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皆盡神の御引越し 其の壱
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『神死穢三柱同時転居』
その勅令は突然だった。いや私の経験上、薄々勘づいて居たことは否定しない。しかし、いざ発令されれば強制ではあるものの、その任務から逃れたいと私が思うのにも相応の理由があるのだ。
神死穢。全世界に存在する神仏の中でも、他の追随を許さない程の穢や呪詛に対する高い耐性を有する神仏達。故に遥か昔日より、まるで夜闇に灯る誘蛾灯の如く厄や穢れを寄せ集め、その身に宿し鎮めてきたという。
しかし、これはあくまで建前だ。
実際は、はるか昔。強い力を持つが故に人々から畏れられ、生き神や生き仏として祀られた時代。多くの力を持つ者達の中でも、更に稀有な能力や容姿を有するが為に人々からも畏れられ、迫害され、時には政に利用されながらも必死に凄惨な過去を生きようとした者達なのだ。
彼ら彼女らにとって、ある意味転機となった出来事は篝夜陽皇大神と出会ったことだろう。
その者達が話した境遇に心を痛めた篝夜陽皇大神。彼女はその者達に、上位の神格と役目、人里よりかけ離れた神祐地、そして平穏を犯された際に裁きを与える神祟という名の手段を与え、自らの教えを説いた。
「神は森羅万象の奉仕者たれ、されど人の願いに傲慢であれ」
その者達は人知れず秘境の地で平穏を謳歌しつつ、篝夜陽皇大神の教えを胸に、生まれ持った穢や厄への高い耐性を生かし、本来神格を有する存在達でさえも、その身が腐り果て潰える黄泉の底に、その身を捧げ、穢れの底から黄泉を鎮め清める役目を背負った。それが神死穢の発足である。
そして時が経ち、人身御供文化の全盛期、平安時代となる頃には神死穢に属する神は百柱を超えていたという。
「さて、行きますか!」
【信濃・退穢庁総本部】
綾乃は表札に総本部長室と書かれた大きな扉の前に立っていた。
「はぁ、入りたくないなぁ」
目を瞑り大きく深呼吸をする。第一現に遅刻しているのだ。絶対に怒られるだろう。覚悟を決めてドアノブを握った。
「よし、行くか」
扉を勢いよく開いた。開いたのは良かったのだが、開かれた扉を建物に固定する為の金具が綾乃の開く勢いに耐えられず、千切れ、パタンっと倒れた。
「あ……」
部屋の中には四人の人物が居た。
「また、修繕費が……」
退穢庁の総本部長兼、東日ノ本の大土地神である霧恵が、頭を抱えた。価値が高そうな椅子に腰掛け、小柄な幼い少女の見た目をした女性。何より、彼女の長い白髪が時折、自身が司る水を彷彿とさせる薄い水色のグラデーションがかかり、光輝く様子がひときわ異彩を放っていた。
「お?やっと来たか。遅かったな白藍兎」
黒縄 辰岐は小馬鹿にするように笑う男。筋骨隆々の肉体に、無精髭を生やした顔。一見すると極道に居そうな風体であるのだが、これでも十二聖家に属する黒縄家の当主なのだ。
「やっと来たんですか、一時間の遅刻ですよ白藍兎さん。どうして朱里はこの子に当主の座を……」
柊楓が大きくため息を吐く。上下共に白い装束に身を包み、左の腰には日本刀を差している若い女性。いや、実際はもうすぐ六十路らしい。彼女もまた黒縄と同じく、十二聖家に属する柊家当主であり、三十八年前に多くの犠牲者を出した死國事変や世界規模にまで及んだ大厄災、大禍津陽の過去百年で起こった二大大厄災から生還した生ける伝説である。
「ごめんごめん、一切の謝意はない」
