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第70話 フェンリルとスライムの里

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 「もちろんです! 一緒に暮らしましょう!」

 フェンリルの里の出入り口を、俺の家に繋げると言う提案。
 俺はニッコリ笑顔で快諾かいだくした。
 なんなら、最初からこうなればいいなあと思っていたところはある。

「やすひろ殿……! 感謝いたします!」

 里長さんは深く深く頭を下げた。
 後ろのフェンリル達、またスライムさん含めたインフィニティスライム達も、里長さんにならって頭を下げる。

 伝説のフェンリル達、それに究極のスライム達に一斉に頭を下げられるなんて。
 中々に圧巻の光景だけど、それ以上に恐れ多かった。

「そ、そんなかしこまらなくても!」
「わしら一同、本当に感謝しておるのです」
「俺も楽しみですから!」
「本当に良いお方だ」
「そろそろ頭を上げてください!」

 俺がそう言ってからしばらく。
 ようやく頭を上げた里長さんは、里の入口の方を振り返った。

「それでは」
「いよいよ入口を閉じるんですね。ここにはたくさんの思い出も──」
「はあっ……!」
「?」

 そうして、話してる途中で里長さんが前脚二本を掲げながら声を上げる。
 いま何かしたか?

「閉じましたぞ」
「え、入口を!?」
「そうですじゃ」
「あ、そうですか……」

 と思ったら、事はすでに済んだらしい。
 思ったより早かった、というかあっさりしてた。
 ただ奇声を上げたようにしか思えなかったけど。

『なるほどな』
「お前、今ので分かったはさすがに嘘だろ」

 さすがに今回のえりとは怪しかった。
 そんなえりとに、里長さんが話しかける。

「えりと殿」
『あいよ』
「入口を繋げるには座標の情報が必要じゃ」
『あー、そういう仕組みなのか』

 座標って、位置情報みたいなものだよな。
 それを『地獄谷』のとある木の間から、俺の家へ移すのだろうか。

「この入口地点を『246,35,478』だとすると、やすひろ殿の家はどうなる」
「???」

 まじで何を言ってるか分かんない。
 数字は俺が気にすることはなさそうだ。
 ていうかこんなの、えりとでも分からないんじゃ……。

『あー、『51,237,46』だね』
「なんで分かんの!?」
『法則性を理解すれば、基本は「マインクラ〇ト」と変わらん』
「それ現実でパッと適用できる奴いねえよ!」

 なんてナメていたら、さすがのえりとさん。
 相変わらず意味の分からない頭のキレ具合だこと。
 
『天才ですから』
「バスケットマンかよ」

 ゲームやらアニメやら、もうごっちゃごちゃだ。 
 否定できないから余計に困る。
 まじで友達で良かったと思ってる。

『ま、とりあえずだ』
「うん!」

 俺たちは里長さんに向き直った。
 何やらとんとん拍子に準備は整ったらしい。

「これで、この里が俺の家に繋がるわけですね」
「その通りじゃ」

 難しい話はもう結構。
 今はとにかく、家族がたくさん増えたことを喜ぼう。

「本当にありがとうの」
「やすひろくん! 本当にありがとう」

 里長さんとスライムさん、それから両種族のみんなが改めて感謝をしてくれた。

「じゃあ、帰ろう! 新たな家に!」
「ワフ!」
「ムニャ!」
「キュル!」
「プク!」

「はい! やすひろさん!」
「ぽよっ!」

「うむ」
「「「クゥ~ン!」」」

「うん!」
「「「ポヨオオオ」」」

 うちのペット四匹に、美月ちゃんとぽよちゃん、フェンリル達とインフィニティスライム達。
 みんなが一つになった瞬間だった。







 時は経ち。

「里長さん! スライムさん!」
「やすひろ殿!」
「やすひろくん!」

 俺はいつものように・・・・・・・里へ顔を出す。
 フェンリルの里……いや、今となってはフェンリルとスライムの里か。

「収穫はできましたか?」
「もちろんですじゃ」
「いっぱい摂れたよ!」
「おおー! 本当だ!」

 尋ねると、二人は満面の笑みで答えてくれた。

 聞いた内容は『王種』野菜の収穫について。
 お互い仲直りして『王種』野菜がすごく気に入ったらしい両種族は、里でそれを育てることにした。
 どちらも、食べるのを楽しみにせっせと働いてくれて、とても助かっている。

「どうじゃ、素晴らしかろう。これもわしらフェンリルのおかげよの」
「僕たちスライムだって頑張ったもん!」

 なんて感心していたら、またこれか。
 普段は仲の良い両種族なんだけど、成果を聞いた途端に張り合う。

「ははは。まあまあ、落ち着いて」

 けどまあ、戦いをおっぱじめようとしていた頃に比べたら可愛いもんだ。
 張り合ってくれるおかげで、確かな成果も出ているしな。
 
「それじゃ戻りましょうか。今日はパーティーにしましょう!」
「それはそれは!」
「やったー!」

 両種族が手を取り合って、今日が初めての収穫日。
 こんな日ぐらいパーッといこうじゃないか。

「では、わしはフェンリル達を呼んでくるのかの」
「僕も子分たちを呼んでくるよ!」

 そうして、それぞれの長は里内へ仲間を呼び掛けに行く。
 それを横目に、俺は一足先に里から出た。

「う~~んっと!」

 里の入口から出た先、“高い高い樹の上”でうんと背伸びをした。
 夕暮れで辺りは赤くなり始めた、エモい時間帯だ。

「便利になったよなあ」
 
 後ろを振り返ると、『←里の入口』と書かれた木板。
 里を出た先は世界樹の頂上だ。

 あの時、えりとが里長さんに伝えた座標は「世界樹の頂上」。
 それも、空いていたスペースにぴったりだったんだ。
 今考えても、まじで意味分からん計算速度と正確さだ。

「また賑やかになったからいいんだけどね」

 これで世界樹の頂上は、全てのスペースが埋まった。

 中央には「展望台」。
 北に「畑」、東が「四季のお花見ゾーン」。
 南に「温泉」があり、ついに西に「フェンリルとスライムの里」だ。

「なんだこのラインナップ」

 ふと振り返ってみると、中々にめちゃくちゃだ。
 どうしてこうなったのか。
 ……全部、その場の思い付きだからだろうなあ。

「ま、いっか!」

 それでも、楽しいのには変わりがない。
 おかげで配信ネタも尽きないし、毎日が幸せだ。
 
「よーし! それじゃパーティーの準備だ!」

 俺はウキウキで駆け出した。
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