鍵開けスキルと冥界の門 -こっそり率いる最強軍団、たぶん滅びる世界で生き残れ-

ソエイム・チョーク

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01 冥界の門を入手する

そして時間は冒頭に戻る

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 燃え上るハマナス亭。
 同じく燃え上がるあちこちの建物。
 慌てたり、怒ったり、絶望したり、様々な反応を見せる顔見知りの人たち。

 それらを見ながら、俺は思う。

 どうしてこんなことになってしまったんだろう。
 領主の館にいる人たちなら、わかるのだろうか?

 俺にはわからない。

 昨日までは、こんな風じゃなかった。
 スナホリの仕事をして、ハマナス亭で食事をとって、スキルガチャを回して……。
 いつも通りの、平和で退屈な明日が続いていくのだと思っていたのに……。

 ニックが俺の肩を叩く。

「おい、ソリス。こんなところにいても仕方ないだろ」

「え?」

「早く準備しようぜ」

「準備って何?」

「逃げるに決まってんだろ。なんか金目の物はあるか? っていうか、タノックはどこ行った?」

 ドオオオオオオン

 遠くの方から響く爆音。
 ゴブリンの砲撃が続いている。
 こんな小さな村、あっと言う間に、焼き払われてしまうだろう。
 現に、南丘に残っている無事な建物など、ほとんどない。

 金目の物? 生き残る事さえ難しいのでは?

「うーぬ。船は手に入らないよな。ゴブリンは川の下流から来ているはずだ。西の丘なら安全か?」

 ニックはぶつぶつ言いながら、何か考えているようだった。
 だが、俺には逃げるよりも大事なことがある。
 ヘレナだ。

「領主の館は、大丈夫かな?」

「ああん? そっちは行かない方がいいな。っていうか、俺も北丘から逃げてきたんだ。向こうはゴブリンの上陸部隊が来てる」

「じゃあ、ヘレナは?」

 俺が聞いても、ニックは何も言わなかった。
 ゴブリンに襲われていないだろうか?
 まさか、死んでしまったり……。

 気が付くと、俺は北の丘に向けて走っていた。


 丘と丘の間は明かりもなく暗い。
 燃えるような建物もない。
 というか、増水した川に沈みかけている。

 二週間前の記憶を頼りに、暗い道を走る。
 水を蹴立てながら、水没した道を走り、足を踏み外して深みに落ちた。

「うわぁっ?」

 幸いにもすぐに水から上がることができた。

「グゲェッ!」

 すぐ近くでも別の誰かが水に落ちたようだ。
 悲鳴が聞こえた。

「ちょっ、誰?」

 俺が辺りを見回すと、そいつの仲間らしきやつが、近くにいた。
 身長一メートルと少しの背丈、出っ張った腹。
 暗くてよく見えないが、皮膚は緑色。

 人間ではない。ゴブリンだ。

「うっ……」

 中州島にゴブリンはいないはず。
 ニックは、ゴブリンが攻めてきたと言っていた。
 つまり、このゴブリンは敵なのか?

 いや、ゴブリンだからと言って絶対に敵とは限らないのでは?

「あの……」

「おまえ誰だ!」

 そいつは、俺に気づいて、カンテラの光で照らしてくる。

「あ、あの……あの辺りに、誰か落ちて」

「人族か! 敵だな! 敵だ! 敵だ!」

 そのゴブリンは叫んだ。
 落水した仲間など無視して、槍を構えて突進してくる。
 そして、足を踏み外して水に落ちた。

「グゲァァッ!」

 俺は、そのゴブリンをマヌケだと思ったが、哀れだとは思わなかった。
 どうしてハマナス亭が燃えたのか?
 それはこいつらが攻撃を仕掛けたからだ。
 ゴブリンは、敵だ。
 同じ言葉を話すからと言って、仲間とは限らない。

 水面でもがくゴブリン、それが持っていた槍を掴んだ。
 ゴブリンの頭をけ飛ばして、水に沈めた。

 ゴブリンは死んだのだろうか?
 濁った暗い水の中に消えてしまった。

 奪った槍は、木の棒の先端に尖った金属をヒモで括り付けたような、簡素な作りだった。
 それでも武器としては使えそうだ。
 それに、杖で足元をつつきながら歩けば安全、だったか。
 槍でも同じことができる。