「「あ?」」
「冗談冗談、本気にしないでよ。大人気ないよ」
綾乃はスっと両手で中指を立て、二人を煽った。
「今ここでぶち殺してやろうか!白藍兎」
「英雄の娘だろうと容赦はせぬぞ?」
今にも殺し合いに発展しそうな空気感の中、霧恵の隣に立つ少女が叫んだ。
「静粛に!!霧恵様の御前で喧嘩をするな。お前達!」
「まぁまぁ、抑えて抑えて狭間さん」
「しかし……」
霧恵の制止をバツが悪そうに応じる狭間。退穢庁の総本部副長兼、西日ノ本の大土地神である。彼女もまた霧恵と同じくグラデーションがかかった長い白髪をもっているが、こちらは後ろで結っており、グラデーションの色は司る自然を彷彿とさせる薄緑色である。
「では、本題を」
霧恵は三つの封筒を取り出し三名に見えるように置く。
「この封筒の中に今回、貴方達が担当する神様の詳細が入っています」
机の上に置かれた三つの封筒。それぞれに神様の名が書かれていた。
向かって右から玉簾、木通、そして 皆盡。
予想はしていた。残っているのは一癖も二癖もある大禍神。それはそうと。
「「「 皆盡神は嫌だァ」」」
これはこの場に集められた全員が口に出さずとも心の中で叫んだ事は言うまでもない。なぜなら皆盡神様は、神死穢の上から四番目の階位に属する神様であり、我々がこなす神々の引越し任務の中でも屈指の難易度と危険度を誇る。
まずは玉簾様。通称介錯神と呼ばれ、不敬であると感じれば、腰に差す日本刀を抜き放った上で、不敬者を切り捨てることがある上から四番目の二十四節に分類される神死穢である。ここまで聞けば危険度は高いのだが、言ってしまえば不敬がなければこちらを斬り殺そうとしたり、神祟を使用したりしないだけでなく、多少の不敬に対して比較的に寛容である為、この三柱の中では当たりの部類といえる。
彼女が司る権能は縁切りであり、対する神祟は切腹の場面を再現するモノである。内容は対象者が切腹を行い、玉簾自身が介錯を務める形での自死を強制する。
次に木通様。通称栄枯神と呼ばれ、物事の繁栄と衰退のバランスを司る二十四節に分類される神死穢である。手で触れたモノの繁栄や衰退を操作する権能を有しており、性格が無垢かつ好奇心旺盛である為、ところ構わず触れようとする。触れられたモノは繁栄しているなら衰退し、衰退しているなら繁栄するのだが、あくまでこの神様の凄惨な過去を基準とした 禍福糾縄の認識に委ねられる為、触れられたモノはほぼ全て繁栄しているとみなされ、衰退の権能により滅亡が送られる。
よって引越しの任務では、手で触れる事で神祟を行使できない様に拘束から始まるのだが、神死穢の中では比較的に脆弱な部類である為、容易に拘束でき、器に憑依した後は簀巻きにした上で注連縄で縛り固定してから移動する。
彼女は珍しく権能と神祟が全く同じ効果である。あえて言うなれば手で触れて繁栄と衰退を操作することが神祟なのかもしれない。この三柱の中ではアタリでもハズレでもない普通である。
最後に皆盡。この御方自身が真名を呼ばれる事に抵抗があり、後述する性格も考慮し、役職名と同じ呼び方をされているのだ。そして皆盡様と呼ばれているこの神様は、十二月命「水無月」の神死穢。前述した二柱と比べ、全てにおいて遥か格上なのである。まずは私の話せる範囲の皆盡様の情報を記そうと思う。
そんな皆盡様には生まれ持った権能を二つ有していた。
一つは状態の共有。自身を傷付ければ、権能の及ぶ範囲内の全てに自身の状態が共有される。それは人間であろうと神様や仏様であろうと一切の区別無く。
