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meishino

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62 余計な一言

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 ユークアイランドの地下鉄の駅には、私を見送る為にソーライの皆とミラー夫人、近所の人達が集まってくれた。(それと記者やカメラも少々)


 ホームにぞろぞろ集まるのは他のお客様に迷惑がかかるので、駅の前で皆と別れの挨拶をした後で、私はジェーンと二人でホームへとやってきた。


 最初に森に行く時にもこうして二人で電車を待っていたなと思い出していた。あの時のように椅子に二人で座っている。


 違うのはバッグの大きさだ。ジェーンは無いし、私はスーツケースにギルドの登山リュック。切符は片道。何この青春っぽいやつ。


 因みにソーライの皆や、帝国の皆は、私とジェーンが仲直りしたのは知っているが関係が元に戻ったのかは不明なままである。私だってそうだ。結局彼とはそこまで話し合うことが出来ず、今日を迎えてしまった。


 もしかしたら昨日のやり取りで復縁してるのかもしれないけど、私はどうもはっきり「戻ります」と言われないと分からない。グレーな関係が続いている。ならばとジェーンに聞いた。


「ねえ、我々って、恋人なの?」


 ジェーンはホームの向こう側を見たまま答えた。


「それは、血は赤色なのかという質問と同じですよ。あなたは呼吸が出来ますか?お手洗いで水を流しますか?まさか流さないとか。」


「な、流すよ!」


「ふふっ」


 微笑んだ彼は私の方を見てくれた。じっと見つめ合ううちに、少し誘惑的な雰囲気を出し始めた彼が、私の唇を指で触った。


「昨日は家の周りに人が押し寄せていたので、覗かれる恐怖でそういうことが出来ませんでしたね。その件であなたは不安に思い、恋人なのかと「違うから、別にそういうことをしてないから不安に思ったとかじゃ無いから!」


「そうですか。」


「はっきりと、恋人に戻るとは断言していなかったから。」


 彼はギュッと手を握った。


「昨夜のやり取りで、元に戻ったのだと思っておりました。確かに直接的な発言をしておりませんでした。あなたと恋仲でありたい。本来なら、あなたが新しい職に就くのですから、私がもっと応援するべきなのでしょう。しかし、ふふ、感謝して頂きたい。私がセレスティウム計画にヴァルガを推薦していなければ、あなたはユークにいたままでした。」


「は?」


「はい?」


 私は手を振り払って、さっと立ち上がりジェーンを見つめた。彼は訳が分からないといった様子で、首を傾げた。


「いやいやいや、何を言っているのジェーン。セレスティウムの件にヴァルガを推薦していなかったら、彼は助かっていて、騎士団長を続けられた。多分だけど、私一人が犠牲になっただろう。そうしてまでも、クラースさんとルーは返す必要があったから。あなたはヴァルガを脅した。これはその償いでもある。どうしてそんな、感謝だなんて!」


「……。」


「もしかして、最初から全てを分かっていて、こうなることを知っていて、ヴァルガを呼んだの?わざと、彼を騎士団長から下ろす為に。」


「お待ちください、キルディア。違います。」


 ジェーンにしては珍しく、狼狽うろたえた顔をしている。嘘でしょ、本当なの?


「……誤解を招かぬように説明します。セレスティウムの存在はあなたから聞くまで知りませんでした。ヴァレンタインのことも関連する全てのことも、あなたと一緒に徐々に知っていったことです。ルーが来て、ベルンハルトの為にとあなたが立ち上がった時、ソーライのロビーで、私には……申し訳ない、見えてしまいました。ヴァレンタインがあなたを殺す様が。帝都戦前のシルビアの時のように、私が勝手に弱気になった。ヴァレンタインが恐ろしいのは理解しておりました。日記を元に、セレスティウムがどのような作用を持つのか、実はある程度予想していたのです。」


「それはジェーンの予想?」


「はい、確証の無いことは発言に値しませんので、ずっと頭の中に入れておりました。しかし中毒性があることを考えればヴァレンタインはもう人間では無いと考えた。光の大剣ではあなたが殺戮モンスターと戦おうとしてしまう。盾であれば、一瞬は私を恨むことになろうとも、命を優先して逃げる筈。しかしそれでは足りない。囮があれば尚更……。」


 私の拳が震えた。それを見たジェーンが、怯えた目を私に向けた。


「だからヴァルガを呼んだのか。彼が被害に遭えば、こうなると分かっていたのでしょう!?一石二鳥とでも思ったのか!?」


 私はドンとホームの水色の地面を蹴った。彼がびくっとした。


「ジェーン。」


「キルディア、私も本心を話すと決めました。もうこのようなことは、二度と起こりません。」


「ジェーン。」


「……全ては私のせいだと、そう思ってください。もし記者にこの件についてあなたが突かれた場合は、全て私が対処します。」


「そんなことは気にしてない。」


 その時に、もうすぐ電車が到着するというアナウンスが流れた。ジェーンが立ち上がり、酷く狼狽ながら私に手を伸ばしてきた。私はそれを叩き落とした。


 はっきりと、違うと言って欲しかった。でもその願いは叶わなかった。


「キルディア、申し訳ございません。私は感情が欠落しています。あなたが私を大分人間へと戻してくれましたが、すぐに全てを得るものではありません。今も本音を話すべきですか?」


「うん、話して。」


「私は……やはり、あなた以外の人間をモノだと考えてしまう。それが間違いであることは、今は心に刻まれています。どうか。」


「どうか?許して欲しいってこと?受容して欲しいってこと?それは……私には……!」


 死んだ心地ってこういうことなのかな。ジェーンぽいと言えばジェーンっぽいけど、これはキツイ。すぐには受け入れられない事実だった。


 大きな風が吹いて、水色の電車が入ってきた。私は置いてあったリュックを担いだ。その時に、ジェーンが横から抱きしめてきた。私はタックルするように、彼をどかせて、スーツケースを掴んだ。


 ジェーンは衝撃を受けた顔をしていた。


「今は受け入れられないよ。何ていうか、もう……ちょっと、ジェーンの策はお腹いっぱいになった。少し考える時間が欲しい。正直に話してくれたことは、感謝するけど。」


 ジェーンは何かを言おうとしては飲み込む仕草を繰り返した。


 彼の発言を待っていたが、駅のエントランスで私とジェーンの為に食い止めてくれた駅員さんの壁が崩壊したのか、階段の方から記者の波が押し寄せてきたのと、丁度電車の扉が開いたってこともあって、私は急いで電車の中へと入った。


 スーツケースとリュックを上の棚に置いて、窓際の席に座った。窓からはフラッシュが絶え間なく与えられた。


 その時に、コンコンと窓が叩かれた。チラッと見るとジェーンだった。「キルディア!ごめんなさい!」と微かに叫び声が聞こえた。


 ……そんな謝ったら、またニュースで世間をお騒がせすると思った私はジェーンに向かって「いいから!」と大声で返した。


 車内に座っている他の乗客の視線を受けつつ、私はTシャツの襟に挟んでいたサングラスをかけた。


 水色で楽しげな車内の色が、一瞬でモノクロになった。



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