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meishino

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33 それさえなければ

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 他言はしないこと……とは言われたが、この問題、俺だけが背負うには少々重たすぎる気がした。ジェーン、ああまでブッ飛んだ男だったとはな。


 俺は自分の執務室から出て、陛下のいるだろう皇室へと向かっていた。何か対処をしたい訳では無いが、一応陛下に聞いて欲しかった。


 俺と陛下は新光騎士団で組んでいたこともあって、今でも互いに相談することがあるからだ。陛下なら、他言はしないと確信している。


 皇室のドアの間に立っている護衛兵が俺に頭を下げた。俺も右手を胸に当てる騎士の挨拶を彼らに返して、ドアをノックした。コンコンと叩くが、何も反応がない。俺は護衛の一人を見た。彼は何故か苦笑いをした。


「開けてはなりません。先程、キルディア様と部屋に入ったきりで……もしかしたら、そういうことをしているのかも。」


「馬鹿野郎。」俺はそいつを軽く叩いた。「ギルはジェーンのものだろうが。いくら彼女に好意を抱いているからって、人の恋人なんだから、陛下が手を出す訳がなかろうが……。」


 コンコンと叩いてみるが、まだ返事はない。つい、護衛の言ったことを頭の中で想像してしまった。いや、まさかな、はは。俺は顔を引きつらせた。


 しかし開けるなと言っても反応が無いのでは心配になる。俺はウォッフォンのマスターキーでドアを開けて、中に突入した。


 ギルの姿は無く、ビロードのベッドで陛下が寝息を立てていた。すぴーすぴー言って、彼の胸が上下している。俺は先程の護衛を少し睨んだ。護衛はバツが悪そうな顔をして、「すみません」と小声で謝り、ドアを閉めた。


 俺は陛下に近付いた。よく見ると、首筋が赤く腫れていた。その腫れ方で何が起きたのか、俺は一瞬で理解した……どうして、この時間に寝息を立てているのか。


 きっと陛下はギルに迫ったのだろう。ギルは止むを得ず、陛下の首に騎士風のチョップをして、気絶をさせて……と、俺は辺りを見回した。窓が開けっぱなしになっていた。ああなるほど、そこから出たに違いない。


 それさえなければ、とてもいい皇帝なのに、どういう訳か彼はギルバートに固執する。俺はチラッとタンスの一番上の段を見た。


 以前たまたま見てしまったが、あの引き出しの中には大量のギルバートの人形が入っている。写真を企業に送って、制作を依頼したらしい。


 それさえなければ、とてもいい皇帝だから、俺は城下でギルバートに似ている女性を見つけては素性を調べて、まともな人生を歩んでいた場合は、陛下に紹介をした。


 しかし、「ダミーは間に合っている。君もタンスを見ただろう?」と、一蹴された。


 ……まあいい、そのうちのその熱も覚めるさ。そうで無いなら困る。俺は陛下の背中をトントンと叩き、声をかけた。


「陛下。」


「……あ?」


「陛下、起きてください。」


 陛下は怠そうに呻きながら、体をゆっくりを起こして、辺りを確認した。もうギルがここにいないのを悟ったのか、残念そうにため息をついて、肩を落とした。


「どうしたのヴァルガ……何か用事?」


「ええ、実はお話ししたいことがあります。」


 陛下は首筋が痛むのか、手でさすりながら俺のことをじっと見ている。俺は気遣った。


「痛みますか?手当が先の方が宜しいでしょうか?」


「ああいや、いいんだ……こんなんでも、彼女の残してくれた痕跡だから、もう少し大事にしたい。僕はきっと異常だろうね。」


 はいそうですね、という言葉を喉の奥に閉じ込めた。それさえなければ……!まあいい、俺は陛下に話した。


「実は先程、ジェーンが私の執務室に来ました。」


「へえ?彼が一人で君の所へ?珍しいこともあるんだね。」


「……え、ええ。それで、これは他言をしないようにと言われたのですが、陛下にご相談したくて。」


「何だか嫌な予感がするね、」と、陛下はベッドから降りて椅子に座った。「ジェーンが一人で君のところに来た、君は僕に相談がしたい、とすると何か、圧力をかけられたとか?」


「お察しの通りです。ステイシーを人質に取られました。彼の望みは、ギルバートが無事にセクターから帰還することです。その為に、俺に盾になれと。」


「そうか……まあ、彼女を守るように、僕からも君に言いたいとは思っていた。」


 まずいな。相談する相手を間違ったか?俺は苦笑いした。しかし陛下は、首を振って訂正した。


「でも、それを君に順守しろと圧をかけようとは思わなかった。ステイシーはどうやって人質に?ジェーンがそんな暴力的な行動をするとは想像出来ないけど……いや、彼は確かに異質だけど、彼自身がそんな行動をすることはあまり想像出来ないって意味ね。」