そしてもう一つは人並外れた生命力。どれだけ大怪我をしても数日もすれば立って歩ける程まで回復したと言う。
生まれ持った二つの権能が原因で皆盡様の生前は、凄惨と言う言葉が生温い程の地獄だった。上記二つの権能は裏を返せば、皆盡様は対応する部位を傷付けられれば、その傷が治る過程で他者の傷や病魔を癒す事ができたのだ。流石に人体の欠損は治せなかったらしいが不治の病が治るという噂は当時瞬く間に広がり、多くの者が訪れ、皆盡様に刃を突き刺した。それも即死しない様に極力急所を避けた形で。皆盡様は痛みを感じなかった訳では無い。日が昇れば身体中を刺され地獄のような痛みに喘ぎ泣き、日が沈めば刺された刃を抜く為に悶え苦しむ。
そんな地獄は唐突に終わりを迎えた。たまたま負った火傷が治りにくかった。ただそれだけのことではあったが幼いながらも死にたい皆盡様にとってそれは光明であった。その日の夜半、皆盡様は村の鈩場に忍び込み、鈩の前で自身に刺さった刃物の一振りを引き抜き、刃を鈩に焚べ、赤く焼けた頃にその刃で自らの首を……。それが皆盡様の最期だった。
しかし、彼女の予想に反し、死後に神様として祀られた事で権能の効力が強まり、
特に生命力は不死性へと昇華していた。亡骸は樹木の中に埋められ、篝夜陽皇大神と出会うまでの数百年間、その樹木に刃物を突き立てれば効能があると信じられ、樹皮を埋め尽くす数の刃物が突き立てられたというのだ。
皆盡様は怖がりだ。正直、全てを恐れている。それは前述した極度トラウマが起因しているようで、恐らく皆盡様には我々が刃物を突き立てに来た存在に見えているのだろう。刃物を突き立てられ苦しむくらいなら自刃する。其れが彼女の防衛手段であり、攻撃手段でもある自決癖の真相であるのだ。
もちろん三柱の中では過去の犠牲者が四桁に及び、危険度、脅威度、そして相対する際の所作の難易度など、全てにおいて大ハズレである。
余談として皆盡様の性格上本領を発揮する事は難しいが、十二月命以上は全員が戦神であり、徒手空拳や武器術が天賦の域であり、訓練を積んだ人間や並の戦神の攻撃を恐れ慄き、号泣しながらも、全てを軽く捌ききる実力はあるのだ。
「どうやって決める?」
「公平にジャンケンで決めましょう」
「OK。その意見賛成」
「「「ジャンケンポン!!」」」
【紀伊・退穢庁第二支部】
「という訳で負けて皆盡神様の担当になりました」
「は?姉御前。それはマジっすか?」
「大マジだよ~災難だよねぇ」
「それは姉御前がジャンケン弱いだけでは?」
ソファに寝っ転がり、クッションに顔を埋める綾乃に溜息混じりに美鈴が答えた。
「ところでさ鈴鹿」
「ウチの名前は美鈴です。もう付き合い長いんですから間違わないでください」
美鈴は没の書類を手の中で丸め、綾乃に投げ当てる。
「痛っ。ゴミ投げないでよ鈴江」
「だから、私の名前は天音 美鈴です。いい加減覚えて下さい」
美鈴は綾乃に向けて中指を立てた。
「あー、十二聖家の当主に中指立てたぁ」
「立てられたくないなら仕事して下さい。後、タバコ没収ね」
美鈴は立ち上がり、綾乃の懐からヒョイとタバコを取り上げた。
「ところで藤原君を数日見ていないのだけど、どこ行ったんだい?」
「実家ですよ。姉御前が休暇与えたんでしょ、忘れないで下さい」
「じゃあ美林。藤原君に送り付けるピザを買ってきます」
「勝手にしてください。道草をくわないで帰ってきて下さい」
もう名前間違いを指摘するのに疲れた美鈴は、ため息混じりに綾乃を送り出した。
数時間後、綾乃はピザ屋の前に立っていた。
「流石に藤原君怒るかな。Lサイズのピザ一枚じゃ割に合わないような……」
