは不満そうに口を尖らせている。
 そうして少しの沈黙が流れた後、エヴァンは口を開く。

「なあ、リディ」
「なんでしょうか?」
「俺が王位欲しさに今回のことを企んだとか疑わないの?」

 二人は目を合わせずに空を見ている。

「そんな器用なこと、あなたにできっこないもの」
「ひどっ!」

 彼女の心を掴むまで何年かかるのだろうか、と彼は思った。
 こんな二人が未来の国王と王妃になるのは、もう少し先の話だ──。
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