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meishino

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74 懐かしい味

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 ジェーンの作ってくれた卵焼きを一口食べた。味は、昔と変わらない彼の味だった。黄と黒のマーブル色をした、砂糖多めの卵焼きの香りが優しく私の鼻から抜けて、一気に過去のことを思い出した。


 色々あった。最初、彼が過去から来たと言った時は、殺そうかと思った。それぐらい所長業務に疲れていたなぁ。


 内緒で協力することになって、この世界中で時空感歪曲機のパーツを集めて、騎士団長のことで喧嘩して、いつからかグイグイ来て、気がつけば毎日セクハラされていた。


 ……そんな歴史だったっけ?なんて。


 そんなこともあったけど、いつも大変な時は二人で協力して乗り越えた。LOZは皆のおかげだけど、やはり一番はジェーンがいたからこそ成り立った。


 そして彼は最後に、この世界を、私と共にいることを選んでくれた。


 感謝しきれない。ため息つきたくなる程に厄介な時もあるけれど、誰よりも私を理解しているのは、ジェーンだ。卵焼き一口でここまで考えさせられるんだから、我々の歴史は深い。


「キルディア、どうしました?私の卵焼きは不味いですか?」


 気づくと彼が不安げな眼差しを私に向けていた。私は慌てて首を振った。


「いいえ、とても美味しいです。でもある意味まずいかもしれない。」


「部分的に味が壊滅していると理解して宜しいですか?ふん……おかしい、しっかりかき混ぜて、分量通りに調味料を配合したはずですが……。」


「ぶ、分量通りなのね。とてもそうはゲフン!いや!違う……味はとても美味しい!」


 私はフォークを置いてから、ナプキンで口元を拭いた。もう食べないのか?と不安げに私を見つめる彼を、私はじっと見つめ返した。


 ……今、猛烈に、ハグがしたい。ルミネラ皇帝、私は異常なのでしょうか?切実に問いたい、そして迅速な回答を頂きたい。


 引きつった笑いをする私を見て、ジェーンが首を傾げて、多分だけど卵焼きの味がまずいんだと誤解されてて、そう考えて欲しく無いので、説明した。


「私は今、騎士としてあるまじき感情を抱いている。そうなんだよね、騎士として……出来ることと出来ないことがある。騎士に戻ったんだから、うん、そうなんだよね。」


「キ、キルディア?」


 私は一気に卵焼きも他のご飯もガツガツ食べた。彼は不思議そうにそんな私を見ながら、きっとお腹が空いていたのか、彼も私と同じペースで食べていた。


 無言の食事、私はひたすらハグを我慢していて、少し緊張もしていた。すべてが食べ終わってから、


「今日は早く寝よう。そうしよう。おかしいんだ、疲れているのかもしれない。」


 と立ち上がろうとした。でもそれは出来なかった。


 ジェーンが私の腕を掴んだからだ。彼の綺麗な瞳と目が合うと、すぐにドキッと心が動いた。彼の掛けていた眼鏡を優しく取って、それをテーブルに置いた。


 探り合うような見つめ合いをしながら、私と彼は徐々に顔を近づけた。彼の熱い吐息が私の唇に当たると、一気に体が熱くなって、私はたまらずに彼の頭を掴んで、彼にキスをした。


 ああ、これだと思った。この熱くて優しい感覚は、懐かしいものだから最高なんだ。確かめるように、唇を動かした。彼も私の頭を掴んで、私の唇を何度も優しく挟んだ。


 なんて熱いんだろう。キスに力がこもってきて、何度も強く歯が当たった。今までにはない熱がここにある。


 止まらない、このままでは満足出来ない。彼の火照る頬が、潤んでいる瞳が、見たことないくらいにセクシーだった。


 これ以上は、いけない。


「……終わり。」


「嫌です。」


 でもジェーンは体力が無いから、遠慮するために私が椅子から立ち上がって、彼から離れた。


 すると彼は、私を追いかけてきた。腕を掴まれ、引かれたと思った時には強く抱きしめられた。それからジェーンは私の首に顔を埋めて、キスをし始めた。首がくすぐったい。


 そう、ちゅっちゅされると……こっちだって止まらなくなる。


 ならばと私は、ジェーンの胸ぐらを掴んで引っ張りながら移動して、扉を背に彼のキスを受けつつ、後ろ手でドアノブを回して、扉を開けて廊下に出た。幸い誰も居なかった。


 私はくるりと回転して、ジェーンの両肩を掴んでグイグイ押して、廊下の壁に押し付けた。


 目を見開いて頬を染めている彼に少し笑いそうになったけど、さっき彼がした首にキスを参考に、爪先立ちをして、私も彼の首に口を付けた。


「キ、キルディア!誰か見ている可能性が……!」


「見てない。見てないから。」


 そうである。ちょっと背中にどこからか視線は感じるものの、見てないと思うしかない。そんなことより、私はジェーンが食べたいのだ。


 私は彼のシャツのボタンを取ろうとした。すると私の手首を掴んだ彼が、慌てた様子で言った。


「キルディア、キルディア!お気持ちは大変有難いのですが、あなたは今となっては立派な騎士です。そういう事は結婚してからでないと、不可能なのでは?私は急ぎません、強要もしません。ですから、慌てないでください。」