 どうにか水没した道を通り抜けて、北の丘にたどり着いた。
 領主の館に近づいたら、何人もの兵士がいて、道をふさがれた。

 兵士の隊長が俺を見咎める。

「誰だおまえは。名を名乗れ!」

「ソリスです。スナホリの……」

「誰かこいつを知ってるか?」

 兵士の隊長が辺りを見回すと、近くにいた兵士の一人が言う。

「おまえ、もしかして何か珍しいスキルを持ってないか?」

「か、鍵開けのこと?」

 俺が答えると、兵士は隊長に向かって言う。

「……こいつ、二週間ぐらい前に館に入ってます。ニックが連れてきたんですよ」

「ああ、あいつの知り合いか」

 一度来ただけなのに、覚えていてくれた。
 随分優秀な門番もいたものだ。

 俺は領主館の敷地内に入る。

 ここからどうすればいいのだろう?
 とりあえず、ヘレナと合流しなければいけない。
 特に考えもなく走ってきてしまったけど、ヘレナは、ここにいるのだろうか?
 まだ無事だろうか?

 庭を見回していると、上の方からヘレナの声が聞こえた。

「《サンダー・アロー》」

 暗い空を雷光が走る。
 空中で何かが破裂した様に見えた。
 雷系の魔術だ

 この中州島はもう終わりだと思ったけど、違った。
 ヘレナは諦めていない。戦っている。

「ヘレナ!」

 俺は叫ぶ。
 領主の館の三階。簡素なバルコニーがいくつかあって、その一つにヘレナがいるのが見えた。
 ヘレナは俺に気づいて手を振る。
 俺も槍を振り返した。

 ヘレナはすぐに上空に目を向ける。
 ゴブリンが、空から攻めてきているらしい。

 何ができるかわからないけど、とりあえずヘレナの近くに居ようと思った。

 俺は屋敷の中に入り、上の階への階段を探す。

 廊下を、赤い服を来た若い女性が歩いて来る。
 この人も貴族だろうか。
 何かを考え込んで、ぶつぶつと呟いている。

「くそっ、どうしてこんな……いえ、これはチャンス、きっとチャンスよ……賭けに出るの、そして勝たなければ……」

「あの、ヴァネスさんですか?」

 俺は呼んでみた。
 ニックが言っていた女性の特徴に近い気がした。
 狭い島だ。貴族の若い女性が何人もいるとは思えない。

 正解だったようで、その女性は俺の方を見る。

「あら? ……スナホリ? いえ、好都合ね」

「あの、上に行く階段はどこですか?」

「上? そうね。ヘレナは知ってる?」

「はい。そのヘレナが三階に……」

「今から、ちょっと殺してきてくれない?」

「え?」

 何かわけのわからないことを言われた。
 ヴァネスは狂気に満ちた笑みを浮かべる。

「チャンスなのよ。今殺せば、ゴブリンにやられたってことにできる。ほら、あなたが持ってるその槍」

「ゴブリンの……」

「そう。それでヘレナを刺すの。今なら絶対バレないわ」

「何を言ってるんですか?」

「あいつは、この館を乗っ取ろうとしていたの。あの気持ち悪いトカゲと手を組んでね。トカゲは殺したし、愛人は追い出す」

「えっ……」

 トカゲとは? イグアンのことだろうか?
 俺に銀貨をくれたあのトカゲの人?
 あれは、事故死だったんじゃ……。

「残るはヘレナだけよ。あいつさえ殺せば完璧なの。ほら、行くのよ。タダとは言わないわ。ちゃんと報酬もあげるから……」

「全部、おまえが?」

 俺は、急に気づいてしまった。
 ヴァネスを睨みつける。

「な、何よ」

「ハマナス亭が燃えたのは、おまえのせいなのか?」

「は? あんな村の一つや二つ燃え立って構わな……」

 グサリ……

 ヴァネスの胸に、槍が突き刺さっていた。
 その槍を握っているのは、俺の手だ。
 気が付いたら、刺していた。

「……な、なんで、私が何をしたって言うの?」

 ヴァネスは混乱した様子でその場に座り込み、血を吐いた。

 俺はヴァネスを蹴り倒して、頭を踏みつけながら槍を引き抜いた。
 こいつは、さっきのゴブリンと同じだ。
 あるいはそれ以下。
 同じ言葉を話すからと言って、仲間とは限らない。
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