「あ、ああ、そうですか……ジェーンはいつでもステイシーのウォッフォンを遠隔で爆破出来るようです。」


「え?それは確かなの?」


「はい……。」


 急に立ち上がった陛下は、隣の部屋に行ってしまった。俺も急いで後を追うと、部屋の真ん中に置いてある大きな木製の机で、真剣な瞳でPCを操作し始めた。俺は聞いた。


「何をしているので?」


「うーん、彼が本当にそんなことをしたのかなって、ステイシーのウォッフォンを調べている。でもハッキングは出来ないよ。ウォッフォンのハッキングってめちゃくちゃ大変なんだ……いや、出来るのかな。ジェーンが出来ているんだもの。やってみるか。」


 俺は静かに陛下の作業を見守った。ステイシーに連絡して、彼女のウォッフォンを実際に見てもいいと思ったが、とりあえずこの作業を見守りたかった。陛下が、限界を越えようとしているからだ。


 二十分が過ぎた頃、俺は淹れた紅茶を陛下の机に持って行った。丸眼鏡を取って、一度目頭を押さえてから再び眼鏡をかけた陛下は、紅茶を受け取り、喉仏を揺らして、ゴクリと飲んだ。


「……結論から言うよ。ウォッフォンのハッキングは出来た。ジェーンが骨の折れる作業だって言った訳がわかった。砂の山みたいなんだ。」


「砂の山?」


「うん。砂の山にトンネルを作るだろう?それを水無しでやったらどうなる?」


「崩れやすく、作成出来るかどうか。」


「その作業に似ているね、これは。しかも一度も崩さないように、念には念を入れて、全ての工程に先手を打たないといけないって言うハンデ付きだ。あー目が疲れた。そしてもう一つの結論だけど、ステイシーのウォッフォンを確認したけど、どこも異常なところは無かったよ。じゃあハードの方を細工したのかなって思った……つまりウォッフォン自体を工夫したってことね。でもジェーンはステイシーと直接やりとりしていないんだろう?」


「そうだと思います、帰ったら確認しますが。」


「え?一緒に暮らしているの?」


 やばいな……。


 俺は顎を撫でた。陛下の羨望の死んだ目が、やや怖い。


「……きょ、去年、俺がLOZに投降した時に、離れ離れになりました。それで互いに愛が深まったようで、一連の戦いの後には、彼女の家で一緒に暮らすようになりました……。」


「そうなんだ、いいなぁ、僕もあの人と一緒に暮らしたい……はぁーあ……。」


 流すべきか?それとも、暮らせますとも!と勇気づけるべきか?いやそうしたら陛下のことだ。そうだよね!と猪突猛進にギルを襲いに行くに違いない。それさえなければ……!


 兎に角、俺は陛下に聞いた。


「ステイシーのウォッフォンに異常は無いのですね。なら、ジェーンの発言はハッタリだったのか……。」


「いや、それは分からない。僕から見て異常が無いだけで、実は本当に細工が施されている可能性は高い。確かにフェイクニュースを多用してきた彼のことだから嘘をつくって言うのは有り得るけど、彼はこの世界で一番の魔工学者だ、彼ならやれる。彼なら砂の山を作る時に、落ちる砂の時を止めることが出来るんだ。そしてそれは時空間歪曲機にも使われていた僕にも理解できない、重要なパーツの部分で使われていた技術。時を操るあの技術を応用すれば、ハッキングだって、痕跡隠しだって、簡単に出来る。時空間歪曲機の代替パーツを作った僕でも、それをウォッフォンに応用することは難しくて出来ない。ステイシーのウォッフォンを保護することも出来ない。とても、今日中にはね……ごめんね。」


「ああいや!」俺は慌てて手を振った。「いいんです、陛下が頭を下げることでは有りません!悪いのはジェーンです……。まあ彼は、ギルバートさえ戻ってくれば何もしないと約束していた。だから俺は、ギルを返す。それだけすればいいんだ。」


「約束じゃなくて脅迫じゃないのそれ。まあジェーンも心配だってことだよね。セクターにはヴァレンタイン教官がいるけど、大勢で行くからそんなに抵抗せずに、彼女も大人しく情報を渡してくれるんじゃないかな。マテオさんの日記には、彼女はセレスティウムへの独占願望があったみたいに書かれてたけど。」


「そうですね、一応警戒してセクターに向かいます。陛下、調べて頂き、ありがとうございました。」


「あ、ああ。」陛下はゴクリと紅茶を飲んだ。「明日は宜しく。」


「はい。」


 俺は部屋の外に向かって歩き始めた。明日はセクターが危険な状態になったら、ギルを守ればいい。この身でな。


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