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meishino

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40 様子のおかしい場所

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 私は教官の日記の、次のものを開いた。前回のと日付が近い。さっきと同じように声に出して読み始めた。


「『セレスティウムは、液体の金属だ。それを人体のプレーンエリアに被せることで、プレーンと肉体双方に作用する。そうだ、私のドックフードはどこにある?あれがないとやっていけない。城下に仕入れに行くべきか?』……だって。ドッグフードって、まさか教官が食べるの?え?」


 私はヴァルガを見た。彼は動揺しているのか、瞳が揺らいでいた。彼は何も答えてくれなかったので、今度はクラースさんの方を見た。クラースさんは首をゆっくりと傾げながら言った。


「私の、って書いてあるし、そうなんじゃないか?好きなんだろう、ドッグフード……ゲテモノ付きのセンリでさえ、それを口にする事は無かったが、教官は好きなんだろうな。」


「キッチンには無かったな……。」


 ヴァルガの疲労感たっぷりの声が聞こえたので、私は次の日記を開くことにした。それにしても一つ一つが簡潔だ。


「じゃあ次の開くね……えっと……『私のクラスのギルバート・カガリが魔力の暴走を起こした。彼女の生真面目な性格が彼女を追い込ませた。私は使うか迷ったが、使った。セレスティウムはうまく作用した。彼女は助かった。闇属性の人間にも通じたのが良かった。彼女の経過を細やかに観察することとする。』……か。闇属性の人間にもって、どういうことなんだろう?」


 私の質問にはクラースさんが答えた。


「俺もそれは気になったよ。もっと先を読めば何かわかるかもしれないから、早く続きを読もう。キリーほら早く!」


「分かったって、分かったから!」


 急かされた私は次の書類を開いた。さっきのと日にちが近い。


「『その後ギルバートは順調に回復をしたようだ。彼女には何も副作用や後遺症が残っていないらしい。彼女はセレスティウムの量産を願っているようだ。しかしコストがかかる。一つ作るのに、どれだけのコストが掛かると思っている?現在セレスティウムは、セクターに残り三つあるのみで、このペースで行けば底を突くだろう。』……どうしてなんだろう。他にも被験者がいたのかな?」


「そうなんじゃ無いか?さあ続きを読め!」


 さっきからクラースさんがすごい。きっと楽しんでるんだろうなと思った。今読んだのが五つめだから、あと二つのみだ。しかし次の日記はなんだか雰囲気が違った。日付はさっきのものの翌日だった。


「えっと、『足りない。足りない。足りない!早く増産しないといけない!私は死神に銃を突きつけられている。目的が達成されなかった場合、私は死を与えられるだろう。そして償いを……ああ、足りない。どうにかして用意をする。いや、用意なら出来る。だがその材料ではいけない、代替品が必要だ。その先に、増産がある。だが増産がされる頃には、私はいない。』……。」


 私は言葉を失った。つい胸に、手を当ててしまった。教官は誰かにセレスティウムの生産を命じられていたのではないかと思ったからだ。しかもかなり脅されていたようだし……。


 私はヴァルガを見た。彼と目が合うと、彼は大丈夫だと言いたいのか、私の頭をさっと撫でた。


「おい、次のを読もうか。」


 クラースさんの平常運転の声が聞こえたので、一気に我に帰った私は、次のをクリックした。日付は彼女が亡くなる一週間前だった。


「『明日は戦地に赴く。私はまた死神を受け入れた。こうなるなら、何もしなければ良かった。未知を求めず、不動を貫けば、私の人生は生徒に囲まれて和やかに終了したのだ。マテオやミハイルは金に魂を奪われ、陛下は死神を悪しき存在だと捉えた。唯一の希望はギルバートだ。私は彼女の真っ直ぐな正義感を信じている。今度セクターに案内しよう。』……で終わりだ。この後に教官は爆発に巻き込まれて……のはずだけど生きてた。じゃあ純粋に私をセクターに呼びたかったのかな?」


