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meishino

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41 二つの隠し事

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 その扉には、メインランドと書かれていた。きっとセレスティウムを作るメインのエリアなのだろう。


 我々は目を合わせた後に、銃を構えながら扉の両サイドに隠れた。私がドアをコンコンとノックしたが、反応は無かった。


 ならばと私は勢いよくドアを開けて内部へ突入した。金属製のドアは開ける時にギイっと音を立てた。


 その部屋はとても大きく広く天井も高い。真ん中には蛍光グリーンに光る、円柱の水槽みたいなものがあり、泡が下からポコポコと湧き上がっていた。


 液体は濁っているので向こう側が見えない。特大の円柱水槽の周りには様々な機器がケーブル剥き出しで繋がれていて、壁には大きなモニターが幾つもあった。


 円柱水槽の上の方を見ると、大きなパイプが水槽に繋がれていた。パイプはずっと使われていないのか、少し汚かった。


「すごいな、この水槽は言葉を失うぐらいに大きくて、少し……ロマンチックだ。」


 クラースさんの言葉に笑った。確かに、壁が白くて、水槽の蛍光グリーンが壁にゆらゆらと反射していて、普通に綺麗な景色だったのだ。


 私は近くにあった作業台に置いてある、PCを開いてみた。するとそれはグラフを表示していた。黒い背景に、赤と青の波状グラフがうねうねと絶えず動いていた。何を指し示してるのか知らないけど、多分、この水槽の状態を把握してるんだろう。


「どうする?PCだけでもたくさんある。持ち帰るにしても全ては無理だぞ?」


 クラースさんの質問に私は答えた。


「ジェーンなら何て言うだろうか……」


 自分にジェーンを降臨させてみた。


「その場所にあるPCは計測を行なっているだけのようですから、レシピの入ったPCさえあればいい。ですからそれは無視していただいて結構です……っていいそう。」


 私のモノマネが似ていたのか、ヴァルガが「アッハッハ!」と笑った。クラースさんもウケてくれたので良かったと思っていると、クラースさんが言った。


「ははっ、何だか、そこにジェーンがいるのかと思ったくらいに似てたぞ!それにお前の物真似は信憑性があるな、ジェーンならそう考えるかも。」


「……でもただの私の予想だからね。もしかしたらこれも必要かもしれないし。」


「ならば、」とヴァルガが腰のポーチからメモリーカードを取り出して、PCにぶっ刺した。「この一台のデータだけを抜き取って持ち帰ってみようか。この部屋にある他のPCは、全部似たようなことをしてるんだろうから、一つだけ抜けば十分だろう。」


 その作業はヴァルガに任せるとして、私は水槽の中をじっと見つめた。これでセレスティウムを作ってるんだろうか?


「そうだそうだ、現物を探さなきゃ……!」


 思い出した私は、早速現物を捜索開始した。奥の方にフラスコや三角瓶の置いてある大きな金属棚があったので、そこへ向かった。小箱を一つ一つ開けて中を見ていると、クラースさんも私の隣に来て、私の真似をして手伝い始めた。


「もしかしたら、教官が残りのブツを持っているのかもな。しかしそれにしても、彼女は一体どこにいる?どうして姿を現さない?これじゃあまるで俺たちが泥棒みたいだ。」


「確かに泥棒みたいだけど……。じゃあ私達が居るのを分かってるなら姿を見せてくれてもいいのに。後で会った時に、改めて……。」


「PCを持っていきますって言うのか?正直に?」


「……、」


 私は口を尖らせた。クラースさんは持っていた小箱の中がネジだと知ると、荒々しく蓋を閉めて元の場所に置いた。私は言った。


「少しお借りしたいんですって、言う。」


「はああ」クラースさんがため息をついた。「そんな嘘、赤ちゃんだって騙されやしない。だったら正直にデータを頂くと言った方がいい。出来れば穏便に。」


「穏便ね、」


 私は新しい箱の中を開けて、中がネジだと知ると元の場所に戻した。


「だから少しお借りしてって表現にしたんだよ?私だって出来れば穏便にいきたいよ。だって彼女……この施設を自分で作ったんでしょ?さっきのトロッコだって、あのパイプラインだって作ったんだとしたら、その時点で人間離れしてて信じられないのに、さっきの檻の部屋の血は何なの?檻がスッパリと切れてたのだって、彼女がしたんだとしたら……やばいよ、やばい。ドッグフードを好んで食べるのには訳があるんだ。彼女は明らかに人智を超えてるし、我々の勝てる相手では無い。クラースさんはケイト先生ともう一度会いたいでしょ?」


「お前なぁ……」クラースさんは下の段のやや大きい箱を持って蓋を開けた。中身はネジだった。「まあ、もうウォッフォンの通信が途絶えてしまってるから正直に言うが、そりゃこれっきりでもう会えなくなるのは避けたい。だがな……。」


「ん?」


 クラースさんは箱を持ったまま固まってしまった。


「どうしたの?まさか、そこまで弱気になるなんて思わなかった……。ねえ、大丈夫だよ。教官は優しいから、ね?」


「違う。お前に言ってなかった事が二つある。」


「え?」


 クラースさんは箱を棚に戻して、それから棚に寄りかかって私を見つめてきた。私は持っていた箱を元の場所に戻して、彼のことを見つめ返した。クラースさんは少し切ない顔をした。


「……ケイトのことだ。」


「うん。」


「帝国研究所の医薬品開発チームに誘われているらしい。んで、彼女はその話を魅力的だと思ってる。誰にも言うなよ?」


「え!?ええ!?」


 んな、まさかんなんなんな……!


