機械生命体に擬態した触手系人外に捕まってしまいました

青野イワシ

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第四話 本体

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 彼が私と同じ機械の殻を被る者だと分かった時の喜びを、どう表現したらいいだろう。
 その辺の空を飛びまわって祝砲をあげたいとか、目の前にいる彼へ力いっぱいハグをするだとか、出来るならそういう形ではしゃぎまわりたかった。
 だが、私は弁えた紳士なので、そのような浮かれ方はしない。
 その代わり、彼に最大限の敬意を表して、私の秘密を自らの手で暴露する。
 まだ名前も聞いていないし、何なら先ほどまで別の運命の線を辿っていたことを考えると、なんと現金な奴だろうと思われるかもしれないが、許してほしい。
 虚飾だらけの私が唯一オリジナルであると誇れる点。
 それが今、彼に見せているであった。
「いっ……」
 いとひの中間くらいの悲鳴が彼の喉奥から漏れる。
 我々は乾燥に弱く、常に粘液で体を覆っている。
 彼の眼には赤黒い触手がマーキナーの内側に詰まって蠢く、ただのグロテスクな光景にしか映らないのだろうか。
 確かに彼と私では形状の差異が大きいので、そのように思われても仕方はないが……。
 私は今一度恐れおののく彼を観察した。
 黒みがかった虹彩と髪は私の外殻とよく似た色だ。
 ずっと日光を遮断しているせいなのか、彼の肌は白っぽいペールオレンジをしている。
 鼻筋は通っているが、そのほかはこじんまりとした造りで、人相描きが苦労する顔立ちだと思った。
 常に重い外殻を背負っているせいか、彼の身体にはしっかりと筋肉が付いている。それも、天然ものだ。
 私は彼のことを何も知らない。
 彼も私のことを何も知らない。
 やや強引ではあるが、互いの秘密を曝け出すことで、我々は相互理解に一歩近づいたのだと思いたい。
「な、こ、コアに、寄生、されてんのか?」
 彼は顔を引きつらせながらもから目を反らさなかった。
「残念ながら、この身体の持ち主はもうこの世にいないでしょう。今は私がコアを引き継いで動かしている、そういう感じですね」
「マーキナーを乗っ取る生命体がいるなんて、知らなかった……」
「違います、我々は廃棄されたマーキナーの機体を家にしているだけです。言うなれば、ヤドカリのような、そういうアレです」
 私がヤドカリと言った瞬間、彼の眼が大きく見開かれた。
 酷く驚いているようだが、私は彼が何に驚愕しているのか掴み損ねている。
 地球アースは私の故郷と違い、恐ろしいまでに生態系が発達している。
 他種族と共生、寄生、死骸の利用など珍しいものではないように思えるが、今はそうでもないのだろうか。
 とにかく彼を落ち着かせ、なおかつ親しみを持ってもらいたいと思った私は、彼と私はそう遠くない生き物であると説明することにした。
「君も私も機械の殻を被り、機械生命体に見せかけて生活をしている柔らかい生き物ということです。その点において、君と私は全くの同族ですね」
「やめてくれよ……」
 なんでそんな心外だって顔するんですか。
 
「お互い話せたところで、次は身体ですね。ニンゲンは毒素を持たないと聞いていますが、やはり直に触れ合ってみないと何とも言えませんし」
「お前さっきからずっと何言ってんだよ!?」
 そういえば私の使命を説明していなかった。
 だが、長い話になる。
 後回しにさせてほしい。
 いつ本物のマーキナーがここに爆弾を落とすかもわからない。
 私は偶然見つけた運命的に無改造な生命体に触ってアレルギー反応が出るのか否かを確認することを優先させた。
 喚く彼を無視し、片手で彼の身体を掴んで開いた胸部装甲の中身へ押し込む。
 勿論私は純粋なマーキナーではないため、彼を迎え入れるのは複雑怪奇な機械部品でも炉心のように燃えるコアでもない。
 私の体そのもの。
 形状だけで言えば、この星のイソギンチャクと私はよく似ている。
 刺胞で刺したりしないので暴れないでほしい。
 私は彼の身体を胸部に押し込めると、そのまま開きっぱなしだった装甲の蓋を閉じた。

