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meishino

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55 簡単には壊れない

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「昨日ね、」


 私は話し始めた。ジェーンはじっと私を見つめている。


「チェイスが来て、ジェーンの真相を聞いて、彼に迫られた。私はそれがショックで、だからと言ってそのせいだと言うつもりはないけれど、悲しみにくれているところで、あのようなことが。」


「ええ、私は見ておりました。しかしあなたは抵抗しておりましたから、チェイスの一方的な行動だとお見受けしました。しかしあなたはお強いですから、抵抗しようと思えば出来た筈。しかし、私の件でかなり動揺させていたのも事実。私には私の罪、あなたにはあなたの罪、しかしその二つの原因はどちらも私にあります。して、暫く離れるとは、どれほどの期間でしょうか?」


「いやいや、ジェーンのせいじゃないよ……私だって抵抗したかった。ああ、本当にごめんね。」


「いえ、責めるべきはチェイスです。全てはあの男のせいですよ。して、期間はどれほどでしょうか?いつ退院ですか?」


 いきなり全ての責任がチェイスに押し付けられてしまったけど、いいやもうそれで。私は涙に濡れる顔でジェーンを見つめて、答えた。


「退院は明後日出来るって。離れる期間はそうだね……私の気持ちが落ち着くまでだとありがたいのだけれど。ヴァルガもまだ目を覚ましていないし。」


「ヴァルガは昨夜に目を覚ましたと、今朝ケイトから聞きました。」


「え?」私は彼を見つめた。「本当?」


「ええ。意識が回復して、話せるまでにはなったと。彼はまだ帝国研究所の医務室にいますが、あとは体力が戻るのを待つだけとのことです。して、離れる期間の件ですが。」


「あ、ああ、その件ね。うーん。」


 さっきから話の軌道修正がすごいな。でもヴァルガが戻ってきたことは嬉しかった。とは言っても、やはりまだ我々は一緒にいるべきではないと思ってしまうけど。私は天井を見上げながら言った。


「全てが、過去の思い出話になるまで、時間を置くのはどうだろうか。」


「キルディア、仰る意味が分かりません。」


 そうなんだよね、私ももうよく分からない。我々の関係がヴァルガに迷惑をかけたんだと、思ってしまうから。


「一度、別れる、とか?気持ちの整理をつけたいので。」


「え?」


 私はジェーンを見た。彼はとても引きつった顔をしていた。彼に分かりやすいように、私は説明をした。


「だから、恋人ではなくなるってことなんだけど。」


「……あなたはお馬鹿ですか?」


「え!?何でよ。」


 ジェーンは前髪をかき上げてから言った。


「私はあなたと一緒にいる為に、皇帝殺害を思い留まったのです。あなたがいないのなら、チェイスを遠隔でやってしまいますよ。」


「いやいや、やらないでよ……ジェーンもう駆け引きはやめて欲しい。アレをするならこれをするからね、みたいなやつ。もうやめてー。」


 ジェーンがムッとした顔で両手で頬を包んで、不満げな雰囲気を作り始めた。


「……でしたら交換条件を提示する癖も改善するよう努力します。キルディア後生ですから考え直してください。二人であやまちを謝罪しあったのです。後日、ヴァルガの元へと共に伺いましょう?我々二人で彼に謝罪するのです。」


「た、確かにそれなら……分からないけど。ああジェーン。分かった、分かったけど、もうこれ以上は策とか、条件とか、あまりしないで。私も今度からチェイスが来たら全力で抵抗するよう約束するから。」


