キモチ

花結まる

文字の大きさ
上 下
6 / 6

ジンベイザメ

しおりを挟む

僕はいつも水面にいる。
カラフルで小さな粒々が、下の世界でせわしなく踊っているのを見るのが愉快だ。
僕の目よりも小さな粒々たちは、僕と同じ生き物だという。
僕も本当は交ざって遊んでみたいけど、僕の尾ひれを一振りする度に、皆んなバラバラに飛び散ってしまう。
僕はどうやら大きすぎるらしい。
だから僕は、皆んなの邪魔にならないように、他の生き物がいない広い水面をゆったりと泳いで、下の世界を眺めている。

そんな水面の世界にも、何匹かは生き物がいる。
彼らは僕のお腹にいつもくっついている。
頼んだわけでも、好かれてるわけでもない。
彼らはコバンザメというらしい。
話しかけたことはあるけど、返事はなかった。どうやら言葉が違うらしい。
だからいつも一緒にいるけれど、彼らは友達ではない。
僕の視界には色んな生き物がいるけれど、僕と話せる者はいない。

僕はそんな世界で、いつも同じ道をぐるりと周っている。
何十年もずっと。
一周五分。1日に288周。
同じ道をずっと。
別に気に入っているわけではない。
そこしかないのだ。
僕は水槽というところにいるのだ。

小さな粒々たちの向こうに、別の粒々がいる。
人間というらしい。
彼らはたくさんいて、どうやら皆んな僕を見ているらしい。
僕がゆらりと泳ぐと、わぁと感嘆が漏れる。
僕は得意げになって泳ぐ。
だけど何周かすると、彼らはいなくなって、また別の彼らがやってくる。
彼らは何処へ行ったのだろう。
僕の知らない何処かへ行ったのだろうか。

ふと、僕の気は遠くにいく。
あれは、どこまでも果てしなく続く水平線。
僕は辿り着きたくて、一直線に駆ける。
左右から別の波。
それは僕と同じ生き物たち。
僕らは一緒に駆ける。競争だ!

気がつくと僕はいつもの道を周っていた。
なんだか懐かしい夢だった。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する


処理中です...