キモチ

花結まる

文字の大きさ
上 下
4 / 6

白い生き物

しおりを挟む

ぼくは、小さくて白い生き物だ。
たぶん、うさぎだ。
でも周りのブタたちは言う。
ぼくはブタだって。
なぜならぼくは、ブタ小屋で生まれたからだ。

じゃあ、なんでぼくは白いの?
ブタたちは答えられない。
やっぱりぼくは、うさぎなのだ。

うさぎなら、ぴょんぴょん跳ねられるはずだ、とブタはいう。
ぼくは小さな短い脚で跳ねてみせる。
うさぎなら、人参が好きなはずだ、とブタはいう。
ぼくは人参をバリバリ食べてみせる。
するとブタたちは目を丸くして、
君はうさぎだったんだ、という。

ブタたちがぶひぶひ訴えて、小屋の主は、しぶしぶぼくをうさぎ小屋に移した。
うさぎたちは目を丸くしてぼくをみる。
ぼくが、うさぎだからこっちへ来たというと、うさぎたちは口々に言う。
うさぎなら、長い耳で遠くの音が聞こえるはずよ。
ぼくは言う。
ぼくの耳は折れ曲がっているだけで本当は長いのさ。隣のブタたちの話だって聞こえるよ。
うさぎは言う。
うさぎなら、深い穴だって掘れるはずだ。
ぼくは小さな前脚でぐんぐん掘ってみせる。
するとうさぎたちは目を丸くして、
君はうさぎだったんだ、とぼくを迎え入れる。

年老いたうさぎが奥から出てきて、ぼくをまじまじとみると、ふと思い出したようにいう。
うさぎなのに、しっぽがくるっと巻かれてて、ほんのりピンク!
珍しい、実に珍しい特殊なうさぎた!
それを聞いてうさぎたちは口々にいう。
君は特別なうさぎた!
そしてぼくは、カリスマうさぎとなった。

数年経ったある日、ぼくは寿命で亡くなった。
小屋の主は、ぼくを土に埋めて弔いしてくれた。
墓土に立てられた木棒には、「ぶーちゃん」。

ぼくは、生物学的には、ブタだったのだ。
しおりを挟む

処理中です...