少し悩んだ綾乃。その悩みの答えはものの数秒で出た。
「まぁいいか」
その勅令は突然だった。いや私の経験上、薄々勘づいて居たことは否定しない。しかし、いざ発令されれば強制ではあるものの、その任務から逃れたいと私が思うのにも相応の理由があるのだ。
神死穢。全世界に存在する神仏の中でも、他の追随を許さない程の穢や呪詛に対する高い耐性を有する神仏達。故に遥か昔日より、まるで夜闇に灯る誘蛾灯の如く厄や穢れを寄せ集め、その身に宿し鎮めてきたという。
しかし、これはあくまで建前だ。
実際は、はるか昔。強い力を持つが故に人々から畏れられ、生き神や生き仏として祀られた時代。多くの力を持つ者達の中でも、更に稀有な能力や容姿を有するが為に人々からも畏れられ、迫害され、時には政に利用されながらも必死に凄惨な過去を生きようとした者達なのだ。
彼ら彼女らにとって、ある意味転機となった出来事は篝夜陽皇大神と出会ったことだろう。
その者達が話した境遇に心を痛めた篝夜陽皇大神。彼女はその者達に、上位の神格と役目、人里よりかけ離れた神祐地、そして平穏を犯された際に裁きを与える神祟という名の手段を与え、自らの教えを説いた。
「神は森羅万象の奉仕者たれ、されど人の願いに傲慢であれ」
その者達は人知れず秘境の地で平穏を謳歌しつつ、篝夜陽皇大神の教えを胸に、生まれ持った穢や厄への高い耐性を生かし、本来神格を有する存在達でさえも、その身が腐り果て潰える黄泉の底に、その身を捧げ、穢れの底から黄泉を鎮め清める役目を背負った。それが神死穢の発足である。
そして時が経ち、人身御供文化の全盛期、平安時代となる頃には神死穢に属する神は百柱を超えていたという。
「さて、行きますか!」
【信濃・退穢庁総本部】
綾乃は表札に総本部長室と書かれた大きな扉の前に立っていた。
「はぁ、入りたくないなぁ」
目を瞑り大きく深呼吸をする。第一現に遅刻しているのだ。絶対に怒られるだろう。覚悟を決めてドアノブを握った。
「よし、行くか」
扉を勢いよく開いた。開いたのは良かったのだが、開かれた扉を建物に固定する為の金具が綾乃の開く勢いに耐えられず、千切れ、パタンっと倒れた。
「あ……」
部屋の中には四人の人物が居た。
「また、修繕費が……」
退穢庁の総本部長兼、東日ノ本の大土地神である霧恵が、頭を抱えた。価値が高そうな椅子に腰掛け、小柄な幼い少女の見た目をした女性。何より、彼女の長い白髪が時折、自身が司る水を彷彿とさせる薄い水色のグラデーションがかかり、光輝く様子がひときわ異彩を放っていた。
「お?やっと来たか。遅かったな白藍兎」
黒縄 辰岐は小馬鹿にするように笑う男。筋骨隆々の肉体に、無精髭を生やした顔。一見すると極道に居そうな風体であるのだが、これでも十二聖家に属する黒縄家の当主なのだ。
「やっと来たんですか、一時間の遅刻ですよ白藍兎さん。どうして朱里はこの子に当主の座を……」
柊楓が大きくため息を吐く。上下共に白い装束に身を包み、左の腰には日本刀を差している若い女性。いや、実際はもうすぐ六十路らしい。彼女もまた黒縄と同じく、十二聖家に属する柊家当主であり、三十八年前に多くの犠牲者を出した死國事変や世界規模にまで及んだ大厄災、大禍津陽の過去百年で起こった二大大厄災から生還した生ける伝説である。
「ごめんごめん、一切の謝意はない」
「「あ?」」
「冗談冗談、本気にしないでよ。大人気ないよ」
綾乃はスっと両手で中指を立て、二人を煽った。
「今ここでぶち殺してやろうか!白藍兎」
「英雄の娘だろうと容赦はせぬぞ?」