「そ、そんなケイト先生が抜けたら、うちはどうしていけば!?」


「俺もそう言ったんだ。」クラースさんが眉を顰めた。「でもケイトは、ソーライの医師として働くのなら、私でなくても事足りると。ほら、ケイトは前に論文を出してただろ?ドデカハマグリの件だ。……それがかなり帝国内で評価を得ていて、更にLOZの件でケイトの名が広がって、それで帝国研究所もアルビノとかは一旦置いておいて、どうか頼むからうちに来てくれって。ケイトもさ、設備のしっかりしたところで全力を出せるのなら悪くない話ね、って風呂の中で言ったんだ。俺は言葉を失くしたよ。」


 クラースさんがケイト先生の声真似をしたのも、二人が一緒に風呂に入っているのも笑えるポイントではあったけど、それよりもその事実が結構衝撃的すぎて、私はただ口を開けるばかりだった。


「え?じゃあそのうち帝都に引っ越すの?ケイト先生は……うちはまあ、そりゃケイト先生がいてくれた方が助かるけど、でもケイト先生の言った通りに、外注のドクターでも対応出来る事はできる……。クラースさんはどうするの?アリスも。」


「アリスか、あいつは一人暮らしをしたかったらしいから、いいんじゃないか?」


「え?じゃあクラースさんは?」


「それがもう一つ、隠していたことだ。」


 うわあ……すっごく嫌な予感がする。私は彼の言葉に耐えられるように構えた。彼は言った。


「じ、実は……」意外と照れムードで話し始めたので、私はびっくりした。「これはケイトには言っていないんだ。俺はな、どうも遠距離恋愛なんて出来ない。」


「え?ユークと帝都でしょ?アクロスブルーラインで何時間だっけ?痛いっ!」


 クラースさんに肩をどつかれてしまった。彼の据わった目が怖かった。


「だから俺はっ……!ケイトが帝都に行くなら、俺も行く!」


「仕事はどうするの?そんなすぐに帝都で見つかるの?」


 ふと言葉が出てしまった。そんな急にクラースさんまでいなくなって欲しくなくて、彼が思い止まるのを願ってしまったのだ。私って馬鹿なやつ。そんなのを優しく包むかのように、クラースさんが微笑んだ。


「確かに俺は学もないし、やれることと言ったら体力仕事だけだ。帝都で警備でも土木でも、雇ってくれるならそこで働くさ。俺はケイトのそばに居たい。だから、だからな……おい、絶対に内緒にしろよ?」


「え?うん、そりゃ内緒にするけど……どうしたの?」


 まさか、プロポーズするとか言うんじゃ。


「……ケイトの引っ越し先の近くに、しれっと引っ越す予定だ。」


「え?」


「ん……」と、クラースさんがヴァルガを気にした。彼はと言うと、PCのコピーに手こずっているのか、難しい顔をしてPCをカタカタ操作していた。こっちの話は聞いていないようだ。クラースさんは「よし」と頷いてから、私に早口で説明を開始した。


「だから、ケイトに内緒でケイトの近く引っ越すと言ってるんだ。そしてお前はそれを知らなかったことにしろ。いいか、俺がいいと言ったら、俺をクビにしてくれ。そして俺は、それを理由に帝都に職を探したテイにするから……!」


「な、なんでよ……なんで私のせいで帝都に越さなきゃならなかった風を演じなきゃいけないの?」


「……ケイトはな、あなたはソーライの職務が合ってるから、そこで励んで欲しいって言うんだ。お前には悪いが、俺はケイトとお前ならケイトを取る。」


「そりゃそうなんでしょうけどね……」


 もう苦笑いが止まらない。何これ。何このサーカムスタンス(状況)。


「だからもうソーライにはいられないって感じにしたいんだ。ケイト先生がクラースさんがソーライにいることを望んじゃってるから。」


「そう言うことだ、さすがギルバートだな!」


 私はクラースさんをどついた。彼は笑いながら痛がった。


「ふはは……まだ決まったことじゃない。なあ頼む、その時になったら、協力してくれ。」


 クラースさんが切なく微笑んだ。私が断れるわけもなく、「まあ分かりましたよ」と頷くしかなかった。ついでに小箱を取って中を見るとまたネジだった。どんだけネジ入ってるんだ……。


「またネジか?」


「発注ミスかな……はは。」


 蓋をして、元の場所に戻した。さっきまでのような元気が、どこか遠くに行ってしまった。



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