 私は意識せずとも無数の手で彼の身体を絡めとった。
 滅茶苦茶に手足を暴れさせる彼の手首足首に巻き付き動きを封じる。
 私の中に埋もれている彼は今、Xの字になっている。
 必死にもがく彼の腰や太腿に触手を這わせ、邪魔な布地を引っ張りながら地肌を露出させた。
 出せ出せと非常に大きな声で喚くので、殻が振動して煩い。
 私は彼の首を触手で一巻きし、開いた口に別の触手を突っ込んでみた。
 隙間はあるし、空気は十分確保できている。窒息することはないだろう。
 彼の口内は生温かく、私と同じくらい湿っている。
 硬い歯が私を噛むが、私の弾力の前には無力だった。
 生殖機能の無いもの突っ込んだことを、私は少し後悔した。
 湿った締りのいい洞穴は中々に具合がいい。
 私は次に彼の身体を丹念に調べることにした。
 本当に柔らかい皮膚、肉、その奥に骨。それだけを感じる。
 私が普段動かしている重く冷たいそれではない。
 久しぶりに有機生命体の温もりに触れた私は、じんと体中が震える思いだった。
 ニンゲンの肌というのは面白いもので、何時までも触っていたくなる滑らかさがある。
 インナーを押し上げ、彼の胸部を擦ってみると、適度に盛り上がった胸板に突起物が確認できた。
 彼はニンゲン種の雌ではなく雄であると認識していたが、誤りであったか。
 そんなはずはない。
 私は彼の内ももに巻き付かせた触手の先端を彼の股間部分に伸ばす。
 あった。
 これがニンゲンの雄の生殖器だ。
 柔らかく垂れ下がった肉の筒と、やや弛んだ皮に包まれた袋状の突出物。
 恐ろしいことに、ニンゲンはこの器官に山ほど名前を付けているらしい。
 肉棒とか、雄竿とか、金玉とか、睾丸とか、ニンゲンのネットワークで拾いきれないくらいのワードを見た。
 それだけニンゲンは繁殖行為に貪欲、俗な言い方をすればドスケベ生命体であるといえるだろう。
 その証拠に私が触手の先端で彼の肉棒の先をくりくりと弄りまわすと、彼は下半身をびくつかせてそれに答えた。
 玉の部分を救い上げて先別れした触手群でやわやわと揉むと、拘束されている身体を必死に屈めてもぞもぞと動いている。
 口に触手を突っ込んだままだったのでよく聞き取れなかったが、何かうなり声を上げていた。
 そんなにいいんだろうか。
 とにかく、彼の身体は私にとって何の悪影響を及ぼさないことが改めて分かった。
 そして一番重要な部分を点検しなくてはならない。
 ニンゲンは機械ではない。細胞の寄り集まりである。
 内臓に異常な出来物が出来たり、皮膚がかぶれたり、切れたり、私の本体と同じくらいデリケートだ。
 私は彼の下半身にある、むっちりとした肉の山に張り付いた。
 ニンゲンはこの肉と肉の間に排泄穴があるという。
 肉を割るようにしてその穴を曝け出したところ、彼は必死に手足を動かした。
 勿論私の拘束から逃れられることはできないため、触手の海でぶるぶると身体を震わせたに過ぎない。
 何というか、ニンゲンはとても弱くて可愛い生き物だと、そう思った。
 私は触手の先端を肉の谷間に這わせる。すると、きゅっと閉じられた穴を感じることが出来た。
 付近におかしな突起物や裂傷の感触はない。
 くにくにと排泄穴を押していると、彼がろくに動かない頭を必死に左右に振っていた。
 何をそんなに恐れているのだろう。
 宇宙いきもの大百科─ディープ版─では、ニンゲンの雄同士は排泄穴に生殖器を出し入れし、快楽を得るという。
 しかし彼の穴はどうも私をすんなり受け入れてはくれなさそうだ。
 貴重な無改造母体を傷つけるわけにもいかない。
 またの機会にしよう。
 私はニンゲンと違ってドスケベ生命体ではないので、射精の場所くらいきちんと考えられるのだ。

 ひとまず検査は終了。
 合格も合格。
 私は粘液濡れになった彼の身体をそっと地面においてあげた。
 とても気を使ったのだが、体を起こした彼は燃えるような目つきで私を見上げ、変態寄生虫と罵ってきた。
 そんな。
 私にはやましい気持ちは一切ない、一切は言い過ぎたかもしれないがニンゲンほどはなかった。
 あくまでも種のため、彼の身体を調べたに過ぎない。
 なぜそんなに怒るのだろう。
 そうか、大事なことを忘れていた。
 自己紹介がまだだった。
 さすがに互いの名前を知らないままスキンシップを取ったのがニンゲンの癇に障ったのだろう。
「そういえば自己紹介をしていませんでした。私はスタイロベートと申します。君の名前も教えてください」
 なぜだろう。
 彼は野生動物のような唸り声を上げて頭を抱えていた。

 つづく
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