今にも殺し合いに発展しそうな空気感の中、霧恵の隣に立つ少女が叫んだ。
「静粛に!!霧恵様の御前で喧嘩をするな。お前達!」
「まぁまぁ、抑えて抑えて狭間さん」
「しかし……」
霧恵の制止をバツが悪そうに応じる狭間。退穢庁の総本部副長兼、西日ノ本の大土地神である。彼女もまた霧恵と同じくグラデーションがかかった長い白髪をもっているが、こちらは後ろで結っており、グラデーションの色は司る自然を彷彿とさせる薄緑色である。
「では、本題を」
霧恵は三つの封筒を取り出し三名に見えるように置く。
「この封筒の中に今回、貴方達が担当する神様の詳細が入っています」
机の上に置かれた三つの封筒。それぞれに神様の名が書かれていた。
向かって右から玉簾、木通、そして 皆盡。
予想はしていた。残っているのは一癖も二癖もある大禍神。それはそうと。
「「「 皆盡神は嫌だァ」」」
これはこの場に集められた全員が口に出さずとも心の中で叫んだ事は言うまでもない。なぜなら皆盡神様は、神死穢の上から四番目の階位に属する神様であり、我々がこなす神々の引越し任務の中でも屈指の難易度と危険度を誇る。
まずは玉簾様。通称介錯神と呼ばれ、不敬であると感じれば、腰に差す日本刀を抜き放った上で、不敬者を切り捨てることがある上から四番目の二十四節に分類される神死穢である。ここまで聞けば危険度は高いのだが、言ってしまえば不敬がなければこちらを斬り殺そうとしたり、神祟を使用したりしないだけでなく、多少の不敬に対して比較的に寛容である為、この三柱の中では当たりの部類といえる。
彼女が司る権能は縁切りであり、対する神祟は切腹の場面を再現するモノである。内容は対象者が切腹を行い、玉簾自身が介錯を務める形での自死を強制する。
次に木通様。通称栄枯神と呼ばれ、物事の繁栄と衰退のバランスを司る二十四節に分類される神死穢である。手で触れたモノの繁栄や衰退を操作する権能を有しており、性格が無垢かつ好奇心旺盛である為、ところ構わず触れようとする。触れられたモノは繁栄しているなら衰退し、衰退しているなら繁栄するのだが、あくまでこの神様の凄惨な過去を基準とした 禍福糾縄の認識に委ねられる為、触れられたモノはほぼ全て繁栄しているとみなされ、衰退の権能により滅亡が送られる。
よって引越しの任務では、手で触れる事で神祟を行使できない様に拘束から始まるのだが、神死穢の中では比較的に脆弱な部類である為、容易に拘束でき、器に憑依した後は簀巻きにした上で注連縄で縛り固定してから移動する。
彼女は珍しく権能と神祟が全く同じ効果である。あえて言うなれば手で触れて繁栄と衰退を操作することが神祟なのかもしれない。この三柱の中ではアタリでもハズレでもない普通である。
最後に皆盡。この御方自身が真名を呼ばれる事に抵抗があり、後述する性格も考慮し、役職名と同じ呼び方をされているのだ。そして皆盡様と呼ばれているこの神様は、十二月命「水無月」の神死穢。前述した二柱と比べ、全てにおいて遥か格上なのである。まずは私の話せる範囲の皆盡様の情報を記そうと思う。
そんな皆盡様には生まれ持った権能を二つ有していた。
一つは状態の共有。自身を傷付ければ、権能の及ぶ範囲内の全てに自身の状態が共有される。それは人間であろうと神様や仏様であろうと一切の区別無く。
そしてもう一つは人並外れた生命力。どれだけ大怪我をしても数日もすれば立って歩ける程まで回復したと言う。
