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01 冥界の門を入手する
スキルガチャ、爆死(14日前)
しおりを挟む走って走って走って……
南丘にたどり着いた時には、息が上がっていた。
それでも、まだガチャ終了の鐘は鳴っていない。
俺は教会に向けて走る。
教会の前にたどり着いた時には、プリーストたちが、掲示板から、ピックアップの告知をはがしている最中だった。
明日には新しい物に張り替えられるのだろう。
教会の扉は開いていた。
ガチャを回し終えたらしいスナホリたちが、ぞろぞろと出てくるところだった。
彼らは、将軍を引けたのだろうか?
たぶん誰も引けてないと思う。
超レアスキルを引いた人がいたら、あんな静かな感じで帰ったりしないだろう。
でもそれは関係ない。
大事なのは俺が引けるかどうかだ。
「ガチャ! ガチャはまだ回せますか!」
「おお、こっちだ。急ぎなさい!」
神官のおっさんが俺に気付いて手を振る。
教会の中に、まだ何人か残っていたスナホリたちが、あざ笑うように俺を見る。
「あいつ、ギリギリに来たぞ」
「金を取りに行ってたんじゃないか?」
「どうせ爆死さ。いつ回したって同じなのにな」
俺は、神の像の足元に、駆け寄る。
そこにスキルガチャ装置が置かれていた。
何かゴチャゴチャした意匠が施された箱型の機械で、上に水晶玉のような物がついている。
神官が俺に問う。
「スキルの排出率についての説明は必要かね?」
「何度も回してるから大丈夫です」
ガチャには、確率がある。
スキルガチャ装置の隣には確率の一覧表も置いてある。
-N:90%
-R:09%
SR:00.9%
HR:00.09%
-L:00.009%
SL:00.0009%
HL:00.0001%
価値のあるスキル程、出る確率は低い。
将軍は一番確率が低いハイパーレジェンドスキルだ。
その中でも特に確率が低くて、HLの中の100分の1以下とされる。
それがピックアップ期間の今なら、HLさえ出せば確定になる。
俺は大銅貨10枚を支払い台に置いて、その水晶玉に手を乗せた。
キュイイイイイインン
キラキラとした光が降り注ぐ。
『神によりスキルが与えられます』
『《N:力向上》《N:防御向上》《N:力向上》《N:敏捷向上》《N:回避向上》』
『《R:ショベル適性》《N:攻撃向上》《N:敏捷向上》《N:敏捷向上》……』
このガチャは、ノーマルスキルばかりが出る。
ノーマルスキルは90%の確率だ。
つまり10連したら9回はノーマルを引くことになる。
ただし、10連で回した場合、最後にはSR以上のスキルが確定で出る。
俺はそこに掛ける。
ガチャン!
『……《SR:剣術》』
「ううん……」
10連の最後に出たのは、SRの剣術だった。
俺が狙っている将軍のスキルは、剣術スキルが一定以上でないと弱体化するらしい。
だから、剣術は無駄ではない……のだけれど……。
肝心の将軍スキルがなかったら意味がない。
そもそも、SR以上確定の所でSRが出たら、実質ハズレでは?
途中でRのショベル適性も出た。
これは駄スキルだけど、スナホリの仕事には、ないよりはマシと言った程度。
爆死だな。
今月の貯金はこれで使い切ってしまった。
「終わりにするかね?」
神官に聞かれる。
「はい……あっ!」
俺は慌ててポケットから、銀貨を取り出す。
「銀貨! 今日はもう一枚、銀貨があるんです!」
さっき、イグアンから貰った銀貨がある。
これでガチャを回せば、今度こそ出るかもしれない!
