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第27話 意外な弱点

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 「ひぎゃああああああ!」

 小鳥に飛びつかれ、リザがいきなり大きな悲鳴を上げた。
 とっさにバタバタと両腕を振る様は、小鳥にも劣っていない。

 その姿に、エアルとレリアは顔を見合わせた。
 二人の中に浮かんだのは一つだろう。

「リザ、もしかして──」
「鳥が苦手なの!?」

 今まで破天荒なエアルをコントロールし、状況に応じて冷静な判断を下してきたリザ。
 そんな彼女からは考えられない、意外な弱点が見つかった瞬間であった。

「そうよ! だから見てないで助けてー!!」
「はいはーい」

 どう見ても害がない小鳥のため、エアルは軽い返事をしつつ対処しようとする。
 だが、小鳥がリザの胸元・・から離れないのだ。

「ん、この子、力強いなー」
「ぼぉっ!」
「早く! ねえお願いだから!」

 エアルの馬鹿力なら離すのも訳無いが、あまり無理にしようとすると小鳥を傷つけてしまうかもしれない。
 すでに可愛く思っている小鳥に、その仕打ちは少し腰が引けていたのだ。
 そんな遠慮が結果的に状況を長引かせていた。

「しょうがないわね。──はい」

 それを見かねたレリアが、小鳥が掴んでいたリザの服の一部を斬る。

「あ、ありがとうレリア……」
「フフフッ。ま、その格好はごあいきょうということで」
「……? はっ!」

 小鳥は離れたが、同時にリザの服が破れていた。
 チラリと見える胸の辺りからは、下着がのぞかせていたのだ。

「~~~っ!」
「意外と可愛いの着てるのね」
「うっさい!」

 新たなダンジョンに来て早々、散々な思いをするリザであった。




「それにしても意外な弱点だったなー」

 あれからしばらく。
 一度落ち着いた場所で、エアルが口を開いた。

「リザが鳥苦手だなんて」
「……ええ、そうよ」

 しかし、答えるリザの声は遠い。
 エアル達から離れた場所に座っているようだ。
 
 それもそのはず──

「ぼぉっ!」
 
 先ほどの小鳥が一行にくっ付いてきていた。

「ぼぼぉっ!」
「ひぃっ!」

 さらには、隙さえあれば小鳥はリザに近づこうとする。
 しかも執拗しつように胸元を狙って。

「ダメだよー。リザがまた暴れちゃうから」
「ぼぉ~」

 こうしてエアルが抑えていないとまたリザに飛びつくだろう。
 少し不便な状況ながらも、エアルは話を続けた。

「リザはどうして鳥がダメなの?」
「……母が生粋の鳥マニアでね。家にはたくさん鳥がいたのよ」
「へー、すごいじゃん!」
「私も最初は気にならなかったわよ」

 リザは過去を思い出すよう、遠い目を空に向けながら話し始める。

「でもある時、家にいたすっごく大きな一匹に襲われそうになっちゃって」
「あー」
「後から聞くと、私と仲良くなりたかっただけらしいの。でも幼かったから怖くて。母はそれから私と鳥たちを遠ざけてくれたけど、その時のトラウマがまだ……」

 リザはチラリと小鳥に目を向けると、ぶるっと身震いをさせた。
 まだ鳥系魔物を見ただけで体が反応してしまうようだ。
 ここまで鳥系魔物がいなかったのは、偶然か、もしくは道案内のリザがけていたのだろう。

「でも、どうする? レリア」
「そうねえ。進行に影響が出るのはよくないのだけど……」
「ぼぉっ!」

 レリアが視線を移すと、小鳥は両翼を広げて可愛げに鳴く。

「このまま放ってはおけないわよね」
「だよね」
「ぼぉ?」

 その姿は無害そのもの。
 それは同時に非力であることも示している。
 つまり、こんなダンジョンの環境ではすぐに命を落としてしまうだろう。

 弱肉強食の世界において、そんなものは甘えだと百も承知。
 だが――

「だってかわいいもん!」
「……ええ」
「ぼぉーお?」

 エアルとレリアには、すでに情がいてしまっていた。
 加えて、小鳥は妙にラフィと相性が良くも見えるのだ。

「わふぅ?」
「ぼおっ!」
「わふわふ!」

 何を話しているかは謎だが、好意的なことは見て取れる。
 ラフィが懐っこいのか、小鳥が積極的なのか、どちらにしろ気が合うようだ。
 ここですぐに見放すのは、ラフィが悲しんでしまうだろう。

「……」

 それを遠くから見ているリザ。
 はあ、と一息ついてから覚悟を持ったように立ち上がる。

「わかったわよ。とりあえずは連れていきましょ」
「リザ、いいの!」
「ええ。けど、その代わり――」

 リザはビシっとエアルを指差した。

「ぜっっったい私に近づかせないで!!」
「う、うん……」
 
 そうして向けられた目は、今までのどんな彼女よりも恐ろしい。
 Aランク魔物にも一切恐れないエアルですら、こくこくっと何度もうなずいた。

「行くわよ」

 リザはきびすを返して先を歩く。
 また、そんなリザをエアルは微妙な表情で眺めていた。

「なんとかならないものかなあ……」
「ぼぉ……」

 思わず抱えていた小鳥の頬をつんとつついた。







 『マグメル火山』の中腹辺り。
 周りの安全を確認したところで、一行は休息を取ることにした。

「……ふぅ」

 そんな中、リザは物陰で装備を整えている。
 先ほどの小鳥の一件で服が破れてしまったからだ。

「!」

 すると、胸元にキラリと光るものが目に入る。

 それは──遺物。
 故郷の母からゆずり受けたペンダントだ。
 エアルと出会った時から、肌身離さず持ち歩いている物である。

 中には何かがあるみたいだが、リザ自身開けることができない。
 何が入っているかは分かっていないようだ。

「……」

 これは、リザの母から死に際に託された物。
 リザの探索の目的は『ペンダントの謎を追うこと』だったのだ。
 そんな母が、ペンダントと共にのこした最後の言葉がある。

「“火のダンジョンへ行け”──か」

 母は元々、ラビリンスで探索者をしていたが、大きな怪我をきっかけに引退した。
 だが話を聞くに、母は偉大な探索者だったことは分かる。

 それでも、リザへ攻略情報を教えることは一切なかった。
 “自分の目で確かめろ”という、母なりの探索者の美学だったのかもしれない。

「私には才能がなかったけどね」

 だが、戦闘に関してリザは才能を遺伝しなかった・・・・・
 ある程度は動ける彼女だが、やはりエアルやレリアに比べると見劣りしてしまう。

 それでも諦められなかったリザ。
 彼女が選んだ道は──補助サポートだ。

 誰よりも情報を詳しく、誰よりも強者を正しく導く。
 寄生と言われようと、何と言われようと、リザは母の想いを知るためにこの道を進む。
  
 そうして、幸いエアル・レリア・ラフィという仲間を得た。

「よし」

 リザはペンダントをそっと服の下にしまう。
 今となっては思い出の遺物でもあり、お守りのような存在でもある。

「こんなとこで手間取っている場合じゃないわ」

 偶然出会った小鳥によって乱されてしまったが、リザは再び気持ちを整えた。

「ここには母が伝えたかった何かがあるんだから」





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