生まれ持った二つの権能が原因で皆盡様の生前は、凄惨と言う言葉が生温い程の地獄だった。上記二つの権能は裏を返せば、皆盡様は対応する部位を傷付けられれば、その傷が治る過程で他者の傷や病魔を癒す事ができたのだ。流石に人体の欠損は治せなかったらしいが不治の病が治るという噂は当時瞬く間に広がり、多くの者が訪れ、皆盡様に刃を突き刺した。それも即死しない様に極力急所を避けた形で。皆盡様は痛みを感じなかった訳では無い。日が昇れば身体中を刺され地獄のような痛みに喘ぎ泣き、日が沈めば刺された刃を抜く為に悶え苦しむ。
そんな地獄は唐突に終わりを迎えた。たまたま負った火傷が治りにくかった。ただそれだけのことではあったが幼いながらも死にたい皆盡様にとってそれは光明であった。その日の夜半、皆盡様は村の鈩場に忍び込み、鈩の前で自身に刺さった刃物の一振りを引き抜き、刃を鈩に焚べ、赤く焼けた頃にその刃で自らの首を……。それが皆盡様の最期だった。
しかし、彼女の予想に反し、死後に神様として祀られた事で権能の効力が強まり、
特に生命力は不死性へと昇華していた。亡骸は樹木の中に埋められ、篝夜陽皇大神と出会うまでの数百年間、その樹木に刃物を突き立てれば効能があると信じられ、樹皮を埋め尽くす数の刃物が突き立てられたというのだ。
皆盡様は怖がりだ。正直、全てを恐れている。それは前述した極度トラウマが起因しているようで、恐らく皆盡様には我々が刃物を突き立てに来た存在に見えているのだろう。刃物を突き立てられ苦しむくらいなら自刃する。其れが彼女の防衛手段であり、攻撃手段でもある自決癖の真相であるのだ。
もちろん三柱の中では過去の犠牲者が四桁に及び、危険度、脅威度、そして相対する際の所作の難易度など、全てにおいて大ハズレである。
余談として皆盡様の性格上本領を発揮する事は難しいが、十二月命以上は全員が戦神であり、徒手空拳や武器術が天賦の域であり、訓練を積んだ人間や並の戦神の攻撃を恐れ慄き、号泣しながらも、全てを軽く捌ききる実力はあるのだ。
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「OK。その意見賛成」
「「「ジャンケンポン!!」」」
【紀伊・退穢庁第二支部】
「という訳で負けて皆盡神様の担当になりました」
「は?姉御前。それはマジっすか?」
「大マジだよ~災難だよねぇ」
「それは姉御前がジャンケン弱いだけでは?」
ソファに寝っ転がり、クッションに顔を埋める綾乃に溜息混じりに美鈴が答えた。
「ところでさ鈴鹿」
「ウチの名前は美鈴です。もう付き合い長いんですから間違わないでください」
美鈴は没の書類を手の中で丸め、綾乃に投げ当てる。
「痛っ。ゴミ投げないでよ鈴江」
「だから、私の名前は天音 美鈴です。いい加減覚えて下さい」
美鈴は綾乃に向けて中指を立てた。
「あー、十二聖家の当主に中指立てたぁ」
「立てられたくないなら仕事して下さい。後、タバコ没収ね」
美鈴は立ち上がり、綾乃の懐からヒョイとタバコを取り上げた。
「ところで藤原君を数日見ていないのだけど、どこ行ったんだい?」
「実家ですよ。姉御前が休暇与えたんでしょ、忘れないで下さい」
「じゃあ美林。藤原君に送り付けるピザを買ってきます」
「勝手にしてください。道草をくわないで帰ってきて下さい」
もう名前間違いを指摘するのに疲れた美鈴は、ため息混じりに綾乃を送り出した。
数時間後、綾乃はピザ屋の前に立っていた。
「流石に藤原君怒るかな。Lサイズのピザ一枚じゃ割に合わないような……」
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