 私はクラースさんに聞いた。彼は答えた。


「そうかもしれないな。あと死神が誰なのか気になるが……兎に角、このPCは貰っておこう。ルーがショルダーバッグを持っていたな。彼に言ってバッグを借りてくる。お前らはここにいるか、もしかしたら現物が残ってるかもしれないから、それを先に探しておいてくれないか?」


 私はPCを閉じて、クラースさんに渡してから立ち上がった。私はヴァルガに言った。


「じゃあ私達は現物を探しに、残りの部屋をざっと見てから一番奥のエリアに行こうか。」


「そうだな、そうしよう。」


 席から離れると、私とヴァルガは部屋を後にして、残りの部屋を一つ一つ捜索した。ベッドルームに、シャワールーム、それから植物園のような温室もあった。そこの植物は生き生きとしていて、彼女が世話をしているのが伝わってきた。


 明らかにここに住んでる様子だった。それも誰にも知られないで……。どうして一人でひっそりと暮らしていたのか、どうして私をこのタイミングで呼んだのか、さっぱり分からない。しかもどこにもいないし。


 考え事をしてしまった。もう最奥部の部屋の手前まで来ていて、あとはこの部屋だけだ。「行くぞ」というヴァルガの声に私が頷くと、彼が最後の一部屋の扉を開けた。そして息を飲んだ。


 その部屋には、幾つもの小さな鉄格子の牢屋があった。ベッドなんかありゃしない、人が一人入れるぐらいに小さい檻がずらりと続いている。どれも内部は空っぽで、南京錠の鍵が開いた状態で扉にかけられていた。


「……今は使われていないみたいだな。」


「うん。」


 私は一つ一つ牢屋の中を見て行った。あまり綺麗じゃない。床には紙屑とか埃とかが散らばっていて、染みがついている箇所もあった。


 ある檻の前で立ち止まった。黒い斑点が勢いよく飛んでいて、床を染めていた。明らかに……血の跡だった。


「って……」


 と、私は隣の檻を見て驚いてしまった。なんと鉄格子が鋭利な刃物で斜めにぶった斬られていて、豪快に破壊されていたのだ。


 半分は崩れ落ちていて、床には鉄格子だった棒が散らばっていた。切断面を見ると包丁でゼリーを切ったかのように、跡が全く無かった。


「……こんな切れ味の良い武器があるのかな?」


 私の質問に、同じく断面に目を奪われているヴァルガが答えた。


「あ、ああ……俺もそう思っていた。こんな金属の断面は見た事がない。光の大剣でもこうまで不自然にスッパリと切れはしないだろう。それに床の血の跡、人間のものなのかは分からない。豚とか家畜かもしれない。彼女はここで食用家畜を飼っていたのかも。ルーは匂いが気になると言っていたが、ここの匂いか?」


 私はスンスンと匂いを嗅いでから、答えた。


「豚の匂いではない。なんだろう、嗅いだ事のない匂いがする。」


「そうか、お前もハーフだったな。この血は人間の物でもないのか……。だとすると何か、モンスターの匂いかもしれない。ギルドにいたお前でも嗅いだ事のない匂いか……。」


「うーん」私は苦笑いした。「ギルドで色々なモンスターの体液の匂いを嗅いだことあるけれど、これはその全てと一致しない。変な匂いだ。ルーが具合悪くしたのも頷ける、なんか結構変な匂いだから。」


「何か薬品と混ざっているのかもな……まあ、家畜だろう。他には目立つものも無いし、兎に角ここを出て、あの大きな一番奥の部屋に行くか。」


「うん、そうだね。」


 私とヴァルガは鉄格子の部屋を出た。ちょうどその時に、ルーのバッグを背負ったクラースさんが廊下の向こうから小走りでやってきて、合流する事が出来た。


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