「……でも、婚約はしているはずだ。私はもう二度とジェーンに対する想いについて、後悔したくない。喧嘩する時はする、考え方の違いだってたくさんあるだろう。でも、そばにいて欲しいよ。確かに騎士は結婚しないと出来ないという掟があるけど、ジェーンが相手なら騎士の価値観なんていくらでも捨てられると分かった。それに婚約者が相手なら、これも許されるはずだよ。」


「え?」


「え?」


 ジェーンが口を開けたまま停止してしまった。何の停止?どうしてそうなるの?謎の空白時間の出現に、私も口を開けたまま彼のことを見守った。


 え?何かおかしいことあった?ジェーンはというと、今度は斜め上の方に視線を向けて、呟くように私に聞いた。


「キルディア?」


「え?」


「一つ、お聞きしたい。」


「はい。」


 ジェーンが私の肩を掴んで、真剣な顔で私に聞いた。


「恋人に戻るどころか、婚約を……しているのですか?我々が?これは我々の話ですか?」


 ……なるほど、これはやってしまいました。あれでは通じなかったのですね。ベルンハルトさんの話を参考にプロポーズしたけど、遠回しすぎて通じてなかったんだ。


 これは……やってしまいましたね。これはどうしよう。私が苦笑いしていると、顔を真っ赤に染めたジェーンが、私のことをやや睨んできた。


「もしや、ずっとこの家で研究を続けて欲しいというセリフが、プロポーズだと仰るのでしょうか?」


「そ、それだけじゃないよ。」


「ええそうですね、ずっとそばにいて欲しいという言葉、それからブラッディサクリファイスの指輪。……はあああぁ。」


 とても大きなため息を発しながら、彼が手で顔を隠してしまった。私は今すぐに鳥になりたい。そして果てしない空の旅をしたい。そして時空を超えて、あの時の私にもっとストレート寄りの発言をしろと助言したい。


 もっと完璧にするべきだったよねと落ち込み始めたその時、彼が顔を隠したまま、「ふふ」と笑ってくれた。私はすかさず、彼に聞いた。


「もっとストレートに伝えたほうが良かったよね?それだとダメかなと思ったけど、そのほうが良かった。」


 ジェーンが顔を隠すのをやめて、私の手を握ってくれた。彼は紅潮させた顔で目を潤ませて、見たことないくらい嬉しそうに微笑んでくれた。


「いえ、あなたらしいので、私はあの言葉が好きです。そうだったのですね、しかし私もまだ若輩者のようで、意味をよく理解出来ませんでした。申し訳ございません。」


「ああ、いや。」


「返事は決まっております。」


「うん?」


「あなたの申し出を喜んでお受けしますと、今改めて伝えました。」


 そ、そうか、それは良かった。あ、ああ。私はロボットのように体を固くして、カクカクと頷いた。顔がとても熱い。ジェーンも照れているのか、恥ずかしそうに俯いたまま、黙っている。


 私は何かを話そうと思って、そう言えば思い出したアレを彼に聞いた。


「それで、ジェーンが言いたかったことって何?さっき食事前に、言葉が被ったよね?あれは何だったの?」


「もうそれは終わったことなのです。全ての不安がたった今吹き飛びました。今伝えたい事はただ一つ、今夜は眠らせません。」


「……それは困った。明日も士官学生と合同鍛錬の日だし、定例会議もあるし、ミラー夫人と電話会議だってある。寝不足にはなれない……って言ってる間に何してんの!」


 早速というべきか、ジェーンが私の首に顔を埋めてちゅっちゅし始めた。私が彼の肩を掴んで抵抗すると、彼はすんなりとやめてくれた。確かに、今日は夜更かししたいかもしれないけど、どうしよう。私は彼に言った。


「今日ね、」


「はい。」


「とてもウキウキ気分で仕事をして、ワクワクしながら帰宅しました。ジェーンが一緒にいてくれると言うから。」


「ふふっ」


「笑わないでよ……ふふ。だから、改めて有難きお返事を頂いて、私は恐悦至極です。本当に嬉しい。」


「ふふっ」


「だから何で笑うの……いいよもう、それなら結婚するまで、そう言うことしないから。」


「嫌です。」


 私が拗ねて二階への階段を登っていくと、途中でジェーンに腕を掴まれた。振り返ると、階段上の窓から注ぐ月の光で、彼の頬が幻想的に照らされていた。


 一段、もう一段と下がり、身長差が無くなったところで、キスをした。すぐに唇を離すと、彼が私の頭をぐいっと掴んで、もう一度キスをした。何度も繰り返して優しく唇を重ねていくうちに、互いの鼻から熱い息が漏れた。


 ちゅ、ちゅ、と繰り返すキスの合間に、ジェーンが私に聞いた。


「苗字は、カガリ、ですか?」


「シードロヴァが、いい。騎士の時は、ギルバートだし。」


「私も、たまに、ギルバートと呼んでいい?」


「いいよ、アレクセイ。」


 もう無理です。私は彼の腕を引いて、キスを繰り返しながら寝室へと向かった。


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