「はい、理解しました。ふふっ。」


 ジェーンがティッシュで私の鼻水や涙を拭いてくれた。いつもいつも、ジェーンは私のそばにいることを努力してくれる。


「キルディア、足の方はどうでしょうか?私は酷く心配しました。あなたがもう怪我出来ない体なのに、このような大怪我を負ってしまって。」


「ん?ああ……」


 私はパジャマのズボンの裾を捲って、右の太ももを見せた。彼は笑顔を消してしまったのを見た私は、彼に笑いかけた。


「ははは、大丈夫だよ。右腕、右足と身体の感覚が少しづつ減っていっているけど、残った感覚でジェーンのことを感じられたら、それでいい。」


「毎日、手を繋ぎましょう。それと……こちらにおいでください。」


 私は少し彼の方へと近づいて座り直した。すると彼がベッドに置いていたショルダーバッグを持ってきて、中を開いた。


 私は驚いた。中には右腕と同じ深緑色をした、ツールフットが入っていた。


 折り畳まれたそれを取り出したジェーンは、私の太ももにそれを当てて、ボタンを押して起動させた。腕と同じようにラインがあるけど、足の方には光の筋は通らない。


「こ、これ……ジェーンが作ってくれたの?」


 彼はウォッフォンとフットをリンクさせているのか、ホログラムで設定の微調整をしながら答えてくれた。


「はい。ソーライ研究所に篭って作成していたのは、こちらでした。既存のツールフットではあなたは満足しないでしょうから、元々のあなたの可動域程度の脚力が出るように工夫しました。体重の支えも安定している筈です。どれ、少し立てますか?」


「あ、うん!やってみるよ!」


 私はゆっくりと床に足をついて立ち上がった。チェイスの時のように転ぶのが怖くて、ジェーンの手をぎゅっと握って、試しに右足で一歩前に出た。


 すると感覚はないのは仕方ないけど、自分の足であるかのように体は安定した。膝だって揺れない。


 試しにその場でジャンプしてみると、両足の動きがリンクしてるみたいに、安定感のある動きをした。


 トランポリンで遊んでる子どもみたいに何度も何度もぴょんぴょんしていると、ジェーンが口に手を当てて微笑んだ。私は両手を上げて喜んだ。


「これはすごい!おおすごい!さすがジェーンだ!」


「ふふ、お喜び頂けたようで、光栄ですが……ことの全ては私の責任です。あなたが足を失ったのも私のせいです。」


「いやいやいや、あれはヴァレンタイン教官のせいだから。はっはっは!うわぁー……」と、私はそのままジェーンに抱きついた。彼は一瞬ビクッとした。


「チェイスも持ってきてくれたのだけ「チェイスが?何を?」


 食い気味にこられたのでビビった。私は苦笑いで少し離れた。彼は微笑みを消していて、中指で眼鏡の位置を直した。


 な、何も変なことは、その件に関してはないけどと思いながら答えた。


「いや……その、昨日チェイスがツールフットを持ってきてくれた。それを着けてみたけど、動きが不安定でうまく歩けなかった。その後でチェイスが無理矢理キスしてきたから、怒ってフットを突き返した……また改良して持ってくるって言ってたけど。」


「……くだらない。私の前に彼が同じことを、成程。しかし技術では差が出たという訳ですね。そのフットに関しては私の方から改めて返品申請をしておきます。この後で彼を訪ねる予定がありますので。」


「え?この後会いに行くの?」顔が引きつった。「な、何するの?」


「……お話ですよ。ただのお話です。心配には及びません、あなたと一緒にいるという任務を遂行する為に、彼の命を奪うことはしません。ただの四方山話です。その後はこの病室に泊まります。」


「あ、ああ。まあそれが本当なら、うん、分かった。」


 ジェーンが両手を広げて私に近づいてきた。


「キルディア、仲直りのハグです。」


 彼の胸に飛び込んだ。爽やかなコロンと彼の甘い匂いがした。


 安心してドキドキするいい匂い、私が求めていたのはコーヒーの匂いじゃなくて、これだった。また涙ぐんできて、声が震えだす前に何か言おうと思った。


「ジェーン、私を信じてくれてありがとう。」


「はい。あなたも私を許してくれました、有り難き幸せです。それにあなたがチェイスのキスで喜ぶ筈はないと知っていました。ふふ。」


「えー、まあそうだけど、なんで?」


 ジェーンがぐいっと私の顎をあげた。彼の唇が触れて、柔らかくて温かい感覚に目を閉じると、段々と噛みつきそうな激しさになっていった。


 舌が熱く絡んだ。暫くお互いの舌を絡め合って、息が苦しくなった私は思わず彼の頭を掴んで、ぷはっと離れた。彼の頬がとても赤かった。


「私の方が、キスが上手です。」


「うん……。ジェーンとキスすると、心臓がバクバクする。」


「私もあなたとのキスで胸の鼓動が高鳴ります。あなたと離れている間、ずっと私は苦しかった。これでも十分に苦しい思いをしましたのに、もう別れるだなんて仰らないでください。それこそ生きていられない。」


 何度も頷いていると、ジェーンが私の頬を両手で包んで、また熱いキスをくれた。


 そうなってくると、身体の奥がとても熱くなってくる。でもここは病院である。彼が私のことをナチュラルにベッドに押し倒してるけど、ここは病院である。


「ちょ、ちょっと待って!ここではちょっとまずいって……!」


「私は苦しい思いをしました。そしてここも苦しいのです。」


 ジェーンがムッとした顔で、私の手を彼の急所へと導いてきた。確かにそこにはまだ、貞操帯があった。そう言えばそうだった……!