「いいぞ。まだ一回ぐらいなら時間がある!」
神官にはげまされながら、俺は受け皿に銀貨を置いてから、水晶玉に触れる。
キュイイイイイインン
降り注ぐキラキラした光。
『神によりスキルが与えられます』
『《N:防御向上》《R:剣適性》《N:力向上》《N:敏捷向上》《N:攻撃向上》』
『《N:回避向上》《N:回避向上》《N:力向上》《N:防御向上》……』
ここまでは普通だ。
剣適性は、剣の扱いが上手くなるスキル。
剣術と関連があるけど、大して重要ではない。
そして、俺の周囲に強烈な光が降り注ぐ。
教会の中に残っていたスナホリたちも、色めき立つ。
「来たぞ! なんか凄いのが来た! レジェンド確定か?」
「違う! これスーパーレジェンド以上のやつだぞ!」
「なんで俺じゃなくてあいつに行くんだよぉぉぉぉっ!」
ガチャン!
『……《SL:スキル詰め合わせ!(魔術鍵開け)》』
「……嘘だろ?」
俺は自分の目を疑った。
ガチャを回しても、いい物が出ない。それは覚悟していたつもりだった。
だけど、いくらなんでも、これは酷い。
スナホリたちも悲鳴を上げる。
「ああああっ! そっちかよ!」
「上げてから落とすやつが出てしまった」
「これは俺でも同情するわ……」
落ち込む俺に、神官が、はげますようにいう。
「スキル詰め合わせの中身は……役に立つ物が入っていたりしないかね?」
「鍵開けですよ?」
「ああ。……それは、確か半年ほど前に出たような気がするな」
神官は毎日たくさんの人を相手しているから、忘れているのかもしれないけど。
半年前にこれを引いたのは、他でもない俺だ。
SLが出る確率が低いのに、一人で二回も同じ物を当てるなんて、かなり珍しい。
なお、中身はゴミ。
『《R:魔術向上》×5、《R:ひらめき》×5、《SR:魔術鍵開け》×5』
普通なら一回分の枠で15枚のスキルカードが手に入るからお得と言えばお得だけれど……SRを五枚もらってもありがたみが少ない。
同じスキルは何度も入手すると、スキルレベルが上がっていく。
これで、レベル8だった鍵開けスキルは13になってしまった。
4か5あれば、そこら辺の鍵は一通り開けることができるのに13って……。
俺は、他のスキルが手に入らない呪いでもかかっているのだろうか?
教会の鐘がガランガランと音を立てる。
この鐘は、夜を知らせる時報であり、ピックアップ期間終了のお知らせでもあった。
俺がため息をつくと、神官が慰めるように言う。
「幸せとは、人に尽くす所から始まるのだ。神に祈り、人を愛しなさい」
「……はい」
スナホリたちは、用が済んだとばかりに教会から出ていく。
「しゃーないな。ガチャなんてこんなもんだ」
「若者よ、強く生きろ」
「先にハマナス亭に行ってるぜ!」
俺は、近くの椅子に座り、深いため息をついた。
将軍のスキルが欲しかった。
そこまででなくても、剣豪とか英雄とか……上位魔術師とかでもいい。
戦闘向きのスキルさえあれば、こんな島を出て、戦場で活躍できるのに。
「また来月もスナホリか……」
「その様子だと、ダメだったみたいですね」
急に話しかけられた。
顔を上げると、緑色の服を着た金髪の少女がいた。
ヘレナだ。
「なんで、ここに……」
「あの書類を片付けたら、私の仕事も終わりでしたので、来ちゃいました」
「そっか」
「間に合わなかったんですか?」
「いや。鍵開けセットしか出なかったよ」
もし、今回、強力なスキルを引けていたなら、自慢できたんだけれど。鍵開けじゃなぁ……。
「ソリスさん。あなたの鍵開けスキル。今、何レベルですか?」
「13だよ」
「SRなのに、そんなレベルなんですか?」
ヘレナは驚いたように口に手を当てる。
スキルは、レベルが高い方が強力だ。
でも、必要量を超えてレベルを上げ過ぎたら、ネタにしかならない。
今なら、天国の門とか地獄の門とかでも開けられるかも。
まあ、そんな物が目の前にあれば、の話だけど。
落ち込む俺を励ますように、ヘレナは言う。
「あの……夕食は、まだですよね?」
「うん」
「約束とかがなかったら、私と一緒に食べませんか? 奢りますよ」
ヘレナは花のような笑みで俺を誘う。
俺が断る理由は何一つなかった。
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