機械生命体に擬態した触手系人外に捕まってしまいました

青野イワシ

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第二十五話 オーフェイス(前)

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 俺にはずっと先延ばしにしていた問題があった。
 問題というか、約束。
 俺を乗せて地球脱出する代わりに、こいつは俺の身体を使う。
 はっきりと契約を結んだわけじゃないけど、俺もあいつもそのつもりでここまでやってきたという認識は同じだと、思う。
 正直、途中で逃げ出すことはできた。
 ただ、逃げる先が無かった。
 そして、不思議なことに何が何でも拒否したいという気持ちにまではなっていない。
 俺はおかしくなってしまったんだろうか。
 何度かスタイロベートの触手のなかに埋もれているうちに、感覚がマヒしたのかもしれない。
 初めてあいつと会った時のことを思い出す。
 『私の故郷は多くの水源を湛えた静かな星です。勿論ニンゲンが暮らせる生命居住可能領域ハビタブルゾーンも十分にあります。同族の繁殖をお手伝いしていただくだけで、自然豊かで静謐な生活が送れます』
 ここは水源豊かな星ではある。
 人間のためのハビタブルゾーンはどう考えても狭い。
 ちょっと繁殖の手伝い? 細胞を採取するとかいう話じゃないもんな。
 自然豊かで、静謐な生活が送れる。これはまあ、嘘はないかも。随分なローテクだけど。
 そんなことを考えているうちに、俺は実験室Dへたどり着いてしまった。

 実験室に入ると、機材に囲まれたあいつが部屋の中央で仁王立ちしていた。
「遅れず来てくれて嬉しいです。最悪エスケープされることも考えていました」
「……。お前ってほんといい性格してるよな」
「えっ!?」
 なんだその反応。
 地球、シグニ、ここ。俺が安全に避難できる場所がないことなんか織り込み済みなんだろ。
 被害者面すんな。表情一切変わらないけど。
 室内には俺が頭まですっぽり入れそうな透明のボッドが壁に沿ってずらりと並んでいる。
 ポッドの中はまだ何も入っていない。
 何を入れる用なのかは大体察しがつく。
 最悪俺がぶち込まれるかもしれない。
 人間やめるときが来るのか。
「──ん、フタウラ君?」
「うわ、何」
 声がしたと思ったらスタイロベートが屈んできた。
 機体の影が俺を覆う。
「体調が優れませんか」
「いや、別に」
「心ここにあらず、といった様子ですが、何か心配事でもありますか」
「心配事しかないけど」
「例えば?」
「俺の自我が消えるとか、最終的に人じゃないものになったりとか」
「フタウラ君。君は不時着したニンゲンの記録や日記を読んでいますよね? 彼はしっかりとニンゲンとして生き、老いていきました」
「それはそうだけど」
「けど?」
 なんだろう、ハッキリ言っていいんだろうか。
 どうせ言わされるはめになるなら言っておくか。
「いや、なんかお前は最後にヤバい液とか出しそう」
「出ませんよそんなもの!」
 スタイロベートの機体が小刻みに震えている。
 こいつでもここまで怒ることあるんだ。怒っているというより、衝撃を受けてるって感じだけど。
「私を何だと思ってるんですか」
同胞パートナー?」
「……。フタウラ君もいい性格をしていますね」
 ばれたか。

「それでさあ、本っ当に俺はおかしくならないんだろうな?」
 薄ら寒い実験室で、俺は服を脱いでいる。
 元々はパワードスーツの下に着ていたジャンプスーツだ。
 ブーツと靴下を脱いでしまえば、俺を守るものは薄手のインナーしかない。
 こないだろ過した海水で手洗いした、頼りない使い古しの化学繊維。
 対してスタイロベートは防弾と耐熱に優れた鉄の鎧を着たままだ。もう身体の一部なんだろうが。
「なりません。なんですか、期待してるんですか、逆に」
「は?」
「私は知っています、君達人間が有触手生命体をどのような目で見ているかを」
「ネットの知識だけで語るなよ。普段どんなアーカイブ漁ってんだよ変態がよ」
 前々から思ってたけど、こいつが学習した地球の文化ってエロ方面しかないんじゃないか。
「……。フタウラ君。君は本格的に私を怒らせてしまったようですね」
 ラスボスの前々座くらいの悪役みたいだ。
 そういえば大人になってから生きるのに忙しくて、フィクションに浸る時間がなかったな。
「それで怒りのままチンポ触手を出し入れすんのか。うーん、俺そういうのじゃ勃たねーな」
「どうしていい雰囲気にしてくれないんですか? もしかして、ツン/デレというものなのですか。いい加減脱がせていいですか」
 最後本音漏らしてんじゃねえよ、変態触手が。
 お前といい雰囲気になんかなるか。
 うっかり勘違いしたら、あとが辛くなるだろ。
 ただでさえ、ほぼ二人きりなのに。
「自分で脱ぐ。変なの染みたら嫌だし」
「変なのとは失礼な。私の保護粘液は水洗いで簡単に落ちます」
 その辺に脱ぎ捨てたジャンプスーツの上に、肌から剥したインナーを上下とも放る。
 コイツの前で何度か裸は晒しているはずなのに、今が一番恥ずかしい。
「寒いんだから、早く乗せろよ」
 俺はスタイロベートの分厚い胸部装甲を指さす。
 その奥には、機械部品ではなく、赤黒い触手がみっちり詰まっていることを俺は知っている。
 それがどれほどの温度で、どんな動きをするのか、一度受けたのせいで、嫌でも分かっている。
 身震いしたのは寒さのせいだ。
 そういうことにしておかないと、俺まで変態になってしまう。
「分かりました。しばらくは出られませんからね」
「え」
 俺の返事を待たずに、鋼鉄の腕が伸びてきた。

