キモチ

花結まる

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ぶたかばん

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ショーウィンドウに飾られていたあの頃、
僕はトレンド最先端を走るスリムバディだった。
軽くてピカピカの純白で、A4サイズも入る僕。
通勤、通学なんでもこい!の人気者だ。

そんな僕はある日、一人の女性と出会った。
お店の外から僕をまじまじと眺めていたのだ。
彼女は店内に入ったかと思うと、
ぐるぐる一周して、また僕の元に帰ってきた。
あの時の彼女は、目をきらきら輝かせて満足気にいった。

これにする!

僕を家に連れて帰ると、早速彼女は男性に紹介する。
いいでしょー!と言って、僕を持ってくるっと回転してみせる。

いいじゃん、ぶたかばんにするなよー

彼は微笑みながら応えた。



1週間後、僕はぶたかばんになった。
今やあの頃の軽やかでスタイリッシュな面影はない。
僕は1.5倍くらい膨らんでいた。
そんな僕をみて、彼が言う。

やっぱり、ぶたかばんになった。

詰め込みすぎだよ、要らないもの置いていったら?
と、彼は言うけれど、
だってみんな必要なんだもーん!
と、彼女はニコニコして聞く耳もたず。

それから二人は僕を連れてお出かけする。
公園でゆらゆらお散歩。
僕を持つのは彼の役目である。

歩き回った後、彼が言う。
なんかお腹減ったね、でもさっきランチ食べたなぁ。
すると彼女は僕から小さな袋を取り出す。

アメあげる。

お、サンキュー、と言って、彼はお気に入りの炭酸アメを口へほうばる。
彼女も一緒にほうばって、にっこり笑う。

ふと、彼のおでこに冷たいものがあたる。
そうかと思ったら、あちらこちらが冷たくなる。

うわっ雨だ。

彼が空を見上げていると、彼女が僕の中からすっと折り畳み傘を出した。
いつも持ち歩いてるからさ、とウインクして、相合傘をする。
ありがとう、助かった!と、彼は傘の取手を持って彼女を覆う。
彼女は目を細めてにっこり笑う。

帰り道、夕飯の買い出しに行く。
豚肉、人参、玉ねぎ、じゃがいも…カレーかな?
彼がビニール袋を買おうとすると、彼女は僕から、さっとミニバッグを取り出す。

エコでしょ?

そう言って、順序よく詰めていく。
彼はそれをひょいと持ち上げて言った。

何でも入ってるね、このかばん。他には何が入ってるの?

彼女は得意げに言った。

ハンカチ、ティッシュでしょ、それから、今読んでる文庫本と、筆記用具。絆創膏に、化粧品に…

すると、彼はあははと笑って言った。

ふだかばんも悪くないね。

彼女は、そうでしょー!と言って、目を細めてにっこり笑う。
そうして、二人は手を繋いで帰っていく。


僕は思う。

仕方ない。甘んじてぶたかばんを受け入れよう。
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