「じゃあもう前回から数えて四日ぐらい経ってるけど、処分出来てないの?」


「当たり前です。」とジェーンが私のチョーカーに触れた。「鍵はここにありますからね、ご主人様。」


 ご主人様かぁ……それは新鮮な響きであり、私をなんとも満足させる言葉だった。ニヤニヤしていると、ジェーンが一度ドアの方をチェックしてから私のパジャマのボタンを外そうとしてきたので、私は慌てた。


「ちょっとちょっと!?ダメだって!看護師さんが不定期にくるから!」


「少しだけですから……お願い、キルディア。」


 その時だった。ベッドに手をついたジェーンが、上目遣いでうるうると見つめてきたのだ。


「お願い、外してください、お願い」と色っぽい声で耳元で囁かれては、私もなす術がない。だってこのお願いの仕方は、当初に望んでいたものだったからだ。


「じゃあ少しだけ……!」


 チョーカーの鍵を引っ張って、ジェーンのボロビアのベルトを外して、チャックを下ろして鍵を中に入れて、そのまま解除しようと思った。ジェーンが興奮した様子で、私の首筋にキスを重ねた。ああ、甘い気分だ。


 するとジェーンが耳元で囁いた。


「キルディア、でも、無理はなさらないで。」


「……うん、無理してないよ。もっと触りたい。」


「ふふ、なまめかしいです。あなたの首筋の鼓動が、激しい。」


 見えないので解錠に時間がかかっている。でもそれが焦ったいのか、ジェーンが腰を揺らした。彼の吐息も、激しくなった。


「はぁ……キルディア、あなたはこんな不器用な私をそばに置いてくれる。あなたの優しさが、堪りません。あなたのことが大好きです。」


「ジェーンだって、私を信じてくれたし、言いたいこと言ってくれるから私も正直でいられる。たまに恐ろしい時もあるけど、面白い時もある。色んな面があるから、一緒にいて飽きないけど、大変。」


「……結局けなしていませんか?」


「ふふ、だからこそ一緒にいたい。私も大好きだよ。」


 ジェーンが私と枕の間に腕を滑らせた。もっと密着する形になり、彼は私の首元で囁いた。


「……解錠に時間がかかり過ぎです。焦らしたいのでしょうか?」


「わざとそうしてるんじゃないけど、そうなっちゃって!」


「早く、お願い。もっとおねだりされたいですか?」


 分かってますよ!私は左手に神経を集中させて、解錠を試みた。


 その時だった、トントンと扉がノックされた。私は鍵を手放してしまい、私のチョーカーへと戻ってくる時に、鍵がバチンと私の顎にぶつかった。


 二人で同時にハッとして、ジェーンは咄嗟にベッドに座り直してバッグで腰を隠して、私はいつの間にか外されていたパジャマのボタンを必死で全部直した。


 すぐに恰幅かっぷくのいいおばさんの看護師さんが入ってきた。


「おや!あらあら!シードロヴァ博士じゃないの!そっか今日は来てたんだねー!はいほらキルディアさん、朝食取ってなかったから栄養ゼリーを持ってきたよ?いらないって言ってたけど、一応食べて栄養つけないとね?」


 私は冷や汗を流しながら、それを受け取った。


「あ、ああどうもです……。」


 おばさんは笑顔になった。


「じゃあまた寄るからね!」と、彼女は何かに気づいてジェーンをガン見した。「あら?あらら?………………博士は今日泊まりだっけ?」


 危ねえ危ねえ、ばれたかと思った。ジェーンは答えた。


「ええ、受付に申請済みです。彼女が退院するまでは、寝泊りをします。」


「ああそう、じゃああとで簡易ベッド持ってくるからね!それじゃ!」


 看護師さんが出て行った。ジェーンと目が合った。その瞬間に二人で笑ってしまった。


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