 相変わらず、スタイロベートの本体は生温かく湿っている。
 気持ち悪いかと言われたらそうと答えてもいいんだけど、温水のウォーターベッドに閉じ込められたような、若干の心地よさもあるから質が悪い。
 俺の四肢はすでにずっぽり触手の中に埋もれていて、緩く大の字で拘束されていた。
 振りほどこうと力を入れれば叶いそうなほどの力加減で、肉の蔦が俺の両手両足に巻き付いている。
「緊張していますか」
「別に」
 顔の縁に沿って張り付く触手が耳穴に近づき、小さい声で囁いてくる。
 こいつの体の構造どうなってんだ。
「苦痛は一切ありません。あるのは快楽だけです」
 やばい洗脳呪文を唱えるな。俺は正気を保ちたい。特に知的ぶってる変態の前では。
「具体的にどうすんだよ、その、お前が俺に卵産みつけて、それで……?」
 言ってて怖くなってきた。やっぱり人間種として終わるんじゃないか。
「いえ。ずっと言っている通り、腸内を借りるだけです。どのような方法がよいかずっと考えていたのですが、やはり私が君の直腸内へ射精した後、卵胞を入れ込むのがいいかなと思いまして」
「……」
 あー考えたくない。
 というか、俺の尻穴は無事なのか?
「怯えなくても大丈夫。すぐに孵りますし、幼体は直径4㎝、長さ15㎝ほどです。排便と同じ要領で考えて貰えれば」
 もっと他に言い方があるだろ。
 でも、他の例えを聞くのも怖い。
「もうなんでもいいから、早く終わらせてくれよ」
 ケツから有精触手ひりだせばいいんだろ、わかったわかった。これ以上は俺の精神が持ちそうにないから、ヤるならさっさとしてほしい。
「そんな冷たい言い方ないじゃないですか。私は機械ではありません。君達が好きな繁殖のためだけにある苗床の触手でもありません」
「何が言いたいわけ」
「もっとこう、前戯といいますか、愛撫といいますか、そのような時間が欲しいのです」
「勝手にやったらいいだろ」
 ロマンチストな触手は厄介。今日の学びだ。誰か助けてくれ。
「わかりました。許可が出たので、そうさせてもらいます」
 スタイロベートはそう言うと俺の鼻を細い触手で詰まんできた。
 若干の息苦しさで反射的に口を開くと、そこに太い触手が入り込んでくる。
「おごっ!?」
 ねっとりとした粘液に包まれた、弾力のあるそれが俺の咥内をぱんぱんにし、喉奥にまで迫る。
 噛み付こうにも、高い弾力性を持った触手には歯が立たなかった。
 気づけば手首足首に巻き付いた触手は、俺の身体を背面の触手群へ縛り付けるように力強く結びついている。
「出しますね」
「ふぁにお!?」
 口の隙間から俺の涎とも粘液ともつかないものが垂れ落ちた。
 挿しこまれた触手が一度びくんと痙攣し、すぐに先端からどぷどぷと液体を流し込んでくる。
「はい、全部飲んでくださいねー」
「んぐぅっ……!」
 幼児を相手にするような口調に腹が立つも、それ以上に注がれる甘苦い液体が怖い。
 もう飲み下すほかに手がない俺が喉を動かすと、口に入っていた触手がずるる、と抜けていった。
 俺がえずいていると「よく飲めました」と天井から何本もの触手が降ってきて俺の頭を撫で繰り回す。
「なんだよこれぇ……」
「興奮剤といいますか、うーん、精液の出が悪い時に分泌して補っているものです。ニンゲンの雄にも効くのかな、と思いまして」
「こんな時に人体実験すんな!」
「そんな、楽しい時間にしたいだけなのに。ニンゲンだってそういうのが好きなんですよね? 怪物モンスターの出すガスや体液で、くっ……身体が熱い……! という描写のあるアダルトコンテンツをいくつも見ました」
「お前、本当にそっちしか勉強してないんだな」
「誤解です。それに、どうやら私は正しかったようです」
「は?」
 俺の太腿に触手が張り付き、ゆっくりと肌を這ってある一点を目指す。
「生殖器に血液が多く流れ込んでいるようですね」
 勃ちあがりかけたチンポに触手がぺっとりと巻き付く。
「うっ……」
 長い舌で絡めとられたような、いや、それ以上の肉肉しさが敏感な竿を包み込んだ。
「私の体液ですっかり発情したようですね。ここまで早いとは。やはりニンゲンはドスケベ種族です」
 とんでもないもん飲ませておいて何言ってんだ。
 俺は何とか手を動かしてチンポに巻き付く触手を剥そうとした。
「そんなに急かさなくても、ちゃんと気持ちよくしてあげますよ」
「んおっ!?」
 それまで大人しかった無数の触手が、隙間なく俺の身体に絡みつく。
 それは本格的な繁殖行為の合図だった。

 つづく
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